「がん患者さんを何らかの形でサポートしたい」という想いから始まった

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──2013年に始まった「がんサポーティブ準備室」という、がんのサポーティブケア(抗がん剤に起因する副作用を含む、がんに伴う症状のケア)領域での新商品開発プロジェクトに参加された4名のメンバー。参加しようと思った動機をそれぞれお聞かせください。

藤本:がんサポーティブ準備室に参加する前までは、コンシューマーヘルスケア事業本部に所属しドラッグストアへの営業活動に携わっていました。公募のあった年は、入社して10年目という自分にとっての節目だったので挑戦してみたいと。そして、大鵬薬品の主力であるがん領域をサポートする新商品の開発という点に魅力を感じたのがきっかけです。 

藤田:私は、当時MR(医薬情報担当者)として毎日医療施設へ通い、抗がん剤の情報提供を行っていました。活動の中、抗がん剤は有効性だけでなく副作用の問題があるにもかかわらず、副作用対策の情報が不足していると感じていました。新プロジェクトなら、まさにその課題に取り組めると思い、応募しました。

松井:私は、ちょうど30歳になって何か新しいことにチャレンジしたいと漠然と考えていたんです。そんな矢先、新規事業を立ち上げると耳にしてすぐに応募しました。

田中:MRを5年経験した後に広報部へ異動になり、そこから数年経ったときに公募がありました。私は文系のため、研究などで抗がん剤を創り出すことは叶いませんが、患者さんに対して私にももっとできることがあるかもしれないと思い、手を挙げました。

──このチームが一丸となって開発したのがウイルス除去・抗菌スプレー「Efil」です。どういったことから着手し商品化までに至ったのか、経緯を教えていただけますか。

松井:「がんのサポーティブケア領域で新商品を開発」という大テーマはあったものの、まったく白紙の状態。そこからどんな事業を始めるかをそれぞれ考え、アイデアを持ち寄って話し合うことからスタートしました。

田中:いろいろなアイデアを考えるのは楽しかったです。私は病院の看護師さんから「抗がん剤で食欲不振になっているがん患者さんには口溶けの良いアイスクリームが良いです」という話を伺い、免疫力を高めるアイスクリームを企画しました。試作もしましたが、採用には至りませんでした(笑)。

藤田:がん患者さんは抗がん剤の副作用で口が渇きがち。その対策としてグルタミン酸含有量の多い昆布を使った錠剤を研究所に頼んで試作してもらったのですが、一向に美味しくならずにボツになりました(笑)。

藤本:私と松井さんは、コンシューマーヘルスケア部門の仕事しか経験していなかったので、がん領域の商品を取り扱ったことがなく、がんのことについてまったくわかっていませんでした。そのため、いろいろ調べて知識を得るところから始めて、訪問した企業にお願いして試作品もいくつか作ってもらいました。

松井:文献を読み漁りましたね。また、患者さんのニーズを探るため、医療施設でヒアリングやアンケート調査をやらせてもらいました。

そこで、がん患者さんと医療関係者の方が想像以上に感染症対策に気を使っていることを知ったのです。 がん患者さんは、疾患そのものや薬剤などの治療により免疫力が低下する場合があり、感染症に対して非常に敏感で、外出などの行動を制限している方が多くいらっしゃいました。

感染症にかかるとがんの治療を中断しなければいけなくなること、感染症そのものが命に関わることもあるためです。

また、一部の患者さんでは体表にがんが露出し、その部位のがん特有の臭いに悩んでいる方もいらっしゃいます。そんな患者さんの現状を知り、人間としての尊厳を傷つけているものをなんとか改善したい、感染症に対する不安を少しでも軽減したい、そのための商品を作りたいと思うようになりました。

その想いを胸に解決に導いてくれそうなヒントを探す中で、銀イオンの化合物を研究されている方に出会いました。いろいろ話を聞き、その方の技術を活用することで私が求めている商品を実現できるのではないかと。それが「Efil」誕生の発端です。

藤本:全員のアイデアを社長をはじめとする役員に発表し、みんなで議論を重ねた末、松井さんの「感染症への不安解消のため、身のまわりの物の菌やウイルスを取り除き、寄せ付けない除菌・抗菌スプレー開発の案」に決定。商品名「Efil」が決まる前は、発案者の松井にちなんで「松井のやつ」と呼んでいました(笑)。

がん患者さんに快適で安心な毎日を届けるために悪戦苦闘

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──「Efil」の原案が採用になって以降、発売されるまでの間で大変だったこと、苦労されたことを教えてください。

松井:大鵬薬品は医薬品メーカーなので、それまで雑貨区分に入る商品を取り扱ったことがなく、品質、表示などの社内基準がありませんでした。とくに、品質は基準がないと試験ができないので、専門部署に相談しながらかなり時間をかけて基準を決めていきました。

藤本:容器も50mLは女性のハンドバッグに入るサイズという決定打があり、比較的早く決められたのですが、300mLの方は最終的なシルエットに決まるまで何度も試行錯誤を繰り返しました。メンバー内で意見が分かれて、若干揉めたりもしましたね(笑)。

松井:住居用、衣類用に分けるか、それともオールマイティーにするかといった用途の範囲を決める段階でも、1カ月ぐらい意見が分かれて、なかなか結論が出ず険悪な雰囲気に(笑)。

──悪戦苦闘の日々があったわけですね。でも、意見が異なる中でも共通認識というか、それぞれが商品を考える際、拠り所にしていたことは何でしょうか。

藤本:市販されるものなのでどなたにもお使いいただけます。でも、「がん患者さんのため」というのが私たちの絶対的な枕詞でした。がん患者さんが使いやすいかどうか、少しでも使い心地が良いと感じてくれるかどうかが極めて重要な拠り所でした。どんなに意見が分かれてもメンバー全員、そこだけは外さなかったです。

──苦労の末、商品化された「Efil」の特色、魅力について教えてください。

松井:「Efil」は銀イオンを使用しているのが大きな特徴です。一般的に市販されている除菌剤の多くにはエタノールが使われており、除菌力はとても強い。ただ、すぐに乾いてしまうため持続性に欠けています。そこを補うのが銀イオン。エタノールに銀イオンの化合物を配合することで、除菌力を持続させることに成功したわけです。

「Efil」は医薬品のGMP基準(※)を満たした工場で製造しています。製薬会社・大鵬薬品として高い品質を意識しています。従来の除菌スプレーには外出先から帰宅した際に除菌するタイプが多いのですが、「Efil」は抗菌・抗ウイルス効果が24時間持続するスプレーですので、外出前に服やバッグなどに吹きかけていただくことで安心して出かけていただけます。

──がん患者さんに寄せて工夫されたところはありますか?

松井:抗がん剤の副作用で手がしびれたり、動かしづらくて握力が弱まったりしている患者さんでも使いやすいようにと、300mLの形状については考えました。重心が下にくる形状になっているので倒れにくいです。

白と青と黄色を基調としたシンプルなパッケージデザインにしたのは、そっと患者さんに寄り添うような存在にしたかったからです。香りも、5種類の候補をがん患者さんとそのご家族、そして看護師さんに試していただき、点数をつけてもらって統計的に評価し、一番好評だった香りに決めました。 

※ Good Manufacturing Practiceの略で、医薬品の製造管理及び品質管理の基準

不安な生活(Life)を180度転換して過ごしてほしいから「Efil」に

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──「Efil」という商品名はどのような経緯を経て決められたのでしょうか。

田中:言いやすさ、読みやすさ、覚えやすさ。5文字以内などの条件のもと、全部で200案以上候補を出し合いました。 「Efil」は、「菌やウイルスに不安を抱えて生活する患者さんが外に出て、少しでもアクティブな気持ちになってもらえるように」というのがコンセプトです。

そのことを考えていたときに、ふと思いついたんです。不安な生活(Life)を反転させて「Efil」。「エフィル、エフィル、エフィル……」と声に出しても案外言いやすく、「あ、イケそう!」だと(笑)。それで候補の一つとして提案しました。

松井:最終的に4つの候補があったのですが、これはほぼ全員が「Efil」が良いと。商標などの問題もクリアし、正式に「Efil」に決まりました。

ロゴの下に“TURN YOUR LIFE AROUND” とメッセージを入れました。患者さんたちの「あたりまえ」だった日々の生活から、苦痛や不安などのマイナスの要素が生まれてしまっているのであれば、それをプラスにまで引き上げるのは難しいかもしれないけれど、少しでももとの状態に戻したいという想いを込めて、この言葉を添えました。

──みなさんの想いが詰まっている「Efil」。どう広めたいとお考えですか? 

藤田:私は、直接この商品を広める業務ではありませんが、医療現場へ訪問する際に持参し、紹介しています。先日訪問した調剤薬局では、とても目立つ場所に置いて販売してくださっていたので感動しました。評判が良く、製薬会社が作った商品だと知って安心感を抱いて買ってくださるケースが多いそうです。

藤本:新型コロナウイルス感染症が拡大したこともあり、今では高価なものから安価なものまで、さまざまな種類の除菌スプレーが市場に出回っています。そんな中、「Efil」は価格競争で他社商品と勝負する気はありません。必要とする人に、必要なシーンで使ってもらえるようにしたい。

だからこそ、調剤薬局や病院など、直接患者さんと関わりのある医療関係の方々のお力を借りて裾野を広げています。

「エフィル」ブランドサイト: Efil(エフィル)~24時間離菌バリア~ | 大鵬薬品工業株式会社 (taiho.co.jp)

「いつもを、いつまでも。」には社員の想いがギュッと詰まっている

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──「Efil」の開発は、大鵬薬品にとってどんな役割を果たしていると思いますか? 

松井:「Efil」の存在意義を「感染リスクを低減し、大切な人と豊かな人生を送り続ける」と定義しています。これは、まさに「いつもを、いつまでも。」の考え方そのもの。その考えを商品として具現化し、世の中に出すことができたことで、大鵬薬品という会社を多くの方により身近に感じてもらえるきっかけになったと思います。

田中:「がんサポ-ティブケア」というプロジェクト名が、とても大鵬薬品らしいなと思っていました。医療関係者からのヒアリングなどをきっかけにがん患者さんとそのご家族のことを考えた商品を生み出すというのは、抗がん剤メーカーならではの発想によるものづくりです。

2人に1人はがんになると言われている時代だからこそ、抗がん剤だけでなくその周辺領域にも目を向け、あらゆる面で患者さんをサポートしていくことは、たいへん意義のあることだと感じています。

──このプロジェクトに関わったことでご自身にも何かしら変化はありましたか?

藤本:行動力が変わりました。課題を与えられる前に自ら考え動く。逆風を楽しみながら、どうやったら前に進めるのかを考えるようにもなりました。 

藤田:プロジェクトに関わっていた3年弱は、それまで考えたことがなかったことをたくさん考える時期でした。おかげで、なんでも自発的にするようになり視野も広がった気がします。

松井:僕も視野が広がりました。自分たちでゼロから企画・開発し、マーケティングを行って製造まで一通り経験できたし、その商品を現場で営業として売り込むことができたのはとても感慨深いです。今、後進育成にも携わっているので自分の経験を後輩たちにもシェアしていきたいです。

田中:一つの商品を生み出し、発売するまでにどれだけ多くの社員が関わっているのかを実感できたことは貴重な経験でした。

──では最後に、皆さんが大鵬薬品のコミュニケーション・スローガン「いつもを、いつまでも。」をどう捉えているか教えてください。 

松井:シンプルですが、私たち社員の想いがギュッと凝縮されている、とても暖かい気持ちになれる言葉だなと思います。また、大鵬薬品の社員全員がこの言葉を共有しているからこそ、これほど変化の激しい時代でもぶれることなく、みんなが同じ方向を向いていられるのだと確信しています。 

藤田:大鵬薬品は、決して目立つ存在の企業ではありません。でも、自分や周りの人が「健康診断でひっかかった」「病気になってしまった」などちょっと困ったというときに、大鵬薬品の薬があったり、情報があったりすることで心が穏やかになってもらえる。また、そんな風に寄り添える会社であることを伝えるメッセージだと思います。

田中:みんな「いつも」が当然のように過ごしていて、「いつも」が失われたときに初めてそのありがたみに気づくもの。そんなときこそ大鵬薬品の商品があった、情報があったと思い出してもらえたらと。本当に困ったときを支えられる会社だと思います。

藤本:じつは、「チオビタ・ドリンク」にも「いつもを支える」というテーマがあります。健康な人が疲れているとマイナスになる。そのマイナスをもとに戻したいという意味があるんです。

患者さんを含め、「いつも」の状態からマイナスになっている方々の、すべてをプラスにすることはできません。不安な気持ちはさすがにゼロまで戻らないかもしれないけれど、そのスキマぐらいなら埋めて「いつも」に近づけることができる。そんな想いをもって事業を展開している大鵬薬品らしいスローガンだと思っています。

藤田:このスローガンのことを普段から考えているわけではないのですが、今回あらためてじっくり「いつもを、いつまでも。」と向き合ってみて背筋がピンと伸びました。私は、患者さんの「いつもを、いつまでも。」を実現し得るとても意義のある仕事に就いていたんだと再確認することができました。

松井:僕もこの言葉を考えることで、患者さん、生活者の方々の役に立ちたいという大鵬薬品への入社を志望したときの熱い気持ちを思い出しました。自分がなんのために働いているのかを実感できる言葉。時代とともに仕事の内容は変わっていくと思いますが、めざす方向だけはぶれないよう、この言葉を胸にこれからも頑張っていきたいです。 

田中:2013年にこのスローガンが誕生しました。当時は、がん患者さんたちの生活を考えての言葉でした。ただ、大鵬薬品が支援したいすべての人の生活に通じる言葉であるというところで、今は全社のコミュニケーション・スローガンになっています。大鵬薬品で働く意義を感じさせてくれます。

※ 内容、所属、役職はインタビュー当時(2021年12月)のものです