満たされていない医療ニーズに対して何かできるかを考える
──MA部について教えてください。
MA(メディカルアフェアーズ)部は、治療の質の向上や患者貢献を目的に、開発段階の新薬や自社医薬品の価値を最適化するための戦略を立案・実行する部門です。具体的には、満たされていない医療ニーズ(アンメット・メディカル・ニーズ)や課題点を模索し、私たち製薬会社に何ができるかを考える部署です。
──その中で平野さんが所属するMSL課は、どのような活動をしているのでしょうか?
MSL課では、担当領域における専門知識に基づいて、主導的な立場で活躍している医師などの専門家(KOL/キー・オピニオン・リーダー)、医療従事者、患者さんやその家族の考えを分析することを通して、患者さん中心の医療を実現するための活動をしています。そして医学・科学的な観点から、研究データの創造と、公表などの周知啓発活動を通して、医薬品の価値を高めることに取り組んでいます。また、新たな気づきを研究・開発部門へのフィードバックすることにより、新薬の開発に貢献する役割も担っています。
領域ごとのグループに分かれているMSL課で、私は胃がんなどの上部消化器領域を担当しています。大鵬薬品のMSLとして、担当領域における専門性を高め、社内外から信頼されるとともに、人とのつながりを大切にすることを心がけています。
患者さんの声に耳を傾ける。MSLの役割
──MSLとしての平野さんの業務内容を教えてください。
私たちMSLの活動は、患者さんに適切な治療をお届けする道筋を立てることです。そのための手段は多岐にわたります。その1つが、担当領域である上部消化器領域の医療従事者とのコミュニケーションを通して、現在の治療におけるニーズやインサイトと呼ばれる本質的な意見を収集すること。場合によっては、メディカルアドバイザリーボードミーティングという意見交換の会議を設定し、その領域の専門家に議論を深めていただくこともあります。そこで収集した意見はチームで分析し、今後の活動を計画します。
また、ニーズの解決につなげるために、臨床試験や日常診療の中で得られる医療データを活用した研究を企画することもあります。これらの研究を実施した後は、その結果が学会発表や論文投稿を通して公表され、臨床現場で適切に評価していただけるところまでをフォローしています。
ほかには、医薬品の適正使用を推進するための活動もしています。たとえば、医薬品の開発に携わっていた医師に、どのようなことに注意して投薬する必要があるのか、副作用の早期発見と早期対応のためのポイントはどこか、といった意見をいただきます。こういった意見は関連部署にフィードバックするとともに、適正使用のお願いとして関連学会と協議する場合もあります。
医療従事者の向こうには患者さんがいることを忘れない
──医療従事者とのやりとりでは、日ごろからどんな工夫をされているのでしょうか。
私たちMSLは、お話する内容を事前に組み立てておくことはもちろん、自社の医薬品だけでなく、他社の医薬品情報も含めた最新の話題も幅広く収集して面談に臨むことを心がけています。 それだけに、医療従事者から「自分にとっても良い時間が過ごせた」「自分の考えを整理することができた」と言っていただけると素直に嬉しいです。私たちに貴重な時間を割いてご意見をくださっていることへの感謝を込めて、医療従事者の方々にとっても有益な時間になるようにしたいと思っています。
──平野さんをはじめ、MSLの業務内容は大鵬薬品においてどのような役割を果たしていると考えていますか?
医薬品開発の主体は、あくまで研究・開発部門です。しかし、医療現場からの生の声を聴かずして、患者さんのためになる医薬品を創り上げることはできません。日ごろから全国のKOLとのディスカッションを重ねている私たちだからこその視点で、医療現場と研究・開発部門との架け橋になるような活動を続けていきたいと考えています。また、医薬品開発には社内の連携も欠かせません。MA部が社内の各部署をつなぐ架け橋となる役割も担っていけたらと思っています。
──ご自身の仕事は社会にどのように役立っていると思いますか?
課題を見つけ出し、一つひとつ解決していくという私たちMSLの取り組みは、地道ながらも社会のために必要なことだと思っています。
私たちの仕事は、わかりやすいかたちで成果が表に出ることはありません。でも、私たちから提供した情報を踏まえて、医療従事者の方たちが、目の前で困っている患者さんのために最善の治療方法を考えているというお話を聴くと、自分たちの取り組みが患者さんの役に立っているのだと実感できますね。
病気と共存して生きて行ける社会づくりこそ、私たちの使命
──大鵬薬品のコミュニケーション・スローガン「いつもを、いつまでも。」を社会にどう伝えていきたいと考えていますか?
医療の日進月歩は目覚ましく、医薬品によって共存できる病気も増えてきました。これからの医薬品の役割は、患者さんの「いつも」にそっと寄り添う、大切なパートナーとしての存在になることだと感じています。
具体的には、「生活の質を保ちながら、病気と共に生きていくこと」が今後の大きなテーマになると思います。私たちは新薬を創出する会社の責務として、患者さんが薬物治療をしながらも、究極的にはご自身が病気であること、治療していることを忘れてしまうくらい、これまで通りの生活を続けられる、そんな薬を創っていきたい。
また、最近では患者中心(Patient Centricity)という考え方が医薬品業界でも浸透していて、これまで以上に患者さん中心の医薬品開発が進んでいます。患者さんがどのようなことを考えて、どんなことが不安で、どうありたいと考えているかを聴き、真のニーズを探るという取り組みです。MA部としても、患者さん目線で満たされていない医療ニーズを発掘し、その解決に向けた活動に力を入れていきたいと考えています。
──平野さん自身にとって、このスローガンはどのような意味があるととらえていますか?
私たちが当然だと考えていた「いつも」の穏やかな暮らしは、コロナ禍により一変しました。この経験を通して、「いつもを、いつまでも。」の意味はとても深いものだと感じました。どんなにつらいことがあっても、その人が「いつも」笑顔でいられる場所が、「いつまでも」あり続けるように願いを込めたいと、あらためて思います。
人生は有限なので、「いつも」は「いつまでも」ではありません。だからこそ、今を大切にして、「大切な人には、いつまでも幸せでいてほしい」「一緒に穏やかな気持ちであり続けたい」と願い続けていきたいんです。そう願うことで、私自身も周りの人々への感謝が自然に芽生え、豊かに生きられる気がします。