研究成果を世に伝える“仲介役”に魅力を感じて〜薬事職との出会い
礒﨑が所属するのは薬事・信頼性保証・臨床開発本部 薬事部 オーソペディックスグループ。礒﨑は新卒入社した2008年から、一貫して同部門で整形外科領域の担当としてキャリアを築いてきました。
すでに海外で販売されている医療機器を含め、新たな製品を日本で販売するためには、厚生労働省所管の独立行政法人「PMDA」(医薬品医療機器総合機構)に申請して薬事承認を受けるか、または販売にあたっての届出を行う必要があります。
このうち、日本の薬事承認申請は非常に厳格で、高い安全基準などを満たさなければなりません。そのため、申請に必要な追加データや資料を海外あるいは日本の製造元からその都度収集し、日本の機関で追加試験を行うこともあり、承認までに数年かかるケースもあります。日本の医療現場に新たな製品を届けるため、計画的に申請を進めるのが礒﨑ら薬事職のミッションです。
「法律(医薬品、医療機器等の品質、有効性および安全性の確保等に関する法律:以下薬機法)を深く理解し、申請書類を正確に作成することはもちろん、集めたデータを精査し、不足している情報を把握・収集することで、承認までのロードマップを戦略的に構築する力も求められます」
礒﨑がこの“薬事”に携わる仕事を知ったのは、大学院生の時でした。もともと理科が好きで10代の頃は「ゲノム解析」などの生命現象に深い興味を抱いていた礒﨑。大学で生命工学を学び、大学院では生物学の研究室に進学してタンパク質の研究に没頭しながら、一時は研究職として学問を続けることも頭をよぎるなか、自分でも気付かなかった自身の適性について分かったことがありました。
「自分はゼロから新しい理論を構築する“研究そのもの”よりも、すでに発表された研究成果やデータを分析し、人に説明する“仲介役”としての仕事に魅力を感じることが分かりました。ちょうど研究でお世話になっていた薬剤師の方から“薬事職”という仕事があることを教わり、まさに思っていた適性を活かせる仕事だ!と惹きつけられました」
ちょうどこの時期は、従来の医薬品に加え医療機器に係る安全対策も大きく見直され、薬機法(旧薬事法)の改正が行われたタイミングでした。従来は経験者採用が中心だった医療機器メーカーの薬事職ですが、新卒学生にとって門戸が広がったこともあり、礒﨑は製薬および医療機器の薬事職に進路を定め、大学院修了後に新卒社員として日本ストライカーに入社しました。
海外とのギャップを埋めるために
入社と同時に整形外科領域を担当することになった礒﨑。入社当初は先輩たちに仕事を教わりながら、仕事のやりがいを感じる余裕もなく、見よう見まねでひたすら実務経験を重ねました。数年すると、海外の製造元と日本の薬機法の間で“仲介役”としての役割を果たすための自分なりのアプローチの方法が少しずつ掴めてきました。運動器の機能改善に関する製品が多く、学生時代に学んだ生命工学系の知識が活かせる場面もありましたが、それ以上に重要なのは、海外と日本のそれぞれの違いを念頭に置き、自分なりに仮説を立てて臨むこと。
「厳格な日本の申請基準をクリアするには、海外チームがほとんど気にとめないような事項についてのデータや調査が必要になることもありますし、すでに海外での販売開始から数年経過して、開発チームは別のプロジェクトにかかりきり、というケースも珍しくありません。
そんななか、こちらの質問や要求をそのまま投げかけ、過去にさかのぼってスムーズに協力を得ることは簡単なことではありません。そこで、その製品の既存のデータを私なりに分析し、相手の立場に立った回答案を想定して提案することで、双方のギャップを埋められるように努めてきました」
そうしたことに気付いて実践するようになったことで、海外チームから必要な情報をタイムリーに手に入れることができるようになり、時には日本での薬事承認までのスケジュールを見据えて、海外チームが定期的にフォローアップのオンラインミーティングを開催してくれるようにもなりました。国を越えて関係者を巻き込み、プロジェクトを進める経験を重ねることで、礒﨑自身もまた、確かな成長を感じるようになりました。
広がる視野と、仕事の意義
入社して6年ほど経った頃から、礒﨑にとって自らの実績を振り返り、仕事の喜びを実感する機会が増えました。整形外科領域の学会で、自分が申請し承認を得た製品の使用例を目にするようになったのです。
「私が担当する人工関節(膝・股関節)関連の製品は、疾患による痛みを和らげ、高齢の患者さんであれば健康寿命の延伸にも貢献するもの。かつて私が携わった製品が、臨床で使用され、患者さんの回復に寄与していることが紹介される様子を医師の学会発表で目にするたびに、この仕事をして良かった、と思います」
薬事承認を受けた製品は、主にマーケティング担当者によって国内での販売がスタートします。その前段階のプロセスを担う礒﨑にとって、自分が関わった製品について、顧客の声を直接聞く機会は多くありません。学会やセミナーなどの場で製品の「その後」を知ることで、あらためてストライカーで働く仕事の意義を見つめ直すことにつながるといいます。
もう一つ、仕事での視野を広げてくれたのは新たな仲間との出会い。とりわけ入社から8年目に、新卒の後輩社員が入り、初めて後進を指導する立場になったことはキャリアの転機になりました。
「一転して人に教える立場になったことで、あらためて自分の仕事の理解を深めて、相手に伝わるように言語化することの大切さを痛感しました。自分の仕事の進め方について繰り返し自問自答したことでスキルアップできましたし、業務の知識だけでなく会社のことも後輩に伝えることができるようになったことで自分の視野と役割が広がったと感じます」
これからも、エキスパートへの道を歩み続ける
入社から16年目を迎えた今、礒﨑にはこれまでの経験を後輩たちに伝える指導者としての役割も期待されています。そして共に仕事に取り組む現在のチームについて、彼女は「とにかく居心地が良い」と語ります。それは、メンバーが深い信頼で結ばれ、互いの知識や経験を惜しみなくシェアし、製品の承認を得るために団結して各々の役割を全うしているから。
「人に教える時は、その理由や根拠を明示することを心がけています。患者さんの健康を支える責任ある仕事をする上で、それは誠実さの表れだと思います。互いに誠実な仕事をしていることを認め合いながら、必要な時にはしっかり支え合う、そんなチームに恵まれたことを幸せに思います。かつて指導した後輩も、今や頼もしい同僚に育っています」
日本ストライカーでは近年、ロボティクス製品や可動式CT画像診断装置など、新しいタイプの製品を相次ぎ発売しています。米国のストライカー本社にとって日本はアジアの重点市場との位置づけであり、近年はバックアップ体制がより強固になっています。新製品の計画も次々と進み、薬事職が果たす役割はますます大きくなっています。
「日本ストライカーとして一致団結し、成果を出し続けてきたことで、日本市場に注がれる期待が一層強まっています。整形外科領域の製品でも、まだ手がけたことがないものがたくさんありますし、海外と日本の“架け橋”として、薬事の仕事へのモチベーションも自ずと高まります」
15年を超えるキャリアのなかで、仕事のダイナミズムや自分なりのやり方を確立しながらも、礒﨑は薬事職としての仕事に「秘訣やコツはない」と断言。この先もエキスパートとしての道をさらに究めようと、さらなる成長に余念がありません。
「申請のために必要な資料・データや、それらに基づいたロジックの建て方は製品によって千差万別。常に薬機法の最新の動向をキャッチアップし地道に経験を重ねることで、スムーズに承認を得るために必要なアクションがとれるようになり、日本の医療現場に新たな製品を提供することができます。今後もこの道を追求し、日々研鑽を重ねます」
新卒で日本ストライカーに入社し、「製品への愛情や信頼は人一倍強い」と自認する礒﨑。日本の患者さんの笑顔のために、自らの果たすべき役割をこれからも追及していきます。
※ 記載内容は2023年10月時点のものです