「直接話さないと、人なりはわからない」。紙面審査をしない人事部長

▲社内ゴルフで優勝を逃した社長の浦上との写真(左が米川)

【東大式エゴグラムとは】

自己分析手法のひとつ。50の質問に答えることで、5つの自我状態を可視化したグラフを得ることができる。5つの自我状態であるCP(責任感が強く厳格)・NP(思いやりがあり受容的)・A(現実的で理想的)・FC(明朗快活で創造的)・AC(感情を隠し遠慮がち)のバランスから性格を割り出す。

2020年、エスプールは創業21年目を迎える。そんなエスプールを創業当初から支え、2007年から現在に至るまで人事部長を務めているのは米川 幸次だ。

長きにわたってエスプールを見てきた米川。そのキャリアの始まりは、大学卒業後に入社した大手求人広告会社の営業だった。その後、仕事を通して浦上(エスプール創業者で現社長)と出会い、新しい会社の立ち上げに誘われた。

そして、エスプールで支店長や業務の再構築プロジェクト等を経験していく中で、米川はあることを感じるようになった。

米川 「現場で働いているうちに、事業を大きくしていく上で大切なのは顧客満足度を向上させることだと実感しました。そのためには、働いている人間のパフォーマンスを高めることが必要不可欠です。そこで、多くの人が成果を出しやすい組織文化をつくるため、人材開発部署を立ち上げることにしました」

新卒採用を行うようになって15年。今でも変わらず米川が大切にしていることがある。

米川 「就任当初から、履歴書等の紙面上での評価は行わないと決めています。紙では、本当の人柄を測ることは難しいと考えたからです。同じ理由で、集団面接も避けました」

紙面上の審査と集団面接をしないとすると、残るのは個人面接。この個人面接で米川は時間をかけて話を聞き、学生の内面を知ることに努めた。

米川 「ただ、この方法だとどうしても会える学生の人数が限られてしまいます。それに、個人面接だけだと学生の本質を見抜くには不十分だと感じることがありました」

「学生の素の状態が見たい」──そこで米川が目を付けたのが、当時子会社であった研修会社が提供していた「体験型ワーク」だった。

体験型ワーク導入へ。参加者にも価値を生むDiscovalueの誕生

▲採用チームメンバーと

当時研修子会社が提供していたのは、アメリカから導入したリーダーシップ教育のための体験型ワーク。その内容は、講義形式ではなく実体験でリーダーシップを学ぶことで、参加者は深くメソッドを身に付けられるというものだった。

米川はなんとかして、この「体験」を採用に結び付けられないかと考えた。

米川 「ある状況下でその人がどんな行動を起こすのかは、入社後の働き方にそのまま反映されると思いました。ですから、なるべく素に近い状態での学生を知ることができれば、入社後のミスマッチを防ぐことにもつながります」

こうして新卒採用向けに改良された体験型ワークは、発見を意味する「Discover」と価値を意味する「value」を掛け合わせた造語、Discovalueと名付けられる。邦題では「価値観発見ワーク」と呼ばれることになった。

時間のプレッシャーがある中、チームで何かを達成するという状況をつくることで、競争心を芽生えさせる。人事は本気でワークに取り組んでいる学生を観察評価することで、会社にマッチしていると考えられる人材を発見できるようになった。

また、Discovalueに参加してくれた全学生に対してメリットを提供しようと始めたのが「東大式エゴグラム」という自己分析手法の導入だ。

米川 「人事として、適性診断ツールはたくさん試してきました。その中でもシンプルかつ分かりやすく、結果に納得感もあるツールが東大式エゴグラムでした」

多くの自己分析手法には、ロジックはしっかりしていても回答側のバイアスがかかってしまう問題点がある。たとえば「あなたはわがままであるか否か」という問いには、多くの回答者が否と答えるだろう。この問題は、Discovalueでの体験をそのままバイアスをかけずに答えられる設問に変更することで克服した。

米川 「実はDiscovalueにはさまざまな仕掛けが存在していて、それらすべてが正確な自己分析をするための一因になっています。楽しみながら己を知ることができる。これは参加者にとって大きな価値になるのではないかと考えました」

こうして、インターンシップでありながらも精度の高い自己分析を実現するツールが誕生した。

新卒採用に大きな力を注ぐ。リーマンショックで痛感した「人」の大切さ

 ▲エスプール野球部での1枚。画面中央が米川

失敗と改善を繰り返しながら発展してきたDiscovalue。現在は年間1,700人(2019年度実績)が参加するインターンシップとなっている。

エスプールがこれだけの規模で新卒採用を行う理由について、米川はこう話した。

米川 「エスプールは、商材を扱って大きくなってきた会社ではありません。創業当初から私たちが重視してきたのは人です。人が成長し、リーダーとなったりスキルを身に付けたりすることによって、新しい価値を生み出してきました。そのため、新卒採用を非常に重視しています」

人が成長できる環境を整える──そのことがエスプールの価値につながる。

米川の中でこの考え方が確固たるものになったのには、あるきっかけがあった。

2008年に始まったリーマンショックは、当時人材業を営んでいたエスプールに深刻な影響を与えた。会社の先行きを不安に思った社員が次々と辞職し、400人いた社員は150人にまで減少。32拠点あった支店も11まで縮小することになった。

米川 「支店長をしていた人を別の支店の副支店長に異動するなど、望まない人事をせざるを得ませんでした。とくに、新入社員にはできる仕事も少なく、事業から大きく離れた仕事をしてもらったこともありましたね」

主力事業が立ち行かず新事業に着手したこともあったが、苦肉の策で始まった事業がうまくいくはずもなく、あえなく撤退。エスプールにとって、非常に厳しい時期が続いた。

しかし、そんなひっ迫した状況の中であっても、エスプールに残った150人の社員の結束は固かった。

米川 「大変な時期でしたが、会社に残ったのはエスプールの掲げるビジョンに共感している人間ばかりでした。その人たちが踏ん張ってくれたおかげで、リーマンショックを乗り切ることができました。やはり大切なのは人なんだと、心から思えた出来事でしたね」

実は、米川が東大式エゴグラムの導入に乗り出したのはリーマンショックの後であった。

米川 「リーマンショックの後、エスプールを去った人と残った人の違いについて考えました。そこで思い至ったのが、価値観が一致しているかどうかという差でした。この出来事から人の傾向を割り出せるような分析ツールをDiscovalueに組み込むことを決めたんです」

価値観の一致を重視するとともに、多くの人が成果を出しやすい組織をつくる

▲講演での米川

エスプールでは何故、ここまで価値観の一致が重視されているのだろうか。人事部長の米川は、その理由についてこう語る。

米川 「規模の小さな会社であれば、会社と人の向いている方向が同じならばうまくやっていけます。なぜなら、一人ひとりが事業自体に深く関わることができるからです。しかし、組織が大きくなってくると、会社の中での役割分担が必要となります。そこで大切になってくるのが、一緒に働いている人間同士の価値観の一致です」

社会課題を解決することをミッションとしているエスプールだが、手掛けている事業は人材から物流まで多岐にわたる。それぞれの事業で社員が活躍するためには、理念への共感だけでなく働く環境や同僚とのマッチが大切であるということだろう。

ただ、価値観の一致とは同じような傾向の人だけを集めることを意味するわけではない。過去3回にわたって掲載した【シリーズ東大式エゴグラム】からもわかるように、エスプールでは多種多様な人材が活躍している。

米川 「これからも事業を広げていくにあたって、Discovalue導入当初は特定の傾向に偏りがちだった採用人材も、今では多様性やバランスを重視した採用に変更しています。それだけ多様な人材が活躍できる場所が、エスプールには整っているということでもありますね」

しっかりと自己分析をした上で入社し、自分に合った部署で働く。「多くの人が成果を出しやすい組織文化」をつくることに苦心してきた米川の残した成果のひとつである。

エスプールグループ全体では、2021年度には55人の新卒が入社予定となっている。彼らの成長は会社に、そして社会にどのような価値を生み出すのだろうか。

米川 「最近の若い人はゆとり世代、悟り世代等と言われていますが、それは社会が変化に追いついていないだけのことだと考えています。そんな古い社会を変えていくのが私たちの義務です。これから新しい社会をつくっていく若者たちが埋もれないように、スピード感を持って変化していく会社でありたいと思います」

今後も会社の存続のために活躍できる人材の採用と育成の立場から貢献していきたいと語った米川。彼が採用した人間が今後のエスプールを担っていくことは間違いないだろう。会社と人の共栄を目指す米川の今後の手腕に注目したい。