たねまきが提供する価値を高めるため、拠点開発の仕組みを構築する
“日本の農業に、新しいたねをまく”──この企業理念のもと2019年に創業した株式会社たねまきは、農業にテクノロジーの力を取り入れ、システムの開発から生産、販売先との契約までを自社で行う独自の仕組みを構築。本名は事業開発部の部長として、事業の拡大、価値の向上に取り組んでいます。
本名 「事業開発部が担う役割は、大きく2つあります。1つめは、新たな拠点の開発。たねまきでは一部出資を行い、茨城県常総市に第一号拠点である『たねまき常総』を開設してミニトマトの生産を行っていて、こういった拠点を今後全国に増やすことを目標にしています。そこで、拠点となる候補地を探し、自治体と交渉し、農場が完成するまでのプロジェクトを動かしています。
2つめは、生産パートナーの開拓です。たねまき常総では、ミニトマトを通年で約1,000t供給できる体制をつくっていますが、卸先である小売店からの需要がそれを超えることがあります。需要に応えるため、私たちと同レベルの品質でミニトマトを生産することができる農業法人を探し、パートナー契約を結ぶことも事業開発部のミッションです」
入社した2021年には本名ひとりの部署だった事業開発部には、現在3名のメンバーが加わりました。それぞれが全国各地を回り、農地に最適な場所、パートナーとなり得る農業法人を開拓しています。
本名 「入社当時はまだ、業務の仕組みはありませんでした。そこで、候補となる自治体とコンタクトを取るところから契約するところまでをステージ分けしてマネジメントする、いわゆるパイプライン管理を導入。
また、業務に必要なツールなども一つひとつ整備してきました。もともと10年で10拠点へ拡大することが私たちのミッションでしたが、最近では、さらに目標が高くなっています。たねまきグループが生み出す価値をもっと大きくできるよう、拠点開発も急がなければいけません。
ですから、メンバーがスムーズに活動できること、さらには新しく入ってきたメンバーでもすぐに事業開発の業務ができるような体制作りにも力を入れています」
新聞に残る仕事がしたい。農業という枠に捉われず、新たな業界を作る
たねまきに入社する以前は、モバイルコンテンツの企画開発を行ったり、電子決済サービス会社でデジタルペイメントビジネスに関わったりと、“デジタル畑”で事業開発をしてきた本名。農業というアナログな分野に挑戦することを決めたのは、「社会にインパクトを与える仕事がしたい」という想いからでした。
本名 「デジタル分野を歩んできた人が、自分たちの能力をグリーンテックに使おうという流れは、世界的に起きています。私もそれに似ていて、たねまきを知ったときに、日本や地球に対して良いインパクトを与えるようなことができるのではないかと思ったんです。
私は昔から、『仕事をするなら新聞に残るような大きなことを10個くらいやりたい』と考えていました。たねまきなら、新聞に載るようなことはもちろん、デジタル分野ではかなわない地図に残る仕事もできる。家族や地域の人たちの一生の記憶に残ることができるのではないかと考えました」
異業界で事業開発に挑戦することになった本名ですが、どの分野であっても仕事をする上での考え方は変わらないと言います。
本名 「事業開発は、課題を見つけて、そのソリューションとしてビジネスを起こすこと。デジタルとアナログという違いはあっても、視点は同じです。しかも農業には、出荷から店頭に並ぶまでの流通経路の長さ、需給バランスによる値付けの不安定さなど、まだまだ課題がたくさんあります。
それはつまり、大きく発展する余地があるということ。だから私を含め、たねまきのメンバーは、農業を農業として捉えるのではなく、今までの常識を覆して 『新しい業界を作るんだ』という意気込みで取り組んでいます」
農業という枠にとらわれず、新たな業界を作りあげる──「当たり前ではないことをやってみる」というスタイルは、これまで本名が取り組んできたことにも通じる部分です。
本名 「以前、モバイルコンテンツとして電子書籍の開発に携わったことがありました。巨匠と呼ばれるような漫画家の先生たちにアプローチしたのですが、当時はまだ電子書籍が普及しておらず、いきなりそんなビッグネームに打診するなんて非常識なことでした。当然、出版社も反対します。
けれど、出版社はまだデジタル化に本腰を入れていないし、絶版になった書籍は絶版のままで読みたい人に届かない。最終的に電子書籍の配信までこぎつけたのですが、動きが止まっているところに手を差し伸べて変革していきたいという想いは、ずっと私の原動力になっています」
農業改革にとどまらず、各産業が一体となった街づくりをめざす
たねまきには、本名のように異業界から参画してきたメンバーが多くいます。常識を覆すためには、農業を別の角度から捉えられる人材が必要で、それが仕事のおもしろさにもつながっていると話します。
本名 「たとえば、農業界では従業員の労務管理は手書きで行われることが一般的ですが、当社では管理システムを開発し、シフト調整や作業進捗の確認をスマートフォンでできるようにしました。また、技術開発の専門チームが収穫作業を行うロボットの開発を進めており、24時間収穫が可能な体制の実現を目指しています。
もちろん、生産という部分では農業に長けている人たちが関わっていますが、これまでまったく農業に携わってこなかった人たちだからこそ見える課題もあるのです」
本名たちが変えようとしている常識は、生産体制だけに留まりません。小売店に並ぶまでの流通網も独自に構築することで、業界に一石を投じようとしています。
本名 「農作物の流通は、寡占化されていることが課題の一つです。しかし私たちは、マーケティングや営業も自社で行い、小売店と直接交渉することで競争力を高めています。ゆくゆく拠点が増えていけば、各拠点のハブとなる集荷センターも必要となるでしょう。
また、現在取り扱っているのはミニトマトですが、市場のニーズに応えて他の野菜も扱うようになるかもしれません。そうなれば、生産パートナーをさらに拡大し、スーパーの一角に『たねまきコーナー』ができる日が来るかもしれない。こういった団体が増えて互いに切磋琢磨するようになれば、業界に変革が起こるはずです」
農業界で存在感を発揮することをめざす本名。しかしその視線は、すでに業界を飛び越え、街づくりにまで広がっています。
本名 「たねまき常総が参入した『アグリサイエンスバレー常総』では、圏央道のインターチェンジを中心に、道の駅などの観光施設や物流センターなどを設け、農業、商業、工業が一体となった街づくりが行われています。 雇用を生み、人が集まる場所ができるという大きなメリットがありますが、これを他のエリアでやろうとすれば、もちろん課題もあります。
その一つが、広大な敷地。たねまき常総だけでも東京ドーム約2個分の敷地がありますから、この面積がある候補地が、日本にはなかなかないんです。こうした課題をクリアするには自治体との協力も必要ですが、私たちSBプレイヤーズグループには、たねまき以外にもさまざまな切り口で地域創生に寄与する事業があります。その強みを活かし、いずれ、街づくりのプロデュースをしてほしいと言われるような存在になっていきたいですね」
イノベーティブな挑戦を続け、子どもたちに良い環境を残したい
業界の改革から街づくりまで、さまざまな可能性を秘めているたねまき。だからこそ、どんどんイノベーティブなことに挑戦していきたいと本名は言います。
本名 「たとえば、エネルギーの問題。私たちは巨大なハウスで通年栽培をしているため、新たな拠点を作ろうとすれば、栽培環境の管理のために大きなエネルギーが必要です。現在は、二酸化炭素の排出量を削減できる液化天然ガスを使っていますが、これからは堆肥やフードロスなどを再資源化するバイオマス発電も活用できるかもしれない。
また、工業で使われるデータセンターなどで生み出された熱を農場に取り入れることもできるかもしれません。さらに、販路を世界へと拡大しようとすれば、貿易の知識も必要になります。ほかの業界の課題や知見と組み合わせることで、農業をよりハイレベルなものにできるはずです。たねまきは今、いろいろな事業を創出しようとしている段階です。私がそうであったように、他業界を経験した人だからこそ楽しめることがあるはずです」
そしてほかにも、事業開発という長期的なプロジェクトを動かす本名の原動力になっていることがあります。
本名 「社内外の人とコミュニケーションをとりながら、仕事を進めるのが好きなんですよね。変革を起こそうとする私たちのような存在に、初めは驚く人もいるかもしれませんが、いろいろな考えを持った人と一つの事業を作っていくのが楽しいんです。何より、新たな農業を生み出すことで、私たちの子ども世代に良い環境を残すことができる。
『お父さんたち、地球のために良いことをやってくれたんだね!』と言われるように、子どもたちに誇れる仕事がしたいんです。そのために、パイオニア精神を持っている人たちと、新たな価値を生み出していきたいですね」
社内外のさまざまな知見を融合し、農業改革に取り組む本名。イノベーティブな精神を胸に、これからも新たな農業、新たな街づくりに挑戦します。
※ 取材内容は2023年5月時点のものです