前職は編集者。言葉を扱ってきたキャリアが、IT企業で活かされた

article image 1

大田は2021年11月現在、SmartHRのUXライティンググループに所属しています。ユーザーがより快適にSmartHRを利用できるよう、プロダクトが提供する価値や、機能の操作方法をわかりやすく表現することが主な仕事内容です。

大田 「UXライティンググループは、ユーザーの皆さんがストレスなくプロダクトを操作できるよう、文章の作成や改善に取り組んでいます。たとえば、プロダクトの機能説明文やヒントメッセージ、あるいは入力内容が間違っていたときなどに表示されるエラーメッセージなどを作成しています」

2018年10月に入社し、入社4年目の大田。SmartHRにジョインするまでは、出版社やWebメディアで編集者としてキャリアを積み重ねてきました。

大田 「編集者として、文章をわかりやすく書く力、読み解く力をつけてきました。しかし仕事の本質と関係ない部分でストレスを感じることが多く、IT企業に転職しようと思ったんです」

編集者として働いていた当時は、電話のメモが紙で回ってきたり、ホワイトボードに外出先を書いたりと、さまざまな手間を感じていたといいます。次第に、プロダクトに集中できるような環境に行きたいと思う気持ちが強くなり、転職を決意。SmartHRにたどり着いたきっかけは、意外なものでした。

大田 「実は編集者をしながら、個人的趣味として、プログラミング言語のRubyを触っていたんです。なので、転職先は、Rubyにリスペクトのある会社がいいなと思っていました。2018年に『RubyKaigi』というイベントに協賛しているスポンサーをチェックしてみたんです。そのリストの一番上に載っていたのが、SmartHRだったんですよ」

そこで初めてSmartHRという会社を知った大田。ミッションやバリューを調べたり、社長の宮田 昇始のブログを読んだりするうちに、会社への興味が湧いたといます。

大田 「調べていく中で、この会社ならストレスなく働けそうだなと感じたのです。当時はUXライティンググループというものはまだなく、カスタマーサポート部門のサポート担当者として入社しました。まず担当したのは、ユーザーさんからいただいた問い合わせのチャットへの対応で、その後ヘルプページの作成もするようになりました」

ヘルプページの作成業務には、大田がこれまでのキャリアで培ってきたスキルが活かされました。

大田 「これまで文字を使ったコミュニケーションをずっと扱ってきました。SmartHRではチャットでサポート、つまりテキストでやりとりをするので、“いかに文章でわかりやすく伝えるか”を考えてきた経験が役に立ちましたね。

また編集者は、複数のプロフェッショナルを組み合わせたチームをつくり、ボールを回していって著者が発信したいことを世の中に発信する仕事です。カスタマーサポートも1人で完結できる仕事はなくて、エンジニアやPM(プロダクトマネージャー)と連携しながらユーザーさんの課題を解決していきます。全体感を把握しながら、いろいろな人と物事を進めていく経験があったことは、非常に役立っています」

文言の作成のために、開発の上流から携わる。大事なのは全体を俯瞰する目

article image 2

編集者としての経験がヘルプページ制作に活きると考えた大田は、編集経験者を採用し、ヘルプページ編集チームを立ち上げました。編集チームの書く言葉や文章は社内でも高く評価をされ始めます。社内の他チームのメンバーからも声をかけられ、「プロダクトのこの部分をもっとわかりやすく表現したいんだけれど……」といった相談を受けることが増えていったのです。

大田 「周囲のメンバーから必要とされ始めたこともあり、プロダクトの文言もメイン業務の1つにして、もっとコミットしていきたいと考えるようになりました。そこでカスタマーサポートチームの中にあったヘルプページ編集チームを『UXライティング』チームとし、再スタートしたのです」

UXライティングチームはその後、カスタマーサポートチームの枠を出て独立します。UXライターが、プロダクト開発においてもなくてはならない存在であり、カスタマーサポートとは別のスペシャリティを持つ職能として認識されるようになったからです。

現在では、UXライティンググループとして、8人のメンバーで運営をしています。

大田 「メンバーの中には、自分と同じように編集者経験がある人もいますし、テクニカルライターといって、プロダクトのマニュアルを書く仕事をしていた人も複数名います」

UXライターは、開発のスクラムイベントに参加する形で、開発チームの一員として共にプロダクトを作っていきます。開発に携わるなかで大田がUXライターとしてこだわっているのは、ライティングだけに止まらない広い視野でプロダクトを理解することです。

大田 「プロダクト上の文章をわかりやすくするというのが最終的なアウトプットではありますが、単に文字面を工夫するだけでは不十分だと思っています。たとえば、文章表現以前に、そもそもプロダクトとして表示の順番が最適じゃなかったり、名前付けが適切ではなかったりするケースもあるんですよね。

だからこそ、上流から関わって全体の構成や操作の流れを把握したうえで言葉を決めていくことが重要だと思っています」

よりよいプロダクトを目指してUXライティングと向き合う大田。同時に、ガイドラインの整備にも取り組みました。

大田 「SmartHRには、多くの機能・画面があります。開発チームも複数あるため、同じことを表現しているのに、違った言葉を使ってしまう可能性があるんですよね。同じことを意味しているのに違う言葉を使っていると「これは違う意味になるのかな?」とユーザーが混乱する原因になるので、『こういう場面ではこういう言葉を使う』と統一するためのガイドラインをチームで整備していっています」

UXライターがいることで、文言を良くする動きが増えた

article image 3

開発チームにUXライターが入ったことで、SmartHRはユーザーに優しく、よりわかりやすいプロダクトになっていきました。

大田 「UXライターだけがわかりやすい文言づくりに取り組んでいるわけではありません。たとえば、開発チームの中でも、エンジニアやデザイナーなどから文章についての提案をよくもらいます。UXライターという存在が開発チームに入っていくことで、開発チーム全体で、文言を良くする動きが増えてきていると感じます」

これまでの積み重ねから、「UXライターがやってくれるからいいや」という姿勢ではなく、わかりやすい文章をつくるために、チーム全体で考える姿勢が根付きつつあります。

たとえば年末調整機能では、去年までとは違い、今年は開発に深く関わる形になりました。

大田 「年末調整の機能は、SmartHRの中でも多くのユーザーに利用していただいています。去年までは、プロダクト開発には限定的な関わり方だったのですが、今年はUXライターもスクラムチームの一員として開発に参加しました。年末調整にあたり、住所や扶養家族の情報を聞くようなアンケート画面があるのですが、その画面の全てのメッセージを、UXライターが中心となって改善していきました」

今年の年末調整のサービスは、UXライターの手が入ることでよりわかりやすいものに仕上がっているといいます。表面的なテキストの枠に収まらず、サービス全体に積極的に関わっていく大田の姿勢は、SmartHRのバリューにも共通していました。

大田 「SmartHRのバリューに『自律駆動』という言葉があります。これは、自ら考えて行動できる人が求められているということ。私も、ライティング領域だけをやればいいと考えるのではなくて、広い視野を持ち、プロダクトが最終的にユーザーに提供する価値をどれだけ高められるかを考えています。

これからも、UXライティングチームのメンバーとともに、開発プロセス全体に当事者意識を持って行動していきたいと思っています」

世の中のサービス全体がわかりやすくなるように──ガイドラインを公開中

article image 4

国内におけるUXライティングのパイオニアとしてグループを牽引してきた大田。今後の展望をこんなふうに描いています。

大田 「開発の中でよりパワーを出せる存在になっていきたいですね。そのため、文章のスキルだけではなく、エンジニアリングやデザイン、プロダクトマネジメントのスキルをしっかり身につけていきたいです」

さらにアクセシビリティについても、今後取り組みを強化したいと考えています。

大田 「アクセシビリティは、SmartHRが全社的に取り組もうとしている領域です。アクセシビリティの原則の1つに、『理解可能』というものがあるのですが、これは『難しい言葉を使わない』とか、『誰が読んでも同じように理解される書き方で書く』とか、言葉で貢献できる度合いが大きい部分になります。

わかりやすく書くことで、目が見えない方も、ヒントメッセージを読むだけで操作方法を理解できるようになります。より多くの人がSmartHRを使って価値を得られるよう、UXライティングチームとしても取り組んでいきたいです」

SmartHRでは、『Employee First.』というサービスビジョンを掲げています。『Employee First.』とは、従業員と会社がお互いに信頼しあい気持ちよく働けるよう、テクノロジーと創意工夫でこれからの働き方をつくっていくための理念です。

大田 「『Employee First.』の理念のように、全ての人たちが煩雑な手続きに悩まされることのない世界を目指していきたいと思っています。そのためにも、あらゆる立場・属性の人にとって使いやすいプロダクトを追求していきます」

さまざまなノウハウを社内だけで閉じ込めず、情報として世の中に公開しているSmartHR。公開することで、全世界からフィードバックをもらえるため、より良いサービスを目指せるのだといいます。

大田 「私たちが作ったUXライティングのガイドラインも、SmartHR Design Systemという枠組みの中で公開しています。ぜひ他の会社の皆さんにも見てもらって、参考にしたり、フィードバックしたりしてもらえたらうれしいですね。各社が知見をオープンにしていくことで、世の中のSaaS全体で、わかりやすさのレベルが向上したらいいなと思っているんです」

世の中のサービスがわかりやすくなることを願い、使命感を持ちながらUXライティングに取り組み続ける大田。真摯な姿勢で、SmartHRから世の中へ、プロダクトの「わかりさすさ」向上の輪を広げていきます。