ファンの喜ぶ姿が原動力。異国の地で挑戦する、日本アニメのプロモート
2021年11月現在、アメリカ・サンフランシスコにある関連会社、VIZ Media,LLCに出向している李静佳。アニメーションライセンシングスペシャリストとして、小学館・集英社系のアニメをはじめおよそ20作品のライセンス業務を担当しています。
李 「アニメの製作委員会の海外窓口企業と取り交わす契約やディール監修提出、マーケティング関連の調整、新作オファーなどを担当しています。
ライセンス担当は、ローカライズ、セールス、マーケティング、商品化、監修、イベント、法務など、社内のほとんどの部署と一緒に仕事をする機会があり、日米両方のアニメビジネスについて幅広い知識が求められます。市場もプレイヤーもすごいスピードで変化していくので、勉強の毎日です」
出向以来、さまざまな案件に携わってきたなかで、李が最もやりがいを感じているのは、アメリカのアニメファンたちが喜びを素直に大きく表現する姿でした。
李 「取り扱っているのが、日本でもアメリカでもトップクラスの人気作品なので、ファンの歓喜を目の当たりにできることが嬉しいです。
たとえば2021年10月、2年ぶりにニューヨーク・コミコンが開催されたときのこと。ブースでアクティビティのガイドをしたんですが、アメリカのファンの方がめちゃくちゃ喜んでいるのが伝わってきて、私もすごく楽しくなりました。
日本とアメリカでは、作品に接する機会に差があることも影響しているのかもしれません。日本では、アニメはテレビで無料視聴できるし、漫画も購入しやすい。グッズ探しにもそれほど苦労しません。一方アメリカでは、アニメを見るには基本的にお金がかかるし、漫画やグッズの品揃えも日本ほど充実していないんです。だから、ちょっとしたことでも大喜びしてくれるんですよね。
私がアメリカに来てから初めてのコンベンションだったんですが、本当に作品が海を越えて愛されているんだなと実感できて、そしてそこに自分が関われている事が誇らしくて、参加してよかったなと思いました」
李は、現在の自身の仕事に大きなやりがいを感じていると続けます。
李 「幼少期から漫画やアニメ、ゲームが大好きで、小学生のころは毎月お小遣いをもらうとそのままゲームを買いに行き、財布を空にしていました(笑)。そんな私にとって、好きなアニメを海外に広める今の仕事は“夢の職業”なんです!」
「良いものをお客様にどう届けるか?」夢中になったマーケティングの仕事
自身の仕事を「夢の職業」と語る李。幼いころから漫画やアニメ、ゲームが特別な存在となった理由は、家庭環境にあると語ります。
李 「『少年ジャンプ』が大好きだった母の影響が大きく、『ドラゴンボール』が全巻そろっているような、漫画がとても身近な家庭で育ちました。人生のターニングポイントは、『ポケットモンスター』の発売。私はちょうど初代ポケモン世代にあたり、ゲーム、アニメ、漫画とポケモン尽くしの小学生時代でした」
「大好きなゲームに関わる仕事がしたい」と思った李は、新卒でゲーム会社に入社。そこで、マーケティングの醍醐味を体感することになります。
李 「自分が携わったゲームが店頭に並んだ時、購入してくださるお客様の存在や、デザインの過程で苦労したポスターを喜んでくださるファンの姿、『おもしろかった』という友人の感想など、すべてがやりがいになりました。デザインプロセスや販促物をどう活用するか、などの専門知識を得たことも大きいですね。
この経験から、私は『良いものをお客様にどう届けるか?』を考えて、形にしていく仕事が好きだなと気づいたんです。
プロモーションによって、人々が商品をどう受け止めるかは大きく変わります。私自身は、デザインができたり優れたアイデアを持っているわけではありませんが、自分が良いと思うものをもっともっとたくさんの人に届けたいという気持ちは人一倍あります。
プロダクトを広めるプロセスに携わり、『こんなふうにアプローチしたらもっと効果が出るのではないか?』と試行錯誤しながら形にする。その役割が自分には合っていると実感しました」
その気づきにより、良いものをより多くの人に届けるためのマーケティングスキルを高めようと考えた李。ゲーム会社から広告代理店への転職を決断しました。
李 「アイデアを出し、メーカーにプレゼンし、実現していくという外からのアプローチを試してみたかったんです。代理店のクライアントは多種多様なので、企業ごとに社風も商品もマーケットも異なります。おかげで広い視野を身につけることができました」
そんな代理店時代、イベント会場などでShoProと仕事をともにする機会があったという李。社員同士の仲の良さや、何でも話し合える和やかな雰囲気に惹かれ、ShoProへの入社を決めました。
李 「入社後はこれまでの経験を活かして、プロモート事業部でイベントに関わっていました。本格的にイベントをプロデュースする側にまわるのは初めてで分からない事も多かったのですが、ありがたいことに大きなプロジェクトに関わることが出来て、何もかも刺激的な経験でした。
どうすればいい展示になるのか、どうすればたくさんの人に喜んでもらえるのか、毎日頭を悩ませていましたが、本当に濃密で、自分の可能性を広げることができたと思います。
『良いコンテンツを、イベントという形でお客様に届ける』というテーマの中に、プロデュース、マーケティング、ライセンスなど様々な業務が折り重なって、今までの集大成となる仕事をShoProに入社して経験する事ができたと感じています。
そんなある時、VIZ Mediaへのグローバル研修制度が始まり、メンバーを公募しているのを見て……。その瞬間、『これだ!』と思って手を挙げたんです」
「冒険」を求めてアメリカへ…文化の違いを経て現地での信頼を掴む
李がVIZ Mediaでの研修を熱望した背景には、大学時代のカナダ留学での経験や、ゲームやアニメの世界観への憧れがありました。
李 「学生時代は実家に住んでいて、すごく甘やかされているのを自分でも感じていました。そんな自分を変えたいけど、性格的にコツコツ積み重ねて変えていくのは苦手で(笑)。どこか全然違う環境に飛び込むのが合っているのでは……と考えて、留学に踏み出したんです。
カナダで生活するうちに、本当に人格が変わるくらい自分がオープンになっていると気づき、驚きました。日本とはカルチャーがまったく違う世界に身を置くことで、すごく成長できたというか。
私はもともと、ゲームやアニメなどファンタジーの世界観が大好きで、現実とは違う世界を冒険する、っていうことに惹かれるんですよね。留学は、新しい環境でいろんな国の方と一緒に勉強する、私にとっての『冒険』だったんだと思います」
もう一度、あの時のような冒険がしたい──そんな想いを抱き、2019年にVIZ Mediaの一員となった李。最初の1年半は研修生として現地でのビジネスを学び、2021年からは正式配属となり、ライセンス業務に携わっています。
李 「VIZ Mediaがあるサンフランシスコは、アメリカのなかでも特にリベラルで多様性に富んだエリア。どんな人でも受け入れてくれる街というイメージでした。孤独を感じることもなく、友達もすぐできました」
ただ、仕事上では文化や商習慣の違いを痛感したこともあるのだと語ります。
李 「日本ではジョブローテーションを取り入れて、様々な部署を横断して俯瞰的に見れる人材を育もうという傾向が強いと思いますが、アメリカでは、大学で学んだ知識を活かせる職種に就き、そのまま継続するのが一般的。マーケティングを学んだ人はずっとマーケターとして、キャリアを積んでいくんですね。
そんな理由もあってアメリカの職場ではそれぞれの専門性を尊重することがとても大切です。『もっとこうしたら良くなるのでは?』という提言をすることが、必ずしも歓迎されるわけではないんです。しっかり納得してもらわないと、『NO』と断られてしまう事も少なくなくて。
ただ、私自身は取り組むのであればより良いものにしたいと思うタイプなので、異なる立場の人を動かすためにはどうしたらいいのか、より深く考えるようになりました。
シンプルですが、何よりも大切なのは、やはり信頼されることですね。「アメリカ人は表現がストレートだ」というステレオタイプがあるかもしれませんが、ただ日本とはポイントが違うだけで、それどころか日本人よりも小さな表現に敏感です。
ただでさえ私は英語のネイティブスピーカーではないので、日頃の話し方や言葉選び、伝え方について心配りをしながら、ライセンスのスペシャリストとしての立場を確立するために努力をしています。
もちろん私自身もしっかり専門性を高める必要があるので、英語のライセンス契約書と毎日格闘しつつ勉強の日々です。また、とにかくアニメをたくさん見て研究することも仕事の1つです。
最近では、ライセンスや日本との交渉事について『シズカがそう言うのなら間違いないね』と言ってもらえるようになってきたので、嬉しい変化だと感じています」
日本では得難い、グローバルな経験。ShoProに持ち帰り、伝えたい
アメリカで李が実感したもうひとつは、「日米のファンの嗜好の違い」でした。
李 「アメリカで人気なのは、圧倒的にヒーローもの。強い主人公が派手なアクションで悪を倒す、大胆な展開が好まれますね。また、最近では社会的な背景もあって、強い女性キャラも人気で、日本で好まれる小さくてか弱いヒロインとの対比が面白いです。
『なぜアメリカでは、この作品やキャラクターが人気なのか?』『アメリカ市場ではどういうポイントをアピールしたらいいのか?』『この作品は日本で爆発的に売れたけれど、アメリカでは人気がないのはなぜだろう?』など、興味は尽きないですね」
日米の違いは、キャラクターや作品の好みだけではありません。コミコンでも感じたように、作品への愛や楽しさの表現方法にも特徴を見ることができます。
李 「自分の好きなキャラをイラストに描く場合、日本のファンはクオリティを重視するし、実際に絵が上手な方も多いです。一方アメリカでは、たとえ絵が上手じゃなくても、SNSなどにどんどん投稿して『好き』をアピールします。
また、日本のコスプレイヤーはどちらかというと完璧志向で、キャラクターを忠実に再現していくのですが、アメリカではどんどんアレンジを入れて自分流に楽しんでいます。
日本とアメリカ、それぞれでどういうマーケティングが最適なのか。常に『なぜだろう?』と思案しながら、『良いものを届けるためにはどうしたらいいか?』を突き詰めていきたいです」
さらに李は、VIZ Mediaで得た知識や経験をShoProへどう還元するか、を模索しています。
李 「研修生第一号として出向したからには、自分が得たものをShoProへ持ち帰りたいんです。もちろんアメリカのアニメ市場や海外ライセンスの知識もそうですが、グローバルな環境において、文化や商習慣が異なる人にどうアプローチしていくかなど、直接的な実務以外にもここで学んだ多くのことを伝えることができると思います」
アメリカという未知の環境に飛び込み、試行錯誤しながらも新たな知見を身につけた李。マーケターとして、グローバルなライセンススペシャリストとして、「冒険」で得たたくさんのお土産を持ち帰ってくれるでしょう。