2016年、初めて実施した社員意識調査で判明したのは、仕事に対してモチベーションが持てていない社員が多くいることでした。そしてこの課題を機に、住友重機械イオンテクノロジー株式会社(以下、SMIT) では、「SALT」という新たな研修がスタートしました。

この研修がどう誕生し、どんな成果を生み出したのか。企画管理部人事総務責任者の榊原が、その詳細を語ります。

  ▲社員の意見が反映されたリフレッシュルームより

30年人事・総務に携わり続けた今、求めていること

──まずは簡単に自己紹介をお願いします。

榊原 「生まれは西条市です。小学生の頃に親の転勤で神戸に転校しましたが、中学時代に再び西条に戻ってきました。

その後関東の大学に進学して、1992年に住友重機械工業株式会社(以下、SHI)に入社しました。それからはSHIのいくつかの製造所を転勤しながらも、一貫して人事・総務に携わっています。SMITには約10年前に転勤してきて、2022年現在は企画管理部人事総務責任者をしています」

──SMITの社風やイメージを教えてください。

榊原 「転勤してきた当時のことをお話ししますね。SMITが、もともと米国企業との合弁によって生まれた外資系企業ということもあり、私はこの会社のことを、SHIグループの型に収まることなく、独自判断でいろいろと取り組んでいる会社なのだと思っていました。

ちょうど転勤してきたときは、不景気のタイミングで、事業が低迷していた時期だったため、新たな取り組みよりは、構造改革を進めて、どう業績をよくするかに注力していました」     

──採用で重要視しているところはありますか?

榊原 「当事者意識を持っているかどうかですね。イオン注入装置は、さまざまな技術を寄せ集めて装置を作りあげるため、多種多様な分野の専門家を採用しないといけません。それぞれの持ち場で能力を発揮してもらうため、当事者意識を持って、自らが考え、行動できる人を求めています。

また、当事者意識を重要視するのは、『自分の担当している仕事以上のことは、上司や同僚、専門家がやってくれる』と手を止めるのではなく、自分が当事者としての自覚を持って行動することが、個人の能力の幅を広げると考えているからです。そういった積み重ねが最終的に世の中に貢献し、生活をより良くすることにつながると考えています」 

社員の意識向上を目指した、新たな試み

──社員に当事者意識を持ってもらうために取り組んでいることはありますか?

榊原 「『SALT*』というSMIT独自の研修を行っています。始めたきっかけは、2016年に初めて本格的な社員意識調査を行った際に、仕事に対してモチベーションを持てていない社員が多くいると判明したことでした。

当時は、このことに課題を感じていましたし、人事として『社員の力を底上げしていきたい』という想いもあったので、事業が落ち着いて、転換期を迎えたことを機に、社員のモチベーションを高める研修を検討しました。ですが、考え始めてから浮かんできたのは、『はたして出来合いの研修でやる気が出るのか?』という疑問でした。

それから研修の形を試行錯誤して、『もっと自分自身に向き合い、内面に刺さるような研修がしたい』という考えに至りました。そうして合同会社こっからさんと一緒に2016年に編み出したのが、内省を中心とした研修『SALT』です」

*SALTとは?
Sumitomo 住友の」「Authentic 本物の」「Leadership リーダーシップ」「Training トレーニング」
プログラムは大きく2段階構成です。

1.誰もが持っている自身のリーダーシップを掴み(内面への気づき)
2.組織のために小さなアクションから挑戦する
このプロセスを歩む中で、「個人の仕事の捉え方が変容する」、「職場に行くのが以前よりも前向きになる」などの変化を起こし、SMITグループが結果的に活性化していくことを目的としています。 

      ▲SALT vol.3のメンバーと(榊原:後列右端)

──従来の研修とはどう違うんでしょうか?

榊原 「従来の研修は、『どう論理的にプレゼンをするか』とか、自己啓発をして専門能力を高める内容のものばかりでした。これらの研修は成果物が分かりやすく、参加者は参加するだけで誰かに成果を与えてもらえるんですよね。

それに比べSALTは、自分自身はどのような人間なのか、どういったことに喜びを求めるのかなど、自分の内面にひたすら向き合う研修です。成果物は自分で見つけるしかありません。この点が今までとはまったく違った研修でした」      

──SALTの立ち上げで苦労したことはなんですか?

榊原 「まずはどう変化があるのか試してみようと、当時の従業員数 約400名弱のうち、約4分の1の100名が累計で参加するまで続けてみることにしました。ですが、手探りのまま始めたために、参加者からは、『研修で何を学ぼうとしているのか、研修後のゴールは何なのかが、はっきり分からない』、『研修で気づきはあったけれど、仕事にどう昇華させればいいのか分からない』といった声があがりました。

苦労したのは、こういった研修に対する懐疑的な意見に対して、どう対処するかでした。これらの質問や声に対する答えを、運営側からあげることはできません。この研修は解を与えるためのものではなく、自らが解を導き出すことを重視しているからです。

そのため参加者には、『自分にひたすら問いかけ続け、自分の気づきを再認識すること』を期待し続けました」     

──それから始めたのが、SALT vol.1でしたよね。こちらを振り返ってみてどうですか?

榊原 「人に言われて参加した研修は身につかないと考え、『SALT Vol.1』では、ある程度会社での経験があり、会社に疑問を持っているような人を対象に社内公募を行いました。研修の説明会では、参加者からの反発もありましたが、最終的には複数の部署から10名が集まりました。

初回だったので、今のようにコンテンツなどは確立されていませんでしたが、瀬戸内の島という自然の中で自分自身を振り返る、従来とは違う研修の形でした。

実は私も参加者として混ぜてもらったのですが、研修中には、人事総務グループの榊原ではなく、一個人として、参加者と密なコミュニケーションを取ることができました。最初は手探りだったのでその時点では成功かは分かりませんでしたが、気づきの多い研修となり、継続が決まりました」

       ▲合同会社こっからさんとSALTに続く内省の場を模索中

独自の研修から得た気づきと社内で見え始めた変化

──榊原さん個人としては、SALTを通じてどんな学びを得ましたか?

榊原 「傾聴の大切さはよい学びでした。今までは人の気持ちを考えているつもりでも、話の途中で何かしらの判断や結論を出して、相談を跳ね返してしまうことがありました。

ですが、研修に参加して“聴く”を意識することで、人の話をちゃんと聴けるようになった実感があります。結果としては同じことになったとしても、相手の立場に立って、寄り添う姿勢を持つことが、自分のしたい仕事だと気づくことができました。

とはいえ、この学びは一度学んだだけで持続するものではありません。事務局としてSALTに参加する度に、仕事に追われて昔のスタイルに戻っていないか、大事なことを忘れていないか、学び直しをしています。これは事務局の特権ですね(笑)」        

──今度は運営目線としてお聞きしますが、社員に変化はありましたか?

榊原 「社員の変化といっても、参加者一人ひとりの内側の部分の変化が大きいので、目に見えての変化は感じることは少ないのですが、確かな変化を感じています。事例を一つ紹介させていただくと、SMITには『イベント補助制度』という業務外の社員間交流を活性化させるための福利厚生制度があります。(※コロナウイルスの感染対策期間中のため、現在は中止)

これは、SALT参加者が自ら課題意識を持ち、起案し、制度化してくれたものです。私自身は、この制度のことを、その社員がSALTに参加し、内省した結果、少しでもコミュニケーションに溢れた組織にしたいという自らの想いに気付けたからこそ生まれたものだと思っており、SMITとしての大きな一歩だと考えています。またSALTで得た学びを日常業務の中で口にしてくれたり、周囲に拡散してくれたりするSALT経験者が増えてきており、社内全体の雰囲気が変わりつつあることを実感しております」     

──SALTのこれからをどう考えていますか?

榊原 「2022年の今年、vol.9を実施すると、参加者は目標の100人を達成します。ここで区切りをつけてもいいし、社員数が増えてきているので続けてもいいですね。これまで、仕事が忙しくて参加したくてもできなかった人など、ある一定の層に向けての研修にも挑戦してみたいと考えています。

また、内省や自分の在りたい姿に向き合うことに対して、まだ懐疑的な考えを持つ人にこそこのSALTには参加してほしいと思っています。どちらにせよ、SALTで目指すものはSMITの社員意識向上の土台となるものですので何らかの形で残していきたいです」     

一人ひとりが輝く職場を作り、地方の小さな製造業から世の中を豊かに

   ▲取材中、社員の「好き」が増えることを意気込んでいる榊原

──最後になりますが、榊原さんはSMITをどんな会社にしていきたいですか?

榊原 「まずは当初の目的であった、『モチベーションを持てていない』という社員を一人でも減らしていきたいです。SALT等をきっかけに、会社での業務と自分のやりたいことの一致に気づき、当事者意識を持ってワクワクしながら働く社員が増えるといいですね。

社長の月原も言っていましたが、給料や、福利厚生がいいからといった理由で会社を好きになるのではなく、会社自体が好き、仕事が好き、この会社で働いて世の中に貢献していきたいと、社員一人ひとりが思えるような会社にしていきたいです。

また、私たちは地方の小さな製造業ではありますが、製造業は日本を支える重要な産業だと考えています。私は人事の責任者として、その自覚を持った社員や、事業や仕事が『好き』 という社員を増やすことで、世の中を豊かにしていきたいと思っています。そして、そういった人達が少しでも輝ける職場環境をつくっていきたいです」