社内に大きな意識改革を──サノフィのLGBTQ+への取り組み
サノフィ株式会社が2021年秋に発足したプロジェクトのうち、「DE&Iアウェアネス」がLGBTQ+の理解者・支援者が集うアライ(Ally) ネットワークを立ち上げたのは、社内アンケートがきっかけでした。
川口 「DE&Iの意識向上を目指す目的で、プロジェクトチームが立ち上がったときに社員の意識調査をしました。年代や障がい、ジェンダーなどDE&Iにおける課題を聞いたところ、LGBTQ+に対する関心や意識が一番低かったんです。そこで、まずは最も意識改革が必要な課題から取り組むことにしました」
とはいえ、3人とも LGBTQ+やアライについて、それまで深く考えたり、行動したりする機会はほとんどなかったと言います。
中村 「今までLGBTQ+の方と交流する機会はありませんでしたが、自分自身は仕事を進める上で、そうした個人の性的指向は関係ないと思っていました」
満田 「サノフィでは女性の管理職を育てるような取り組みがあるので、DE&Iの推進=女性のエンパワーメント、と捉えていた部分があります。 LGBTQ+については、今までとくに何か行動したことはありませんでした」
川口 「最初は戸惑いもありましたが、サノフィはグローバルレベルでLGBTQ+関連の取り組みに力を入れていることは知っていました。そのため日本でも危機感を持って取り組むべきとの想いを胸に活動を始めました」
そこで、まずは LGBTQ+について正しい理解を深めるために、認定NPO法人虹色ダイバーシティから講師を迎え、 LGBTQ+の基礎・医療現場での課題について社内講演会を開催。1,000人近い社員が参加し、参加者からは「具体的な事例提示が大変参考になった」などの意見が寄せられました。
その後、 プロジェクトチームはアライグループを立ち上げ、賛同者を募ります。アライに真っ先に手を挙げた満田は、そのときの気持ちをこう語ります。
満田 「自分には偏見はないし、ある程度 LGBTQ+についてわかっていると思っていました。ですが、虹色ダイバーシティの講演を聞いたときに、自分自身が非常に無知であり、固定概念をまだ多く持っていることに気づきました。それがショックで、もっと知識を深めなくてはいけない、具体的に行動を起こさなくては、と強く思ったことがアライメンバーになったきっかけです」
工場や本社、さまざまな部門の社員がアライメンバーとなり、2022年10月現在では124名が活動に参加。こうして、アライ活動はますます加速していきます。
アライ活動によって誰もが自分らしく働ける環境へ
アライ活動の一環として、4月には東京レインボープライド2022に協賛し、プライドパレードにも参加しました。また、しゃべり場として自由に意見交換ができる「アライカフェ」を定期的に開催。
そして、LGBTQ+の権利や文化を啓発する「プライド月間」の6月には、さらに理解を深めるために勉強会を実施。この勉強会は、取り組みに賛同したアストラゼネカ株式会社・アレクシオンファーマ合同会社とともに、製薬会社3社による合同開催となりました。
このような活動を経験したことで、たくさんの学びや気づきがあったと3人は語ります。
中村 「LGBTQ+への理解が深まったことで、言葉選びには一層気を遣うようになりました。会議では、誰もが発言しやすい雰囲気を出せているか、自身の言動で相手の心理的安全性が損なわれていないかなど、そういったことも意識するようになりましたね」
満田 「小さなことでも行動することの大切さを改めて感じました。アライの一員であることを表明し、発信していくことで自分も誰かの力になれているかもしれない。そのことに気づいてからは、自分の顔写真にアライであることがわかるフレームをつけたり、メール署名に貼ったり、Zoom背景を変えたり、すぐにできることから始めてみました」
川口 「3社合同の勉強会では、制度面などでサノフィよりも進んでいる会社もあり、そこから学ぶことも多く、とても良い刺激になりましたね。LGBTQ+の取り組みに尽力している方たちと交流することで、より自分事として捉えられるようになり、励みになりました」
そんな3人には、アライ活動をする上で大切にしていることがあります。
中村 「知識が増えていっても、わかったつもりになってしまわないように、『常に学ぼう、新しい情報を得よう』という意識を大切にしています。いろんな意見が出てきますが、まずはそれを受け止め、どんな環境であれば全員の心理的安全性が保たれて、パフォーマンスを最大化できるか常に考えています」
川口 「アライ活動は、LGBTQ+において解決できていない課題があるからこそ存在するものだと考えています。ですので、危機感を持って活動していきたいです。DE&Iを浸透させることで、会社の魅力や競争力も高められると思っています」
満田 「なんでDE&Iを推進するのか、という目的を忘れないこと。DE&Iが社内に浸透するということは、サノフィの社員が生き生きと働ける環境になることです。つまり、私自身も含め、LGBTQ+の方もそうでない方も、自分らしく働ける環境づくりに貢献したい、そのために何ができるのか、と日々考えながら活動しています」
地道な活動を通して感じた確かな手ごたえ
自分自身も学びながら、熱い想いを持ってアライ活動に取り組む3人。これまでを振り返ると、さまざまな苦労や難しい課題に直面することもあったと言います。
川口 「LGBTQ+に対する関心や意識の向上を推進する立場になって、自分でも勉強してはいますが、当事者でないと気づくことが難しい点も多いと感じています。実際はどう感じるのか、何を望んでいるのかなど、当事者の声を実際に聞いて、そこに対して考える機会が必要だと思っています」
さらに、中村と満田が挙げた課題は、周囲のリアクションでした。
満田 「小さなことですが、アライ表明のために、署名や写真、Zoom背景を変えても、思ったより反応してくれた人が少なくて(笑)。少しでも周囲が反応してくれたら、アライやLGBTQ+について話せるきっかけになるのにな、と思いました」
中村 「プロジェクトチームでは、DE&I促進のために、毎月テーマを変え、ニュースレターを社内SNSで全社に配信しています。いいね!などのリアクションボタンもあるのですが、既読数のわりに反応はそれほど多くありません。どのような意見を持っているのかがわからないままでは、誰もが自分らしく働ける環境の構築に向けて、どう進めるべきか難しい部分もあります。そのため、まずはどんな意見でもいいので、DE&Iに対し感じていることを示してくれればいいな、と思っています」
一方、川口はアライ活動を超えた次の課題を捉えています。
川口 「よりインクルーシブな会社になるためには、制度面や設備環境の変更など、アライやプロジェクトチームだけでは進められないことも多いのが現実です。ですので、さまざまな部署と連携しながら全社的な動きとして進めていけたらと考えています」
こうした課題はあるものの、活動の手ごたえは感じていると中村と川口は語ります。改めて社内アンケートを実施したところ、「アライ」や「アウティング(性自認、性的指向を、LGBTQ+ 当事者の許可なく他の人に暴露すること)」といった言葉の認知度が活動以前よりかなり高まった(約20%→約50%)という結果に。また、今後アライとして活動してみたいか、との問いには、350名以上が「そう思う」「ややそう思う」と回答しました。
小さな一歩の積み重ねで大きな流れを
今後の取り組みとして、アライの「見える化」を通じて、賛同者を増やすことを計画しています。
満田 「メール署名やZoom背景に加え、社員証ストラップやステッカーなどアライグッズの作成も進めています。アライメンバーが増えていき、また、アライだと表明する社員を身近に感じることで、LGBTQ+の社員がより心理的安全性を感じられるようになればと考えています」
さらに、外部講師による講演に加え、業界他社を複数巻き込んで第二回目となる合同勉強会を企画しています。
「このような活動を通じて、どんな会社、どんな社会を実現したいか?」という問いに、中村と川口は次のように語りました。
中村 「今就職活動している学生の方は、会社を選ぶ際にDE&IやLGBTQ+への取り組みも重視すると聞いています。多様な意見が尊重され、誰もが生き生きと働ける企業が選ばれるようになっている。私たちも選ばれる企業でありたいし、製薬業界全体で『誰もが自分らしく働ける環境づくり』を推進したいと思います」
川口 「将来的には、アライ活動というものがいらなくなるような社会になればいいと思います。みんなが多様性を理解して、受け入れられるようになれば、『私はアライ』とわざわざ表明したり、そのために活動したりする必要性もなくなりますからね」
最後に、これからアライへの参加を考えている方や、サノフィに興味のある方に対して、それぞれが想いをこう語ります。
川口 「自分は偏見を持っていないと信じていても、誰にでも自分では気づかない偏見(アンコンシャスバイアス)があります。どういう言葉が当事者を傷つけるか、どのような制度で差別されていると感じるかは、当事者でない自分たちが気づくのは難しいです。ですので、実際に当事者の方や専門家の意見を取り入れながら、みんなで一緒に勉強していきたいですね」
満田 「DE&IやLGBTQ+について考え、行動する機会を与えてくれたチームと会社には感謝しています。自分の会社の取り組みを誇りに思いますし、本当にサノフィに入社してよかったと思っています。同じ想いを持った方たちと、一緒に活動を広めていきたいですね」
中村 「たとえ小さな一歩でも、踏み出すことで周りに救われる人がいる、ということを多くの方に知ってほしいです。自分一人では何も変わらないと思う人もいるかもしれないけれど、ぜひ一緒に、小さな一歩から大きな流れを作っていきましょう」
それぞれ熱い想いを胸に、3人はアライ活動を広めるべく日々邁進しています。誰もが自分らしく働き、お互いを高め合える組織を目指し、患者さんや社会にもポジティブなインパクトをもたらすためのサノフィの挑戦はこれからも続きます。