激しさを増す製薬業界の競争──企業が社員に求める人物像も変化

「人と話すことが好き」と語る大谷のキャリアは、コンサルティングの仕事から始まりました。しかし働くうちに、学生時代の家庭教師・塾講師など、人と関わる仕事で得た充実感を思い出し、人事畑へと転職。

以降は、人事領域の仕事を軸に、化粧品・製薬会社を経験してきました。その中でとくに、“人の成長に関わるところ”にやりがいやモチベーションを感じた大谷は、現在サノフィで主に人材育成や能力開発の分野にて奮闘しています。

大谷 「2019年に新しい本社のCEOが着任して、6カ年の経営戦略が発表されました。2022年の今年はさらに新たな使命が発表され、サノフィの求める人物像も大きく変わりました。以前、社員に求められていたのは、戦略やプランに従って、確実かつ効率的に実行できること。しかし今は、大きく2つの要素を求められます。

1つは、指示待ちではなく、サノフィの使命・ビジョン・戦略に沿いつつも、自分自身で状況に応じて柔軟かつ臨機応変に現場で判断を下せること。もう1つは、機動的かつ効率的な動きができることです。こうした人物になるためには、さまざまな情報を収集して、広い視野で優先順位やプランを考えながら、臨機応変にリスクを取って挑戦することが必要です。そのため、求められる能力も以前とは異なります。より難易度があがっていると思いますね」

求められる人物像の変化について、大谷は「時代やビジネス環境の変化」を要因に挙げています。

大谷 「製薬業界全般にいえることですが、今は“ブロックバスター”といわれる、莫大な売上により開発費を回収して利益を生み出す新薬は、なかなかありません。AIなどの新しいテクノロジーが次々に開発される中、規制緩和により新規参入する企業も増え、薬価の見通しが不透明になる状況など、製薬業界の競争は一段と激しさを増しています。

さらに、今までになかった製品やサービスが、以前よりも非常に早いサイクルで生まれています。こうした変化の激しい時代の流れを予測し、先んじるタレントが、企業の生き残りと成長のためには必要不可欠なのです」

さまざまな製品を手掛けるサノフィでも、「イノベーションが生まれやすい職場環境を作ること」を今まで以上に重視しています。組織力をあげ、多くのイノベーションを生むために挑んでいるのが、短い期間での大幅なカルチャー(意識)改革。それを推し進める人物を育てることも、大谷の大きな役割です。

タレント育成・能力開発のために──サノフィならではの3つの取り組み

サノフィでは、タレント育成・能力開発のために①キャリアを加速させるMy Career Journey、②キャリア形成をサポートするCareer Hub、③次世代育成リーダーシッププログラムなどを展開しています。

大谷 「1つ目のMy Career Journeyは、社員に『自分のキャリアの旅を始めよう』と呼びかけるもの。ひと言でいうと、キャリアを含めて、『人生をどう形作っていきたいか』を自分で考えられるようサポートするプラットフォームです」

My Career Journeyで提供しているのは、イントラネット、ワークショップ、ウェビナー、ニュースレターなどのさまざまなチャネルを活用した、キャリアをサポートする情報やツールです。それには、社内外の環境情報の提供、仕事・部署紹介、キャリアディスカッション動画、自己育成ツールなどが含まれています。

大谷 「人生やキャリアの目標を立てようといっても、実際すぐに答えが出るものではありません。ですので、一歩でも前に進めるような支援をしています。たとえば、ワークショップでは、キャリアを考えるキャリアプランシート使って、社員と一緒に一つひとつ考えていくプロセスを踏んでいます。

具体的には、まず、今のビジネス環境を確認・理解してもらい、次にサノフィの変化や方向性を確認します。そのうえで、自分の価値観や経験、将来やってみたいことをディスカッションしながら考えます。自分自身の棚卸しをする感じですね。将来やってみたいことが見えたら、それを実現するためにどういう行動を起こすのか、考えます。具体的な一歩を踏み出すよう促すことが大事なのです」

一方、2つ目のCareer Hubは、グローバルプログラムであり、社員のキャリア形成をAIがサポートするツールです。自分自身が望むキャリアの方向性、やりたいこと、スキルや経験を入力しておくと、世界中のサノフィで実施されている「Gig」という短期のプロジェクトや、自身と近いキャリアの方向性を持つ人をAIが提案します。 

大谷 「自分の本来の仕事をしながら、社内インターンのように他部署や他国のメンバーと一緒に仕事を経験できるGigは、ユニークなプログラムだと思います。参加する方は、通常業務とは異なる経験を積めて、社内ネットワークも広げられる。受け入れる方は、新しいアイデアや異なる視点をもらうことで刺激になる。双方にメリットがあり、イノベーションの活性化にもつながります」

そして、3つ目の次世代リーダーシッププログラムは、まさに次世代のリーダーを育成するために数カ月がかりで取り組むグローバルプログラム。大谷はこれに、日本独自のアレンジを加えて展開しています。

大谷 「これからリーダーとしてグローバルで活躍するために必要な要素で、かつ日本人が比較的苦手とする項目について、アクションラーニングを取り入れました。会社のビジョンやストラテジーを考えられる視野や視点を身につけ、それを実行に移せるようなリーダーシップを鍛えます。また、このプログラムでは会社の課題をグループで考えて、経営陣に英語で発表することや、自分たちだけでのプロジェクト運営などにも挑戦します」

変化の手ごたえと新たな課題。目指すは、社員一人ひとりのWellbeing実現

さまざまなプログラムを展開していく中で、徐々に社内のカルチャーチェンジが進んでいるという大谷。事後アンケートや個別面談を通じて、参加した社員の意識や視点の変化、視野の広がりを実感しているといいます。

大谷 「My Career Journeyのワークショップでは、『段階的に一緒に具体的なアクションまで落とし込むことができ、非常に良かった』という感想が多かった。また、『日々の業務に追われていると、そもそも自分のキャリアや価値観を考えないまま過ごしてしまうので、ワークショップで一緒に考えることができて良かった』『自分の思考の浅さと長期的視野が欠けていたことに気づけた』という人もいました。運営していく中で、私自身も刺激を受けて自分のキャリアを再度考える良い機会にもなっていると実感しています。

さらに、次世代リーダーシッププログラムでは、横並びのネットワークが生まれるというメリットもあります。他部署から意見や情報をもらえる関係を築けると、自分の部署だけでなく、組織全体を考えて判断できるようになります。そして、こうした気づきを得ながら学んだタレントがリーダーになると、それこそ自立して、柔軟かつ臨機応変にアジャイルに動くカルチャーが伝播していき、組織が変わっていくはずです」

一方で課題として判明したのが、頭で理解してもらったことを社員の行動に現れるように促すことの難しさです。社員がキャリアを考えたあと、なりたい自分になるために、自分自身の成長領域を見つけて能力開発に取り組むか否かは、社員自身にかかっています。しかし、実行してもらうためにはまだまだ課題があると、大谷は指摘します。

大谷 「そもそも業務に追われていると、学んだり新しいアイデアを試行錯誤したりすることは難しいのが現実です。ですので、新しいことや変化、自分の能力開発に挑戦できるよう、社員一人ひとりがプライベートも含めてエネルギーにあふれている状態(Wellbeing)になれるようにしたいと考えています」

サノフィでは、社員一人ひとりが自身のWellbeingを実現していくことで、イノベーションや変化に繋がり、会社の目標を実現することに繋がっていくと考えています。そのためには、社員が心、体、ファイナンスなどさまざまな面でヘルシーで、働きやすいカルチャーを感じられることが重要であると大谷は指摘します。

大谷 「ただ、ひと言でWellbeingといっても、個人によって捉え方が違うので、事例を紹介したり、使いやすいツールなどの情報を提供したり、イベントを開催したりしています。たとえば、社員の健康を推進する目的で、先日は外部講師にオンラインレクチャーをしていただきました」

将来の夢は、若者に“自らの未来を考えるきっかけ”を与えられる存在になること

社員の育成・開発に取り組んでいる大谷には、将来、若者の育成につながる活動をしたいという夢があります。

大谷 「若者、つまり中高生が、早い段階から自分のキャリアを考えられるようになるための手助けをしたいです。私自身が地方の出身なのですが、地方の人は、東京などの大都市に比べると、さまざまなキャリアに接する機会が限られているため、少ない選択肢でしか考えられないし、そもそも考えることも少ないのではと感じています。

ですので、若者に人生には幅広い選択肢があることを伝え、『自分はどういうキャリア・人生を作っていきたいか』を考えるきっかけを与えられたらいいな、と思っています」

人が「あっ、そうか!」という気づき・成長を見せた瞬間にもっともやりがいを感じる大谷。人と多く接する役割を担う中で、その考え方も変化しています。

大谷 「以前は『サノフィでは、人材ではなく、人財と書く』と、周囲の人たちに伝えていました。ですが最近、個人的には、人材や人財ではなく“タレントや社員”という言葉を使うようにしています。社員は、会社のリソースや財産ではなく、人としてProfessionalとして自立している。時代の変化に合わせて、表現の仕方も変わってきたと感じています」

最後に大谷は、既存の社員、新入社員、そして就職・転職を考えている方へ強いメッセージを語りました。

大谷 「変化の激しい現代を生きる私たちが、その中で生き残っていく過程には、つらいことや厳しいこともあるかもしれません。変化って大変だし、抵抗感を持つことも多いですが、変化の先には必ずポジティブなインパクトがあります。なので、是非挑戦する気概を持ってほしいと思います。

自分のキャリアを自分で責任を持って作っていくことは、会社だけでなく、個人の利益にもなります。誰しも迷うのは当然なので、迷いながらも一歩前に進むことをやっていけたらいいですね。私もその一歩を踏み出すお手伝いをしていきます。一緒に挑戦していきましょう!」

サノフィの“タレント”たちが輝きを増し、誰もが自分のキャリアに自信を感じられるように──。大谷はこれからも社員の声に耳を傾け、気づきを促すさまざまな取り組みを展開していきます。