SDGs・HSEの意識レベルの高さにカルチャーショック

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大学卒業後、建築設備工事会社の設備エンジニアとして、さまざまな企業の設備設計などに携わってきた小竹。前職でエスエス製薬の案件に携わったことがきっかけで、同社に転職し、2022年現在は、成田工場のエンジニアリンググループのリーダーとして、工場設備全体の管理を担っています。

小竹 「成田工場は、創業250年の歴史があるエスエス製薬の工場で、敷地は約7万平米。その中に、延べ床面積2万平米ほどの建屋があり、年間約20億錠の一般用医薬品を生産しています。

エンジニアリンググループの役割は、大きく分けて3つ。まず、工場の建物や、すでに稼働している設備・機械のメンテナンスです。2つ目は、安定した生産活動ができるよう、新しい機械などを導入する投資プロジェクト。3つ目が、工場全体のエネルギーの管理とマネジメントです」

2017年にエスエス製薬がサノフィジャパン・グループの一員になり、同グループのコンシューマー・ヘルスケア(CHC)事業を担う存在と位置づけられました。

グローバル企業であるサノフィでは、2020年に始動した中長期事業戦略Play to Winに、環境に対する目標も組み込み、世界31カ国67の製造拠点が、目標達成に向けて各国の課題に取り組んでいます。

小竹 「サノフィは企業文化として、SDGsやHSE(Health Safety Environment/衛生・安全・環境)の考え方が浸透していて、グループに加わった当初は、安全についての査察の頻度が上がるなど、いい意味でのカルチャーショックを受けました。その結果、私だけでなく工場で働く人全員が、HSEについてより高い意識を持つようになったと思います。

省エネルギー化についても以前から取り組んでいたのですが、2020年に、“2025年まで年間5%のペースでのエネルギー削減(5年で25%の削減)”という高い目標が発表されました。目標の高さに正直驚きましたが、実現に向けて、これまでの取り組みをよりスピードアップしていく必要があると感じました」

年間5%のエネルギー削減。2025年に向けたハイアンビションに挑む

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「年間で5%ものエネルギー削減を実現するためには、さらなる取り組みが必要」。そう考えたエンジニアリンググループは、さっそくその具体案の実行に取りかかります。

小竹 「エンジニアリンググループでは以前から、工場全体のエネルギーの使用量について把握していました。ここからさらに省エネルギー化を進めるためには、どの工程で、どの種類のエネルギーが、どれくらい使われているのか……。詳細なデータをマッピングして、分析する必要があると考えました」

最初に取り組んだのは、それぞれの設備にエネルギーを測定するメーターを取り付けること。計測されたデータを改めて見ることで、発見も多かったといいます。

小竹 「これまでも照明をLEDに取り換えるなど、現場レベルでのさまざまな省エネルギーに取り組んできましたが、多角的にデータを分析していくと、まだまだ削減の余地はあると気づきました」

そしてエンジニアリングチームは、会社に思い切った投資を提案します。

小竹 「包装エリアの空調設備の更新を提案しました。製薬工場では、空気清浄度が確保された環境で薬剤を生産する必要があるため、クリーンルームの維持、つまり空調設備に力を入れています。成田工場の場合、この空調設備で使用するエネルギーのボリュームが、工場全体が使用するエネルギーの60〜70%を占めていました。

その部分のデータを分析したところ、たとえば製品を生産していない夜間や休日でもクリーンルームを維持するために多くのエネルギーを消費していることがわかりました。そこで、製品を生産していないときにはクオリティ条件を緩和するなど、品質要求を満たしながらエネルギーを削減する方法を考え、大きなエネルギー削減につなげることができました」

空調設備の更新に対して、算出された予算は約1億円。さらに工場の空調を一時的に止めるとなると、生産部門との調整も必要です。

小竹 「もともと機器の更新を検討するタイミングでしたし、エネルギー削減の付加価値を提示することで提案を通すことができました。一方で、短期とはいえ、皆さんに届ける大切な医薬品の生産を止めてしまうことになるので、安定供給に問題をきたさないために、早い段階で生産管理部門にスケジュールを相談するなど、工場全体の協力が不可欠でした。

でも、企業文化としてSDGsやHSEへの意識が浸透しているため、他部門のメンバーも環境に対して目指しているところは同じ。そのあたりは協力的で、やりやすかったですね」

想定の2倍の省エネルギー化を実現。工場全体の3年分もの目標を一気にクリア

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▲千葉県にあるエスエス製薬成田工場

設備の更新工事が実施されたのは2020年の夏と冬。それぞれ長期休暇を利用して、2週間ずつ行われました。

小竹 「今回のプロジェクトで苦労したのは、設備を更新するエリアと新しい設備の選定でした。予算が無限にあるわけではないので、一番費用対効果がいいソリューションを選ぶ必要があります。

これについては、自分たちだけの力ではなく、工事ベンダーさんから情報を集めたり、設計コンサルタント業者さんに相談したり、かなり時間をかけました」

大胆かつ慎重に進められていったプロジェクト。それが、予想以上の好結果へと結びついていきます。

小竹 「設備を更新して試運転をしていく中で、予定していたチューニングをもっと調整できることがわかり、想定よりもさらにエネルギーを削減できそうだとわかりました。

計画の段階で『もしかして、もう少しいけるかも……』と考えていたことが、現実になったということです。そこで、もう一度エンジニアリンググループや工事ベンダーさんと話し合って、さらに一段階上のエネルギー削減を目指すことを決めました」

結果的に、新しい設備の導入で実現した省エネルギーは10%。実に、当初の目標の2倍にあたる数値でした。

小竹 「2倍は大きいですよね。予想以上の結果に、皆で喜びを分かち合いました。SMS*にも登録して、Best Kaizen Awardをもらうこともできました」

しかし、成田工場の省エネルギーの成果は、これだけではありませんでした。

小竹 「同時に工場内の他のエネルギー削減も進めていて、2021年はトータルで15%の省エネルギーを実現しました。“毎年5%×5年”の計画だったので、それを3年分一気に進めることができた計算です。工場全体が、ひとつの同じ目標に向かっているからこその結果だと感じています」

*サノフィ・マルチファクチャリング・システム。社内の改善プロジェクトを登録するツールで、優秀なものはBest Kaizen Awardとして表彰される

環境に配慮したより良い事業活動を。成田工場の今後の展望

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成田工場では、6月5日の“世界環境デー”にちなんだ取り組みにも積極的です。

小竹 「例年、植樹を行っているほか、環境にまつわるポスターを社員に作成してもらって、工場内に展示しています。昨年のテーマは、“バイオダイバーシティ”。私も子どもと一緒に参加しました。

『バイオダイバーシティって何?』というところから会話が弾むなど、家族を巻き込みながら、楽しみながら、SDGsの取り組みが広がっていくのを実感しました。環境のこと、また会社のカルチャーを見直す良い恒例行事になっているんです」

一方、成田工場では、大きなプロジェクトが進行中です。

小竹 「2022年9月の完成を目指して、新棟を建設しています。実は新棟の計画は、サノフィ・グループになってすぐの2017年くらいからスタートしました。

サノフィでは、企業(工場)が持続的な成長をとげるための計画(サイトマスタープラン)を長期的なスコープで作成することが求められています。エスエス製薬にとって、そのファーストステップが、生産ボリュームのひっ迫を解消するための新棟の建設だったんです」

もちろん、新棟でも省エネルギーにこだわっています。

小竹 「サノフィのグローバルスタンダードのソリューションに基づく設備を取り入れたり、Best Kaizen Awardでも取り組んだ、稼働時と非稼働時に運転レベルを切り替えるシステムを導入したりと、省エネルギーに配慮しています。設備自体も、世界のトップランナーといわれるような効率性の高い機械を入れる予定です。

あとはやはり、空調のエネルギー使用量が一番大きいので、建物全体としても高断熱な建材を使ったりと、あらゆるアイデアが盛り込まれています。

その一方で、サノフィではカーボンニュートラルを実現するための目標設定もあるので、成田工場全体でも、ガスではなく電気で動く機械を選択する検討、電力をグリーンエネルギーに変換する検討も続けています。新棟でもガスの使用量“スコープ1*”を抑える取り組みも行っています」

エンジニアリングチームとして、日々の生産に支障が起きないよう設備メンテナンスなどにも携わりながら、2025年までのエネルギー削減目標に向けて、常に新しい挑戦も続ける小竹。

小竹 「実際のところ、大変ですよ(笑)。でもその分、やりがいがありますね。サノフィという会社は、健康や安全性、環境に配慮した取り組みに関してすごく進んでいて、他の企業に先んじていろんなことにチャレンジさせてくれます。だから、仕事として純粋におもしろいですね。

一般的には、SDGsもいわゆる“2030アジェンダ”なので、2025年という早い目標にも、その削減目標の高さにも、カーボンニュートラルにも、協力ベンダーさんからかなり驚かれるんですよ(笑)。でも、それが企業文化として当たり前に浸透しているのが、サノフィのいいところだと思います。私も他の同僚も、目標の高さに最初はカルチャーショックを受けました。しかし今では、全世界のサノフィの中でも、CHC事業が、もっというと成田工場が、前倒しで目標を達成できる勢いで先陣を切りたいと取り組んでいます」

環境に配慮したより良い事業活動を目指し、持続可能な社会の実現に貢献するために——エンジニアリングチームと小竹の挑戦は続きます。

*スコープ1は自社が直接排出した温室効果ガス