グローバルに活躍する最中に訪れたアクシデント
サノフィは、日本の障がい者雇用に貢献するため、2007年より雇用促進や育成、職場への定着を目指した取り組みを行っています。2009年に6名の知的障がい者を雇用し、「ラ・メゾンサービスセンター(2013年1月ラ・メゾンビジネスサポートセンター「LMBC」に改称)」を設置しました。
その後、特別支援学校より新卒の採用を重ね、現在は16名のメンバーがさまざまなビジネスサポート業務を担当し、会社の「経費削減」「生産性向上」に貢献しています。
しかし、LMBCに所属しているのは、サノフィで働く障がいのある社員全体の約半数でしかありません。逆にいうと、もう半数の方は、LMBC以外の部署に勤務しているのです。
その1人として活躍しているのが、渉外本部長の落合 利穏です。
落合 「私は障がい者歴4年の、まだまだフレッシュな車椅子ユーザーです。デング熱ワクチン開発プロジェクトの業務を終了し、フランスからシンガポールへ異動となり、アジア全体の国際渉外を担当していた2017年9月のことでした。日本での休暇中に、プールへの飛び込みの際のアクシデントで首の骨を骨折し、頸髄損傷(C6)を負いました」
落合はすぐに緊急搬送され、緊急手術を受けました。ICUで1ヵ月半、その後リハビリ病院で約1年を過ごし、最終的に胸から下が完全麻痺、腕についてはほぼ普通に動かせるものの、指は少しだけしか動かせないという状態になりました。
落合 「文字を手書きすることは難しいですが、キーボードを使ってパソコンを操作することは問題ありません。 また、今では落ち着いていますが、起立性低血圧という重度の貧血のような症状もありました。 そのため、飛行機での移動が非常に多いシンガポールでの担当業務を、それまでと同じように続けることは難しいだろうということになり、会社との相談の結果、日本の渉外本部で業務をすることになりました」
あなたのできることを教えてほしい。障がいがバリアではなくなった瞬間
日本に戻り、渉外本部の本部長を担当することとなった落合。各部のビジネスのサポートから、業界団体との連携や医療政策のモニタリング・政策提言活動まで、社内外の幅広い業務に携わっています。連携する団体は多岐に渡り、本部長である落合も積極的に外部へ出向きます。しかし以前は、自分の障がいをネガティブに捉えてしまったことがあったといいます。
落合 「私は生来とても前向きな人間です。しかし、障がいを抱えていろいろな不安があったからか、日本で仕事をするために関係者と話をしている際、つい、これができない、あれができないという話し方になっていたようです。そんな時ある人に『あなたの状況は分かった。できないことではなく、何ができるかを教えてほしい』と言われたのです。
障害があることはマイノリティであると言えるかもしれません。マイノリティ=不利なことだと、知らず知らずのうちにネガティブな捉え方をしている自分に気づかされました」
できないことではなく、自分のできることや自分の価値を伝えていかなければ、とハッとしたという落合。障がいがあることは不便なことだが、決して不利なことではないと気持ちを切り替えます。ハンデがあっても同じように仕事ができるのであれば、周りは今まで通りに扱ってくれるのだと気づいた時、障がいがバリアではなくなった、といいます。
落合 「フランスやシンガポールなど、他国のサノフィで働いていた時の経験を振り返ってみても、この会社には異なる立場への配慮が常にあったと思います。例えば、働いている国以外の出身であっても、言語や文化の違いによる困難や不快さを感じることはありませんでした。できないことではなく、その人のできるところに注目するという姿勢がある会社だと思います。
障がいに関しても、同じような姿勢があることを実感したエピソードでした。そして、このような個々人ができることに着目するという姿勢が、日本でLMBCが成功している理由の1つだと思います」
小さな心配りが何より嬉しい。サノフィで働く人、企業文化の魅力とは
落合が、サノフィという企業、そこで働く人々に魅力を感じたエピソードは、まだまだたくさんあります。
落合 「車いすを使用していると、初台本社の各フロアのドアを手動で開けることはなかなか困難です。そこで、私の入社後すぐに、普段使用するエリアのドアを自動ドアにしていただきました。これは特に私からお願いしたというのではなく、入社前の話などを考慮して会社側が動いてくれたことです。
そのようなファシリティー的な配慮ももちろん助かるのですが、それ以上に、日々周囲の人たちがちょっとしたところで手助けしてくださることがとてもありがたいです。
指も少ししか動かせないため、手先を使う作業も難しい時があります。そんな時、たとえば名刺の受け渡しや給水器からコップに水を注ぐ時など、皆さんの心配りにとても感謝しています」
そんな落合は、障がいのある人を見かけた時にどうしていいかわからない、という人に伝えておきたいことがあります。
落合 「そういう時はとりあえず『何かお手伝いしますか?』と声をかけてください。もしお手伝いをお願いしたいことがあればお願いしますし、その時何もお願いすることがなかったとしても、そのように気にかけていただいたこと、声をかけてくださったことで、こちらはとても嬉しく感じますので」
クヨクヨするより前向きに──「心のバリアフリー」の実現に向けて
自身の現状について、常に前向きに捉え進んでいく落合。困難にぶつかりながらも、将来を見据え未来像を描いています。
落合 「繰り返しになりますが、私は生来ポジティブな性格です。よくある表現を借りると、コップに水は『もう半分しかない』ではなく『まだ半分もある』と思う人間です。
障がい者になると、一般的に初期には『自分は多くのことができなくなった』と考え、絶望感を抱くとされていますが、私は『じゃあ、これからどうしようか』と考えました。
車いすユーザーだからということですんなり進まないことや、役所の窓口ではいろいろなことを『手書き』で求められ、私には自力で対応することが難しいなど、障がいゆえにぶつかる困難はもちろんあります。でも、そこでクヨクヨしても状況は変わらないですよね。
それに、クヨクヨしない前向きな姿勢の方が楽しく生活できます。何かがないから困ると思うことはあまりなく、基本的にあるものでどのようにやって行くか考えるタイプなので、あまりクヨクヨしないのかもしれません」
落合は、東京パラリンピックで来日したフランスの障がい者担当大臣と、会社を代表して対談する機会を得ました。
落合 「障がい者担当大臣と、日本ではインフラなど物のバリアフリーは進んでいても、心のバリアフリーはなかなか進んでいないという課題を議論しました。障がいがあっても自分の能力を発揮できる場が増えてはいますが、表に出たくないという障がい者の方々も少なくないのは、こういった心のバリアフリーが進んでいないことが一因かもしれません」
東京パラリンピックでも話題になった#WeThe15キャンペーンは、世界人口の15%は何らかの障がいがあるとして、身近にいる多くの障がい者に積極的に目を向けるよう呼びかけたもの。「そう考えると、障がいを持っている方は意外と身近にいるのだと感じませんか?」と落合。
落合 「サノフィは以前からLMBCで障がい者雇用に取り組み、障がいの有無に関わらず、その人の『できること』に目を向け、能力開発や成長の機会を与えてくれる会社だと実感しています。障がい者担当大臣からも、こうしたサノフィの取り組みが高く評価されました。
日本においてもこのような会社が増え、やがて社会全体で心のバリアフリー化が進むよう願っています」
障がいの有無に関わらず生き生きと働き、ポジティブになれる環境がサノフィにはあります。今後も誰もがインクルージョンを感じられる、真のD&Iの実現を目指します。