普段の姿は関係なし!誰もがひとりの歴史好きとしてTERAKOYAに集う

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TERAKOYAの風景

とある土曜日の18時過ぎ、続々とTERAKOYAに人が集まってきました。常連の方が多いこともあり、早速そこかしこで「ひさしぶり!」「今日のテーマって……」と談義が交わされています。

TERAKOYAとは、レキシズルの渡部が主催している、スゴ腕歴史プレゼンターたちがスライドを駆使して、歴史上の人物をプレゼンするイベントです。ポイントは、わかりやすく、ポップに、コンパクトに。軽妙なトークとスライドで、時に笑え、時に泣けるプレゼンを聞いているうちに参加者は、いつの間にか歴史上の人物に寄り添っている感覚に陥ります。

49回目である今回のテーマは、アメリカ大統領であるドナルド・トランプ。大統領としてのトランプではなく、人間トランプに迫ります。TERAKOYA史上初の生きた人物です。

渡部 「ホント、やらなきゃよかった。難しかった(笑)。でも、トランプが大統領になって確実に世界が変わったから、歴史プレゼンターとしてトランプは避けられないと思ったんだよね。ただ、ひとりじゃヤバイなって思ったから、ゲストプレゼンターに“ゆうさん”を呼んだの」

“ゆうさん”こと松平雄一郎の普段の姿は衆議院議員秘書。そして幕末の会津藩主・松平容保の子孫という方です。TERAKOYAにはひとりの歴史好きとして参加しており、この日は「大好きな首脳(渡部)に誘われたから」登壇するとのこと。

ちなみにTERAKOYAは、毎回プレゼン内容に合わせたオリジナルカクテルを提供しています。今回は「トランプの野望」。ホワイトラム、トニック、グレナデンで作られた、トランプカラーを意識したカクテルです。

渡部 「うちは常連がどんどん増えています。そして常連が友だちを連れてきて、その友だちが常連になることが結構多いみたい。ここの歴史プレゼンを見せたいからって知り合いを連れてきてくれたときは嬉しかったな」

常連のなかには、もともと歴史に興味がなかったけれど、TERAKOYAをきっかけに興味を持ったという方もいます。すでに40回以上参加していて、「勉強って感じじゃない」ところがいいそうです。普段は銀行に勤務しているという皆木宏之さんも、TERAKOYAに魅了され、常連になったひとりです。

皆木さん 「TERAKOYAだったら、ドナルド・トランプをどんな切り口でやるんだろうって気になって参加しちゃったんですよね」

参加者は、首脳である渡部の「歴史をもっとポップに、ライトに。知らなくても楽しめる」という思いに共感したTERAKOYAファンばかり。今日のプレゼンへの期待と酒の酔いで、始まる前から皆さんテンション高めです。

トークをつまみに酒を飲む、歴史エンターテインメントショー

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渡部の歴史プレゼン

19時、プレゼンスタートの時間です。渡部が、今風な着物に着替え、日本酒片手に登場。ゲストスピーカー松平の前には、ビールが置かれています。

TERAKOYAは、普通のプレゼン(セミナー)のように資料を配布することもなければ、メモを取る人もあまりいません。何と言っても、プレゼンターも参加者もお酒を飲んでいるのですから、そこから違います。

渡部は、ただ話すのではなく、参加者一人ひとりに語りかけるように軽快なトークを展開していきます。その様子は、まるでラジオを聞いているかのよう。参加者は、そんな渡部のトークをつまみにお酒を飲んでいる感じ。笑い声をあげ、ときにツッコミを入れたかと思えば、真剣に耳を傾けます。

渡部は、まず「トランプのこと好き?嫌い?どっちでもない?」とアンケートをとりました。

渡部 「好きな人!……思いのほかいるなぁ。え、なんで好きなの?」

参加者A 「アグレシッブでエネルギッシュで、自分にないところ持っていたりして、そこがいい」

渡部 「へぇ、いいところ突くね。君は?」

参加者B 「面白さですね」

渡部 「わかる!俺も面白いと思って取り上げたらひどい目にあったよ(笑)」

最終的に「どっちでもない」人が多かったことを受け、「やっぱりねー」と。松平にも意見を聞くと「言動と行動に一貫性がなくて、何を考えているのかわからないから、僕もどっちでもないですね」とのこと。会場の雰囲気的に、同じ意見の人が多いようです。

今回は、まず「血脈」をテーマにトランプに迫りました。トランプの祖父であり不動産に関する礎を築いたフレデリックからトランプが不動産王になるまでの流れを、渡部の“想像&創造”のスパイスを添えて軽快にトーク展開。遠い存在だったトランプが、ちょっぴり身近な外国人になってきます。

その後、トランプのライバルたち(ロシア、中国、北朝鮮)との関係や、トランプの得意技である経営危機からの立ち上がり、日本との関わりなどについて渡部と松平が解説。そして最後は、TERAKOYAお馴染みのラストスライド(結論)を、セレクトした音楽にのせて紹介しました。

当選以来、半年間トランプと”対話“を続けてきた渡部。彼が出した結論は「空っぽの可能性がある」。そんな空っぽのトランプは、渡部の心の中で以下のように語りかけてきました。

トランプ 「友愛なる日本人の諸君、ドナルドだ。私は忙しい男だ。日本人諸君の奮起を望んでいる。サポートはしたいと思っている。しかし、できない可能性もある。私は忙しい男なのだ」

そんな渡部の心の中で受けたトランプの空っぽの言葉。新大統領からのメッセージを受け、渡部が参加者に会を締めくくる、彼なりの言葉、総括を送ります。

渡部「先は見えていない。もしかしたら水面下では、僕らがびっくりする何かが待っているのかもしれない。時代の分岐点に現れたアメリカ大統領ドナルドは、空っぽのまま進んでいる」

今回も拍手喝采で終わったTERAKOYA。しかしその開催前、渡部はいつも以上のプレッシャーを感じていました。

ひとりの人物と向き合い、対話して、メッセージを伝える

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松平雄一郎

渡部 「今回、初めて最後に伝えるテーマが決まらなかったんだよね。トランプには意外と主義・主張がなさすぎて。普段のプレゼンだと、最後に泣いている人もいるくらいなんだけど、泣かせる要素もまったくなかった(笑)。始まる前は本当に自信なかったけど、ゆうさん(松平)がいたから、どうにか成立したよ」

TERAKOYAのテーマは、月替わりのプレゼンター4人が集まって打ち合わせをして決めたり、飲みの席のインスピレーションで決めたり。通常は「最後にこれを伝えたい」というテーマを定めてから、各プレゼンターがプレゼンを構成していくのですが、今回のトランプはそうさせてくれませんでした。

ちなみに、プレゼンターたちのテーマに対するアプローチはさまざま。ですが、共通して持っているのは、「ワンドリンク3,500円を払って見にきてくれているのだから、その価値は提示しよう」という思いです。

何かしらの気づきを持ち帰ってもらいたい、その後の日常生活で「あっ!」って思う瞬間があればいい。そんな気持ちを込めて、各自プレゼンの準備をしています。

渡部の場合、まずは文献でその人物を知ります。知ったうえで、“想像&創造”のエッセンスを追加していくのです。文献の情報だけだと、その人物の輪郭しか見えてこないので、この人はどう生きていたんだろう、何を考えていたんだろうと“想像”しながら、自分の中で対話して“創造”していきます。

今回取り上げたトランプは、あまりに情報が雑多すぎて、「やめとけばよかった」と後悔するほど渡部は翻弄されました。ですが、トランプが大統領選に当選した時から渡部の頭から離れず、何よりも歴史プレゼンターとして挑まなければいけないという決意がありました。

渡部 「今回は、あくまで歴史上の人物としてトランプを取り上げたんです。絶対これから歴史の教科書に載るし、トランプ以前、トランプ以後っていう言葉もできると思うしね。世界の空気が変わったもん。ひとりの日本人として矜持を持ってトランプを取り上げたつもりです」

渡部は、ひとりの日本人として、歴史プレゼンターとして、トランプの思いを代弁しました。日本とアメリカの関係は、切っても切れません。アメリカの大統領であるトランプの動向を見守り、一人ひとりが一日本人として、いつ何があってもいいように身構えておく必要があると問題提起したのです。

歴史プレゼンは解説しすぎないことが鉄則!参加者の「知りたい!」を刺激

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トランプTERAKOYAの結論

渡部はレキシズルを「歴史ベンチャー」だと言います。かつて、司馬遼太郎が歴史に埋もれた人物を小説にすることで人気者にしたように、自分たちがさまざまな歴史上の人物をポップに取り上げることで、もっと身近に感じてもらおう、その人の人生を知ることで一緒に人間力を高めていこうと思っているのです。

渡部 「難しい言葉はなるべく使いません。1時間半のプレゼンを短く感じさせたいんだよね。で、終わったあとに、参加者一人ひとりの胸の中がザワザワすれば成功!」

松平「プレゼン内容は、難しくしようと思えばいくらでもできるんですよ。それをしないで一部だけを抜粋したり、ときにオーバーに伝えることで、面白い!と思って興味を持ってもらえればいいんじゃないですかね」

プレゼンの内容は、参加者の心の中に引っかかりを持たせるため、あえて余白を残した内容にしています。そのため、すでに深い知識を持っている方にとっては「もっと深く、自分が知らないことを知りたかった」と物足りない内容かもしれません。

それでも渡部は、TERAKOYAのスタンスを変えようとは考えていません。なぜなら参加者は、決して勉強しに来ているのではないから。それに、歴史マニアだけではなく、歴史の“初心者”にも楽しんでほしいからーー。

松平 「音楽フェスって、誰が出ているかというよりも、その場の雰囲気が好きで来ている人って多いと思うんです。TERAKOYAも一緒で、テーマが何かっていうよりも、TERAKOYAの雰囲気が好きだから、興味のないテーマでも聞いてみよう。で、終わったあとにみんなでワイワイしようって感じなのがいいなって思います」

歴史に興味がなくても楽しめて、気づいたら「知りたい!」と思いはじめている、不思議な歴史プレゼンイベントTERAKOYA。参加者は、「今回のテーマ、TERAKOYAはどういう風な切り口で取り上げるのかな?」とワクワクした気持ちで訪れています。そんな参加者たちの期待を裏切らないよう、渡部たちは今日も酒を酌み交わしながらプレゼン内容を練っています。