「自分も、あのスーツを着る」──初めてできた、大きな目標
熊本県で生まれ育った深水。「熊本の人間は、地元愛が強い」と言い、そんな自身も熊本が大好きだと語ります。
「とくに食べ物が美味しい。中でも、鶏肉の『天草大王』は一度食べたら忘れられない熊本名物で、関東ではなかなか手に入りません。地元に帰ると必ず食べるお気に入りの料理です。他にも、米焼酎や馬刺しなど挙げたらきりがないし、ビール工場があるのでいつも出来たてのビールを飲むことができました。……なんだかお腹が減ってきましたね(笑)」
そんな深水の実家は結婚式・葬儀場を営んでいました。しかし、将来家業は継がずに他の会社に就職しようと決めていたと言います。
「地元の高校、大学を卒業して就職を考えたときの基準は、給料が良いということと地元で働けるということでした。そして、いろいろと考え探していたところ目に留まったのが、九州で30数店舗のパチンコ店を運営する会社でした」
採用試験に合格し、入社式で見た壇上に座っている幹部たちの姿が目に留まります。
「みんなグレーのスーツを着用していて、それがとてもカッコよく見えたんです。じつは、この会社は幹部になるとスーツを支給してもらえるので、このときに『自分もあのスーツを着る』という目標を立てました」
最短で店長へ──パチンコ店で学んだ経験
パチンコチェーン店に就職し、幹部になるという目標を立てた深水は、まずは店長になることをめざします。しかし、店長になるためには副班長から班長、主任、店長代理、そして店長という段階を踏まなければならず、それには最低でも5年かかると言われていました。
「業務内容は接客のスキルアップやエンターテイメント性の提案、パチンコ台の整備などクリエイティブなことから技術的なことまで幅広く、習得は大変でした。そんな中、『5年で店長になる』と目標を立てて、必要とあらば休みも返上して働きました。ときには、閉店後午前2時までの研修に参加するなど、とにかく業務スキルアップのための勉強をしていきました」
結果的に、この積極的な姿勢が上司に対する大きなアピールとなり、店長になる際には多くの先輩たちから推薦してもらえました。そして、目標通り5年で店長となった深水は、最初は田舎の小型店からのスタートでしたが、その後複数店舗の店長となり最終的には熊本にある大型店の店長まで登り詰めます。
「目標を実現し、順調に売上拡大をしていた店舗でしたが、ここで暗雲が立ち込めてきました。1円パチンコの台頭もあり、急速に売上がダウンしていったのです。この先、パチンコ業界にいても先がない。私はそう判断し、即転職を決意したのですが、当時を振り返ってもあのときの判断はとても早かったですね」
ビジネスホテル支配人を経て、靴修理リアット!と出会う
前職を辞めて新たに就いた仕事は、鹿児島県にあるビジネスホテルの支配人でした。契約期間は4年間(1店舗2年間で2店舗)で、夫婦で支配人、副支配人として住み込みで働いたと言います。
「家賃負担がなく、外出もできないのでお金を貯めるには絶好の仕事でした。でも、長くは続けられない。とりあえず、まずは4年間やってみることにしました。
業務内容はチェックイン、チェックアウト、朝食の準備や清掃スタッフの管理が主な仕事でしたが、24時間顧客対応しなければなりません。ときには、酔っぱらったお客さまを部屋まで背負っていくこともあれば、お風呂のお湯を出しっぱなしにしてしまったお客さまがフロア全体を水浸しにしてしまったこともあり大変でした。
そんなホテル支配人を続けていると、毎週同じお客さまがお越しになられていることに気づき、そこから顔と名前を一致させて『〇〇さま』と名前で呼べるように意識しました。そして、どの方はどこの部屋が好きなのか、どんな枕が好みかなどプロファイリングすることでお客さまの信頼を得るようにしたんです」
2年が過ぎ、次の店舗に移るときに思い切って九州を出てみることにした深水は、埼玉県の和光市にあるビジネスホテルへ着任します。これがきっかけで、初めて関東に進出することになりました。
「和光での2年間を無事に終え、次に何をしようかと思ったときに妻が靴修理のフランチャイズの広告を見つけてきました。幼いころ、プラモデルを作るのが大好きで手先の器用さには自信があり、『これならできる』と確信して決めました。
とくに、リアット!はイオングループという安心感がありました。集客力の高い施設に入居していることが多く、開業費用の安さにも惹かれ、家賃負担がないことも最大のリスクヘッジになる。とても魅力的でした」
唯一心配していた技術研修も問題なく終了。加盟までの3カ月間はアルバイトとして店舗勤務ができたため、何の心配もなく加盟店オーナーになることができました。
他の業種では得られない幸福感に満ち溢れている仕事、それが靴修理
深水が加盟店オーナーになったのは、リアット!イオンスタイル板橋前野町店。41歳のときでした。
「今までの仕事で得たお客さまとの関係性を重視した接客や、パチンコ店で学んだお客さまの機嫌を損ねず、かつ言うべきことをきちんと伝えるというリスクヘッジなどのビジネススキルを駆使し、店舗運営は順調に推移していきました。
しかし、そんなある日父が倒れたとの連絡が入りました。順調だった加盟店運営でしたが、解約して実家に戻らざるを得ない状況になってしまったんです」
熊本に戻り、父親の看病をする日々。容態は数カ月経つと安定してきて、再び職を探すようになります。
「このときに気づいたのが、『また、靴修理をやりたい!』という内なる自分の情熱でした。お客さまの喜ぶ姿が、今までの仕事にはない忘れられない経験になっていたのです」
そして、父親の容態が大丈夫なことを確認し、再度リアット!加盟店オーナーに挑戦する決意をして関東へ戻ります。
「44歳のとき、リアット!イオンモール木更津店のオーナーになりました。そこは、前回の板橋前野町の店舗と比べて坪数も大きく、お客さまと1on1でカウンセリングができる環境で、今までのキャリアを活かすには絶好の店舗でした」
店舗運営に対するこだわりについて、深水はこう話します。
「店を綺麗に保つこと。身だしなみを整えること。お客さまに言いづらいこともきちんとご説明できること。お客さまのご期待に応えるためにに技術習得の向上を常に行うことなどですね。
靴修理は、パチンコ店やビジネスホテルのように短期間に何回も利用していただく業種ではありません。ご来店時の対応には細心の注意を払い、また来店したいと思っていただけるよう『お客さまにとっての頼れる存在になること』を心がけています」
昨年12月にリアット!イオンタウンおゆみ野店も運営することになり、現在は2店舗の加盟店オーナーになりました。
「今後は、おゆみ野店の売上拡大を喫緊の課題としながら、お互い厚い信頼で結ばれた師弟関係のような人材を育てていきたいです。将来に向けて事業拡大を行うには、そういった人材育成は不可欠。靴修理業界に入ってみて人材不足を痛感しているので」
最後に、靴修理について深水はこう話を締め括ります。
「父が倒れて実家に戻ったときに、はっきりわかったことがあります。今までさまざまな仕事をしていろいろな方と関わってきましたが、靴修理を施したお客さまからの『ありがとう』の言葉は、他の業種では得られない幸福感に満ち溢れています。靴修理を通じて、お客さまとそんな素敵な関係をこれからも作っていきたいと思います」
※ 記載内容は2023年8月時点のものです