音楽三昧の日々──ミュージシャンの夢を諦め、フリーターから人材業界へ
高校時代、音楽に目覚めた榎本純也。大学卒業後は定職につかず、ミュージシャンをめざして音楽三昧の日々を送っていました。
「プロの手伝いのようなことをしていましたが、お金がなくなっちゃって。27歳くらいにアルバイトの求人情報誌で調べて働き始めたのが、人材派遣会社の委託現場での仕事でした」
派遣スタッフとして、目の前の仕事にひたむきに取り組んでいた榎本。しかし、その働きぶりを見た会社から正社員登用の声がかかります。
「人材業界には『人のためになりたい』と高い志を持っている方が多い。でも、私はお金がないという理由で働き始めたんですよね。だから、当時は引け目に感じたところがありました。でも、働いているうちにそういう気持ちも芽生えてきて。この業界はすごくいい人が多く働きやすいし、やりがいもあるので今まで続いています」
こうして、人材派遣会社で管理職も務めていた榎本ですが、会社との考えの違いから葛藤が生まれ、壁にぶつかっていたと言います。
「そのころ、かつての上司がランスタッドに転職していて、私がちょっと弱ってるときに絶妙なタイミングで連絡をくれて。『今、採用を進めている部門の部門長と飲んでるからおいでよ』と誘われて行ったら、その場で半分面接みたいになっていました(笑)」
当時、前職の会社では経営陣との距離感を感じていました。一方ランスタッドでは経営陣からもフランクに話しかけられ、相談されたり話を聞いたりしてくれる。それは、榎本にとってカルチャーショックでした。
「まだ入社する前なのに、当時のランスタッドの社長が私の携帯に電話してきて『紹介したい人がいるから今から来られない?』と連絡をくれる。すごく風通しが良くて、いい会社だなと思いました。ランスタッドでは経営陣と話す機会がたくさんあるので、方針の違いを感じることはほとんどないですね」
社長に与えられたチャンスと、CEOから得た学び
ランスタッドに転職した榎本は、グローバルのチームと連携して外資系クライアントに対応する部署に配属。その後、ランスタッドの派遣事業で最も大きなマーケットを担当している首都圏第1本部の部長、他部署の本部長を経て、現在は首都圏第1本部本部長に就いています(ランスタッドスタッフィング事業本部のサイトを見るにはこちらをクリック)。
「今思えば視野が狭かったんですが、グローバルのチームと仕事をしていたころは若干の行き詰まりを感じていました。それを知っていた社長(現在のCOO)から想像もしなかった首都圏第1本部の部長という役職を与えられました。会社として、この配属にはリスクもあったと思いますが、それでもチャンスを与えてくれた社長には本当に感謝しています」
社長から与えられた新たな役割。その挑戦が大きな転機となり、成長につながったと榎本は感じています。
「社長が常に私の能力より高いものを提示し、チャレンジさせてくれる。その経験はすごく自身の成長につながっています。それから、CEOも私の恩人です。彼が以前日本にいたとき、私は直属の部下でした。彼がインドに行き、日本のCEOとして帰ってきたときからいろいろと話をしてくれています」
CEOが榎本に繰り返し話しているのは、「リーダーはカルチャーを作る」ということ。しかし、彼が言っていることを、はじめ榎本は理解できませんでした。考えてもわからないので、とりあえず彼の真似をすることからはじめることにしたのです。
彼がCEOに着任してはじめにやっていたのは、多くの社員との1対1の面談。榎本も100人を超える部下との1対1の面談をすぐに実行しました。CEOがSNSでビジネスやプライベートについて発信をはじめれば、榎本もそれに倣いました。
「facebookもInstagramもLinkedinもやっていなかったけど、49歳ではじめました。『今年の6月までにお友達やフォロワーを500人以上にします』と勝手に目標を決めてCOOに毎週報告して、しっかり達成しましたよ(笑)」(榎本のSNSにご興味がある方はぜひFacebook、 Instagram、 LinkedInをフォロー&「いいね」をお願いします!)
趣味のロードバイクのこと、担当本部の仲間達と歩いてレインボーブリッジを渡りバーベキューをしたこと。やる意味がわからないながらもそんな投稿を続けていると、榎本の周囲で変化が起こりはじめます。
「部下がそれを見て私の価値観や考え方を知ってくれたことで、メッセージを発信したときや1対1の面談のときに意図がすごく伝わりやすくなりました。SNSを見た若い社員からも『湘南に行っていましたね』などと話しかけられるようになり、コミュニケーションが生まれるようになりました。CEOとCOOには本当に成長させてもらっています」(ランスタッドのリーダー紹介ページを見る)
めざすのは、みんなを引っ張っていくリーダー
今年の1月、榎本は「東京10倍」というビジョンを部門に発表しました。東京で今の10倍ランスタッドが関わる雇用を創出し、派遣スタッフもクライアントも社員もみんなが笑顔になろう、というものです。
「CEOに話したときは0.5秒ぐらいで承認を得られましたが、みんなは『何言ってんの?』とポカンとしていました。想像できなかったみたいです。でも、何度も何度も言っていたら部長や支店長たちも徐々に『もしかしたらできるんじゃないかな』という雰囲気になってきて。今では『一緒に頑張ろう』と言ってくれるメンバーが増えている実感があります」
そう笑う榎本がめざすのは、リソースを効率的に使い部下を育成しながら計画通りに目標達成していく“マネージャー”としての側面だけではなく、むしろカルチャーを作る“リーダー”になること。
「現在のCEOが現職についてからリーダーとしての自分を意識するようになりました。自分の価値観を伝えることができる部下との関係性が土台に必要ですが、その上で高い目標を掲げることこそリーダーの役割だと思っています。そして、さらにそこに向かって具体的に真剣に取り組み、その姿も見せていくことが大事だと考えています」
そうして、現在はどうやって目標を達成していくかを真剣に考え、そのために必要なプロセスを会社に掛け合い、部下にも状況を話しながら取り組んでいます。「この人についていきたい」と思われるリーダーになることで、大きい目標に向かってみんなで一緒に頑張り、楽しみながら業績を上げられる。それを実現できるリーダーを榎本はめざしているのです。
「未来に向かっていろいろと考え、みんなを引っ張っていけるのがこのポジションの大きな魅力だと私は感じています。それを会社は否定しないし、経営陣が応援してくれる。それがやりがいにつながっています」
「俺ができるんだから大丈夫だ」──大事なのは、挑戦し続けること
情熱的に走り続ける榎本ですが、週に1回、必ず朝に明治神宮に立ち寄り心を整える時間を作っています。そこでは、朝のウォーキングを日課としているCEOと会うこともあると語ります。
「以前、夏の朝に明治神宮に行ったら冷んやりとした空気と静寂な雰囲気で、厳かなパワーを感じたんですよね。そこに行くと、自分の気持ちが整う感じがするんです。それに『俺は一週間に1回行く』ってみんなに明言してしまいました。だから、それ以来欠かさずに行っています(笑)」
また、休みの日は趣味のロードバイクでひたすら走ります。世田谷の自宅から奥多摩湖や秩父、湘南を経由し箱根まで日帰りで走ることも。会社非公認の自転車部も作り、部員は28人まで増えたと顔をほころばせます。
「自転車で年間1万キロ走る目標を立て、毎月部下にレポートしているんです。求められてないけど、COOにも毎週報告しています(笑)。達成するには1日30キロくらい走らないと間に合わないので、雨が降ると緊張するんですよ! 事業部の営業予算達成率より毎日気になっています」
自らにも高い目標値を課し、苦しい想いをしながらも記録を更新していく。好きなことに一直線に進んでいく榎本ですが、その原動力は単なる「好き」という気持ちだけではないようです。
「49歳のオジサンがいきなりSNSをはじめてフォロワーを増やすとか、50歳のオジサンが1万キロ走るとか、ちょっとおかしいじゃないですか。でも、挑戦して達成させたいし、やればできるということを伝えたいし、常に挑戦している姿を見せることでみんなの未来に何かしらいい影響を与えられたらいいなと思っています。
挑戦すれば、ミュージシャンを諦めたフリーターでもグローバル企業の本部長になれた。『俺ができるんだから大丈夫だ』って自信を持ってみんなに言えるので、まだまだ頑張って続けようと思っています」
※ 記載内容は2022年10月取材時のものです