「多様な人たちと深く関わる仕事がしたい」と入社を決めた
鹿児島県に生まれた私は、一学年が10人ほどの小学校に通い、地域のつながりの深い人間関係の中で育ちました。みんな仲が良いのは当たり前。そんな環境で暮らしていた私の心を大きく揺さぶったのは、中学生のころに初めて経験した海外へのホームステイでした。
街並みも、そこで暮らす人たちも、文化も。何もかもが、これまで見てきたものと違う。そんな環境で、自分の価値観がひっくり返るような衝撃を受けたんです。
「もっといろいろな世界を知りたい」と思い、高校生のときに1年間の留学を決断します。ですが、今度は日本人が一人しかいない環境下で、周りのクラスメイトとなかなか打ち解けることができなくて……。中には、国籍が異なる私に対して、攻撃的な態度を取る人もいたんです。
つらい気持ちも味わいましたが、そこで湧き上がってきたのは「どうしてこの人は攻撃的な態度をとるんだろう?」「その背景には、どんな想いがあるんだろう?」という、相手への興味の気持ちでした。一方で、優しく手を差し伸べてくれる人も現れて、救われることも多くありました。良いことでも悪いことでも、人と関わるって、心を揺さぶられるものなんだと実感した経験でしたね。
就職活動を始めたころ、自分が何をしたいか考えたときに浮かんできたのは、やはり「人に深く関わる仕事をしたい」という想いでした。そうして、自然と人材業界に惹かれていったんです。
数ある会社の中でリクルートスタッフィングに入社を決めたのは、選考を通じて面接官や人事の方々が私という人間に正面から向き合ってくれたことに感動したからです。面接では、幼少期の話からこんなに寄り添って聞いてくれた会社はないと感じるほどでした。当時、いち学生である私に対してもこんなに熱量を持って接してくれる風土に惹かれて、「私もこんな社会人になりたい!」と迷わずに入社を決めました。
一人の人間として、対等に誠実に。大切にしていた仕事観
RSに入社してから12年間、ずっと営業職としてキャリアを積み重ねてきました。派遣営業の仕事をする上で大切にしていたのは、クライアントである派遣先企業の担当者の方、派遣スタッフの方を問わず、どんな立場の方とも一人の人間として、対等に誠実に向き合うことです。
特に、派遣スタッフの方に対しては、その人の“らしさ”や良い部分が最大限に発揮され、キャリアの可能性が広がるようなサポートをできるように心がけていました。
優れたスキルをお持ちなのにうまくアピールすることができず、お仕事探しに悩んでいらっしゃる方は少なくありません。そんなときこそ、派遣営業としてサポートできることがたくさんあります。
初めてクライアント先に訪問する際には、事前に派遣スタッフの方の緊張をほぐしたり、ご本人のご経歴や強みについて一緒に振り返ったりしていました。結果的にお仕事の決定に至ったときは、いつも自分のことのように嬉しかったですね。
派遣先企業の担当者の方へも、単なる「お客様と取引先」以上の関係性になれるように行動してきました。派遣の求人案件には直接結びつかなくても、ご担当者の方にお役に立ちそうな情報があればすぐにご案内する。商談の場では、仕事で必要なこと以外にも雑談やプライベートのお話をして、自分自身を信頼してもらえるようにする。そんなことを心がけていましたね。
今でも忘れられないのが、長らくお世話になったある企業の人事部長が定年退職をされる際、その方から「藤さんに、今後のキャリアを相談したい」と声をかけていただいたことです。
当時まだ20代だった私が、大手企業でキャリアを歩んでこられた人生の大先輩に頼っていただけたのは、本当にありがたく嬉しい出来事でしたね。これも、一人の人間として関係を築いてこれたからこそだったのかと思います。
RSでの経験を通じてあらためて感じたのは、それぞれの人が持つ価値観の多様さです。一人ひとり、働くことに対する考え方も、コミュニケーションの取り方も、まったく違いますよね。たくさんの人と関わり、対話を重ねていく仕事は、自分を成長させてくれたなと感じています。
他者にも自分にも、ひたすら向き合った12年間で得たもの
RSで学んだことはたくさんありますが、リクルートグループならではの「圧倒的当事者意識」——つまり、自ら考え、行動するスタンスが身についたことは今にも活きています。
私を育ててくれた先輩やマネジャーの皆さんは、サポートを求めたときにはもちろん手を差し伸べてくれました。
でも、「何をしたか逐一報告してください」とか「言われた通りにやればいい」などと、細かく管理されたことは一度もありません。仕事をする上で、いつも私の意見や考えを尊重してもらえたのは、本当にありがたい環境でしたね。
入社9年目以降は、マネジャーとしてメンバーの育成にも携わりました。この経験も、私にとって多くの気づきと学びを与えてくれたと思います。
「もっともっと新しいお客様にアプローチしよう」「私のようにやってみれば、必ず成果が出るから」
メンバーには、成長してほしい一心で何度もそう伝えていました。でもそのたびに、メンバーの表情が曇っていき、グループ全体にも閉塞感が生まれてしまって……。正直マネジャー初年度は至らないことばかりで、今振り返っても胸が痛みます。派遣営業の仕事を通じて、100人100通りの価値観があると実感したにもかかわらず、メンバーに自分の「当たり前」を押し付けてしまっていたんですよね。
このままではいけないと感じ、根本からメンバーとの接し方を見直そうと決意します。あらためて仕事に対する価値観や、メンバーのWill(在りたい姿)の深堀り、何が得意で苦手なのかを聞き、一人ひとりにしっかり寄り添っていきました。
すると、みんなの考えに耳を傾けるうちに、不思議とグループ全体の行動量や成果が上がっていったんです。
人って、誰かに自分のことをきちんと受け止めてもらえると、安心して強みを発揮できるようになるのだと思います。マネジャーとして、一人の人間として、メンバーから大切な「在り方」を教えてもらいましたね。
その後、子どもを授かり産育休に入ると、これまでの仕事に全力投球していた日々から一転。育児に追われる上に「良い親でいなければいけない」というプレッシャーを背負ってしまい、しんどさを抱えていました。この苦しかった時期に、コーチングを受けたことが人生の大きな転機となります。
コーチングとは、人の可能性を広げ、自発的な行動を促すコミュニケーション手法の一つです。実践することで、ありのままの自分を認め、肩の力を抜いて子どもと向き合えるようになりました。育休復帰後には、さらに学びを深めたいとスクール通学も開始。次第に、コーチングを学ぶ側から、仕事として人に提供する立場になってみたいと思い始めます。
ただ、大好きなRSの環境や、任せてもらっているポジションを手放すことには不安も感じていました。そんな中、子どもが急な入院をすることになってしまって。病院側から命に関わる可能性があると言われたときには、目の前が真っ暗になったのを昨日のことのように覚えています。
幸い大事には至らず、退院することが決まった日の晩。私は、RSを卒業してコーチとして独立しようと決めました。「いつか」実現したいと思っていることは、明日自分の身に何かあれば、永遠にかなわないかもしれない。未来を待たずに、自分のやりたいことをかなえる人生を生きたいと思えるようになったんです。
派遣営業とコーチに共通する価値は、人の魅力と可能性を引き出せること
現在は、ライフコーチとして、20~40代の働く女性を中心に1on1のパーソナルセッションやグループコーチングをしています。私が提供することは「ライフ」コーチング。コーチングのテーマは、キャリア、パートナーシップ、ご本人の性格など、一人ひとりの悩みに合わせてサポートさせていただいています。
根底にあるのは、一人ひとりが自分だけが持つ“らしさ”や魅力に気づき、より良い人生を生きるための可能性を広げるお手伝いをしたいという思い。これって、RSで経験した派遣営業の仕事と、肩書は違えども同じことをしているんですよね。
あらゆる人に「対等」に向き合い、共に良い人生を「共創」していく。私が仕事において大切にしている価値観は昔も今も変わっていないんだなと、RSを卒業した今、あらためて思います。
また、対話を重ねて、深くお付き合いをしていくからこそ、自分のあり方や人間力のようなものが問われるとも感じています。だからこそ、たくさんの人との出会いや関わりを通じて、今後も自分自身を磨き続けていきたいですね。
コーチングを通じてのみならず、私自身がそこにいるだけで周りを元気にできるような、「あり方が素敵だね」と言ってもらえるような存在になりたいと思っています。
そして、大人だけでなく、ゆくゆくは子どもたちにも「生きる喜び」や「可能性を広げる楽しさ」をコーチとして伝えていきたいと思っています。