育休は取って当たり前──1カ月後、育児と仕事が両立できる状態を見据えて

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▲2022年現在の岩村

男性育児休暇の取得率が増加している昨今。男女とも育児休暇をより取得しやすくなるように、段階的に法改正が進んでいます。

岩村もそんな流れの中で男性育休を取得した一人。当時、PR Tableでは男性による本格的な育児休暇の取得実績はありませんでしたが、岩村は「育児休暇は取って当たり前のものだ」と考えていたといいます。

岩村 「妻の妊娠がわかったときから、育児休暇の取得を漠然と計画していました。それから管理部門に相談したのは、妻の妊娠が安定期に入った2021年の夏ごろです。もともと里帰り出産をする方向で妻や妻の実家とも調整していて、経営陣の大堀 海の2人からも『ぜひ取ってください』とすすめられていました。

考える必要があったとすれば、『どのタイミングで、どれくらい休みを取るか』と、『組織に負担をかけないためにはどうすればいいか』の2点だけ。取得への迷いはまったくなかったですね」

今回岩村が取得した育児休暇は1カ月間。里帰り出産をした母子が産後の1カ月を実家で過ごした後、自宅に帰ってきたタイミングで休暇に入りました。

岩村 「期間を1カ月と決めたのは、子どもの世話に慣れるにはそれくらいの時間が必要だと考えたからです。育児に限らず、経験がないことをするのは最初のうちは大変です。しかし、体が慣れれば、負担を小さくできる。1カ月あれば、育児にも適応できて、仕事と両立する方向性も見えてくるだろうと考えたわけです。また1カ月後に、両立できる状態に持っていくために、育休中は自分の状態把握を心がけていました。

たとえば、授乳のために夜中に数回起きる際、自分の調子や集中力はどれぐらい下がるのかを機器を用いていろいろ計測していたんです。育休中の自分の調子をデータで見ながら、自分に適したやり方を探っていきました」

引き継ぎ作業は、仕事を棚卸しする良い機会。個人と組織の両方にとってプラスに作用

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▲チームメンバーに棚卸しリストを元に引き継ぎ

2022年2月末から1カ月間の育児休暇取得にあたって、その半年前からおおよそのスケジュールを立てていた岩村。休暇に入る1カ月ほど前から、引き継ぎ作業に取り掛かり始めました。

岩村 「はじめに行ったのは、自分が担っている開発の一部と、プロジェクトマネジメントに関する業務をパートナー企業の方にお願いできないか相談することでした。対応してもらえることになったので、業務の進め方や育休中にお願いしたいことなどを具体的に伝えていきました」

業務を引き継ぐために、育児休暇中に割り振るタスクをリスト化していった岩村。その作業は同時に、自身の仕事を棚卸しすることにもつながりました。

岩村 「仕事を棚卸しすることは、自分の働き方を見つめ直すいい機会でした。仕事に関する自分の感覚が間違っていて、想定より重要な仕事じゃないとわかることもあれば、その逆もある。この時に業務を可視化できたことで、休暇から戻った後、本当に大事な仕事から優先的に取り組めるようになったと思います」

この自らの体験から、引き継ぎ作業は組織が成長する機会にもなると、岩村は感じています。

岩村 「異動や退職時に引き継ぎをする際、引き継ぎで生じるマイナス面をどう減らせるかが焦点になると思います。しかし、実際のところは、引き継ぐ側と引き継がれる側は別の人間です。どうしたって同じことはできません。

担当者が一時的に不在になる育児休暇は、引き継ぎのプロセスが組織にどんな影響を与えるのかを知るまたとないチャンス。引継ぎといっても、退職時の引継ぎとは違い限定的な引継ぎになるので、小さなリスクで組織強化にもつながります。たとえば、チームマネジメントの観点からいえば、組織の個人への依存度を見直す機会にもなるはずです。育児休暇は、組織にとってプラスしかないと思いますね」

気持ちは新卒社員。妻の言葉を頼りに初めての子育てに挑む

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▲趣味で集めている睡眠データ。「授乳当番の日」はこれまで見たことのない内容に

プロダクト部の部長という責任をともなう立場の岩村ですが、その重責をしっかりと支えてくれる素晴らしいメンバーに恵まれたといいます。

岩村 「自走しているメンバーばかりだったので、引き継ぎさえきちんとしておけば、大きなトラブルになることはない。それに、万が一に備えてメンバーに『緊急時はSlackでダイレクトメッセージをください』と伝えていました。だから、なんとかなると思っていましたね。

育児休暇の後半からは余裕も出てきたので、たまにSlackでメンバーのやりとりも見ていました。その時に、ケアが必要なやりとりはブックマークして、復帰後に対応や確認ができるようにしておきました」

結果的にちょっとしたトラブルはあったものの、現場のメンバーが対処したことで、育休中は仕事からほとんど離れていた岩村。育児の中では、夜中の授乳が一番大変だったと振り返ります。

岩村 「3時間おきにミルクをあげるために、普段とは違う睡眠の仕方になって、最初は習慣が乱れました。とはいえ、授乳は妻と1日おきの交代で担当していましたし、子どもはよく寝る子で、自分は起きてもまたすぐに寝られる体質です。慣れるのは比較的スムーズでした。

ただ、深く眠れないので、体の調子はいまひとつ。趣味で集めている睡眠データも、授乳当番の日はこれまで見たことのない内容でした(笑)」

当番の日は就寝を早めたり、起床時間を調整したり工夫を続けた岩村は、徐々に調子も取り戻していきました。

岩村 「普段、家のことは妻と分担しているのですが、育休中は妻には休んで体力を回復してもらいたくて、積極的に子どもの世話や家事を行っていました。それで見えてきたのが、大体16時半から19時にかけて子どもの世話が忙しくなること。その時間帯に育児に集中できるよう、それまでにほかの用事は済ませておくなど、育児休暇後の生活をイメージする余裕も出てきました」

1カ月間を無事に乗り切り、狙い通り子育てにも慣れていった岩村。心がけていたのは、“妻のいうことに黙って応じる”ことでした。

岩村 「子どもの世話に関しては、妻のほうが1カ月先輩。それに、『この泣き方なら放置しても大丈夫』など、助産師さんからもアドバイスを受けて、自分より知識も持っています。新卒で入社した新社会人の気持ちで、妻の言葉にそのまま従うよう心がけていました。

すると、育児休暇が始まって2週間後には、妻から『安心して任せられる』と合格点をもらいました。育児で印象的だったのは、“背中スイッチ”を攻略したときです。赤ちゃんあるあるで、眠った赤ちゃんをベッドに置くと、背中にスイッチがあるかのごとく起きてしまうんですよね。はじめは、寝かしつけたと思ってもベッドの上に寝かせた途端、目を覚まして泣き出してしまうことばかりでしたが、だんだんコツを掴んで上達していきました。初めてうまくいったときは、嬉しさのあまり妻に渾身のドヤ顔を披露しました(笑)」

仕事と家庭と僕。どれも人生の一部だからこそ、バランス良く向き合うために

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▲育休明けに家族で近くの公園を散歩。娘、初めての花見の時の一枚

育児休暇を取得した後の職場復帰を、楽しみにしていたという岩村。

岩村 「ブックマークに入れたSlack上のやりとりを直前の数日間でざっと見て、大きな問題がないことはわかっていたので、復帰への不安はなかったですね。むしろ、自分がいない間に起こったことを知るのが楽しみでした。

育児休暇というと、職場復帰への不安がともなうと聞きます。不安があるのは理解できますが、そもそも『育休を取得したい』と伝えたときにどんな反応をされるかは、組織の問題。いい反応が得られないのなら、社内に働きかけて改善していくしかありません。育児休暇を取得したいのであれば、まず取得すると決めてから、どうやりくりしていくかを考えるのも手だと思います」

職場復帰後は、夕方以降の時間帯に育児に専念できるよう、以前より始業時間を早めるなどの時間管理を始めました。とはいえ、もとから業務効率化への意識が強かったため、育児休暇を経ても仕事への向き合い方には変化がないといいます。

そんな岩村が、仕事と育児を両立させる上で大事にしているのは、家族の健康、そして、手を抜けるところは手を抜くこと。

岩村 「定期的にジムに通うなど、自分の健康管理はもちろん、妻が水分や食事を摂っているか、こまめに確認しています。また、子どもができて以降、“楽をするための”選択が増えました。たとえば先日購入したのは、ロボット掃除機です。床をきれいにしてくれるので、自分はほかの場所の掃除に時間をかけられて助かっています。

ベビーテックというジャンルにも関心があって、ベビーモニターも購入しました。できることが増えて妻も喜んでいます。こういう変化も含めて、育児休暇は想像以上に取得した甲斐があったと今は思いますね」

前例がない中でも踏み出し、組織の事例を新たにつくりあげた岩村。PR Tableの中で生まれたこの一歩は、この先も足跡として、同じ想いを持った仲間が進む道を示してくれるはずです。