極貧生活から抜け出した「その先」にあったもの
仕事でも生活でも「置き」に走るのはイヤ。あきらめるという選択肢は好きじゃない──
組み上げ式のトイレ、風呂なし、壁でつながった隣家から漏れる音。豊かさとは対極にある暮らしをしていた学生時代の辻にとって、やりたいことを自由に選択するのは難しいことでした。
辻 「まわりの友だちを見ると、当たり前のように選択できることがすごくうらやましかったですね。当時は本当にお金がなかったので、本来なら進学を諦めなくてはいけない状況でした。大学に行かせてもらえるだけでもありがたかったです」
家庭の事情から、好きなことやモノを選択できる状況になかった学生時代。唯一選択できたのは「県内にある国公立大学」でした。通学のため1時間か2時間に1本走るバスは、最終が18時台。そのバスに乗って帰宅すると近所の銭湯は閉店していて、お風呂に入ることもできませんでした。アルバイトをすることもできないと感じた辻は、奨学金とアルバイト代を工面して、大学の近くで1人暮らしをはじめます。
辻 「1人暮らしをはじめて、時間とお風呂を手に入れました。そこでのめりこんだのが音楽。とあるクラブに毎日通うようになり、DJをやらせてもらえることになったんです。
そのうち自分でイベントをやりたくなって。自分で企画を立てて出演者を決めたり、ポスターをつくって集客したりしていました。
そうして形になったイベントに、たくさん人が来てくれて楽しんでくれることが、すごくうれしかったです」
また、学生という立場からほぼギャラを出せなかった当時、関係性がないと出演してもらうことは難しく、つながりや関係性はなくてはならないものでした。こうした辻の活動は無意識ながら、パブリックリレーションズにつながる部分でもありました。
さらに、この経験は、「やってできないことはない」という想いに結びついています。
辻「パソコンがなくてもポスターは作れるし、手描きでフライヤーも作れる。
ターンテーブルは持っていなかったので最初はクラブで借りていましたし、そのうち古いものを知人から安く譲ってもらいました。今思えば、やりたい気持ちがあればどうにかなるんだ、と感じた原体験はここだったかもしれません」
「やってできないことはない」「妥協したくない」。強い向上心を持つ辻の原動力は、そんなところにありました。
仕事だらけの6年間、子どもと向き合った6年間
さまざまな価値観と経験で形成されている辻。新卒入社し、6年間過ごすことになるKDDI株式会社からキャリアをスタートさせました。
入社前の当時、辻の中には「どうしても他キャリアに勝ちたい」という想いが、確固たるものとして存在していました。大学生時代、auの販売員として店頭に立ち続けていた経験があったからです。
その想いが実現に近づいたのは、2年目の新潟転勤のとき。当時、新潟はドコモのシェアが高く、auのシェアはかなり低い状態でした。そんな中で、辻はauのシェアを少しずつ引き上げることに貢献します。
辻 「最前線に立ってお客様の対応をしてくださるスタッフの方の信頼を得て、同じ目標に向かって走るためには、関係性づくりが大事でした。そのため、まず何度も足を運ぶことを意識していたんです。
一度、お店の方に『辻さんは代理店の人とどこまでの関係を求めているんですか?』と聞かれたことがありました。担当が女性の方なら、一緒に銭湯に入って腹を割って話せるくらいの距離感でいたいと思っていました。
ビジネス上、仲良くすることが必ずしも良いことではないと思いますが、心を開ける関係を作ることは、当時とても大事にしていました。一緒に駅前でチラシを配ったりポスティングしたりして、そのあと一緒に銭湯に行って汗を流す。そうした関係性ができていくのが数字にも表れていたと思います」
こうして結果を出した辻は、やり尽くした達成感と出産というライフイベントを機に、6年間、専業主婦になります。
そこには、子どもが小学生に上がるまでそばにいたいという想いがありました。
辻 「私が小さいころ母は働いていたので、夕飯がお惣菜だったり、お弁当がコンビニ弁当を移し替えたものだったり。忙しいのは理解しつつもどこか寂しさを感じていました。
そんな中で友達の家に行ったら、チョコレートをお皿に入れて出してくれたことがあって。お菓子をお皿に入れて食べることに感動したんです。自分が母になったときは、子どものそばにいて、おやつをお皿に出してあげたいと、密かな憧れを抱いていました」
その後、子どもの小学校入学を機に復職することを決意します。
「6年間の子育てや食に関することを活かす軸で、何かできることはないか」と探す中で、たどり着いたのがとあるベンチャー企業でした。
辻 「子育てや妊娠に関わるWebサービスをつくっている会社での編集職です。6年間子どもに向き合ってきた経験が何か役に立てば、と思いました。編集は未経験でしたが、本はたくさん読んでいて書くことに抵抗はありませんでした。根拠はないですが、できそうな気がしたんです。未経験でチャレンジさせてもらえたことに感謝しています」
未経験で始めた編集職。役に立つ実感がエネルギーとなり、想いを強くする
2015年に設立2年目を迎えたIT企業に入社し、辻は編集の仕事をスタートします。とはいえ未経験だったため、執筆した記事にフィードバックをもらい、どこを修正してもらったかを確認するところから始まりました。
辻 「読者の多くは妊婦さんやママです。これを読んで困りごとが解決する人がいるんじゃないか、不安を解消できるんじゃないかと、その先を想像できるのが楽しかったですね」
そこで、辻は自分なりのこだわりを持って業務に取り組みます。
辻 「いろんな人がいて、人によってさまざまな状況がある上に、出産前後は非常にナーバスになる時期です。なので、それぞれの考え方を尊重した上で、だれも傷つけず、それでいてちょっと背中を押せることを意識していました。
途中からは、育児グッズを紹介する記事を中心に取り組みました。答えのない育児の中でも、“買い物”って楽しいですよね。大人目線でもセンス良く感じられて、子どもにとって安全で成長に合ったものを提案することで、より素敵な時間を過ごしてもらいたいと思っていました」
人一倍、「だれかの役に立ちたい」という気持ちが強い辻は、仕事と密に向き合いつつその気持ちをさらに強めていきました。
一方で、アプリ開発にも関わっていた辻は、「このアプリがあってよかった」「救われた」など、ユーザーレビューから感謝の言葉をいただけることにも魅力を感じていました。
しかし、4年間子育て領域の仕事に携わるうちに、もっと暮らし全般の領域で編集に関わりたいと思い始めた辻。
2019年、暮らしに関わるWebメディアを手掛けるIT企業に、編集者として転職することを決めました。
辻 「入社当時は月間利用者数700万人でしたが、今では月間2000万人超(※2022年2月時点)。本当に多くの方にご覧いただきました。
前職ではたくさんのライターさんやメーカーさんと一緒に仕事をしました。自分では思いつかないアイデアを教えてもらったり、一緒にコンテンツを作ったり。関係性をつくる大切さを改めて感じた時期でもありましたね」
利用者が増え充実感を味わう一方、「人の役に立ちたい」という思いを強くする出来事にあいます。
辻 「災害対策について専門家に取材し、記事化した際に『この情報が多くの人に届けば、救われる人がいるかもしれない』と強く感じたんです。
私の仕事は、必要な人にわかりやすい形で情報を届けることです。それが、誰かの何かにつながったらすごくうれしい。これを読んで良かったと思ってもらえたり、行動のきっかけになったりするような……。人生の選択に関わる部分に深く携わりたいという気持ちが強くなりました」
そうして辻が、ネクストステップとして選んだステージがPR Tableでした。
経験したすべてを活かし、誰かの役に立つ、未来図を描く
新天地として、PR Tableを選んだ辻。
「入るからにはその会社に貢献したい」という想いで、生活者の視点が重要なメディアを選んできたこれまでとは、一変した選択をしています。
その選択には、面接で代表の大堀が放った言葉が起因していました。
辻 「PR Tableの最終面接で『いい会社に出会えましたか』と聞かれたんです。実はこの言葉は、数年前に前々職の社長と面接したときにも言われた言葉でした。
実はその段階では迷っていたのですが、その言葉がフラッシュバックして、それで入社を決意しました。会社と個人の関係性がフラットというか、私の気持ちを尊重してくれている感じがして、いいなと思ったんです」
もちろん、辻がPR Tableに惹かれたのは、大堀の言葉だけではありません。「何かの役に立ちたい」という想いを満たす確信が深まったことも、その背中を押しました。
辻 「働く人をストーリーにすることで、企業やその人の力になれる。それを読んだ人の意思決定にも関わるかもしれない。誰かに何かしらの価値を届けられる可能性を感じたことが大きかったです。
それに、人の人生って唯一無二ですよね。今これだけたくさんの情報が流れている中で、人生はその人にしか語ることができない一方、それを聞く時間はなかなかなくなっている。それを聞いて届けることができるのは、すばらしいことだと思います」
働く上で辻は、さまざまな角度から経験を活かしていきたいと考えています。その背景には、編集者として、個々のストーリーをより必要な人に届けたいという想いがあるのです。
talentbookを通じて関係性をつくりあげる将来像を描く辻。
「あってよかった」と言われたい。欲を言えば、たくさんの人に言われたい。そんなサービスを作りたい。そんな自分でありたい──
これからも辻は「誰かの役に立ちたい」という強い想いを持って、ひとりひとりのストーリーを届けるべく、ひたむきに走り続けます。