日記の宿題が原体験──文章を書いて、読んだ人の感情を揺り動かしたい

▲PR Table入社前の充電期間に訪れた石垣島でのヨガツアー

試行錯誤して生み出した記事に、読者からうれしい反応をもらえること──それは、ライターや編集者が仕事を続ける原動力になります。山口がそうした執筆・編集の醍醐味を初めて味わったのは、小学生のころのことでした。

山口 「小学3年生になってから、学校のクラスの宿題で、毎日日記をつけていたんです。初めは面倒だと思っていたのですが、次第に楽しくなってきて『せっかくならおもしろく書いてみよう!』と自分なりに工夫するようになりました。内容自体は小学生のありふれた日常なのですが、そこにオチをつけてみたりして、読みもののように作り込んでいたのを覚えています」

書くことはもとより、それを誰かに読んでもらうことで得られる手ごたえが、山口を夢中にさせます。

山口 「先生は毎日、日記にコメントをくれるのですが、『読みながら笑ってしまいました』とか、読み手の感情を動かせたと感じたときは何よりうれしかったですね。また、良いエピソードやおもしろい視点の日記を書くと、ホームルームで発表する機会をもらえることも。自分の日記を人前で読むなんて、今思えば恥ずかしすぎますが(笑)、当時は照れくさくも誇らしい思いでした。

日記の宿題は卒業まで4年間続きましたが、振り返ってみると、あのころの原体験が今の私のキャリアや生き方につながっていると感じます」

「第一線」の仕事に触れ、取材・執筆・編集の基礎力を鍛えた編プロ時代

▲編プロ時代、友人と行った花やしきの観覧車で(写真中央)

「文章を書くことが好き」というかすかな想いは、やがて「執筆や編集に携わる仕事がしたい」という明確なキャリアの希望へと変わります。求人広告媒体でのファーストキャリアを経て、転職先の編集プロダクション(以下、編プロ)で、山口は編集者・ライターとしての第一歩を踏み出しました。

同社では、大手出版社の主要雑誌に掲載する記事を多数担当。華やかな仕事にも思われますが、慣れないことの連続で失敗も多かったといいます。

山口 「編プロ時代の5年間は、文章のプロとしての基礎力を鍛えられた修行期間だったと思います。当初は『憧れの雑誌の仕事ができる!』と浮き立っていましたが、すぐに自分の甘さを痛感しましたね。現場のディレクションがうまくいかず、カメラマンを怒らせてしまったり、記事の出来が悪すぎて編集者から『バイトに書かせたほうがマシ!』と言われたり。

完全に実力不足で、任せてもらった仕事の大きさや責任の重さも理解できていなかったですね」

苦い経験も重ねながら、取材・執筆・編集のスキルを少しずつ身につけていった山口。当時おもに携わったのは、家電やデジタルデバイスなど、いわゆる『モノ系』の記事。一般的な編集記事だけでなく、メーカーの広告記事を担当する機会も多くありました。

山口 「私の師匠でもある編プロの社長が、その分野に強いベテラン記者だったので、本当にいろいろな経験をさせてもらいました。出版社の編集者さんたちも含め、第一線で活躍する方たちの仕事ぶりを目の当たりにできたのは、私にとって貴重な財産になったと思います」

その中でも大きなやりがいを感じた仕事は、女性ファッション誌に載せるデジタルデバイスのタイアップ記事でした。記事の目的は、あくまで商品のPR。とはいえ、洋服やアクセサリーをメインに扱う誌面の中に、唐突に無骨なデバイスを紹介する記事が入り込むと、どうしても違和感が生じてしまいます。山口は工夫を凝らしました。

山口 「デバイスの性能や特長を直接的に説明するのではなく、読者が使用シーンをイメージできるような表現を意識してテキストにしたんです。ファッションのコピーのように、少し詩的な言い回しも使って、ライフスタイルを想起しやすいように心がけました。

仕事を通じて培ってきた家電の知識と、ファッション誌に親しむ一人の女性としての視点をかけ合わせたことで、新しい切り口を生み出せたのではないかと思います」

こうしたアイデアが生まれたのは、自分一人だけの力ではないと山口は振り返ります。

山口 「社長や先輩にアドバイスをもらったり、撮影現場ではスタイリストさんやメイクさん、モデルさんにも協力いただいたりして、試行錯誤した過程が重要だったと思います。みんなで作りあげた記事が誌面を飾り、メーカーの担当者にも満足していただいたことで、大きな達成感を覚えましたね」

地方で情報誌制作に挑戦。取材に慣れない相手との会話で養った「傾聴力」

▲取材で訪れた金沢のお茶屋さんで、着付けをしてもらった時の1枚

2010年、家族の仕事の都合で石川県へ転居することになった山口は、北陸3県で情報誌を発行する制作会社に入社。編集者・ライターとして、地域情報を紹介するフリーマガジンや能登半島のガイドブックの制作などに携わりました。

同じ編集・執筆業務ではありますが、取材に求められるスキルは少し違っていたと山口はいいます。

山口 「編プロ時代、大手メディアの仕事で取材していたのは、評論家さんやタレントさんなど、取材に慣れている方が大半でした。これに対して、石川県時代に取材したのは、地元の飲食店や観光業、一次産業や伝統工芸に携わる方など、あまり取材に慣れていない一般の方々。そうした相手からうまく話を引き出して記事に落とし込むプロセスには、これまでとは違った難しさがありました。

その分、仕上がった記事を見た取材相手に『私が伝えたかったことは、まさにこれです!』といってもらえたときには、それまでにないやりがいを感じましたね。ここで培った傾聴力は、今でも活きていると感じます」

現地に赴き、さまざまな人の声に真摯に耳を傾ける。足を使い、取材対象者と正面から向き合って声を拾いあげる仕事を通じて、山口は「生の情報」に触れることの重要性を再確認します。

山口 「ガイドブック制作では、多いときには週2、3回、片道3時間ほどかけて能登半島へ赴き、観光スポットや宿泊施設、飲食店などを取材していたんです。非常にハードでしたが、徹底的に取材したことで、充実した内容のガイドブックに仕上がりました。県の担当者や地元の方々にも好評で、報われた思いでしたね。

今では、インターネットでなんでも調べられ、簡単に情報を得られるようになりましたが、やはり現地に行ったり、リアルな声を聞いたりするからこそ得られる情報があることを実感しました」

さらに3年後、再び東京へ戻ってからは、Web領域にも仕事の幅を広げます。Webサービスを制作・運営する事業会社に転職し、ECサイトのディレクターとして商品紹介記事や、各種特集ページの企画・制作を担当。ユーザーの反応が数値化されるWebの仕事に、山口は新たなやりがいを見いだしました。

山口 「雑誌の仕事では、読者の反応がなかなか見えにくいところにジレンマを感じていたんです。それとは対照的に、Webコンテンツでは、PVやCV、流入経路といった形で視覚化されたユーザーの反応をもとに、PDCAを回すことができます。コンテンツをすばやく改善できるだけでなく、目に見える反応自体がモチベーションの維持につながるなと感じました」

人の「目」と「手」をかけて、価値あるコンテンツを世に出し続けたい

▲2022年、現在の山口

ECサイトのディレクターを務めた7年間では、カスタマーサポートや物流管理にまで業務を広げた山口。「もう一度、腰を据えて編集や執筆に携わりたい」──そうした想いで転職したのが、スタートアップであるPR Tableでした。

山口 「私が仕事をする上で『何をやるか』と同じくらい大切にしてきたのが『誰と働くか』でした。そんな私にとって、多くの時間を共に過ごす同僚の人柄や、背景にあるストーリーを伝えることに特化した、talentbookというサービスはとても魅力的で、大きな可能性を感じたんです」

PR Tableでは、ディレクターとしてコンテンツ制作支援を行うほか、取材代行や原稿編集、進行管理などを担当。編集者・ライターとしてキャリアを積みあげてきた山口は、ひとつの集大成ともいえる仕事に取り組む中で、テキストコンテンツの可能性を再認識しているといいます。

山口 「昨今では、インスタグラムやYouTubeを活用して、画像や動画で手軽に情報を伝えられるようになりました。たしかに、商品など『目に見えるもの』の情報を伝えるだけなら、画像や動画のほうが圧倒的に情報量が多く、わかりやすいんです。

でも『目には見えないもの』を伝えるとなると、話は別。人の想いや心の機微、その背景にあるストーリーを最も正確に伝えられるのは、やはりテキストだと思うんです」

画像や動画をスマートフォンで撮影して、さっとSNSにアップする──そうした方法に比べると、取材・執筆し、編集や校正を重ねるtalentbookの記事は、即時性やインパクトが少ないかもしれません。でもその分、いろんな人の想いを乗せて届けることに価値があると話します。

山口 「取材対象者の生の声を丁寧にくみ取り、ディレクターや企業の担当者がアイデアを出し合って原稿に磨きをかけていく──talentbookに関わるようになってから、そうやって手間をかけながら作りあげていくことの大切さをあらためて感じています。

ディレクターとしては、クライアントが効率的に情報発信できるようサポートするのが大前提ですし、今後テキストコンテンツだけにこだわるつもりもないんです。特により幅広い世代の人に情報を伝えるには、ライトな記事や動画コンテンツなども必要だと感じます。

ただ、どんなコンテンツであれ、最終的な質を高めていくには、さまざまな人の『目』と『手』が欠かせません。社内のメンバーはもちろん、協力いただいている外部の編集さん・ライターさん、クライアントの担当者様の力も借りて、よりよい情報発信をしていきたいですね」

静かに情熱を燃やして、コンテンツと向き合う山口。PR Tableでの新しい挑戦は、まだ始まったばかりです。