企業と個の“関係性”にこだわることが、豊かな人生を送るための一つの答え
企業として描く戦略。それは、大海原で航海の行く先を示すコンパスのような役割を持っています。
しかしながら、そうした戦略もきちんと社員全員に伝わり、理解されなければ、正しい効果を発揮することはありません。
2021年7月現在、PR Tableで代表取締役を務める大堀 海(以下 海)は、創業からこれまで、未熟さゆえの失敗を経ながら、大事なものが何なのかを学んできました。
海 「今は戦略を“正しく伝えること”にこだわっています。というのも、正しく伝えられなかったために、間違った考え方で人を走らせてしまったり迷わせてしまったりすることが過去に何度かあったんです。それでも残ってくれたメンバーたちの努力のおかげでこれまで成長してくることができました。
だからこそ、“きちんと伝えぬく、そのための工夫をする”。当たり前かもしれませんが、それを自分の中でミッションと定義して経営しています」
そんな海が目指しているのは、“働く人の笑顔が連鎖する、やさしい世界”。
プロダクトの提供価値として、関係性をより良くするための“きっかけ”を企業に提供することで、その世界への実現に尽力しています。
海 「“企業と個の関係性”にこだわっていくことが、豊かな人生を送る上でのひとつの答えだと思っています。
なぜなら、企業を取り巻く社会環境や経営環境は大きく変化してきており、また個人の価値観・働き方も多様化しています。そうした時代に適応するために、あらゆる企業が一人ひとりと向き合い、より良い関係性でいることがとても重要であると考えているからです」
そもそもPR Tableが大切にしている「パブリック・リレーションズ」という言葉には、ステークホルダーと良好な関係性を築くという意味が込められています。企業で働く人達の笑顔が連鎖していることは、パブリック・リレーションズを体現している状態とも言えるのです。
海 「特に、新型コロナウイルス感染症が流行し始めた2020年以降、より時代の変化が加速し、僕たちのプロダクトの提供価値と社会課題がつながってきていると感じます。企業が抱えるさまざまな課題のために『関係づくりをしよう』という行動が、個人のメリットにつながってくる時代に変化してきているんです」
希望溢れる世界を描く海。しかし、そのような世界を実現したいという想いに至った背景には、海自身が体験してきた過去のある出来事がありました。
傷ついた過去がある。だからこそ、不用意に誰かを傷つけることはしたくない
時は、海が小学校高学年だったころに遡ります。
当時、自らの容姿にコンプレックスを抱いていた海は、周りから心無い言葉をぶつけられる、苦い経験をしていました。
海 「これまでと中身は変わっていないはずなのに、見た目が変わって太っただけでひどいことを言われるようになりました。そうした周囲の人の変化にとても違和感を覚え、『なぜ人は、そんなひどいことを簡単に言えるのだろう』と思ったんです。
だから自分はひどいことを言ったり、不用意に人を傷つけたりすることは絶対にしたくない、と考えるようになりました」
その後、中学生・高校生と成長するにつれて、容姿も変化し、モデルの仕事をするまでになりました。すると案の定、周りの自分への態度も変化します。原宿では声をかけられ、人が列をなして並ぶほどに。
幼少期とのギャップに複雑な気持ちになりながらも、学校外の美容仲間との関係を深めていき、痛みからは縁遠い生活を送るようになりました。
海 「大学生になってからは、こうした業界との縁もあり、芸能界を目指し始めました。そこで、俳優の勉強をしたり事務所に入ったりしていました。しかし、俳優としてチャンスを掴めるほどの実力はなかったんです」
そうしているうちに、このまま俳優を目指すか、就職活動をするか選択しなければならない岐路が訪れます。迷った末に海が選んだのは、就職活動の道でした。
しかし、軸も信念もないままに大企業を志していた海を見透かすかのように、就職活動は全戦全敗。ところが、そこで海はくじけずに一年間、長期インターンでビジネスの世界に触れ、二度目の就職活動に挑戦します。
以前とは違い、ビジネスの知見を得た海は、見違えたようにさまざまな企業の最終面接へと進んでいきました。
しかし、今度は最後の役員面接で、全企業にことごとく落ちてしまいます。
海 「二度目の就活失敗を経て、自分自身に『失敗した人』というレッテルを貼ってしまいました。当時は、自信が持てず、太っていたときのことを思い出すシーズンが再びやってきた感覚でしたね」
その後、結局は知人のツテで小さなプロモーション会社に入社。徐々に自信を取り戻していった海は、読者モデル時代に築いた人脈やコネクションなどのつながりを生かして、すぐに自分で事業を始めることになります。24歳、2012年のことでした。
しかし、数年間一人でビジネスをつくりながらも、自分が関わっている仕事に対する、どこか煮え切らない想いを抱えていました。
ちょうどそのころ、3歳年上の兄である大堀 航(PR Table取締役)も、PR業界で働いていました。海はときどき、兄と仕事を共にするようになります。
小さいころから仲が良く、太っても、痩せても、失敗しても、調子が良くても、蔑みも嫉妬もせず変わらず接してくれる兄のことを海は尊敬していました。
そのとき海は「これから、兄と一緒に事業をやっていく」という決意を固めていました。
社会にとって本当に価値がある事業をやりたい──自分ひとりでは自信がなくても、兄と一緒であればなんとかなるんじゃないか。
2014年12月、PR Tableの誕生でした。
実現したい世界をつくるための信念──絶対にビジネスとして成立させたい
自らのコンプレックスや経験があったからこそ、海は今「働く人が笑顔になれる、やさしい世界をつくりたい」という想いを心に宿しています。
そして、そんな世界観をつくる想いのこもった武器──それが、talentbookです。
海 「働く人が笑顔になれておらず、やさしい世界じゃないのは、一人ひとりがどんな価値観で生きているのか、どんな想いで働いているのかわからないからだと思うんです。
僕が容姿について言われたときの気持ちを相手は知らないから、相手は僕が傷つくことを普通に言えてしまうし、どんな人がサービスを提供しているか分からないから、ちょっとしたことでクレームや炎上が起こる。
そうした相手を知り、想像するためには、ストーリーが必要です。ストーリーがあることで一人の人間になり、人間性がわかるのだと思います。だからこそ、一つひとつのストーリーをみんなが知り、理解をすることで、人の接し方が変わり、やさしい世界になると信じています」
とはいえ、そうしたやさしい世界をビジネスとして目指す以上、ビジネスとして成立させなければいけません。海は、そこに強い焦りと信念を持っています。
海 「スタートアップは資金を調達してから赤字を掘るので、だんだん赤字に慣れて、感覚が麻痺していきます。でも、やさしい世界をつくりたいと言っているのに、ずっと赤字なのは恥ずかしくて。やさしい世界をつくりたいというのは、自分の心に手を当てて導き出した正直な気持ちです。だから、ビジネスとして絶対に成立させることは信念であり、焦りでもあります」
こうした信念や、目指す世界観を“伝わる”ものにするために、海はさまざまな立場に立って思考することを強く意識しています。
そこには、「伝わらないことが嫌」という海の気持ちと、自らが苦しんできたからこそ、他人に同じ想いをさせないために相手の痛みを想像するという思いやりが現れています。
海 「人と話すとき、相手の今の気持ちを想像するようにしています。自分本位でやった結果、失敗する経験を多くしてきました。
痛みを体感してきたからこそ、相手の痛みが少しわかってくるんです。だから、その人が今置かれている状況や日々こういう想いをしながら働いているだろうと、想像できているんだと思います」
優秀な人に機会を提供し、組織・事業の成長を徹底的に考え抜く
ビジネスとして成功させる──そこには、事業と組織の成長に一途な想いを寄せる海の使命感もあります。
海 「僕自身は常に事業・組織の成長をシンプルに思考するようにしています。2021年の現在会社を経営して6期になりますが、今いる人達は優秀な人ばかりだと感じてます」
そうした中で、海は、その人たちのポテンシャルや良い所を見極めて機会を提供することが、ビジネスを成立させることに直結すると考えています。
海 「今までは人よりも、機能的なところや売り方に目がいっていました。しかし、実は当社にはとても優秀な人材がたくさんいたことに改めて気づかされました。一見、すぐ売上に直結しそうな施策よりも、優秀な人にどんな機会を提供できるかを考え抜くことの方が、ビジネスで勝って、理想とする世界をつくることへの近道だと思うようになったんです」
多くの人が形は違えど、「やさしい世界であってほしい」と思っているはずです。しかし、思っているだけではそうした世界は訪れません。そして、その世界をつくるための道は、やさしいものではなく、時に過酷なものでもあります。
海 「やっぱり想いだけじゃなくて、実際の行動、仕組みづくりに本気で頭を使って自分の全力を投資しないと変わりません。
だからこそ、共感は前提でしかなくて、大切なことに気づいてもらうにはどうしたらいいかを、定量的に、構造的に考えて突き詰めていくのがとても重要です。それは、しんどいことでもあるんですけどね(笑)」
そんな海は、“正直であることが生産性を上げる”と、考えています。そして、それは自身の経験に由来する考え方でした。
海 「たとえば、失敗をしてしまったときに、自らの至らなさを受け入れ、『どうしたらいいと思うか』を社員一人ひとりに1on1で聞いていくことがあります。すると『それなら、こういう役割の部門が必要だよね』という答えを共に導き出せることがあるんです。まだ、目に見える成果は出ていないかもしれませんが、こうした経験から自己開示をした方が生産性が高くなると感じています」
働く人たちの笑顔が連鎖する世界。そうした世界を実現するための“きっかけ”を事業を通してつくっていきたい──描く未来に情熱を傾ける海は、来る日も来る日も未来に向けて航海を続けていきます。