新基軸のチャレンジを支えてくれた、仕入れパートナー様との出会い
PDPは、ウェディング会場に併設するレストランを、全国の主要都市で多数運営している。一方、ウェディングから独立したかたちで出店しているレストランは、2020年10月現在で9店舗。今後の注力分野だ。
そんな「PDPのレストラン」の今後を占う試金石が、2020年夏に相次いでオープンした「川越薪火料理 in the park」(埼玉・川越)と、「THE PENTHOUSE with weekend terrace」(東京・豊洲)。
これまでPDPが主なフィールドとしてきた東京都内や地方の主要都市ではなく、川越や豊洲の地を選んだのは、それ自体が店舗のコンセプトと深く結びついているから。「公園」をテーマにした開放的なダイニングで提供される薪火料理と、ラグジュアリーな空間と高層界からの眺望が魅力のイタリアン。一見すると共通項がないようにも思える2店舗だが、店舗づくりのコンセプトは一貫している。
両店舗の食材のルート開拓やメニュー開発は、ゼネラルマネージャーの佐久間 直樹が主担当した。
佐久間 「目指したのは、近隣に住む方々に永く愛されるレストランです。『地場に根付いた店づくり』をコンセプトに掲げ、使用する食材も地場産のもの、あるいはその地ならではの強みを生かした調達方法にこだわりました」
食材の仕入れパートナーの選定には熱が入った。両店舗とも魚介類については、全国のウェディング会場の仕入れでも協力関係にある、華コーポレーション株式会社様に依頼することで即決。一方、川越のレストランで提供する野菜の仕入先パートナーは、新たに開拓する必要があった。そして、埼玉の地で古民家付き農園の運営やファーマーズマーケットを主催している株式会社corot様にたどりつく。
佐久間 「華コーポレーションさんは、本社が豊洲ということもあり、今回の出店を大変喜んでくださいました。またcorotさんは、ご挨拶に伺った日に地元の農園めぐりに連れて行ってくださり、地元の生産者さんとの揺ぎ無い信頼関係を実感することができました。本当に幸運な出会いだったと思っています」
PDP初の「朝どれ食材」の提供が、生産者さんの全面協力により実現
「川越薪火料理 in the park」では、野菜だけでなく豆腐や醤油、豚肉や鶏肉も埼玉県産を使用することにこだわっている。その中でも、とりわけ野菜は「産地直送食材」を調達するハードルが高いと、同店でキッチンのユニットマネージャーを務めるシェフの大谷 洋祐は言う。
大谷 「野菜は、天候によって収穫量が左右されやすい上、複数の農家さんにまたがる流通経路を自力で構築するのは、至難の業です。しかも、私自身も実家が農家なので身に染みて分かっているのですが、農家さんの中にはあまり変化を好まない方も多いです。そういった難しさも、各生産者さんと良好な関係を築いているcorotさんのご協力があったからこそ、乗り越えることができました」
生産者の方々との良好な関係。その結晶とも言えるのが、朝どれの枝豆を使用したランチメニュー(夏季限定)の提供だ。PDPでは、以前から「朝どれ野菜」を使ったメニュー開発を目標の一つに掲げていたが、通常の食材調達の方法でこれを実現するのは困難を極める。ランチの仕込み時間からの逆算で、収穫と集荷の時間を早めて、店舗へ配達。生産者とcorot様の全面的な協力があったからこそ、実現することができた画期的な試みだった。
大谷 「やはり朝どれは、香りや風味がまったく違います。また、地場の食材を使用するメリットは、鮮度の良さに加えて『地元の方がその土地の食材を食す』という自然な行為を後押しできるところにもあると思っています。そこにいかに付加価値を付けることができるかが、料理人として腕の見せどころです。今回、改めて調べ歩いて分かりましたが、川越は食材の宝庫で、食材を絞りきるのが難しいほど。そうした気づきがあるのも、とても楽しいです」
佐久間は、corotの代表・峯岸 祐高氏から聞いたある言葉が強く印象に残っていると言う。
佐久間 「『生産者さんにとって、地元で話題のレストランに作物を納めるのは、大切に育てた我が子に晴れ着を着せて送り出すようなもの』という言葉です。地元住民の方々に愛されると同時に、その土地で食の生産に携わる方々に『仲間に加わりたい』と思っていただける店舗に育てていきたい、という想いを強くしました」
「美味しくて当然」の期待を超える、素材の目利き力・調達力
東京の新たな食の玄関口となった豊洲。この街に立地する「THE PENTHOUSE with weekend terrace」では、毎月産地のテーマを設定し、その地域の食材でメニューを構成している。とりわけ、豊洲市場のお膝元とあって魚貝系の食材に対するお客様の期待値は高い。
佐久間 「華コーポレーションの仙田 貴裕さんの手腕で、お客様の高い期待にお応えできる食材の確保が可能になっています。当社の会場や店舗への愛、さらにはお客様への愛を胸に、いつも全国を駆け回ってくださっています」
大谷 「魚も、野菜と同じで収穫量が一定ではありません。そのため、メニューを提供する期間を通して、いかに安定した仕入値で調達できるかどうかが重要になるのですが、仙田さんにはその点でも本当にご尽力いただいています。仮に目当ての食材が調達できなかった場合の代替案も予め提案してくださるので、とてもありがたく思っています」
こうした背景もあり、「THE PENTHOUSE with weekend terrace」のメニューには、仙田さんの名前を冠した一品も。その名も、「仙田さん目利きの日本各地のアジ」。日本近海に約150種生息するとされるアジ科の魚の中から、その時期に特に美味しいものを選りすぐって調達、刺身として提供している。
また、メニュー表には、華コーポレーション様を介して食材を卸している仲買4社の名前も最上段に掲載。鮮度の良い食材調達を可能にする「Special partner」として、来店されるお客様にもその存在をアピールしている。
佐久間 「仙田さんのもとには、ほかの仲買様からも社名をぜひ掲載してほしいとの連絡が複数入っていると聞いています。嬉しいですね。
豊洲は、私たちが直接足を運ぶのが難しいエリアの食材が多数集まるところ。仙田さんには、ぜひそれぞれの産地や生産者さんの想いを、私たちにぶつけていただきたいとお願いをしています」
パートナー様とのさらなる関係深化で、末永く愛されるレストランへと育てる
「川越薪火料理 in the park」と「THE PENTHOUSE with weekend terrace」。両店ともオープンから数カ月が経過したが、いずれも多くのお客様のご来店に恵まれ、「近隣に住む方々に愛されるレストラン」としての滑り出しは好調だ。
「川越薪火料理 in the park」では、10月よりcorot様の全面協力のもと、毎週日曜日(8:00~10:00)に店舗前のペデストリアンデッキを活用した「in the park朝イチマルシェ」の取り組みをスタートさせた。生産者と地元の消費者を結ぶ試みは、佐久間や大谷が6月のオープン当初から企画として温めていたもの。また、シェフの大谷の頭の中には、既に次なるアイデアがあると言う。
大谷 「店舗のすぐ近くでお米もとれるので、新米のシーズンには、その日精米したてのご飯を味わっていただけるような企画を実現したいですね。本当に、びっくりする美味しさですよ」
一方の「THE PENTHOUSE with weekend terrace」では、地域をテーマにした素材を楽しむことができるコース料理を、8~9月は東北、10月は愛知県・静岡県で展開してきた。今後もシーズンに合わせたテーマを設定し、全国の「産地食材」の魅力を、華コーポレーション様をはじめとするパートナー様の協力を得ながら発信していく。
佐久間 「今回、2店舗ともに『地場に根付いた店づくり』というコンセプトを貫いたことで、『ここでしか味わえない』、『ここだから味わえる』という付加価値を獲得することができたと感じています。ここでの学びを、今後のレストラン開発にも生かしていきたいと考えています」
「近隣の方々に愛されるレストランを」。その想いに共感し、知恵を絞ってくださるパートナー様とのタッグにより生み出すことができた2軒のレストラン。今後も、何度でも足を運びたくなる場づくりを念頭に、佐久間と大谷、そしてメンバーのチャレンジは続いていく。