自己分析で見つけた自分のやりたいこと

木下 雄斗が所属する、コネクティッドソリューションズ社は、パナソニックの社内カンパニーで、課題解決に寄与する先進的な技術を生かしたソリューションを提供しています。

木下 「私がいる海外ソリューション推進室では、日本で成果をだしているソリューションを海外向けにビジネス展開しています。あるいは、海外のベンチャーと協業しサービスを拡げる手伝いをするといったこともしていますね」

投資に関わる業務もあれば、現地の人材をトレーニングする業務もある。幅広い業務に携わることで、彼は事業家としての力を育んでいます。

そんな環境に身を置くきっかけになったのは、起業家だった祖父の影響がありました。

木下 「祖父から『自分で何かに挑戦することの面白さ』を聞いて育ったんです。祖父にあこがれていた私は、何か成し遂げたいという熱はあったのですが当時明確にやりたいことがあったわけではありませんでした。

祖父によくいわれていたのが『まず大企業に入りなさい』という言葉。大企業にはいろんなスキルを持った人がいるから、それを盗めばいいというんですね」

そうした木下が選んだ先が、パナソニック。スキルを持った諸先輩だけでなく、自分が挑戦すべきことに真摯に向き合う機会があったと言います。

木下 「入社1年目のとき、予防医学研究社の石川 善樹さんをパナソニックにお招きし、新規事業を企画するというプログラムがあったんです。自分の中からやりたいことを見つけないといけないという気持ちがあったので応募しました」

プログラムでは、自己分析を通して自身のwill(やりたいこと)を見つけるという時間がありました。

木下 「これまでの人生を振り返ったとき、自分の中に『旅』というキーワードがあったんです。一番古い記憶では5歳の頃に電車で隣町へ行ったこと。今でも鮮明に覚えています。好奇心に身をゆだねて冒険みたいな感じで旅ができたんです」

木下はその後も、自転車で大阪から東京までを走破したり、海外を渡り歩いたりと旅を続けてきました。人生を通して「旅」と向き合ってきた木下は「旅するライフスタイル」を広める事業を作りたいと考えたのです。

木下 「旅行をライフスタイルに組み込むよう文化を根付かせたいと思ったんです。そのイメージを具現化しようとリサーチする中で『Vanlife』という、スタイルをインスタグラムで見つけました。

限られたスペースを自分の個性に合わせておしゃれにカスタマイズするんです。移動し続けることで常に新しいものに触れられるという生き方にあこがれました」

多様な価値感に触れた社外のイノベーター育成プログラム

その後、木下は自らのイメージを形にするべく、経産省やJETROが主催するイノベーター育成プログラム「始動Next Innovator」に参加します。

木下 「社内のプログラムでもアドバイスをいただいていた社員の方に、『もっとブラッシュアップしたいと思っているなら』と始動のプロジェクトを紹介されたんです。

正直なところプロジェクトの中身よりも、紹介してくれた社員の方の熱量に圧倒された、こんな熱い人が過去に参加し勧めるものならと応募を決めました」

運良くプロジェクトへの参加を決めた木下でしたが、周囲の雰囲気に圧倒され、なかなか前に出ることができなかったといいます。

木下 「正直、前に出ることが好きじゃなかったんです。他の参加者は積極的に質問していく前のめりな人たち。でも冷静に周りを見渡した時に、そういう積極性のある人ほど、どんどん活躍していくんですね。

私が始動で学んだ一番のことは『聞くは一時の恥』という精神です。インプットのレベルもアウトプットのレベルも高い人たちに囲われて、考え方も変わっていきました。自ら課題を見つけ、行動することで、どんどん忙しくなっていきましたね」

主体的に行動することで、自身のビジネスアイデアも膨らんでいきました。BtoBで考えていたビジネスモデルを、BtoCのモデルに発展させるなど可能性をどんどん拡げていきました。しかし、膨らむ一方のアイデアには落とし穴があることも学びました。

木下 「講演に訪れた秋元 康さんが、幕の内弁当みたいに、いろんなおかずがあるものっていうのはみんなの頭に残らない。だからまずはハンバーグ弁当とか、何かひとつ目玉商品を提供するようにならないといけない。

ゆくゆくは『あの』がつく、『あのハンバーグ弁当』と名指しされるようになるべきだとおっしゃっていて。自分自身、その時までに作っていたサービスはめちゃくちゃ幕内弁当だと思って、プランを見直すきっかけになりました。

一線で活躍されている方の意見や同世代で企業しているメンバーなど、始動プロジェクトに参加することで本当にたくさんの刺激を受けました」

起業に欠かせない自分以外の視点

木下は6カ月間の始動プログラムを通し、自ら主体的に行動する習慣を身に着けるだけでなく、ビジネスを立ち上げるために最も重要な視点を学んでいきます。

木下 「プログラムの中で何度かのピッチがあったのですが、中間時点のピッチでは、自分の想像力の足りなさから多くの指摘を審査員から受けてしまいました。お客さんの目線に立ったら普通に思い浮かぶようなことに対する答えが用意できていなかったんです」

お客様へのヒアリングが欠けていたのは、木下なりの考えがあったからでした。

木下 「私の描くビジネスは、そもそもは自分が愛しているもの、好きことを人に届けて共感を生み出し、拡げていこうとするものです。世の中にある社会課題や悩みの解決を目指すビジネスとはアプローチの仕方が異なります。

自分の場合は、心の奥にあるパッションのかけらみたいなもの形作って、それを強く押し出すことでビジネスを作るものだと思っていたんですね。

ただ、実際にビジネスとして成り立たせる上では、自分が愛するプロダクトやサービスが他人にも受け入れられるものかどうか、しっかり検証する必要があったのだと反省しました」

こうした経験を経て、プログラムが終了する最終ピッチまでのあいだに、木下は潜在的なユーザーへのヒアリングを重ねていきました。意見をビジネスモデルに反映できるだけでなく、思わぬ効果があったと言います。

木下 「ユーザーの反応、自分以外の他者の声を得ることで、自分のアイデアにより自信を持てるようになったんです。富士山のふもとで知人を連れてキャンプをしながら仕事をしていたときのことです。富士山を見ながら仕事をしていると「心の中に自然を持つことができる」とその知人はいうんです。

心にゆとりを持てるというんですね。人によって感性が異なるから、自分とは違う視点、違う言葉で『Vanlife』の良さを表現してくれる。その一連の体験がストーリーになって、僕が描くビジネスモデルの説得力を強めてくれるのだと思うんです」

夢を追うことで見出した自分の生き方

始動プログラムを卒業した木下は、クラウドファウンディングを開始しました。バンを「稼(可)動資産」と定義して、一台ずつ投資家から資金を集め購入し、それをレンタルするという事業の実現を目指しています。

木下 「まずはお客様に提供できるレベルのプロトタイプの制作を進めています。オーダーメイドの家具職人さんなどへ依頼し、内装を整えていく予定です。

サービスとして提供できるようになってはじめて、ビジネスモデルをアップデートさせていくステージに進める。最終的なゴールは文化を作ることですから、賛同者を増やし、一歩ずつ前進していきたいです」

自らのやりたことに出会い、事業を作る楽しさを知った木下。本業であるパナソニック社内でも好影響があったと言います。

木下 「どこから話を聞いたのか分からないんですが、僕の取り組みに対して社内から声をかけてもらうことがあるんです。社内人脈を広げていくきっかけになりましたね」

また、始動プログラムへの参加を通じて、自らが学んだ課題解決型思考を広めるためのワークショップなどを企画しています。背景には、昨今の情勢に対する自分なりの答えがありました。

木下 「リモートが当たり前になっていくこれからの時代って、対面で会うことが前提ではなくなると思うんです。わざわざ会いたいと思ってもらえる魅力的な人間になるにはどうしたらいいんだろうって考えたときに、今に対して真剣である人が魅力的にみえるんだと思うんです。

周りの人に対して今僕が言えること、できることがあるのなら、積極的に発言していく、行動していく。そんな生き方をしていきたいんです」

「Vanlife」を広めたいという想いは、今を真剣に生きる木下にとって、これから先、いくつも抱くやりたいことのひとつに過ぎないのかもしれません。パナソニックの内外で、今度はどんなビジネスを生み出していくのか目が離せません。