体力のあるうちに動き出す重要性

▲にっぽんの温泉100選で17年連続1位に選ばれている名湯「草津温泉」

草津温泉はさまざまなランキングで首位を獲得するなど、今最も人気のある温泉地のひとつ。そのメインターゲットは──

森田 「主に日本の若い人を考えています。そうした方たちに将来、今度は家族で来てもらいたいですね。もしこれを逆に、温泉地をお年寄りや湯治のイメージで捉えていると、早々に先細ってしまいます」

野口 「わたしたち大学生の間でも、温泉地と言えば草津温泉というのが多くなっているように感じます。若い人をターゲットにする際のポイントのようなものはありますか」

森田 「若い人は遊ぶコンテンツに対価が必要だと分かっています。言い換えれば、価値のあるものにはそれなりの値段がかかるのを知っているんです。だからこそ、何に価値を認めてもらえるかを探っていく必要があります。

もちろん失敗したものもたくさんありますが、コンテンツはある程度、数を打たないといけません。
これはその観光地に体力があるうちでないと難しいことです。草津温泉はそれができている土地だと感じます」

野口 「『温泉むすめ』に取り組むきっかけも、その試行錯誤の一環だったのでしょうか?」

森田 「柔軟な考え方が根付いているので、草津温泉はイベントのやりやすい土地だと思っています。とはいえ、何でもかんでもやるわけではありません。実は『温泉むすめ』も最初はよくわからないものとして入ってきてしまったため、イベントを行うまでには至りませんでした」

野口 「では、その転機はなんだったのでしょうか?」

森田 「エンバウンドの代表である橋本さんが直接、草津温泉まで何度か足を運んでくださったことですね。熱意のこもった説明があったからこそ、街の人の理解を得ることができましたし、『よくわからないもの』という印象が解消されました。草津温泉が動き出したのはそこからでした」

野口 「それからは多くのイベントが草津温泉で行われてきました。特定の温泉地で行われた『温泉むすめ』のイベントの数としては他の追随を許さないですよね」

森田 「一過性にならない、ファンの応援が見えてきたことが、イベントの継続につながっています。コラボをやってみて、『来たからには貢献したい』という想いをファンの方が持ってくれていることがわかったのが大きいですね。

これまでには4回のイベントを行いましたが、今後もやっていくつもりです。ちなみに新型コロナウイルスの影響がなければ、すでにもう何回かやれていたはずでした」

『温泉むすめ』のシンボルとしての草津温泉

『温泉むすめ』のお決まりの掛け声『チョイナ』は『草津節』に由来します。また、観光庁への表敬訪問を行った際には、草津 結衣奈役の高田 憂希さんが『温泉むすめ』の代表として選ばれました。

野口 「『温泉むすめ』というコンテンツにおいて、草津 結衣奈ちゃん、ひいては草津温泉はシンボリックな温泉地ですよね」

森田 「街としてのバックアップが足りないくらいの存在感だな、と思っています。同時に温泉地としても、イベントをきっかけに草津温泉を好きになってくれる方が多くいらっしゃいますから、結衣奈ちゃんの力強さを感じています。

ただ、やはりコンテンツとしては、街としてまだまだ届いていないと思っています。結衣奈ちゃんは『ゆもみちゃん』を尊敬してくれているので、絡めて盛り上げていきたいですね」

野口 「街として盛り上げていくうえでの難しさとはなんでしょうか?」

森田 「こういったコンテンツに限らず、世代間ではどうしても得意不得意が出てきます。ですから、動ける人が動いて、街全体を少しずつ納得させて巻き込んでいく必要があります。幸いなことに草津温泉はイベントをやりやすい土地なので、そのギャップを手探りでつかんでいくチャンスとして、イベントを重ねていくことが重要です」

野口 「イベントのやりやすさと定着のしやすさはイコールではないのでしょうか?」

森田 「草津温泉は小さい町ですが、個性豊かな人たちがたくさんいる場所です。そして変化の風が常に吹いている場所だからこそ、大きな風は起こりにくい。

逆に言えば、『温泉むすめ』に効果があることが少しずつ街としても見えてきている今、いずれは変化につながっていくと思っています。一足飛びにはできないですが、地道に進めていくことが一番の近道になります」

『集客』と『人材』という両輪

▲草津温泉でのロケの模様。この小さい一歩から温泉むすめと草津温泉は始まった。

このように、街としての結束を高めていこうという気運も高まり、うまくいっているように思える草津温泉。しかし、ある課題を抱えていました。

野口 「今、草津温泉の直面している課題はありますか?」

森田 「大変うれしいことに、草津温泉には多くの観光客が訪れています。それがむしろ今、お客さんが『来すぎている』レベルなんです。観光客は来てくれているけれど、その数に対して現地の人が圧倒的に足りていないという実情があります。現に、湯畑の周囲を中心にしてオーバーツーリズムになりかけているんです」

野口 「確かに、湯畑の周りはいつ訪れても老若男女問わずとてもたくさんの方々がいらっしゃいますよね」

森田 「今はそれでも何とか回っているのですが、このままではいずれ人手が足りなくなり、サービスが低下します。そしてサービスが低下すると観光客が来なくなってしまう。そのときが訪れてしまうのは絶対に避けなければなりません」

野口 「観光業での人手不足は、なにかと耳にする話です。人気の高い温泉地であってもその事情は変わらないのですね」

森田 「観光業はやりがいも大きい仕事ではありますが、その分大変なことも多いです。憧れだけではなかなか難しい仕事だと思います」

野口 「どちらかと言えば地域活性を考えるうえで、観光客を呼ぶ方法についての議論が多くあるように感じます」

森田 「確かに、いかにして観光客に来てもらうか、という危機感が世の中的には多いように思います。もちろんそういう視点も大切です。お客さんが来てくれなければ成り立たないわけですから。しかし、観光地においては『集客』と『人材』を両輪で考えていかないといけません」

野口 「『集客』に見合った『人材』が現地にそろっていること。そこのバランスをどのように取っていくかが重要になるのですね」

森田 「どちらかというと『集客』の比重が大きい観光地が多い中、草津温泉では『人材』不足のほうが顕在化していますし、問題意識としても強いです。

ただ、『温泉むすめ』のファンの方たちはキャラクターにとどまらず、温泉地そのものを応援してくださる方が多くて。観光地としての温泉地を知ってもらうことの先に、『温泉地』を知ってもらうところまでできればいいな、と思います」

野口 「『温泉むすめ』は『集客』だけでなく『人材』にも活用できるのでしょうか?」

森田 「少しずつ前例も出てきましたが、温泉地がまとまるきっかけとしてうってつけなコンテンツだと思います。もちろん、イベントを考えていきたい、という温泉地にもぴったりですね。なにか動こうというときに、『温泉むすめ』は良い軸になっていくと思います」

「温泉むすめ」の草津結衣奈がもたらす未来

野口 「これまでのお話を踏まえたうえでお伺いしますが、草津温泉において『温泉むすめ』に取り組む目的とはなんでしょうか?」

森田 「今の草津温泉は、営業をするよりも、営業をされることのほうが比率としてとても大きいんです。そうなると自然に、自分たちから動くハードルが高くなっていきます。

湯畑を筆頭に、温泉そのもののコンテンツ力が強すぎる上に、すでに『ゆもみちゃん』というキャラクターがいますから、どうしても『温泉むすめ、なくても良くない?』という意見は出てきます」

野口 「だからこそ、成果を積み上げていくことが必要になるのですね」

森田 「はい。そうしてイベントを重ねていく中で、少しずつ街に浸透していけばいずれ『ゆもみちゃん』と同じような立場にはなれるとは思います。

『ゆもみちゃん』のグッズと並んで結衣奈ちゃんのグッズがお土産屋さんに並んでいる……というような形であれば、地道な積み重ねの先に、きっと定着はするでしょう。
ですが、『温泉むすめ』とはそういうものではないと私は考えています」

野口 「その土地に根付くことがゴールではないということでしょうか?」

森田 「『温泉むすめ』のおもしろさは、ひとつの温泉地だけではなく、全国に広がっているところにあります。草津温泉は良くも悪くも『草津温泉』というプライドを持っているので、草津温泉だけで物事を考えることが多いです。

しかし、日本全国のさまざまな温泉地もそれぞれが誇る魅力を持っています。草津温泉にとって『温泉むすめ』は、それらをお互いに認めていける糸口になるのではないかと思っています」

野口 「特定の温泉地ではなく、温泉全体として盛り上がっていくのですね」

森田 「草津温泉の場合、危機感は充分に持っています。それを温泉むすめがきっかけにしていい方向に生かしていきたいですね。この先、温泉地同士が手を組んで、お互いのいいところを見つけていければいいなと思います。

そのつなぎ手として『温泉むすめ』は最適だと思いますし、いずれは『広域の観光資源』になっていくように思います。
まずは近い将来、草津温泉として群馬県の『温泉むすめ』キャラが集まるイベントをやりたいな、と思っています」

地域観光の抱える課題はさまざまですが、過密状態になる『オーバーツーリズム』はこの新時代における大きな課題のひとつと言えます。

さらに今の集客が将来の集客に繋がる保証はなく、現状の課題を認識した上で長期的な視野で解決に取り組む必要があることを草津温泉から教わりました。

温泉むすめは、そんな解決策のひとつである「観光地(温泉地)の広域連携」のきっかけになれるコンテンツを目指してゆきます。