未曾有の試練のときだからこそ、できる支援や活動がある

▲箱根芦ノ湖の施設にあるキャラクターを祭った温泉むすめコーナーの様子。

2020年現在、コロナ禍が続く中、九州地方をはじめとした豪雨などの自然災害にも見舞われ、世の中全体が重苦しい空気に包まれています。『温泉むすめ』総合プロデューサーである橋本は痛ましい現状を受け止めつつ、「今、われわれに何ができるのか?」を常に念頭に置きながら動き続けています。

渡辺 「2020年も残り数カ月となりました。今も続くコロナ禍の猛威により、観光業は深刻なダメージを受け、もとの状態に戻るには長い年月がかかりそうです。『温泉むすめ』も4月より温泉地を応援すべく、ウェブラジオ『こちら温泉むすめ観光案内所』が始まりましたが、リアルでのイベント開催は2020年2月以降行われておりません。また、九州地方をはじめとした豪雨などの災害により、温泉地も断続的に被害を受けています。本当に試練のときだと否応なく感じさせられます」

橋本 「Go Toトラベルキャンペーンにより、観光業は回復の兆しが見え始めたかと思われましたが、東京除外により効果は限定的となっており、期待通りの展開には到っておりません。さらに外出自粛を受けて、リアルイベントはすべて様子見としており、ウェブラジオによる温泉地情報の発信以外に何ができるのかを日々模索しています。そうした中での豪雨災害は追い打ちをかけるものとなりました」

渡辺 「由布市では『温泉むすめ』のキーマンの方が…」

橋本 「はい…。大分県由布市の湯平温泉の旅館『つるや隠宅』の渡辺 健太氏を失ったことは大変ショックでした。将来のリーダー的存在として期待されていただけに、まさに痛恨の極みです。衷心よりご冥福をお祈りしております」

渡辺 「こうした厳しい現状を受けて、各地での復興支援にも取り組まれているようですね」

橋本 「はい。先ほどのお話のあった湯平温泉観光協会様には、弊社より温泉むすめグッズ一式を寄贈させていただき、復興のきっかけになればと考えています。あわせて温泉地向けの応援歌の制作を進めておりまして、これからもコンテンツやキャラクターを活用した復興支援を各所で準備中です」

渡辺 「決して歩みを止めず、今できる精一杯のことを取り組まれている姿勢からは、橋本さんの持ち前の熱量と誠意を感じます」

「新しい生活様式」を意識した上で、温泉地の活性化をどう実現するか

厳しい現状に向き合う地域からは、『温泉むすめ』だけでなく橋本個人に寄せられる期待が日々高まっています。それらを受け、地域の実情に合わせた新たな展開を具現化すべく、着々と準備を進めています。

渡辺 「コロナ禍が生んだ副産物として、在宅勤務をはじめとしたテレワークやオンライン授業の展開など、『新しい生活様式』を意識した環境へ急ハンドルを切った状態で今日を迎えています。橋本さんはコロナ終息後の温泉地のあり方など、どのようにお考えでしょうか?」

橋本 「現在、ある温泉地で、ワーケーションや『未来の旅館のあるべき姿』をテーマにした改革を進めています。ほかにも旅館や地域にある施設そのものをベースとして、さらなる地域貢献ができないか、さらには地域の抱える課題解決の手段として、豊かな資源を有する温泉地や旅館、そしてコンテンツがなんらかの役目を果たすことができればと、折々に現地へ足を運び、地元の方と折衝を重ねています。

たとえば、コロナ禍以前においても、平日の旅館の稼働率は週末に比べて決して高くはありませんでした。そこで平日の旅館をもっと違った形で利用できるようにインフラの整備も含めて、将来インバウンド需要が回復した後も見据えて、官民問わずさまざまな方と意見交換や協議を進めています」

渡辺 「確かに、多くの旅館において、平日の稼働率が高くはないことは周知の事実かと思います。また、コロナが終息しても、もとの生活スタイルには戻らない可能性も挙げられます」

橋本 「本来ならば国が主導となってもっと積極的に旅館や観光施設の利活用を行うべきかと思いますが、現状の政局が安定しない中では弊社のような民が主導する必要性があると感じています。とくに弊社のプロジェクトは全国を網羅的に支援している前例のないものとなりますので、その分、地域の課題もダイレクトに現場から入ってきます。

コンテンツの力だけでなく、時代のニーズに合った新しい旅や観光のスタイルを温泉地に提案することは、自らの意思で関わったわれわれの責務だと考えています。そうして実験的なチャレンジを重ねていくうちに、他の観光地にも情報が波及し、最終的には全国の温泉地に少なからず影響を及ぼすことができるのではと考えています」

各温泉地に新しいムーブメントを起こす『温泉むすめ』

▲温泉むすめコーナーにはファンから寄贈されたグッズが展示され、祭壇となっている。

渡辺 「コロナ禍にあっても、直近の例を挙げると、渋温泉(長野県)の『温泉むすめ×渋温泉『金具屋』コラボ宿泊プラン』の販売や、三朝温泉(鳥取県)の『温泉むすめ×三朝温泉『旬彩の宿いわゆ』コラボ宿泊プラン』など、歴史ある温泉地でコロナ禍以前よりも積極的な展開が散見されます。そもそもこうしたことができるのも、地元の方との信頼関係があってのことと思われます」

橋本 「われわれのような新参者が長い歴史を持つ温泉地の皆さんと信頼関係を築くことは、一朝一夕でできるものではなく、個人的には誠意と理念、このふたつに尽きると思います。現在、多くの温泉地からオファーが届いているのも、立ち上げから3年半の間、ひたすら実直に地域の復興と活性化を願ってきたことが、各地に伝わったのではないかと考えています。

加えて、ファンの皆様が積極的に現地に通ってくださり、コミュニケーションを取ることで温泉地のやる気スイッチが入り、その結果、弊社にコンタクトが届くことで、まずは試しにキャラクターの等身大パネルを置くことからお付き合いがスタートする例が増えてきています」

渡辺 「やはり等身大パネルはインパクトがありますね。私自身、折々に学会や論文雑誌にも発表していますが、『温泉むすめ』最大の特徴は等身大パネルの圧倒的な多さです。それが温泉地のひとつの記号となり、温泉地における看板娘的な役割を担いつつあるようにも捉えられます。いずれにせよ、等身大パネルやグッズなど、『温泉むすめ』から生み出される事象が、各温泉地に新しいムーブメントを起こしていることは確かです」

橋本 「『温泉むすめ』のキャラクターは下級の神様という設定ですので、等身大パネルはいわば『温泉の神様』の顕現です。だからこそ、聖地巡礼のように、ファンの方が各温泉地を巡ってきた証として、他の温泉地のキャラクター缶バッチなどを“奉納”していかれます」

渡辺 「確かにファンの方々が、遠く離れた温泉地から別の温泉地にキャラクターグッズを“奉納”されていることを拝見して、驚いております」

橋本 「等身大パネルが地元やファンの方に認知され、愛されることも『温泉むすめ』の目指すべき姿のひとつです」

地域主導とともに誰もが喜び、実感できる、さらなる展開へ

現在、123体のキャラクターが全国各地で展開されています。地域が実動するきっかけとして、橋本はさらに走り続けます。

渡辺 「今までいろいろなお話を伺ってきましたが、その中で橋本さんは『温泉むすめ』の展開はまだ序章に過ぎないということを何度かおっしゃっています。あらためてお聞きしますが、次の展開へ向かうに当たって、どのようなビジョンを描いていらっしゃるのでしょうか?」

橋本 「コンテンツによる地域活性は、まだまだ考察の必要な未知の領域です。しかしながら、この3年半でコンテンツの持つポテンシャルと地域の持つポテンシャルの両方を肌で感じてきました。一見すると交わることのなさそうなもの同士を掛け合わせることで、大きな発見と小さくはありますが確実なムーブメントが起きました。今後はこの掛け算をさらに増やし、『コンテンツ×地域×〇〇』のように新しい方程式とシナジーを増やしていきます。たとえば、過去のインタビューで何度かお話ししている、コンテンツ×地域×VRなどです」

渡辺 「すでに3Dキャラクターによるライブパフォーマンスも実施され、未来に向けた準備も進んでいますね」

橋本 「さらに要素を分解すると、『温泉むすめ』はさまざまなキーワードでできています。キャラクター、声優、イラストレーター、音楽、物語。さらに温泉地には歴史や伝説、伝統など、観光資源以外にそもそも持っている古(いにしえ)の優良なコンテンツがあります。それらのキーワードやコンテンツを掛け合わせることで、さらなる広がりを生むことが可能です」

渡辺 「『温泉むすめ』が地域に眠る優良コンテンツを発掘するためのきっかけになるということですね。さらに新しい技術をも取り入れながら、コンテンツ自体が地域に根付いていくのと同時に、橋本さん自身は観光業界や旅館業そのものを下支えしていくための提案や改革を進めていらっしゃいます」

橋本 「道は険しいですが、それでも温泉むすめが照らした光の先を自分自身も見たいと思っています」

渡辺 「私もアカデミックの立場から、引き続き『温泉むすめ』に関する研究を重ねて参ります。今までさまざまな方と対談させていただいたこと、非常に光栄です」

橋本 「こちらこそ、私も大変有意義でした」

引き続き、コロナ禍に負けず『温泉むすめ』の展開は続いていきます。そして「新しい生活様式」の中でも関わる皆様に喜びや感動を与えて参ります。