互いの思考や価値観がシンクロし、キャラクターは動き出した

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▲らぐほのえりか氏が手掛けたキービジュアル。浴衣のデザインもキャラクターに合わせて氏が考案している

現在、123体ものキャラクターを擁する『温泉むすめ』ですが、それらを公式Twitter上に『温むす1コマ漫画劇場』や『温泉指南マンガ「温泉に入ろう!」』(4コマ漫画)として発表し、そのほか、CDジャケットやグッズイラストなどさまざまな形で物語の世界観やキャラクターの魅力を表現しているのが、イラストレーターや漫画家として活躍されているらぐほのえりか氏です。

渡辺 「私も折々に『温泉むすめ』公式Twitterで、らぐほ先生の『温むす1コマ漫画劇場』や『温泉指南マンガ「温泉に入ろう!」』を楽しくもほっこりした気持ちで拝見させていただいています」

そのほかにもさまざまな形で『温泉むすめ』のキャラクターを描くらぐほのえりか氏。エンバウンドの橋本との出会いは7年前にさかのぼる。

らぐほ 「あるお仕事でご一緒する機会がありまして、やわらかい物腰ながらクリエイティブで論理的思考が明瞭な方だったという印象でした。以降、『温泉むすめ』やその他のお仕事を通じて、今日までお付き合いさせていただいております」

橋本 「らぐほ先生とは確かクラリオンさんの声優を起用したカーナビ『ダウンロードボイス』制作のころからのお付き合いですね。オリジナルキャラクターを作成する際にさまざまなやりとりをさせていただく中で、らぐほ先生のものづくりやクリエイティブに対する思考、キャラクターに対するこだわり、価値観などに驚嘆したことを今でも覚えています。本当にプロフェッショナルな方だと感じました」

らぐほ 「とても恐縮です。その後、橋本さんがKADOKAWAさんを経て『温泉むすめ』を立ち上げされたときに、『温泉むすめ』のキャラクターを描いてほしいという依頼をいただいた際、一度、お断りしたかと思います」

渡辺 「えっ、それはどういうことでしょうか?」

らぐほ 「『心に残る作品をつくりたい』ということをモットーにしていますが、当時、自身が取り組んでいた作品に力を注いでおりまして……。その部分でリソース的に応えられず、依頼をお断りしました。ただ、その後、再び依頼をいただきまして、しかもこちらの職場近くまでわざわざいらしてくださって……。橋本さんのほとばしる熱意に充てられて、何か私にもできるんじゃないかと思い、お引き受けしました」

橋本 「そうでしたね。三顧の礼ではありませんが、めげずにアタックして良かったです(笑)。今では『温泉むすめ』のキャラクター全体を手掛ける、ある意味専属のような形で携わってくださり、大変ありがたく思っています」

「かわいい」「生き生きとした」キャラクターをいかにして未来まで残すか

『温泉むすめ』のさまざまなキャラクターを描いている、らぐほのえりか氏ですが、温泉地やファンの方が長く愛してくれるキャラクターをいかにして描くか、常に受け手側の目線に立った姿勢を大切にしながら取り組んでいます。

渡辺 「らぐほ先生は『温泉むすめ』のキャラクターを描かれる上で、気を付けていることなどありますか?」

らぐほ 「基本的に『かわいい』と『生き生きとした』キャラクターを描いていくことを大切にしています。あわせて、キャラ立ちにもかなり意識して取り組んでいます。『温泉むすめ』の持っている世界観を大切にしつつ、受け手の目線に立っていかにインパクトを持たせて表現し、かつ末永くキャラを愛してもらえるかを重視しています」

橋本 「らぐほ先生の描く『温泉むすめ』のキャラクターは、ただ『かわいい』や『生き生きとしている』だけでなく、キャラクター設定や世界観に忠実(正確)なんです。しかもリテイクも少なく、常にクオリティの高いイラストが届きます」

らぐほ 「私自身、コロナ禍前はよく温泉地へ行き、現地に身を置きながらイラストの制作をしていました。それぞれの土地の文化や歴史など最大限に意識して描いていますが、もちろんロジカルな部分だけでは駄目ですし、受け手側にエモーショナルに伝わることを大切にしながら丁寧に描いております」

渡辺 「おふたりのお言葉から、とても高いプロ意識が伺えます。ちなみにらぐほ先生は2020年現在、『温泉むすめ』とともにご自身の作品(『ちかのこ』)も連載中かと思います。締切りなど結構大変そうな気がするのですが、その点はいかがでしょうか?」

らぐほ 「基本的に橋本さんからは、急な締切りの設定などはありませんので、今のところ問題なく、ご依頼の作品は提出できています」

橋本 「漫画家さんやイラストレーターさんの中には、締め切りを過ぎても提出されず、時には音沙汰がなくなることもありますが、らぐほ先生の場合、むしろ締め切りよりもだいぶ余裕を持って提出されますので、非常に助かっています。さまざまなリクエストをいただく温泉地の方にも大変喜んでいただいております」

キャラクターを描く際、いかに作品世界のコンセプトや信念を大切にするか

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▲橋本もお気に入りのCDジャケットイラスト。可愛いだけでなく温泉むすめの本質を捉えた1枚

『温泉むすめ』のキャラクターに対する、らぐほのえりか氏の高いクオリティを維持した描写には、多くの人を引きつける魅力が備わっています。その本質として物語への「コンセプト」や「信念」というキーワードが挙げられます。

渡辺 「橋本さんとらぐほ先生は『温泉むすめ』のキャラクターに関する打ち合わせなど、普段から密なやりとりは行っているのでしょうか?」

橋本 「そうですね。LINEでのやりとりが多く、たまにお電話もさせていただきます。その中でこちら側から詳細な発注内容を提示して、それに沿った形でらぐほ先生がキャラクターを描いてくださいます」

らぐほ 「橋本さんとのやりとりを経て、キャラクターを描く際には『温泉むすめ』キャラクターの『本質とは何か?』を常に念頭に置いています。まずは『温泉むすめ』のコンセプトやキャラクターの持つ個性をしっかり伝えること、つまり受け手に対して『温泉むすめ』のキャラの『手触り感』を感じていただくことを大事にしています。その本質を探るプロセスを何度も重ねることで、初めて作品の核に迫れると考えています」

渡辺 「なるほど。確かに『温泉むすめ』の本質に沿った形でキャラクターを描写していくことで、世界観はより明確となり、その魅力は受け手に伝えやすくなりますね」

らぐほ 「現在インターネットやSNSの普及により、キャラクターがさまざまな方法で発信されておりますが、その一方で漫画家やイラストレーターの表現が『目の前にある共感』に流されている気がしています。イラストレーターは人気商売であるがためにやはりSNSでの影響力が大きく、その情報だけで評価を決める方も中にはいらっしゃいます。

『かわいい』『生き生きとした』形で表現するという、シンプルながらもその軸足からブレないよう、いかに流されずに個性を発揮できるかが大切だと感じています」

橋本 「確かに現在SNSの影響力は強く、近年はとくにフォロワー数やリツイート数でクリエイターの価値が決まっているように感じます。ただ、この価値基準はいずれ廃れて新たな表現媒体が生まれることで、基準そのものが変わると思われます。今後は流行に流されず、本質をとらえられるクリエイターだけが生き残っていくと思います」

らぐほのえりか氏から見た、これからの『温泉むすめ』への期待と存在価値

現在、キャラクターコンテンツが拡大の一途をたどる中、「消費」されるペースも速くなっています。そうした中で、らぐほのえりか氏は『温泉むすめ』のこれからをどのように捉え、キャラクターを描こうとしているのでしょうか。

渡辺「らぐほ先生が『温泉むすめ』のキャラクターを手がけるようになってから、今日までを振り返ると、『温泉むすめ』の変化について、どのように捉えていらっしゃるでしょうか?」

らぐほ 「私が『温泉むすめ』に携わらせていただいてから、さまざまな変化はあったと思います。各温泉地で『温泉むすめ』のキャラクターやコンテンツに対する興味や意識が高まりました。

それにともないグッズの増加や漫画の展開、他業種とのコラボなど、いずれもキャラクターを描かせていただく中で『温泉むすめ』が日進月歩で広がっていると感じています。その中でどのように作家性を出していくか、いろいろ考えているところです」

橋本 「らぐほ先生の描かれる『温泉むすめ』のキャラクターによって、温泉地やファンの方々はより親しみを感じやすくなっているのは間違いないです。今後はらぐほ先生の作家性をより出した表現も、ぜひお願いしたいと思います」

渡辺 「私も同感です。最後に、これからの『温泉むすめ』にはどのような期待をお持ちでしょうか?」

らぐほ 「はい、多種多様なメディア媒体が展開していく現況の中、時代のニーズに応えつつも『温泉むすめ』のキャラクターをいかにして『心に残る作品』として描いていくか、この点は変わらない根幹です。また、温泉地やファンの方に『消費される』キャラクターではなく、『継続的に愛される』キャラクターとしてどう描いていくか考えています。

これからも『温泉むすめ』を近江商人のような『三方よし』として展開し、コロナ禍に負けずにその存在価値をより高めていくと信じていますので、引き続き橋本さんのクリエイティブに対するこだわりを具現化し、少しでもそのお役に立てれば幸いです」

三方よしをコンセプトとする運営と、その想いをキャラクターという図像として全身全霊で表現するクリエイターに支えられて、『温泉むすめ』はこれからも新しい時代に向けて発展していきます。