不思議な「縁」とともに『温泉むすめ』の原作は動き始めた

▲佐藤氏が手掛けた原作小説「温泉むすめ 神さまだけどアイドルはじめます!」KADOKAWA刊

2020年現在、さまざまな形で『温泉むすめ』プロジェクトは展開していますが、その源として原作小説『温泉むすめ 神さまだけどアイドルはじめます!』(2017年12月KADOKAWA)の存在は欠かせません。それを手掛けたのが佐藤 寿昭氏でした。

渡辺 「2019年3月に開催された『温泉むすめ 第5回関係者トーク&下呂美月誕生祭』に佐藤さんが原作作家として登壇されていましたね。『温泉むすめ』のストーリーや設定など、舞台裏に関わるお話をたくさんされていて、会場にいた私も大変興味深く聞かせていただきました」
佐藤 「ありがとうございます。当時は初めて『温泉むすめ』のイベントに登壇して、非常に緊張していました。原作小説の『温泉むすめ』を軸に、現在はドラマCDやイベント時における朗読劇の脚本、原作コミックのプロット作成から監修に至るまで幅広く担当しております」
渡辺 「『温泉むすめ』の原型をつくった佐藤さんと橋本さんとの出会いはどのようなものだったのでしょうか」
佐藤 「2017年に、内閣府によるクールジャパン戦略の一環として行われたイベントで、初めて橋本さんに出会いました。当時、僕はほかのコンテンツに携わっていたのですが、たまたま会場内のブースが『温泉むすめ』と隣同士で、それが橋本さんとお話するきっかけでした」
橋本 「あのときは第一回目のイベントということもあり、来場者も少なく時間に余裕がありましたので、結構な時間立ち話をしましたね。ちなみに、弊社ブースの向かいには今治タオルで有名な『IKEUCHI ORGANIC』さんのブースがあり、現エンバウンドのアシスタントプロデューサーである岡本もいました」
渡辺 「それはそれで驚きですね。たまたまブースが隣同士だったということですが、不思議なご縁ですね。もし隣同士でなければ、今日のような『温泉むすめ』の物語もひょっとしたら、誕生していなかったかもしれませんね」
橋本 「はい。今振り返ると、不思議なご縁だったと思います。佐藤さんに出会う前までは自分がコミックなどのプロットを書いておりまして、佐藤さんの圧倒的な記憶力とセンス、日本の歴史や文化への造詣がなければ、ここまでしっかりとした世界観の構築に至らなかった可能性もあります」

原作から派生するさまざまな展開──具体的な輪郭形成までのプロセス──

創造者と原作者。立場や考えの違うふたりが『温泉むすめ』というひとつの世界観を構築しています。

渡辺 「原作小説『温泉むすめ』から生み出された世界観を、実際のイベントやライブ、ドラマCDなどに反映するために、佐藤さんと橋本さんは綿密にやり取りしているそうですが、どのように行われているのでしょうか?」
橋本 「温泉むすめの立ち上げ時に、核となる『温泉むすめ』の世界観や設定は自分がつくっていますので、それを佐藤さんに肉付けしていただく形です」
渡辺 「そうなのですね。ちなみに佐藤さんが『温泉むすめ』の世界観について輪郭を形づくるときに、影響を受けた作品はあるのでしょうか?」
佐藤 「『こういう雰囲気にしたいな』と思って参考にしている作品は複数あります。また、『温泉むすめ』のキャラクターは各温泉地に住む下級の神様という設定ですので、それぞれの温泉地が持つ歴史や文化、そして現在の温泉街のあり方に着想を得ています。温泉地を調べるうちに自然とアイデアが湧いてくることも多いですね」
渡辺 「現在、『温泉むすめ』のキャラクターは123体生み出されていますが、その途上で難産だったことはあるのでしょうか?」
佐藤 「キャラクター制作に関してはいつも楽しくやらせてもらっているので、難産だと思ったキャラクターはとくにいません。ただ、『温泉むすめ』はキャラクターの人数が圧倒的に多いので、作成の際にはそれぞれのキャラクターの個性が被らないように意識しています。

私が制作や監修を担当したのは2020年6月現在、ユニットに所属していない温泉むすめの一部ですが、修正の指示から『全員のキャラを立ててあげたい』という橋本さんの想いを感じます」
渡辺 「確かに、『温泉むすめ』のキャラクターたちはどれも被らない形でさまざまな個性を持っていますね。ほかにもキャラクター関連で気をつけていることはありますか?」
佐藤 「ユニットに所属していない温泉むすめたちに関しては、サンプルボイスのセリフ作成も自分が担当しているのですが、三つのボイスでそのキャラクターの魅力がなるべく伝わるよう、バランスに気を付けています。

たとえば、1つ目のボイスはそのキャラクターの代表セリフとして、特徴や個性を端的に表現できるように。2つ目のボイスはキャラクターの趣味や特技をモチーフに。3つ目のボイスは前のふたつとのギャップを見せる表現を盛り込むようにしています」

各キャラクターへの熱い想いと柔軟な姿勢を持つことの大切さ

▲同じく佐藤氏が手掛けた原作コミック「温泉むすめ(KADOKAWA刊)」は現在2巻まで発売中。

『温泉むすめ』のキャラクターや物語を語る上で重要な役割を持つキャストたちも世界観の構築に寄与しています。

渡辺 「『温泉むすめ』の世界観を構築していく中で、実際に演じるキャストのキャラクター像と、佐藤さんや橋本さんが思い描いているキャラクター像との間に、認識のズレが発生することはないのでしょうか?」
橋本 「基本的にキャストさんはキャラクターを忠実に演じてくださいますが、よりキャラクターの魅力を表現するためにご意見をいただくことはあります。それが当初の設定とは若干異なったとしても、キャストさんのキャラクター愛を深めることを優先しています」
佐藤 「設定はあくまで設定であって、それを演じ手であるキャストがどう読み取り、確立していくか。それぞれのキャストが担当するキャラに真摯に向き合っていますので、つくり手としては問題ありません」
渡辺 「なるほど。キャラクターに対して常に向き合っているのはキャストさんであり、だからこそ一番理解しているということですね」
渡辺 「佐藤さんや橋本さんに対して、キャスト側からキャラクター設定に関する問い合わせが届くことはあるのでしょうか?」
佐藤 「頻繁ではありませんが、たまにそうした問い合わせもあります。大半は現場で判断しますが、もし演じる上でわかりにくい部分などがあれば、確認の連絡が来て、適宜そのキャラクターの設定について説明しています。

また、収録に合わせてキャラクターの設定書を作成し、各キャストに事前にお送りするようにしています。それ以外は、基本的にキャストの感性や捉え方にお任せしています」
渡辺 「柔軟な形で対応されていて、それが逆に『温泉むすめ』のキャラクターとしてのより良い個性として表出しているのかもしれませんね」
橋本 「キャストからあがってくる問い合わせに関しては、社内の監修担当である片岡を中心に現場でその都度判断しています。もしそれでも判断に迷った場合には、自分に確認をするようにお願いしています。

普段、あまり表には出ませんが、温泉むすめの世界観とキャラクターを監修する片岡が佐藤さんと密に連携を取って、大きなブレがないように努めています」

地域の特性を生かした上での、さらなる作品世界の進化と深化

地域のリクエストをキャラクターに即時反映させる、発展型コンテンツ『温泉むすめ』は唯一無二の進化を続けています。

渡辺 「『温泉むすめ』は温泉という伝統文化を主軸として、キャラクターコンテンツを用いて温泉地を美少女キャラとして擬人化し、その魅力を伝えています。今後、原作小説や脚本などを進めていく上で、さらなる展望を聞かせていただけますか?」
佐藤 「原作小説の『温泉むすめ』はコミックの『温泉むすめ』とも差異がありますし、活字でしか伝えられない魅力もあります。たとえば、『温泉』と『温泉地』といった使い分けなど、とても細かな点も含めて意識をしています。

折々のイベントやライブの開催、ドラマCDの作成などにも原作の世界観をより反映していきたいです。また、各温泉地の特徴をさらに吸い上げて『温泉むすめ』の世界観を広げたいと考えています」

プロジェクトを牽引する橋本は、地域の想いや現状をしっかり受け止めつつ、『温泉むすめ』の世界観をより充実させ、展開していくことが重要だと考えています。

橋本 「たとえば、現在『温泉むすめ』の利活用で一番盛り上がっている福島県・福島市にある飯坂温泉のキャラクター『飯坂 真尋』は、現地の要望を反映させてキャラクターの好きなものに飯坂名物である『インデアン』を追加しました。

また、愛媛県今治市にある鈍川温泉のキャラクター『鈍川 まなみ』も現地でeスポーツが盛んという今を反映して趣味に『ゲーム』が追加されています。 このようにキャラクターと相対するキャストだけでなく、『温泉むすめ』に携わる皆さんの想いが、『温泉むすめ』という物語やキャラクターを進化させています」
渡辺 「核となる『温泉むすめ』の物語世界を創造する橋本さん。その輪郭を形づくるべく小説や脚本を手掛ける佐藤さん。物語の世界観の一翼を担い、自己解釈のもとキャラクターに命を吹き込むキャストさん。そして『温泉むすめ』を受け入れ、発展させる地域の方々──それぞれの熱い想いが、化学変化を起こして大きなうねりとなっていますね。

これからアフターコロナのために地域観光を促進する様々なキャンペーンが展開されようとしていますが、『温泉むすめ』の物語が地域を救う日もそう遠くないように感じます」

原作小説や脚本という、活字の世界から紡ぎ出される『温泉むすめ』の世界。そこに携わるさまざまな人たちの熱い想いによって、『温泉むすめ』はますます進化(深化)を遂げることでしょう。