熱量の「共鳴」がプロジェクトを力強くけん引していく

▲現在、吉村氏がキャスティングを担当した123名の声優が温泉むすめに参加している

2017年3月、地方創生のひとつの形として始まった『温泉むすめ』プロジェクト。2020年4月からインターネット専用ラジオ『温泉むすめ観光案内所』(略して『こち温』)を開始しました。新型コロナウイルス対策のため、三密に配慮しながらラジオ収録を行い、すでに第8回目の配信を終えました(6月15日現在)。

渡辺 「『こち温』、毎回楽しみにしながら聞いています。リアルイベントの際、MCをされている吉村さんを何度となく拝見していますが、声優のキャスティングを始め、声優のマネジメントや音響監督など幅広い業務をされていらっしゃいますね」

現在の『温泉むすめ』を形作った橋本と吉村氏。その出会いはどのようなものだったのか。

吉村 「橋本さんとは十年近くになるかと思います。現在、代表を務めているオブジェクトの以前の職場時代からのつながりです。そのころは他の声優事務所で制作とマネージャー業を兼任していました」
橋本 「吉村さんとは仕事仲間を通じて知り合いました。あのころ、Vtuberのような声優が演じる3Dキャラクターから、IP電話回線網を通して本当にモーニングコールが届くという、今考えると早すぎるサービスをフランスでつくっていまして、そのキャスティングが相談できる方として紹介いただきました。そのやり取り以来、現在まで関係が続いています」

吉村氏は、橋本と対面し、どのような印象を受けたのか。

吉村 「私自身、橋本さんの常に刺激的なコンテンツを生み出している姿にとても共感してご協力させていただきました。従来の業界でやって来たことと一線を画した形で、制作側の自己満足ではない、将来性のあるコンテンツをつくっている方だなと印象を受けました」
橋本 「キャスティングだけでなく、ライブやイベントの演出、ときにはMCまで担当してくださる吉村さんのマルチスキルがあってこそ、現在の『温泉むすめ』プロジェクトもここまで進められたと言えますね」

キャストの個性を真摯に受け止め、コンテンツの魅力をさらに高めていく

現在、123名のキャストを要する『温泉むすめ』プロジェクトはまさに「大所帯」と言えるだろう。そこにはキャスト一人ひとりの個性を真摯に受け止める橋本と吉村氏両名の確固たる想いも伺える。

渡辺 「『温泉むすめ』のキャラクターの中には、まだ実動していないキャラクターもいます。そうしたキャラのキャストさんからは、おふたりに何か想いを伝えるといったことはあるのかは気になるところです」
橋本 「ときにはそうした想いを伝えるキャストさんもいます。有り難いことにキャストの熱量も高く、担当するキャラクターの温泉地はもとより、その他の温泉地にも自主的に行って現地の雰囲気を吸収している方もいますね。その想いに少しでも応えられるように、日々動いています」
吉村 「キャストは担当キャラクターの声を演じることで仕事としては成立しますが、実在する温泉地に興味を持ち『訪れる』『調べる』『魅力を伝える』といったプラスαのものを、自主的に吸収し発信するという姿勢は『温泉むすめ』のキャストには多いように感じます」
渡辺 「そうしたキャストさんの姿勢は、橋本さんと吉村さんおふたりの背中(熱量)を見て触発されているのかも知れませんね。実際にSNSなどを見ると、キャラクターを演じただけで終わらないプラスαの探究心が発信に表れていることが感じられます」

一方で橋本はプラスαの探究心を大事にするキャスト陣を見て刺激され、現在、声優によるeスポーツチーム『声優e-Sports部』を展開して、イベントを行っている。

橋本 「2019年11月に発足し、まずは横浜でファンと一緒にゲームプレイが楽しめるリアルイベントを開催しました。現在、第2期生が入部し、YouTubeでのゲーム実況などを中心に活動を行っています。こちらのキャスティングに関しても吉村さんが動いてくれています」
渡辺 「吉村さんはこうした展開について、キャスティングの面からどのように支えていらっしゃるのでしょうか?」
吉村 「声優e-Sports部はアニメキャラを演じるのとは違って、声優自身が実況していくわけですから、そこは声優自身の個性をいかに引き出せるかが重要だと思います。

ゲーム実況が次第に慣れていく、それでは次に生放送はどうですか、その次にリアルイベントはどうですかといった、流れに持っていければと考えています」
橋本 「『温泉むすめ』もそうですが、声の仕事以外でも幅広く活躍する声優の成長はコンテンツを企画し、運営していく中でとても重要な役割を果たしています」

地方でのイベントだからこそ得られる「実感」と「刺激」

▲メインユニット「SPRiNGS(スプリングス)」による札幌(Zepp Sapporo)での地方公演の様子

今まで『温泉むすめ』は地方でのイベントを重ねてきたが、そこには大都市圏での大規模イベントでは得られない、大切な要素があった。

渡辺 「すでに『温泉むすめ』が実動して丸三年。その間に地方でのイベントを数多く重ねてきました。そうした中で、おふたりが得た実感や刺激も多かったことと思います」
橋本 「各温泉地でのライブやトークショーといったイベントを通して感じることは、地域の方々やファン、運営者側との距離が近くてアットホームな形で行えることだと言えます。

現在は新型コロナの影響で、リアルイベントをすぐに開催することはかないませんが、収束後の反転攻勢の計画は整えていますので、再び力強く走り出していきたいと思います」
吉村 「運営者側というか、キャストの目線でいうならば、大都市圏での大規模イベントで舞台に立った景色とは明らかに異なります。たとえば、ライブを行った際、スポットライトが当たったステージから客席を見たとき、ファン一人ひとりの顔をきちんと見られる範囲はいうまでもなく限られることが多いです。

大規模になればなるほど、見えづらくなることは演者自身も体感していると思います。そういった点では、より感動や刺激、後は表情が直に伝わりやすいのは全国各地で行ってきたイベント規模の強みですね」
橋本 「ドームなどで行う大規模イベントでは数の多さで圧倒される一方、キャスト目線からすると、ファン一人ひとりの顔は見えづらいでしょうし、吉村さんのいう通り、スポットライトを当てられた状態で観客席を見た場合、これまで全国各地で経験したイベント規模のような距離感は得られないかと思います。

参加したからこそわかる距離感と温かさ。このふたつがあることで地方イベントに多くの方がリピートしてくださっていると感じています」
渡辺 「確かに『温泉むすめ』のイベントは数百人規模での地方イベントを地道に重ねていて、ファンとの距離感は近いですよね。また、ときには老舗旅館の宴会場を始め、京都市の後援を得て、能楽堂でイベントを行ったり、長野県諏訪市にある重要文化財「片倉館」や大分県の別府では座布団のある演芸場で実施したりと地方ならではの趣のある場所で行われていますね。

ドームやアリーナといった空間とは異なる刺激や感動があることも容易に想像できます。そこにはやはりビジネス第一主義や、一過性のブームとは一線を画する『温泉むすめ』の独自姿勢も伺えます」
橋本 「イベントは一期一会。すべてのイベントがファンの皆様にとって貴重でかけがえのない思い出になって欲しいと願いながら制作をしています。キャストもそうした違いをより感じ取って『温泉むすめ』プロジェクトを盛り上げてくれています」

多様化する声優の役割と『温泉むすめ』プロジェクトのさらなる展開

渡辺 「『温泉むすめ』だからこそ得られる刺激や感動というのは地域やファンの方だけではなく、キャストさんを始め運営者側も感じ取っているのだと思います。

そうした内実を踏まえ、『温泉むすめ』のさらなる展開について、キャストさんにはどのような想いを託していらっしゃいますか?」
橋本 「私自身、『温泉むすめ』のキャストに直接指示を出すことはほとんどありませんが、地域主体と共に時代の変化に応じた、継続性のあるコンテンツの展開を大切にしています。『消費されるコンテンツ』ではなく、一つ一つを大事にそうした想いを共有しながら『温泉むすめ』プロジェクトを一緒に盛り上げてもらえれば嬉しいですね」
吉村 「『温泉むすめ』プロジェクトが立ち上がったころ、たとえば、発足したばかりのSPRiNGSはまだまだ業界でいう「新人・若手」の声優が多くいました。

その人選についても多くのアドバイスをさせていただき、実際に橋本さんも意見を受け入れてくれました。それがここまで一人ひとりが声優としてキャリアアップし、代表作を持つまでの人気にいたっていることは、ある意味「先見の明」が求められるキャスティング担当として誇らしく思います。

他にもイベントやレコーディングの際にもいえますが、各人の持ち味をどれだけ引き出していけるのか。多くの声優がいる中で、少しでも多くの『武器』を身につけられるよう、サポートして行ければと考えています。それが『温泉むすめ』のさらなる展開につながるものと捉えています」
渡辺 「多くの声優がいる中で、声を中心に演じつつもどのように個性を発揮していくか、なかなか難しい部分ですね」
吉村 「一昔前の声優シーンとは大きく変わっていて録音スタジオで演じること以外、演じ手として、どのようにして自身を表舞台で表現し、キャラクターを演じる自分をステージで体現すること。

この意識を高めることは役者自身の達成感にもつながりますが、観ているお客さんたちの感動にもつながります。イベント登壇する際はそれぐらい重要度を高く考えて取り組んでくれている印象です」
橋本 「現状としては、キャストの強みを吉村さんの方で最大限に引き出してもらって、その熱量をイベントやライブなどに転換し、皆様にお届けしていると言えます。

2020年5月発足した『温泉むすめ』 落語部も含め、新たな試みも計画中ですので、今後も『温泉むすめ』の展開にご期待いただければ幸いです」
渡辺 「おふたりの描く『温泉むすめ』プロジェクトの今後の展開、いろいろと垣間見られたかと思います。私も一ファンとして、引き続き楽しみにしています」

『温泉むすめ』だからこそ、地域やファンの方だけではなく、キャスト陣を始め運営者側も巻き込んだ刺激や感動がある──ふたりはこれからも二人三脚で前進していきます。