医療事業に関わる意義と責任──世界の人々の健康と安心をめざして

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——現在の部署、お仕事の内容について教えてください。

私は医療事業の知的財産(以降、知財)部門に所属しています。特に消化器系内視鏡システムの光源技術、画像処理技術、プラットフォームを開発する部署の知財担当をしています。

製品はさまざまな技術から構成されていますが、それら固有の技術は特許法によって守られています。特許法の役割は、“発明の保護及び利用を図ることにより、発明を奨励し、もつて産業の発達に寄与する”こと(特許法1条)。つまり、発明を公開してこれを誰もが利用可能とするかわりに、発明者に対して発明を独占的に実施する権利を一定期間与え、産業の発展に貢献することを目的としています。新製品を上市する際、出願する特許の内容をより良いものにするために発明者(開発部門)の方と話し合いを重ねるのが知財部門の主な仕事です。

また、同様の活動を行う競合企業の権利を侵害するようなことがあってはいけません。他社が発明した技術を当社が無断で使ってしまうことがないよう、注目すべき特許を探し出した上でリスクについて議論するなど、安全に製品を世に出すための活動もしています。

——医療機器の知的財産に関わる仕事のどんなところに、魅力ややりがいを感じますか?

内視鏡をはじめとする医療機器を取り扱うことから、間接的であっても、患者様の健康や人生に関われていることに誇りを持って仕事に取り組んでいます。

一方、大きな責任も感じています。もし当社の内視鏡が他社の特許を侵害し、結果として当社の内視鏡が使えなくなってしまった場合、患者様に大変な迷惑をかけることになります。医療機器の特許侵害によるリスクの大きさは計り知れません。人命に関わっているとの意識を常に持って仕事と向き合うように心がけています。

特許の本来の考え方とは相反するかもしれませんが、私が夢見るのは、画期的な技術を独占するのではなく、技術を必要とする医師、その先にいる患者が恩恵を受けられるようにすることです。利益追求を第一に考えるのではなく、当社がOur Purposeとして掲げているように、 “世界の人々の健康と安心、心の豊かさの実現”を最優先に仕事をしていきたいと思っています。そのためには、特定の治療に必要なすべての技術に関して当社が特許を取得していなくてはなりません。患者様はもちろん、他社からも頼りにされるような特許群をつくることが私の究極的な目的です。

技術の裏にある価値、“発明”を深堀りする

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——入社までの経緯はどのようなものでしたか?

大学院で専攻していたのは電気工学ですが、所属していたのは認知脳科学研究室。脳の情報処理メカニズムを解明する医学寄りの研究をする中で患者様の治療に立ち会う経験があり、医療機器に関わって科学と医学の架け橋になるような仕事がしたいと思うようになりました。

知財部門の存在を知ったのは、就職活動中のことです。オリンパスであれば医学と科学の知識を活かしながら、業界に貢献ができると思い、入社を決めました。

——入社後の仕事の内容と、苦労した点、おもしろいと感じた部分があれば教えてください。

1年目は特許出願の内容を読んで、特許とは何かを学びました。特許を出す上では、その技術をどのように表現し申請するかがとても重要なんです。極端な例ですが、工具のバールの特許を出願するとして、その独特の形状について特許申請するのか、てこの原理を応用した工具として特許申請するのかによって守れる技術が大きく異なります。技術の裏にある価値、“発明”が何かを深堀りする訓練を積みました。

発明の権利がどこまで守られるかは、知財部門次第。そんな重要な仕事をしていると感じています。

苦労したことといえば、開発者と話せるレベルまで製品を理解すること。内視鏡システムには光源、画像処理、プラットフォームなどさまざまな技術が搭載されているため、それらを理解する必要がありました。

内視鏡システムの仕事をしていておもしろいと感じたのは、まったく別の領域の技術にもつながりがあって、絶妙なバランスで製品ができていること。たとえば、出力画像を明るくしたい場合、光源の強さを大きくする場合もあれば、画像処理を工夫して特定の箇所を強調するのが適切な場合もあります。光源で照らすところから画像として出力するまでの一連の流れの中には、まったく異なる技術ながら、何かしらつながる部分があるんです。画像処理に関して学んだことをもとに、光源開発の方々が創出してくれたアイデアをより良くするための提案をすることもあります。 

内視鏡の“絵づくり”の技術に関する知見を活かした提案で手ごたえ

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——入社後、印象に残っていることはありますか?

2018年から携わっている「熱変性可視化技術」の特許ポートフォリオマネジメントでは、要素技術の段階から該当技術を取り巻く環境分析などを行い、特許ポートフォリオを構築する活動方針の策定、およびその方針の推進をしています。その中で、生体材料の新しい観察手法が発明された際、製品となった姿を想定しながら、技術全体を守るための提案ができたと自負しています。

ひと口に消化器系内視鏡といっても、上部消化管内視鏡、下部消化管内視鏡、胆膵内視鏡などいろいろな種類があり、使われ方も実にさまざま。その発明者は内視鏡システムについて詳しい方ではなかったので、私の内視鏡の“絵づくり”に関する知見・経験を活かした提案ができたと感じています。

こうした経験を積み重ねる中で、本当に守りたい技術を守れているかを確かめながら仕事をするようになりました。具体的には、光源、カメラ、画像処理などの技術や、その使用方法、対象臓器など全体を俯瞰できるようマップを作成して可視化する方法です。逆算的なプロセスをたどることで自身の理解が深まり、提案時に相手方から受け入れてもらいやすくもなったと思います。

また、知財部門では、発明者や開発者、マーケティングなど他部署の方とコミュニケーションを取りながら業務を進める場面が少なくありません。マネジメント層と会話する機会も多いため、ストーリーをきちんと組み立てながら説明する必要があるんです。専門的な知識に加え、調整・折衝する力も身についたと感じます。 

グローバル化により、仕事のスピード感の加速を実感

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——グローバル化を推進する今、知財部門ではどのような変化を感じていますか?

仕事のスピードが速まったと感じています。ヨーロッパやアメリカなど海外拠点の知財部門のメンバーと2週間に1回のペースで打ち合わせが設定されていますが、彼ら、彼女らはミーティングの度に必ずアウトプットを出してくるんです。これに応えるべく、私たち日本側の知財部門も短期間でのアップデートが欠かせません。

また、ビジネスの脅威となる企業がアメリカや中国から続々と生まれています。こうしたグローバルな競争環境の中で、アメリカや中国の企業から次々と特許出願がなされており、特許面から見ても海外のスピード感で動いていることを感じます。グローバル化により、仕事の進め方も含め、新しい風が入ってきているのを感じます。

——今後の展望について教えてください。

グローバル化の変化を取り入れつつ、今後は開発シナリオだけでなく、経営・事業シナリオなどビジネスの上流の部分の仕事にも携わる知財要員になりたいです。アメリカでは、知財部門は事業の存続に関するきわめて重要な部署とみなされ、経営層に近いところに位置づけられています。

私たちが身を置くグローバルな競争環境の中では、知財知見を活かした知財部門の新しい付加価値発揮が求められています。私としても、経営・事業シナリオに貢献するプロアクティブな知財活動へも活動の幅を広げられたらと考えています。