ユーザーへの提供価値を可視化し、ビジビリティの向上と理解促進に貢献
——クリエイティブセンターの仕事について教えてください。
クリエイティブセンターでは、関与する開発段階に応じて、5つのスタジオに分かれて仕事を進めています。このうち私が所属するStudio1は、開発の中でも最上流のフェーズ。開発初期段階のコンセプトメイキングが私たちの役割です。
Studio1の具体的な業務の一つとして挙げられるのが、ビジネス戦略や新たな顧客への提供価値の可視化です。マーケティング部門では、他社や顧客の分析から自社の製品戦略作成などを行っていますが、戦略自体がモヤモヤしている場合や、特定の機能要求はあるものの、全体や要求の関係性を俯瞰しづらく、それを見る人によって理解にズレが生じている状態がまれにあります。そこで、たとえばワークショップのような共創の場をセッティングしたり、グラフィックや動画によってコンセプトやアイデアを視覚化したりすることで、部門を超えた議論や直観的な理解促進を行っています。
また、デザイン思考をベースに、患者様が製品を体験する前後の流れを可視化することも私たちの主要な業務の一つです。たとえば、内視鏡検査の場合、受付・問診があって、準備があって、という具合に文字や絵を使ってワークフローを視覚化していきます。新製品の開発プロジェクト初期段階において、ワークフロー全体を理解することは顧客体験設計の基本。「ドクターがこういうときに判断に迷う」といった顧客の困りごともそこで明確化します。マーケティングや技術など各部門が顧客視点で課題解決策を考える上でとても重要な機会になっていると思っています。
顧客視点を養うために、最近ではコロナ禍で中止していた現場に行く取り組みも再開しましたし、アーリーマーケティングのメンバーとともに、医療従事者を交えた議論の場を設けるなどの取り組みも行っています。
——クリエイティブセンターの中でもStudio1の意義はどんなところにありますか。
デザイン、設計、開発、そして薬事承認なども含めると、医療機器の開発期間は非常に長いのが特徴です。長期的な計画を遂行するためには、ハードウェア、ソフトウェアともに、開発にいたる背景を正しく理解するなど、具体的な製品デザインをする前の段階でコンセプトを明確にしておくことが欠かせません。
開発の初期フェーズに私たちが関わり、デザインの視点からコンセプトメイキングして手戻りを少なくすることで、アジャイルな開発に貢献するものだと考えています。
医療機関との関係性がモチベーション──長きにわたる信頼に応えるために
——入社の経緯、また入社後に感じたオリンパスの魅力について教えてください。
大学では情報デザインを専攻し、卒業後は大手電機メーカーに就職。その後、2010年にオリンパスに入社し、人間中心の設計を心がけて業務に当たってきました。
オリンパスの強みは、医療機関と強固な信頼関係ができていて、厳しいご意見を含めドクターらから率直なフィードバックを直接いただけるところ。現場とともに製品をつくり上げていく感覚があり、仕事への原動力となっています。自ら開発に関わった製品が、ドクターや医療従事者の方々に使われているところを間近で見られて、患者様に貢献できていることを肌で感じられることも、仕事のやりがいにつながっています。
また、新しいことに積極的にチャレンジさせてもらえるのもオリンパスの魅力。いろいろな変化を受け入れ、組織自体も変わろうとしている点に自分との相性の良さを感じていますし、同じ価値観を共有する人が社内には多いと思います。
——開発に携わった製品の中で、とくに印象に残っているものはありますか?また、デザインの面で医療機器がほかの製品と異なる点があれば教えてください。
内視鏡システム“EVIS X1”やモダリティコントローラーの開発プロジェクトが記憶に残っています。医師に評価いただくため、複数の施設を訪問してフィードバックを反映させようと奮闘しましたが、なかなかうまくいかなくて。当時、使い勝手に徹底してこだわったことが、今につながっています。
医療機器がほかの民生品と最も大きく違うのは、自分が一人のユーザーとして製品を体験できない点です。たとえばデジタルカメラであれば、写真に残したいと思う場面に出くわしたり、写真を撮った後に振り返る喜びを感じたりと自分の体験を製品のデザインに活かすことができますが、医療機器の場合はそうはいきません。想定しているユーザーの動きを良く観察し、ドクターや医療従事者の方々の考えや気持ちをどこまで理解できるかが、ユーザー中心のデザインを実現する鍵になると思っています。
顧客視点に個の強みをかけ合わせて組織の力を最大化し、より大きなゴールへ
——管理職になった経緯は?また、ポジションが変わって新たな気づきはありましたか?
管理職になることを上司から期待されているのは感じていましたが、マネージャーになるキャリアプランを描いてはいませんでした。デザインすることが好きでしたし、管理職が自分に向いているとも思っていなかったからです。
でも、私がデザイナーとして実現したいと思っていたのは、人間中心の設計やユーザー中心のデザインをすること。仮に自分が手を動かさなかったとしても、組織の力を最大化していくことも広義のデザインといえるかもしれないと思うようになったんです。自分一人でできることは決して多くありません。みんなで力を合わせてより大きなゴールにたどり着けたらと今は考えています。
——どんな想いを持ってメンバーと接していますか?
個性も、仕事に感じるやりがいも人それぞれ。クリエイティブセンターのメンバーは優秀な人たちばかりですから、根幹に顧客視点を持ってさえいれば、それに個の強みがかけ合わされることで、チームや会社に対して十分に貢献してくれると思っています。あれこれ指示するのではなく、それぞれが力を引き出し、目標を達成できるように主体的な行動を促せるリーダーでありたいですね。
顧客価値にフォーカス。デザインを通じて社会課題の解決に貢献を
——今後の展望を聞かせてください。
現在、マーケティング・開発のメンバーとそれぞれのナレッジをシェアしながら、プロジェクトを推進しています。引き続き、今の共創型の取り組みを継続・進化させていきたいと思っています。
また、オリンパスがグローバルメドテックカンパニーとして様変わりしていく中で、今までの製品デザインの枠組みを越えた動きが求められるようになってきているのを感じます。多様な声に対して、よりスピーディーに応えたり、患者様の声を取り入れたりする上で、デザインの力で解決できることはきっとあるはず。従来の慣例にとらわれることなく、顧客に提供できる価値にフォーカスしながらデザインに取り組んでいくつもりです。
内視鏡システムをはじめとするユニークな製品を世に出し、多くの患者様を救ってきたオリンパスにこれからも期待していますし、自分もその一翼を担えるような存在になっていきたいと思います。医療機器のデザインはとてもやりがいのある領域。まだまだやれる余地がたくさん残されています。新しく仲間になる方とともに盛り上げていきたいですね。