銀行マンを夢見た学生時代からNYKへの入社

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▲入社後の海外研修にて、同期・メンターと。白井は一番右

今思うと何だったんだろうと感じるのですが、中学生くらいの頃から銀行員になるということを漠然と頭に思い描いていました。銀行に入って海外に携わり、扱う金額やスケールの大きな仕事をしたいという想いがあったんです。

東日本大震災があったのはまさに就職活動の真っ只中でした。就職活動は一旦ストップし、時間的な余裕が出てきました。 

そんな中、金融機関に魅力を感じつつ、金融面のサポート役に回るよりも実業に取り組む会社も楽しそうだなと考えるようになったんです。海外にも活躍の場があり、スケールの大きな仕事に携われそうだと思い日本郵船に入社しました。

最初の配属は経理部署でした。船に関わる実業をしたいと思って入社したので、正直なところがっかりとしたこともありました。「だったら銀行でもよかったな」と(笑)

ただ、いざ配属されると、そこは日本語と英語両方で専門用語が飛び交い、キャッチアップに必死の日々でそんながっかり感はすぐに消し飛びました。

買収した中央アジアや中南米のグループ会社の決算書を取り寄せた時、表記が現地語だったり日本の会計基準や当社の会計ルールと全然違う対応をしていたりと面食らうこともありましたが、刺激的な業務でした。改めてNYKグループの事業領域の広さにワクワクした思い出が残っています。

現在の部署ではお客様とのジョイントベンチャーがあるのですが、株主として決算データをチェックしたり、その会社の今後の営業や財務方針を株主間で協議したりする際には当時経理で培った専門知識がとても役立っています。

日本郵船の仕事はスケールが大きく見えますが、実はその陰に地道な仕事がとても多いんです。一歩一歩の地味な仕事を積み重ねて大きなことをやり遂げた時にはやりがいを感じますね。

営業としてお客様の意図を汲んで勝ち取った航路への配船

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▲初めて厳冬期に配船する積地を現地視察した時の一枚

2部署目の仕事は、日本の製鉄メーカーへの営業担当でした。日々お客様と対話や交渉をしながら、10年を超える長期契約から1航海のスポット契約まで丁寧に一つ一つ決めていく仕事です。

船の運航管理を1年程担当し、その後半年は営業と兼任でした。運航管理だけを担当する1-3年目の社員と営業やマネジメントを担う先輩や上司の方々との間のポジションで、どちらの業務も担う目線を持つことを心掛けていましたね。

船というのは船員は勿論、お客様や製鉄所にも携わる人は大勢いますし、現場ではステベ(※1)や代理店の方など、何百人何千人という単位でひとつの船に関わっています。

現場に行かずにそういった人たちがどういうことを考えて、どういう仕事をしていて、どういう立場で船に携わっているのかが分からないと、勘違いや思い違いからトラブルやミスコミュニケーションに繋がり、お客様に迷惑が掛かることもあります。「だから現場に赴いて何が起きているのかを理解することは非常に大切なんだ」と配属当初上司や先輩からしきりに言われたことを覚えています。その教えは今後も大事にしていきたいですね。

一番自分の中に思い出として残った仕事についてお話をします。

日本のメーカーが鉄鉱石を世界中から調達するのですが、ある地域に良質な鉄鉱石が採れる場所があります。ただそこは冬にはマイナス30度にもなり、湾内に氷が強固に張ってしまいます。アイスクラス船(耐氷船)での寄港でないと危険で配船不可という考え方も根強く、我々も毎年配船オファーを辞退していました。

私の担当のお客様もそこから貨物を通年引き取っていたのですが、冬場は船社からオファーが集まらず、特定の船社からのとても高い運賃オファーを受けざるを得ず困っていました。競争が無いので言い値で決めるしかないんですね。安全性の観点から当社がオファーを辞退することは理解いただいていたものの、本当にそういった安全上のリスクがあるのか、もやもやされていたようです。

そういったお客様の想いを社内で共有し、何とか解決できないかと検討していく流れとなりました。当社の海技者が出張して視察し、現地のアドバイザーや当局の専門家とも関係を築き知見を蓄えていく中で、結氷状況等のコンディション次第では安全・厳冬対策をしっかり取ることで厳冬期でも寄港できるという結論に至りました。

その後お客様にオファーをし、スポット契約を任せて頂くことになりました。当社としても従来のポリシーを変更して厳冬期に配船することや、お客様から懸案や質問も頂戴したことから、海技者と一緒に私自身も現地へ赴いて視察し、帰国後に写真付きのレポートを纏めお客様にご報告しました。

「こんなところによく郵船さんは行ってくれましたね」そう感謝してくださいました。競合他社が容易にできない輸送案件を実施したことを非常に評価していただき、「今後も是非郵船さんにやって欲しい」と言われた時にはとても達成感がありました。

勿論、私一人で進めたわけではなく、社内外の色々な人が関わって行った仕事です。営業担当としてお客様からのニーズを把握し、海技者がノウハウを集め安全対策を講じて配船への道筋を整えた結果としての成約であり、また現場の船員が安全対策をしっかりと実行したことで無事に安全運航も敢行することができました。

※1:Stevedoreの略で、船舶や埠頭で貨物の積み下ろしを行う専門業者のこと。

営業と海技者  異なる考えを取りまとめる上での大切さとは

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▲社内イベント(ボート大会)にて部署のメンバーとの集合写真、白井は最前列の一番右

2021年現在、VLCCという30万トン程の原油タンカーを扱う部署に所属し、海外のお客様の営業担当として契約交渉や日々の運航管理のサポートをしています。

足元で言えば新型コロナの影響により世界各国で規制が強化されている中、本船のスケジュールやお客様の輸送計画を見ながら、船員交代に関するお客様の協力を求めたりしています。また、オンラインでしか会ったことがないお客様と仕事をすることは非常に難しい面もあり、従来以上に積極的にコミュニケーションの場を持つことを意識していますね。

例えばお客様に定期的にオンライン面談の時間を設定し、お客様の要望や質問を伺うようにしています。そういった時間をもらってこの状況下でもコミュニケーションを日常的に持ち、逆にこちらからお願いしたい事や知って欲しい事も共有できたり、今後の輸送需要などを探って新しい仕事に繋がらないかを検討したりできています。

仕事をしていく上で、社内で意見が対立する時もあります。「安全第一」は絶対に譲れません。一方で、営業としてはお客様の要望や依頼は安易に断ったりせず出来るだけ寄り添いたいという気持ちがあります。

原油タンカーの場合は、危険物を運んでいるので特に安全第一という意識が強く出ますが、「安全第一だから何もできません」とか、お客様の要望をそのまま社内に伝えて結果駄目でしたとお客様に伝えるだけでは、営業のポジションの意味がありません。

他社が出来ない事をやったり、他社が出来る事はうちも出来るようにしたりという視点は常に持ち、例えお客様のご要望をそのまま応えるのは難しくとも、その上で何かできないかを日々海技者と協議していますね。

意見が対立する状況の中で思考停止せずに代替案や妥協案がだせないかを、凝り固まった考えを持たずに柔軟に考えることが大切だと思っています。

今後も大切にしていきたい想いとは

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▲本店での一枚

社内外の様々な国やバックグラウンドを持つ多くの人と関わる仕事なので、人の話をまず聞いてみる。仮に自分の考えと全く違っていても、何故そう考えるのか、その人の気持ちになって考えることを心掛けていますね。

人間誰しも自分事ではないのに取り組まなければならない仕事、本心としてはやりたくない仕事って結構あると思うんです。なのでその人の気持ちになって、この案件はどうやったら協力してもらえるかということをいつも心掛けるようにしていますね。

その中でやって欲しい事も当然でてくるので、そこは3I’s(※2)が大事だと思っています。熱意で押すのか、誠意をもって何とかお願いするのか、もしくは別のアプローチを創意工夫してみるのか。

主体的に周りを巻き込んで進めていくことや周りやお客様の求めていることを聞き、彼らのために何か出来ないかということを関係する多くの人の立場で考えてその意見を取りまとめ、その上で自分から発信していくという事は大切にしていますね。 

目まぐるしく動く世界情勢やカーボンニュートラルの流れの中で、日本郵船は転換点にあると感じています。今まではどちらかというと基盤が出来ている商売をいかに維持していくか、伸ばしていくかということを主に取り組んでいました。今後は事業領域がますます広がっていき、従来通りに仕事をしていれば勝ち抜いていけるという時代では無くなっていて、ぼやぼやしていると置いていかれるという危機感を持っています。

一方でそれはチャンスが広がっているということでもあると思うんです。 

もしかすると従来のシッピングと全く違うところにも商売が広がっていくチャンスかもしれません。海運に関係ない宇宙船のような事業分野も広がっていくのかもしれません。

今取り組んでいる仕事も少し変えていく必要があると思いますし、安定志向よりはアクティブにアグレッシブに新しい視点をもって働くことが大事なのだと思っています。クリエイティビティや働き方を変えてみるなど、そういったことを出来る人たちが必要だと思いますし、自分自身もそうなれるように頑張っていきたいと思っています。

※2:当社グループの基本理念を実現していく際の心構えとして2007年に制定されたNYKグループバリュー。「Integrity(誠意)」「Innovation(創意)」「Intensity(熱意)」の頭文字の三つの「I」を合わせて3I'sと呼ぶ。