チームとしての結束力を高める。陸上でも海上でも活躍の場を広げていきたい

▲三機関士のころの山下(本人:写真左)

現在は陸上勤務中で、タンカーグループの海技チームに所属しています。

こちらのチームは原油タンカー、LPGタンカー、ケミカルタンカーを扱っている部署です。チーム員は主に船長、航海士、機関長、機関士で構成され、海上職の知見を活かした船舶のテクニカルサポートを行っている部署となります。

私の業務内容のひとつに入渠準備というものがあり、これは自動車でいう車検にあたるものです。船も定期的に検査を受ける必要があり、対象船入渠時期や工事内容、費用の策定を行っています。

平均すると年間8〜10隻を入渠させています。工事内容にもよりますが、一隻あたりの入渠期間は3~4週間程度ですので、一隻船が出渠したと思うとまた別の船が入る、あるいは同時に入って工事を行うこともあるんです。また運航費の予算策定、管理なども行っており、船のライフサイクルコストを考えながら整備計画を立てています。

その他には運航船のトラブル対応や営業のテクニカルサポートも担当していますね。

たとえば船にエンジントラブルが発生した場合、どれくらい修理に時間を要するのか、費用がどれくらいかかるのかなどを関係者と情報共有し、最適な対処法を提案する役割を担っています。対処後は、そのトラブルの原因調査を行い、同じトラブルが発生しないよう再発防止策を講じることも重要な業務のひとつです。

また新造船の建造にも携わっており、仕様の確認や造船所から送られてくる図面をチェックし、運航者の立場としてこれまで機関士として乗船してきた経験・知識を新造船にフィードバックするなど、多岐にわたる業務を担っています。

現在は陸上勤務をしておりますが、数年後にはまた海上勤務に戻ると思うので、陸と海の両方でキャリアアップしたいと考えていますね。

その中で今後も機関長として大事にしていきたいことは、信頼関係です。チームで働いていますから。もし、船でトラブルが発生したらチームワークがトラブル解決のカギとなるんです。

常日頃の業務を通じての信頼関係の積み重ねが、チームとしての結束力を高めて、いざという際に役立ちます。船の乗組員は半年ごとで乗下船を繰り返しますので、人の入れ替えも常にあるんです。そういった面でも信頼関係は大事ですね。

加えて、コロナ禍でコミュニケーションの仕方も変わりつつありますが、飲み二ケーションはコミュニケーションツールのひとつとして大事にしていきたいです。

燃料価格の高騰と技術面での難しさに立ち向かい、最適化を早期に達成

▲試運転に携わったコンテナ船

NGSA(※NYK Group South Asia Pte. Ltd.)では燃節プロジェクトに携わっていました。2012年当時、燃料価格が高騰した結果、コンテナ船の主機関(※船舶の推進力を生むエンジンのこと)で消費する燃料量が莫大で、燃料費の削減が業績改善のメインタスクだったんです。

そしてIBISプロジェクト(※ Innovative Bunker & Idle-time Saving, 最適経済運航のためのプロジェクト)が立ち上がり、私は機関関係の燃料削減を担当することになりました。

これまで、コンテナ船はいわゆる路線バスのように定時運航を1番としていて、定時運航のために全速航海を行っていたんです。ところが、船のスピードを2倍にするには燃料が8倍も消費されます。船のスケジュールを守ることを前提に、まずは運航の最適化と必要以上の速力を出さないオペレーションを行い、仮に船の速度を落としても、エンジンに不具合がおきないような技術が必要になりました。

というのも、船はエンジンに一定の負荷をかけて航行するよう設計されているので、低い負荷で運航するとエンジンに不具合が生じる恐れもあるんです。なので、エンジンの故障を回避しながら、今までと異なるエンジンの負荷で低速での航行を実現する必要がありました。

低速運航を含めた運航の最適化を今すぐにでもしなければならない一方、技術的には状況を見ながら段階的にやらないとトラブルが生じるので、板挟みの状態でしたね。その中でどこまで減速できるかトライアルを積み重ね、そこで得た知見を取り纏めて、運航しているコンテナ船全船に指針として展開することができたんです。

このように通常ではかなり時間が掛かると思われていた運航の最適化を早期に達成できたのは、当時のプロジェクトリーダーからの、「費用面は気にしなくていいから思い切りやって良い。」という言葉があったからでした。

もちろんこのような言葉があっても船の安全とお客様のスケジュールを最優先に取り組むわけですが、実担当としてはこのひと言で肩の荷が下り、思い切ったことができました。このときの経験が、その後の業務にも活きていますね。

またIBISプロジェクトと平行して超大型コンテナ船の新造船建造にも携わりました。

当時、コンテナ船はできるだけ自社船を持たないという方針でしばらく新造船を造っていなかったのですが、コンテナ船の大型化が進み、コンテナビジネスを継続するためには大型コンテナ船の建造が必須になったんです。そこで1万4千個ものコンテナを積載できる、巨大船を造るプロジェクトが立ち上がりました。

この規模のコンテナ船は日本郵船、そして国内の造船所は未経験でしたので、白紙状態からのスタートで、私のメイン担当は機関関係でした。

これまでのコンテナ船の乗船経験やIBISプロジェクトで得た知見をもとに、搭載機器の選定や運航者目線でのメンテナンスを考慮した機器配置を考えました。また、機器のトラブルが起きたときのバックアッププランの検討などの経験を通し、イチから船をつくり上げる大変さとやりがいを存分に味わうことができたんです。

もちろんわれわれ海技者だけではなく工務、営業が一体となり、ひとつの船を造っていきましたので、このときもチームワークが非常に大事だなと思いました。

私は新造船建造プロジェクトの途中で海上勤務になったのですけれども、そのときに一等機関士としてこの1番船(※船舶はシリーズで製造されることが多く、1番船とはそのシリーズの最初にできる船舶)の受け取りに関わりました。

試運転の際、図面から携わった船が完成して、造船所の沖で停泊している姿をみたときの感動は今でも覚えていますね。計画から就航まで携わったので、このシリーズ船への思い入れはとくに強いんです。

常に進化し続ける機器と技術。それらを未来に引き継ぎ続ける仕事

▲ロングビーチ寄港時に一等航海士とともに(本人:写真左)

機関士の仕事の魅力としては、巨大なエンジンを扱う、船を造るというとにかくスケールが大きい仕事ができるというところが1番ですよね。

技術は常に進化しつづけていますので、昔の機械から今の機械、また次の機械となると、10、20年後の船は使われる技術も異なると思います。

新技術を取り入れて船を造っていくことに機関士として携わるのは、過去に培った技術を未来につなぐことです。そのため、つなぎ役ができている実感があります。そこが機関士をしていて感じるおもしろさです。

新しい技術や、新しいアイデアを取り入れるには常日頃からアンテナを立てていなくてはいけません。機関士内だけで話すのではなくて、航海士や船長、営業ともコミュニケーションをとりながらいろいろな話をして考えを整理することが重要です。あまり自分の考えに縛られていると考えも広がりませんし、いろいろな人の話を聞くことが大事だと思いますね。

NGSAのときに良かったのは、陸上も海上も業務をする上で距離が近かったことですね。壁があったわけではなくみんなで仕事をしていて、プライベートでも親交が深かったんです。

陸上社員の若手と一緒にゴルフに行くことありましたね。海陸問わず仲が良く、飲みにも行きましたし、仕事の話だけではなくていろいろな形でコミュニケーションを取れたことは良かったです。今でもその当時のメンバーとは家族ぐるみの付き合いをしています。

そして、このゴルフで機関士としての経験が活きた部分がありました。

NGSA勤務のときはオフィスがシンガポールだったので、よくインドネシアのバタム島へゴルフに行ったのですが、あるときエンジンカートに乗っていたら途中で故障してしまったんですね。カートを交換してもらおうと待っていたのですが、待てど暮らせど代替車が来なかったんです。ですから、何が原因なのか自分で見てみようと開けてみたんです(笑)。

すると中の燃料のフィルターが詰まっていて、その汚れをとったらすぐにエンジンが始動して。一緒にラウンドしていたメンバーからは尊敬の目で見られました。が、その後のスコールのせいで履いていた白いズボンが透けてパンツが丸見えになり、尊敬の眼差しが笑いへと一瞬で変わったというオチ付きのエピソードです(笑)。

船舶技術の最前線に携わり、未来の機関士へつないでいきたい

▲船舶の主機関

われわれのベースはエンジニアリング、つまり機関士としての経験なので、これまで現場で培っていた経験をそのままキャリアで活かせます。

その中で今後は環境対策が重要なタスクになってくるでしょう。IBIS Project発足当時にわれわれがやってきた燃料削減は会社の収益、すなわち経済性の観点からでした。しかし、これからは、経済性の観点だけでなくESGの観点でどれだけ環境負荷を減らせるかという目線が重要となります。

これまでは船の燃料として長らく重油が使用されてきましたが、温室効果ガス排出削減に向けた社会の流れの中で、舶用燃料も化石燃料から水素・アンモニアといった次世代エネルギーへ移行していくことになります。

ただ、燃料転換といっても急にはできませんので、まずは重油からLNG(※Liquefied Natural Gas、液化天然ガス)、LPG(※Liquefied Petroleum Gas、液化石油ガス)といったガス燃料が主流になってくるでしょう。

今後はそうした新エネルギーを燃料とした船の開発が急速に進むと思うので、エンジニアとしてこれまでの経験と共に、次世代エンジンに対応できる知識、経験を積んでいきたいです。

おそらく今後30年の間に船舶の技術は急速に発展していくと思いますので、これから機関士になる人はおもしろい未来が待っているんじゃないかなと思っていますよ。ゼロエミッション船の実現に向け、次につなげるためにできること、技術をつないでいく役として未来の機関士へ引き継ぎたいですね。

あとは月並みですけれども、上の立場になると部下が多くなってきますので、相談がしやすい機関長、上司でありたいなとは思います。

私自身も上司、先輩方からいろいろ教えてもらってきましたから、今後は逆の立場でなんでも聞けるような雰囲気づくりをしながら若手を育成していきたいですね。