海陸での経験から学んだ「安全文化」の重要性

▲自らも船長として、現場でも活躍する出口

私は今、自動車輸送品質グループでグループ長代理をしています。当グループが管掌する業務の一つに、完成車の安全品質管理業務があります。安全品質管理は大きく二つに分けられ、一つは自動車専用船で完成車を運ぶ時の輸出港での船積みから輸入港での荷揚げまで、航海中の洋上を含めた海上輸送部分における品質管理です。

もう一つは港からディーラーショップ、または工場から港までの輸送、及びROROターミナルにおけるオペレーションや付加価値サービスを含めた内陸輸送部門における品質管理です。いわゆる、海陸一貫した完成車輸送全般の安全品質管理を管掌しており、その中でも主に、海陸の懸け橋となるROROターミナル全般の案件を担当しています。(RORO: Roll on/Roll off, フェリーのようにランプを備え、車両が自走して貨物を搭載・揚陸できる)

たとえばコンテナ船の場合、梱包した貨物をコンテナに入れて輸送します。一方、完成車は裸のままの貨物として輸送されるので、ちょっとしたことでも傷が付きやすいのです。品質管理を厳しく見ているお客様が多いので、船積みや内陸輸送における品質管理、およびそれらを運ぶ船舶などにも高い品質が求められます。

船積みされた後、航海中どのように品質管理されているかは、陸上からはわかりません。実際には、車両の固縛に漏れや緩みがないかの確認や、特に荒天に遭遇する前には乗組員で固縛状態の点検を行っています。また、車両火災を未然防止するために貨物ホールド内の見回りを行うなど、完成車が輸出港で積まれた状態のまま、揚げ地まで輸送出来るように乗組員は心掛けています。

このような海上での経験があるからこそ、陸上勤務になった際にお客様や陸上社員へ、陸側からは見えない部分の知識や経験の共有ができます。海上で培った専門知識を陸上での業務にどう活かすのかを考えていくことで、業務の幅が広がるんです。

安全品質管理のためには、日本郵船株式会社(以下、NYK)の安全文化を共通の価値観として醸成していくことが大事と考えています。部署内のコミュニケーションを欠かさず、方向性がずれないようにも気を付けていますね。

ただ、実際に安全作業を行うのは現場の作業員の皆さんであるので、部署や会社の垣根を越えて更にその先に至るまで、「NYK安全文化を醸成させていくこと、安全文化の理解者を増やしていくこと」を、ミッションの一つとして捉えています。

共通の想いがあれば国籍は関係ない。トラブルを通じて感じた現場の一体感

▲イスタンブール出張時の様子。自ら足を運び、現場とのつながりを大事にする。

海上勤務、陸上勤務のローテーションでこれまでのキャリアを積み重ねてきました。その中でも、転機になった経験があります。

それは2005年ごろ、海上輸送品質チームのときの話です。日本からヨーロッパに向かう本船がインド洋でエンジントラブルを起こし、自力航行不能の状態となりました。本船はヨーロッパまで曳航もできない。それでも本船に積載された車両はしっかりと送り届けなければなりません。

あらゆる事態を勘案し選択肢にあがったのが、中東ドバイ港での車両全量の載せ替えでした。載せ替え用の代替本船はエンジントラブルを起こした船とほぼ同型です。

約4,000台の車両が積載された船は、隙間なく貨物が載った満船状態です。その状態から日本で積みつけたように載せ替えるには、船内積み付けの際に高い技術力が要求されました。そのため、横浜と名古屋の作業会社へ協力をお願いし、総勢11名で日本からドバイ港へ向かったんです。

現地での作業は、24時間休むことなく続きました。

そして、5日間で約4,000台の車両全量載せ替えを無事故で終了させ、無事に貨物をヨーロッパへ送り届けることが出来ました。日本からの作業会社の皆さんはもちろん、現地の作業員や本船乗組員など、国籍は違っても「安全かつ無事に作業を完了させ車両を送り届けたい」という気持ちは同じだったんです。そのとき、現場での一体感を感じました。

プランニングや作業シーケンス作り、人員の配置や行程管理などいままでの知識と経験をフルに動員して方針を示し、現場一体となって解決したことで大きな達成感を感じました。作業完了時の関係者全員の満足しきった表情と、お互いを労う姿は今でも忘れられない光景です。

現場の作業会社の方々とは、荷役作業や会議などを通じて顔見知りではありましたが、この時初めて寝食をともにして一緒に仕事をしました。事前打ち合わせも含めると一週間、「事故なく安全に同じ状態で車両全量の載せ替えを行う」という使命に向き合う中で、大きなトラブルを乗り越えることができ、自信に繋がりましたね。

また、このトラブルに直面し乗り越えたという共有体験が現場の方々との絆を深め、その後の業務を円滑にしてくれました。

マネジメントのカギは“方針”──海陸ともに成長できる環境づくり

▲"若手"の頃の出口 (前列右)。 エジプトへ上陸中の様子。

海陸の業務を経験する中で感じたのは、日本郵船はお互いに意見が言える環境であるということです。特に初めて陸上勤務を経験したとき、立場に関わらず海技者の意見や考えを尊重してくれる部分が多く、仕事がしやすいと思いました。

また、陸上勤務での経験が海上でも活きることがあります。若手海技者の場合は海上勤務しか経験していない人がほとんどで、陸上からの詳細な情報が不足していると感じることが多いんです。そのため、周りが見えにくい状況にあることが多くて……

そのようなケースにおいて、陸上での経験を元に、陸上からの業務指示や航海指示の背景や意図などを説明してあげられるのは大きいです。若手海技者が意図を理解して行動に移せるように、モチベーションを上げる働きかけも大事な役割の一つだと思っています。

自分自身も各船で乗り合わせた船長や先輩航海士の皆さんに、「海技者として今やるべき事」をしっかりと指導して頂き、海技者としての知識と経験を積むことが出来たと感謝しています。若い頃に受けた教えを後輩の海技者にも伝え、気づきを与えて将来の仕事観を広げられるような展望もみせてあげられたらと思っています。

海上と陸上どちらにおいても、基本的にマネジメントは同じです。大切なのは自分がやりたいことやるべきことの“方針“を決め、達成するために具現化すること、その方針を部下を含め関係者にしっかりと伝えて、理解者を増やしていくこと、そして、お互いを尊重し、感謝を忘れないということです。

具体的に言うと、海上はそれぞれの職務でそれぞれ資格をもつプロフェショナルの集まり。役割が決まっており、業務の割り振りは明確です。しかしながら、船では国籍や価値観が異なりいろんな人がいます。だからこそ、国の歴史など背景を学び、どんな考えを持つのかを知るように努めました。公平公正に各自を尊重し、安全運航という目的を達するためプロの集団として同じ方向性をもつようなマネジメントを心掛けています。

また、家族や友人、社会と離れ、下船するまで24時間同じ人とずっと一緒にいるという海上生活の特殊性もあるので、船内の融和には気を配るようにしていました。安全運航の達成も一つの目的でしたが、乗組員全員を家族の元へ心身ともに健康な状態で帰らせることも大きな目的でした。

一方で陸上は、より多様なバックグラウンド持つ集まりとなるので、明確な方針や方向性が必要で、具体的に伝え続ける努力が大事だと思います。ただ、海上生活と違い業務から離れれば、それぞれのやり方で各自リフレッシュできるので、気を配りすぎないで済んだようにも感じました。

海陸関係なく大切なのは、方針を決めてそれをしっかりと伝え、理解者を増やしていく努力をすることではないのでしょうか。そうすることで、一緒に成長していくことが出来るように思います。

社会インフラを支えるプロとして自分の役割を全うする

▲船長として、現場の安全を支える

海上と陸上ではそれぞれ立場が違うので、意見が食い違うことがあります。ただ、物流という同じ貨物を同じ状態に保ったままで港に運ぶという目的は同じです。そうした中で、違う立場の人それぞれがお互いの立場に立ち、自分がやるべきこと/役割をプロフェッショナルとしてしっかりと全うすることが大切だと考えます。

私たちはどの立場で誰のために仕事をするのか──

それはイチ物流会社としてのお客様や、更にその先にいる一消費者の方かもしれません。家族のためでもあるでしょうし、自身のためでもあるでしょう。いずれにせよ大切なことは、自分の役割をプロフェッショナルとして全うすることだと思います。

貨物を運ぶのに、海上も陸上も関係ありません。立場によって役割が変わるだけです。何をやらないといけないのかは、役割を全うしていく中で自ずとわかるようになると思います。そうしたプロセスを経て、色々な立場でそれぞれ出来る事を考えるようになり、成長につながるのだと思います。

海技者としてのこの仕事の魅力は、社会インフラを支えているという実感を目の前で得られることです。特に船長として乗船している時の、無事に貨物を港まで届けられたという思いは格別でした。また陸上業務においては、貨物を送りたい方や貨物を待つ方の想いを近くで感じられることが一つの魅力です。達成したときの喜びは海上であれ、陸上であれ変わることはありません。

こうして培った知識と経験が、若い皆さんの成長のお手伝いが出来るのであれば、これ以上の喜びはありませんね。我々が若い頃に受けた恩や想いを順送りに伝えていくことが出来たら嬉しいです。

海技者/船長としての自分がバックボーンとなっていることに変わりはありません。船に憧れて勉強しこの仕事を選んだのですから。ただ、仕事の軸足は海と陸の真ん中に置いています。社会インフラを支えるという点において目的は同じですので、どの立場にあっても役割を一生懸命全うするだけです。今も昔も変わらないですね。