海上での経験を生かした現在の陸上勤務

▲陸上勤務中の渡邉。機関士としての経験が生きると日々感じている

今は海務グループの就航船サポートチームという部署で陸上勤務をしています。

造船所で新しく造る船を「新造船」というのに対し、既に運航している船を「就航船」といいます。私たちは現在動いている「就航船」に対しての技術的なサポート業務をしています。

例えば、現在メインで行っているのは環境規制対応へのサポートです。特に2020年から国際的に環境規制が厳しくなったため、2020年3月現在は、業務のほぼすべてが環境規制への対応業務となっています。

環境規制は船の種類に関係なく影響するので、部署ごとではなく全社的に対応しなければなりません。それを担っているのが私たちのチームです。そのため仕事をしていく上では、部署の垣根を越えて他部署と連携して取り組んでいくということも多々あるんです。

実は、配属当初は1年弱の期間だと言われていました。従って、長期的かつ大きなプロジェクトには関われないだろうと考えていました。

しかし、2~3カ月たった時点で主担当となることが決まり、これでもっと関われるという喜びを感じましたね。ある程度の責任感とプレッシャーがないと仕事のやりがいにもつながらないと思っていますので、主で担当を持つということは今の自分の成長にもつながっていると感じています。

現在担当しているものの一つにExhaust Gas Cleaning System (EGCS : 排ガス浄化システム)があります。実はEGCSはこの部署に来た時に、ゼロから勉強したわけではありません。

陸上勤務をする前には機関士として海上で仕事をしてきた経験があり、自分が機関士として日頃から使っていたシステムが、現在担当しているEGCSの仕様に組み込まれていたりします。

このように、海上勤務時の知識を陸上勤務で直接生かせています。このチームに来たことで、過去に船で勉強したことは陸で役に立つんだなという実感がありました。

理系文系を経験し、選んだ海上職機関士という生き方

▲学生時代の渡邉(2列目中央左)。ライフセービングで毎日砂浜に通っていた

私は昔から「冒険してみたい」「知らないところに行きたい」という好奇心が強く、宇宙や大昔のことを考えるのが好きでした。地学や地理が好きで、大学もそのまま理数科に進みました。ただ、そのまま地学を勉強して行きつく先は研究者しかなくて。自分の研究者への適性には常に疑問を感じていました。

一方その頃、文系の友人は留学や海外を放浪など、自由闊達な学生生活を送っていて。気が付いたら私も文転して、同じような生活を送っていましたね(笑)。

就職活動では地学が好きというきっかけで商社や資源、電力開発など、上流分野の会社を志望していた一方、理系技術者への憧れも捨てきれなかったんです。

当時、文系から技術者になれる道はただ一つのみ、それが日本郵船の海上職機関士コースでした。日本郵船に受かれば迷わず入社しようと決めていましたね。

実は祖父が船乗りだったので、そういうのを継ぐのも良いなという気持ちも半分くらいあって。もちろん根底には「大きいことをしたい」「海外に行きたい」「社会に貢献したい」という願望は持っていましたが、祖父の姿には背中を押された気がしています。

就職活動を始めた当初はイメージ先行で航海士を目指しており、機関士は志望していませんでした。

しかし選考の途中で機関士を勧められ、技術的な特性が強い機関士に決めることにしました。数年働いてみて、船のことを深く知っているのは航海士よりも機関士で、私たちしか知らないことのほうが多いと自負しています (笑)。

私が文系とも理系とも言い切れない学生生活を送ったことでも分かる通り、機関士として働くために文理はさほど関係ありません。というのも機関士をしていく上では、モノの考えかたが大切になってくるからです。

あるトラブルが起こった時に、根本原因を自分でいくつか想定して、そのうち合理的な第一原因を想定します。

そして「この次こういうことが起こるのではないか」という、論理的な考え方を持っていることが重要です。それは理系だからできる文系だからできないとかではなく、船乗りに広く求められる資質の一つでもあるんです。

海上職機関士としての強みを生かして

▲煙突部へのEGCS挿入の瞬間。この後、内部の配管を復旧する作業が待っている

「就航船サポートチーム」では、私、海上職機関士1人と陸上職技術系の社員2人が一緒に働いています。私は船に乗ってきた機関士として、技術系の2人にはないような視点や気づきを与えたいという想いはありました。

海上職機関士と陸上職技術系はどちらも「エンジニア」ですが、その考え方・働き方には違いがあります。私は船のエンジンを実際に動かしていた機関士なので、船のことを考えるときはまずエンジン周りのことを想像します。

一方で、船体担当の技術系社員であれば船体全般の構造も含めて考えます。エンジンにとらわれずに、船を広い目線で見る考え方や知識はとても参考になりますね。

たしかに造船の分野では技術系の社員に強みがありますが、会社が船を運航する現場を本当の意味で知っているのは海上職社員しかいないと思っています。船のオペレーションや生きた船に発生したトラブルに対しては誰より私たちに専門性があります。

以前、EGCSの試運転時にあるトラブルが起こりました。技術系社員からは「何らかの操作ミスが原因じゃないか」「部品が壊れたのではないか」という指摘がありました。一方で、私は「実は前後の機器の不具合が原因じゃないか」「続けて運転することで解消される事象ではないか」と指摘しました。

我々機関士には機関全体を考えるクセがついていますし、船という現場を「生き物」として捉える船乗り特有の目線だと考えています。システム全体やその運用方法という視点を持って機関を扱い実際にオペレーションしたい、運転したい人には船乗りが向いていると思います。

また、船乗りはそれに加えてメンタルも欠かせません。長期間の乗船に耐えうる精神力という意味もありますが、むしろ「やる気」と「興味」が大切です。

やる気と興味を持ってひとつのことに取り組んでいれば、その機器に対して一番詳しいのは自分になり、今度は責任感が芽生えてくるはずです。すると上長からは信頼されて期待されてと、長期間の乗船でもとても気持ちよく仕事をすることができます。

若手時代の振り返りと未来への展望

▲愛娘用に自転車を改造。家族との時間も大切にしている

乗船中には「船に乗れる期間は限られているから、陸上勤務のためにも若手のうちにいろいろ経験しておけ」と言われてきました。当時は海上勤務の経験しかなかったため、理解しきれない部分もありました。

しかし今となって、その意味を痛感しています。過去の自分に対して「今の仕事は絶対に生きるから頑張ってやれ」「トラブルも含めて多くの経験を積め」と声をかけたいなといつも思っています。

マニュアルに書いてあることをどれだけ実際に経験しているか、マニュアル以外のことをどれだけ知っているか。それがないと、人にしっかりと説明できないですし、自信にもなりません。

若手の時は自分の担当機器が壊れたら、「もうやめてくれ」と思っていましたが、機関長や一等機関士、そしてみんなの助けで何とか乗り越えてきました。いろんなトラブルに出会ってきた船での経験は、現在一番の財産になっています。

今の陸上勤務を終えて海上へ戻るときには、次は一等機関士として乗船することになります。

今度は若手から頼られる立場になりますが、その点はあまり心配していません。というのも、三等機関士、二等機関士の仕事を一通り経験して一等機関士になっているので、ほとんどのトラブルであれば的確に対応できると思っているからです。どちらかというと、一等機関士としての業務の責任の重さを感じています。

まだ経験していないのでこれからの立場ですが、若手には「失敗していいからとりあえず言ってほしい」「隠すことや嘘をつくことはやめて欲しい」と思っています。

船の運航には必ずトラブルが起きます、しかし重大な事故は防ぐことができるんです。

若手には、できるかできないかギリギリのところで仕事をこなしてもらうよりも、怪しいところは正直にできませんって言ってもらうことが一番の安全にもつながります。船にはもっといろいろなことを経験した諸先輩方が必ず乗っていますから。

私は将来、乗組員や機関部の部下に安心と信頼をしてもらえる機関長になりたいという目標があります。「あいつが乗っていれば大丈夫だな」と言われるような機関長を目指します。

最後につい先日の話ですが、郵船チャイルドケアという保育施設を娘と利用し始めました。機関長という目標を見据えつつ、家族も当たり前に大切にできる海上社員でありたいと思います。