利用者の視点からサービスの在り方を設計していく「サービスデザイン」

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デザインの領域の中でも石川が取り組むのは「サービスデザイン」。利用者の体験価値を高めるために、人間中心設計という考え方をベースにして、利用者の視点からサービスの在り方を設計し、さらにそれが継続的に実現するための組織やしくみまでをも設計するのです。

石川 「まったく新しい体験価値を提供したiPodやiPhoneに衝撃を受けましたね。実は大学時代は電気/電子系のコースを専攻していたのですが、iPhoneなどの流行を見て、体験価値に大きく影響するソフトウェアの重要性を感じ、大学4年から情報系にコース変更したほどです」

そんな石川は現在、公共・社会基盤事業推進部で、大きく3つの業務を推進しています。

一つ目は、NTTデータの各事業部のプロジェクトに対する、サービスデザイン、UXデザイン(ユーザーエクスペリエンスデザイン)、UI(ユーザーインターフェースデザイン)などの支援。二つ目は、サービスデザインについて、社内で認知・普及を図るためのサービスデザイン教育。三つ目が、社員がサービスデザインを実プロジェクトに適用できるようにするための方法論の整備です。

中でも石川が最も注力しているのが、サービスデザイン教育。

石川 「情報を電子化するだけで価値があった時代は、もう終わりました。サービスデザインによって、IT技術に加えて利用者の視点で物事を考え、より高い価値を感じてもらえるようなシステムやサービスをつくっていく必要があります。
だからこそサービスデザイン教育で、NTTデータのIT技術のプロたちに、“利用者視点”というマインドをインストールしているのです」

そう話す石川ですが、最初から利用者視点のマインドを持ち合わせていたわけではありません。本当の意味でその重要性に気づかされたのは、NTTデータ入社後、数年が経ってからでした。

先輩からの問いかけで、システム技術者視点の思考に終始していた自分に気づく

利用者体験の重要性を認識しつつも、まだサービスデザインの概念も良く知らず、大学院ではユーザーの環境や興味、行動パターンなどを分析して、利用価値の高い情報を利用者に提供する、コンテキストアウェアネスとよばれる分野の研究に没頭しました。

研究分野が変わっても、変わらなかったのは、「自分がつくったものを多くの人に使ってもらいたい」という想い。

石川 「公共サービスやインフラは、多くの人が使うもの。それがちゃんと利用者にとって使いやすくて、実はそれが自分のつくったものだったらすごく嬉しいなと思っていました」

そして2012年、「大規模かつ、様々な分野の社会インフラをITによって実現する」NTTデータに入社。入社後は、システム基盤の設計を担当しました。

入社から2年後、石川はお客様が運用するシステムの大型プロジェクト案件に携わることになりました。

ある日、システム障害の監視画面を設計していた石川に、先輩がふと問いかけます。「(監視画面に)通知しようとしているその情報って本当に(監視画面を見る)運用者に必要なんだっけ?その情報を見て運用者は次の行動が判断できるんだっけ?」先輩のその一言で、石川はハッとしたといいます。

石川 「監視画面に表示するエラー通知の情報が細かすぎたのです。私は、障害の内容を詳細に伝えるというシステム技術者の視点でしか考えていなくて、運用者がその情報を見て、何を判断し、次に何をするかを考えきれていませんでした。利用者の視点が欠けていたのです」

そこから、システム基盤設計の原則が変わりました。

石川 「まずは利用者の方がどういう情報を見て、どういった対処をするのかなどをヒアリングし、具体的な運用作業をあぶりだした上で、どんな設計にすべきかという利用者の視点で設計を考えるようになりました」

それはまさにサービスデザインの思考。そこから石川はデザイン思考やサービスデザインそのものに興味を持ち、独学で学んでいきました。そして学びを深めるほどに、「利用者に直結する価値を生み出したい」という想いを強くしていき、石川は設計からデザインの道に舵を切りました。

ITエンジニアの経験を活かし、技術者にサービスデザインの本質を伝える

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▲利用者の視点を追求してチームメンバーと活動を進めています

本格的にデザインの仕事に携わり、自身のキャリアを築いていくと決めた石川は、希望通りデザインチームに配属となります。

石川 「アプリケーション開発からデザイン領域に入っていく人は結構多いですが、システム基盤設計から異動する人はほぼいないので、周囲は驚いたと思います。もしかしたら、すぐやめるんじゃないかと思われていたかもしれませんね(笑)」

ただ、このシステム基盤設計のITエンジニアとしての経験が、現在のサービスデザインの教育業務に非常に活きることになります。

技術ベースで物事を考えてきた人は、サービスデザインと言うと、たとえば「ペルソナをつくればいい」や「カスタマージャーニーをつくればいい」という手段の話になりがちです。またユーザーテストを実施すること自体を目的化しがちです。

石川 「ペルソナやカスタマージャーニーは、“目的”を達成するための単なるツールでしかありません。ユーザーテストもただ実施すればいいのではなく、“目的”に向けてユーザーテスト自体を設計し、フィードバックを収集して、改善につなげなければ意味がありません。
最終的な目的が何かといえば、利用者の体験価値を高めること。それを見失ってしまうと、ツールやユーザーテスト実施自体がゴールになってしまいます。利用者の体験価値を高めるという目的を達成するために、一番大切なのは、利用者に寄り添っていく利用者視点のマインドです」

自身も技術ベースに偏って物事を考えていたことがあるからこそわかる、技術者が陥りがちなワナを理解した上で、石川はサービスデザインの研修を行っています。

研修では、仮想のテーマを与え、利用者へのインタビューなどを実施し、自分たちと利用者の思考のギャップに気づいてもらうような、体験プログラムを開催しています。

実はこうした研修プログラムは、石川が発案し、デザインチームでゼロから研修体系を構築していきました。

石川 「何の形もないところから立ち上げていくのは、大変でした。ただ、周囲の仲間の協力があったこと。また、上長をはじめとするマネジメント層が、サービスデザインの重要性を認識してくれていたので、それが追い風となり進めることができました」

また、研修の開催と並行して、技術者の視点で理解しやすいように、石川はチームメンバーとともに書籍を執筆しました

石川 「プロジェクト支援活動の経験をベースにして、現場の方々が日々直面する問題に対する解決方法として、基礎的な内容から実践的なノウハウまでを体系的に示しました。活動実施のお役に立てるといいなと思っています」

人間が真ん中にいるサービスをつくり、社会に貢献していく

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▲講師となって開催する研修の風景(2019年開催分。現在はオンライン化して開催中)

2019年からスタートしたサービスデザイン研修は、すでに受講者が500人を超えるまでになりました。石川は、研修をはじめサービスデザインの教育・支援に、やりがいと手ごたえを感じています。

石川 「“自分が参画中のプロジェクトでサービスデザインを取り入れてみたい”と相談をくれる人が以前よりも増えているのは嬉しいですね。活動を進める姿を見てくれて、いろいろな人に声をかけていただいています。サービスデザインの推進を応援してくれる人がこの会社にはたくさんいると実感しています」

その会社で、仲間と共に、まだまだやりたいことが、石川にはあります。

石川 「研修では、受講者によって求めるものが異なります。たとえば、営業に携わる受講者からはユーザーの課題設定方法について詳しく教えて欲しいと求められる一方で、開発に携わる受講者からはアイデアの絞り込みや具現化の部分を求められたりします。
受講者の立場やレベルに合わせて、段階的にステップを登っていけるような研修体系を構築しているので、それを詳細化しながら、順次開催していきたいと考えています。
現在は大勢の人が自主的に参加していますが、関連する組織と有機的に連携しながら、いつかは社員全員にアプローチしていきたいですね。全社員に利用者の視点で考えるマインドを持ってほしいと願っています」

その先に、社会インフラを手掛けるNTTデータだからこそ実現できる世界があるはずだと、石川は言います。

石川 「たとえば、いま市役所にいかなければできない手続きにストレスを感じる人が少なからずいると思います。そのような人々が日々の生活の中でストレスなく手続きができて、その裏側では手続きがきちんと処理され支障なく機能していく──人々の生活の中に溶け込んで見えないくらいのそんなサービスを開発したいですね。
真ん中に人間がいて、システムは端っこにあるくらいでいい。システムの存在感がない世界が理想だと思っています。そのひとつのアプローチとして、サービスデザインは非常に有効なので、そのマインドをきちんと根付かせていきたいですね」

サービスデザインのマインドがインストールされたNTTデータがつくり出す世界に、ご期待ください。