大規模案件のリーダーとして自覚した「ひとりの力」の限界
組織に属して年次を重ねていく過程では、多くの場合、求められる役割が変化していくもの。その変化に直面したときに突きつけられるのは、「それにどう応えていくのか」という問いです。
原田 義明は直近2年ほど、最大100名超のプロジェクトでグループリーダーを任されています。リーダーポジションでの大規模プロジェクトへの参画は、原田にとって初めての経験でした。
原田 「痛感したのは、人数が多くなると、メンバーに情報を伝えるのも意思の統一を図るのも、これほど難易度が高くなるのかということでした。何より、『自分ひとりの力には限界がある』ということを強く感じました」
比較的小規模なプロジェクトに携わっていたこれまでは、連日遅くまで仕事場に残り、メンバーが積み残した課題を自ら摘み取っていくような働き方をしていた原田。しかし、大規模プロジェクトにおいて、そのやり方は現実的ではありませんでした。
原田 「ひとりで頑張って2倍働くよりも、メンバー全員に1.2倍の生産性で働いてもらえた方が大きな成果を得ることができるんですよね。そんな当たり前のことを再認識しました」
これまでのやり方を改める必要がある──そう思うようになった背景には、プロジェクトの変化に加えて、自身のプライベートも影響していると言います。
私生活では、1歳と3歳の子を持つ父。家事・育児の分担を真剣に考えたとき、自らの「働き方」の見直しを避けて通ることはできませんでした。
原田 「朝、子どもたちを自転車で保育園まで送り届けるのは私の役割でしたが、働き方を見直すことで、それ以外の場面でも妻の負担を軽減できないかな……と」
まだ試行錯誤中ではあるものの、「自分ひとりの力には限界がある」からこそ、「自分で全部やらない・やれない」という認識に立ってプロジェクトに関わる。それは、原田が自らに課した大きなマインドチェンジでした。
原田 「この数年来、メンバーの意見をしっかりと聞いた上で、なるべく俯瞰的に状況を捉えて物事を判断するように心掛けてきました。それが、プロジェクトを前進させる上で大切な姿勢だと思うからです。プロジェクトの規模が変わっても、この点については変わらず大切にしたいと思っています」
そんな原田のスタンスは、どのように築かれたのでしょうか。
そのターニングポイントは、入社7年目のアジャイル開発のプロジェクト経験にまで遡ります。
リーダーとしてのスタンスを決定づけた、アジャイルプロジェクトでの気付き
原田 「私にとって初めてのアジャイル開発のプロジェクトでした。チームはお客様の担当者を含めても総勢30名ほどの編成。私はプロダクトオーナーを務めました」
アジャイル開発とは、要件定義から設計・製造・試験に至る各工程が単線的に進行するウォーターフォール型の開発手法とは異なり、試作と検証を短いスパンで繰り返しながらシステムを構築していく手法のこと。プロダクトオーナーとは、開発のプロセス全般の責任者にあたるポジションです。
ここで、原田はふたつの学びを手に入れます。
ひとつは、「お客様も100%の答えを持っているわけではない」ということ。
原田 「それ以前のプロジェクトでは、お客様のシステム部門の方としか対面したことがありませんでした。でもこのアジャイル開発プロジェクトでは、試作と検証の過程で何度もユーザー部門の方たちと意見交換をする機会があったんです。
それまではシステム部門の方が言うことが『100%正解』と捉えていましたが、ユーザー部門とコミュニケーションを取るうちに、お客様も確かな答えを持っていないこともあるし、一緒に考えていく中で答えにたどり着くことができる、と気が付いたんです」
「お客様が言うことだから正しい」という固定観念から自由になったことで、自分自身が正しいと考えているアイデアや方法論についても、「はたして本当に正しいのか?」とフラットな視点で吟味し、状況を俯瞰的に捉える習慣が身に付いたと言います。
もうひとつの学びが、メンバーの意見を受け止めた上でベクトルを合わせることの大切さ。
プロジェクトに参画していた、とあるコンサルタントの姿勢に気付きをもらったと言います。
原田 「日ごろからお客様と対話する場面が多いからなのか、コンサルタントの方は基本的にどんな意見に対しても否定はしないんですよね。すべてをしっかりと受け止めて、消化した上で最適案を考えていく。そうすることで、プロジェクトが一体となって前に進んでいきました。
そんな姿勢を目の当たりにして、リーダーとして可能な限りみんなが納得する答えを描けるよう、力を尽くしたいと思うようになりました。それでこそ、さまざまな想いや考えを持ったメンバーのベクトルをひとつに重ね合わせることが可能になるのかな、と」
リーダーの役割は、「プロジェクトの前進」に軸足を置き判断を下すこと
アジャイル開発の特徴として、短いスパンで開発のプロセスを回していくことのほかにもうひとつ、比較的少人数のプロジェクト体制であるという点が挙げられます。
それゆえ、目的意識を共有した上でプロジェクトを前進させることが比較的容易にできたと言います。
原田 「チームのモチベーションを保つ上では、ゴールを明確に示すことが大切だと思っています。アジャイルのプロジェクトでは、そういった情報の展開も意図した通りにでき、プロダクトオーナーとして裁量を持って進めることができたという、手応えがありました」
このアジャイルのプロジェクトで得た学びと成功体験は、次にPMとして率いた小規模プロジェクトにおいても生きることとなります。
お客様業務全般に関わる、CTIシステム(Computer Telephony Integration:コンピューターと電話を統合した技術またはその技術を使ったシステム)の更改案件でした。
原田 「システムが刷新され、新しく業務を整理するという作業は、お客様にとっても非常にパワーがかかる取り組みです。更改がうまくいき、このプロジェクトがお客様の社内表彰を受賞した際には、『原田さんがPMとしてやってくれたので成功しました』と労いの言葉をいただきました。
私以上にお客様に頑張っていただいた成果ではありますが、プロジェクト一丸となって推進できたこと、お客様に評価いただけたことが嬉しかったです」
こうした経験を経て、現プロジェクトへの参画に至った原田。大規模プロジェクトならではの難しさに直面しつつも、自身が考える「リーダーとしての役割」をまっとうする仕事ぶりに、周囲からは厚い信頼が寄せられています。
そんな原田は、日ごろ、自らに次の2点を課していると言います。
1点目は、いかなるときも「プロジェクトにとっての最適案」を選び取ること。
原田 「局面によって、コストだったり、生産性だったりと、異なる観点に着目する必要がありますが、いずれにしてもよって立つ判断基準は常に、『プロジェクトを前進させる上で最適案と言えるかどうか』であるようにと努めています」
2点目は、「許容できないリスク」を明確化すること。
原田 「どんな判断にもリスクは付きものだし、プロジェクトを進めるためにはあえて『取るべき』リスクもあれば、『ぜったいに許容できない』リスクもあると思っています。
越えてはいけないラインを常にわかった上で、そこから逸脱しない範囲内で“最善手”を探すように意識しています」
100対0でメリットしかない選択などありえない。90対10から50対50まで、濃淡に差はあれど、あらゆる選択肢にはプラスとマイナス両方の可能性が備わっている──そう考えるからこそ、原田は「プロジェクトの前進」という確固たる軸に沿い、責任を持って判断することを自らに課しているのです。
変化するニーズにも、芯を捉えた解を提示できる存在であるために
SEとして、システム開発の現場に携わって10年余り。近年は、「お客様がSEに求めること」が変化してきているのを感じると原田は言います。
原田 「以前は、『こんなシステムをつくりたい』というお客様のご要望に合ったシステムを開発して納品すれば事足りましたが、今は『この課題を解決したい』『何か新しいことをやりたい』というように、お客様からの要望は高度化しています。
お客様もはっきりした答えを持っていないテーマについて、私たちがリードしながら一緒に考えていくことが求められるようなケースが増えていますし、今後ますますその傾向は強くなっていくと思っています」
こうした中、お客様からの期待に応えるためには、新しいテクノロジーに関する知見をアップデートし続けるためにアンテナを高く保つこと、そして仕入れた知識を業務に“接続”していくための術を身に付けることが肝心です。
原田 「今のプロジェクトに入って得た教訓を生かす上でも、『自分でなんでもやることをやめよう』という考えはありつつも、手を動かさないでいると技術面でのスキルや勘はどうしても鈍くなりがち。最近はいかにそのバランスを取るべきかを模索しています」
メンバーを束ね、進むべき道を示し続ける役割を負ったリーダーというポジションで、いくつものプロジェクトを経験してきた原田。これからも新たな局面を迎える度、「プロジェクトの前進」という、自身の確固たる判断軸に沿い、チームを力強くけん引していってくれるはずです。