小6でインターネットデビュー。「ITの進化」に魅せられ技術者の道へ
幼い頃からゲームが好きだったという高橋淳が、インターネットの扉を開けたのは小学6年生の時。親にコンピューターを与えてもらったのがきっかけでした。家庭でのインターネットアクセスが普及したのは、モデムを介したダイヤルアップ接続が一般的だった1990年代末のことです。CGIを覚えて自作のHPを開設するほど、のめり込んだと言います。
高橋 「高額な電話代の請求が来て、母に叱られることもしばしばでした(笑)。インターネットのおもしろさを知ってからは、ゲームはほとんどやらなくなりましたね。自分から情報を探しにいったり発信したり、ということが楽しくて仕方なかったんです」
その後、大学・大学院への進学に際しても、迷わず情報系学部を選択。「ITやガジェットが大好き」という言葉通り、新たなテクノロジーやツールを自身の生活に積極的に取り入れていた高橋にとって、2008年のiPhone3Gの日本上陸はとりわけ印象深いものでした。
高橋 「ガラケーが主流の時代に、パソコンと同じような画面表示ができて、天気予報にしろ電車の乗り換え案内にしろ、さまざまな情報にすぐアクセスできる……。なんて便利なんだろう、と。それ以降、『こういう使い方をしたら生活が変わるよ!』と、知人友人への布教活動に励みました(笑)。だから僕の周りは、iPhoneの所持率が高かったと思います」
少年時代に抱いた“ITの進化”に対する感嘆の念は、成長してからも色あせることなく、新たなテクノロジーとの出会いを果たす度に、より深まっていきました。
高橋 「根底にあるのは、進化し続ける ITを世界に広めることによって、人の暮らしはもっと便利に、もっと幸せなものになるはず、という想いです。だからこそ、『 ITを使って世の中に貢献していきたい』と考え、就職先として NTTデータを選びました」
そうした志を胸に、2010年に入社。配属先は、仮想デスクトップの技術開発を専門に行うチームでした。
高橋 「当時、仮想デスクトップはまだ黎明期。だからこそ、会社も学びを得やすい環境を用意してくれました。外部研修に参加させてもらったり、自己研さん用にサーバーを複数購入してもらったり。
実を言えば、当初は大学の研究分野でもあったネットワークを扱う部門を希望していましたが、それ以上に『いろんな技術に触れたい』という想いが強かったこともあり、新たな技術を貪欲に吸収できる環境で育ててもらったことに感謝しています」
「仮想デスクトップ」一筋。エンジニアとして技術の研さんに励む日々
仮想デスクトップエンジニアとしてのキャリアを踏み出した高橋にとって、入社1年目の日々は、多くの学びにあふれたものになると同時に、数々の正念場が立ちはだかる試練の時でもありました。
高橋 「当時のチームは、10人にも満たない少人数だったこともあり、トラブルが起きると 1年目でも現場での解析作業に駆り出されました。10年経った今でも記憶に残っているトラブルが、システムへのログインすらできないというもの。リリース後にも関わらず、です。激怒するお客様のかたわらで、涙目で解析を続けました……」
すでに確立された技術であっても、「安定したシステムを提供する」ためには幾つものハードルを突破する必要があります。それが未成熟の技術であるならば、なおのこと。1年目に経験したトラブル対応は、「新しい技術」に情熱を燃やしていた高橋が、そこに付いて回る困難やリスクを、身をもって知る契機になりました。
その後も高橋は、仮想デスクトップの技術をメインに、大小さまざまなプロジェクトに従事します。その一方で、他部門との協働により、会計事務所向けに税務申告用アプリケーションを仮想デスクトップで提供するような新規サービスのリリースも経験。
エンジニアとしてのスキルを着実に身に付け、入社5~6年目には、官公庁向けサービスの開発プロジェクトにおいて、仮想デスクトップ領域のリーダーを任されました。想定されるユーザー数は数万人。開発メンバーも、全体で100名を超え、担当チームに限っても約30名が在籍する大規模プロジェクトでした。
メンバーには、協力会社の技術者も多数含まれます。豊富な知識を有し、当時の高橋よりも長いキャリアを積んだメンバーも少なくない中で、高橋はリーダーとして次のようなことを心掛けました。
高橋 「まずは自分自身が勉強して、きちんと理解した上で指示を出すようにしていました。どんなときも絶対に “丸投げ ”はしません。そうじゃないと、何かトラブルが起きてもリーダーシップを取って解決に導くことができないし、お客様へも説得力のある説明ができないと思うからです。メンバーだって、いまいち “わかっていない ”人間よりは、十分なスキルや知識を持ったリーダーのもとでの方が、その期待に応えようと十二分に力を発揮してくれるはず。自分が逆の立場だったら、絶対そうですから」
高橋を、技術の研さんへと駆り立てたのは、チームリーダーとしての責任感だけではありません。「より良いものをお客様に提供したい」、「トラブルのない安定したシステムを提供したい」という想いが、勉強を続けるモチベーションになったと言います。
こうして、高橋は業務のかたわら、複数の認定資格に挑み、入社8年目には、Citrix Systems社が認定する資格、CCE-V (Citrix Certified Expert - Virtualization)/Citrix Virtualization Specialist Practicumを取得しました。設計試験では、英文の要件定義書をもとに5日間の期限付きで実装を行うという“実技”が課されます。「自ら手を動かし、設計し、つくれないと取れない」難関資格です。
渡米して触れた「“次”のワークスペース」に衝撃。そして取り戻した初心
NTTデータの仮想デスクトップサービスBizXaaS Office®(以下、BXO)は、2010年のサービス提供開始以来、導入実績は合計20万アカウントに上り、多くの企業で活用されています。高橋はその立ち上げから開発に携わり、「仮想デスクトップエンジニア」として着実にキャリアを積んできました。
そんな高橋の身に、青天の霹靂とも言うべき出来事が起こったのは、2018年9月のことです。
米VMware社の招待を受け、ラスベガスで開催されたカンファレンスに参加した高橋。仮想デスクトップの情報をどんどん収集するつもりで出かけたはずが、そこで目にしたのは、仮想デスクトップの“次”に位置付けられる、新たなワークスペースの概念でした。
高橋 「あらゆる端末とクラウドサービスを自由かつセキュアに使える、社員の利便性とセキュリティの両立が可能なデジタルワークスペースの世界観が実現されていたんです。日本では、仮想デスクトップがようやく一般的に浸透し、これからますます普及していこうという段階にありましたが、アメリカはその先に進んでいた。仮想デスクトップの “次 ”に求められる世界観はこれだ、と思いました」
「今のままでは取り残される……!」そう感じた高橋は帰国後、情報収集のため、まず国内のスタートアップ企業のエンジニアが集うコミュニティに参加。その結果、ラスベガスで目にした新たなワークスペースの概念を、自社内で実践している企業が複数あることがわかりました。
高橋 「スタートアップ企業のスピード感を目の当たりにして、再びの衝撃です。彼らは、“ゼロトラスト(信頼せずに、必ず確認する) ”の考え方に則って、自由な操作性とセキュリティの担保を両立したワークスペースを、すでに自分たちの職場で実現し、働き方改革を実践していたんです。ワークスペースのユーザー、つまり社員の生産性とエンゲージメントをいかに高めるか、という課題に真正面から取り組んでいるということもわかりました」
自身も、一児の父として初めての子育てに奮闘する日々を送っていたこともあり、スタートアップ企業の職場環境は、自身の「働き方」を省みるきっかけにもなったと言います。
ここから、高橋の“戦い”が幕を開けます。まずは、BXOの営業部隊に、新たなワークスペースの概念をプレゼン。当初は、ほとんどが懐疑的な反応だったと言います。しかし、最先端の領域で活躍する技術者を招聘して講話をしてもらったり、帰国後に自身が見聞きしてきたスタートアップ企業の実情を伝えたりするうちに、徐々に部門のメンバーを巻き込むことに成功。最終的に、自らまとめた企画書を手に事業部長へ直談判を行い、プロジェクトの予算を獲得するに至ったのです。
2019年4月には、BXOの新サービスとして、「BXO Managed Workspace Security」をリリース。セキュリティを守りつつ、ユーザーの生産性・エンゲージメントを高めるデジタルワークスペースを実現するためのセキュリティ基盤です。
真にユーザーに喜ばれる、自由で安全なワークスペースを実現するために
その後は、自ら開発責任者としてプロジェクトを率いた高橋。渡米後に駆け抜けた怒涛の半年間は、高橋を大きく成長させました。
高橋 「ラスベガスのカンファレンス、次いで帰国後にスタートアップ企業の取り組みを目の当たりにして、目が覚めました。ITの進化に惹かれて、お客様に新しいものを提供していきたい、という志を持ってこの世界に入ったはずなのに、目の前の業務に追われる中でその初心を忘れ、現状に満足してしまっていたな、と……。
だからこそ、帰国後は『世の中の次世代のワークスペースを自分でつくるんだ』『周囲にその価値が認められていないのであれば、自分がエバンジェリスト(伝道者)となって広めるんだ』という気概を強く持ち、いろんな方を巻き込んでここまでやってきました」
2019年4月時点ではまだ一部の機能の提供に留まっていますが、2019年度中に順次開発・提供予定です。そして現在、高橋のチームでは、アジャイルでの開発を一緒に前進させる新たな仲間を求めています。
高橋 「自由で、かつ安全に仕事ができるワークスペース。その世界観に共感してくれる人に加わってもらって、一緒につくり上げていけたらと思っています。クラウドサービスを熟知して使いこなしているエンジニアとなると、社内ではまだまだ限られているのが現状。その部分で、新しい時代をつくる気概で中心となって手を動かすことのできるエンジニアに来てもらえたら、嬉しいですね」
年次が上がるにつれ、マネジメント面でも期待される役割が大きくなってはいるものの、自身は今後も「技術」に重きをおいて、入社当時の“志”を貫いていきたいと語ります。
高橋 「昨日 “ベスト ”と言われたソリューションが、今日にはもう別のものに取って代わられるような時代です。だからこそ、常に外の世界に目を向けて、時代についていくことのできるエンジニアであり続けたいと思っています。新しいものを取り込んで、世の中に提供する。今回の取り組みを通じて、自社にその土壌が十分あることもわかったので、有言実行でやり続けたいですね」
さらに、お客様の存在を念頭に、自社のサービスを“売り込む”のではなく、“中立的な立場で提案ができる”エンジニアでありたい、という想いを口にします。
高橋 「仮に自社のサービスに至らない点があるのなら、『この製品で補完できます』という提案ができるような存在でありたい。だからこそ、世の中の技術動向はきちんと把握しておきたいですし、そういうエンジニアにはおのずと、お客様からの信頼もついてくるのかな、と。お客様と “一緒 ”に世の中を変えていく。 “一緒 ”に暮らしをより良いものにしていく。そんな想いを共有しながら、ともに学ぶ姿勢を持って前進していくことができれば理想ですね」
ITの進化に対する尽きることのない好奇心と、エンジニアとしてのプライド。さらに、最新技術によって、社会や暮らしを“より良いものに”という無私の心。これらを併せ持った高橋だからこそ描くことのできた“次世代のワークスペース”の開発が、NTTデータにおいて目下進行中です。