パブリッククラウド、プライベートクラウド、オンプレミスなど、事業規模やシステム特性にあわせて最適なクラウドサービス形態を選択することが企業に求められています。クラウドエバンジェリストであるNTTデータの本橋が、今とるべきクラウド戦略について提言します。

クラウドサービスの“今”
― サービス形態と業界ごとの活用傾向

クラウドサービスの実装モデルは3種類あります。プライベートクラウド、コミュニティクラウド、パブリッククラウドです。

図1のように、プライベートクラウドはオンプレミスに近く、個別要件対応、移行・運用には柔軟に対応可能ですが、拡張・先端技術の導入は独自に行わなければならないため難しくなります。

逆にパブリッククラウドはベンダー側の対応により拡張、先端技術の導入は柔軟に対応可能ですが、個別要件対応は難しく、移行・運用には制約がある場合があります。

コミュニティクラウドは特定の業種や業務内容に携わる事業者を対象とし、該当事業者間が共用可能な形態で提供されるものです。パブリッククラウドより個別要件対応、移行・運用に柔軟に対応でき、プライベートクラウドより拡張、先端技術の導入に柔軟に対応可能という、ちょうどパブリッククラウドとプライベートクラウドの中間に位置づけられるものです。

パブリッククラウドを利用する場合は、責任共有モデルを正しく理解しておく必要があります。これは、システム全体のサービスレベルやセキュリティにおける責任はクラウドベンダーとクラウド利用者の間で共有されるものであるという考え方で、クラウドベンダーの責任範囲が明確に規定されています。

インフラ部分の運用をクラウドベンダーにアウトソースできるというメリットがある反面、高いサービスレベルや独自運用を求めるシステムでは足かせとなることもあります。

いずれも一長一短ある中、昨今ではハイブリッドクラウドが注目されています。ハイブリッドクラウドは、システムの特性に応じてパブリッククラウドとプライベートクラウドやオンプレミスを組み合わせるしくみで、AWS、Azure、Google Cloudといった主要パブリッククラウドベンダーも本構成に寄与するサービスの提供を開始しています。

図1:各実装モデルの特徴

日本国内の業界別にクラウドサービスの活用状況を見てみましょう。

まず官公庁では、国家機密などを含む全ての情報をパブリッククラウドに載せることはできないため、プライベートクラウドやオンプレミスも活用しながら自分たちのシステムを安全に守る必要があります。これは外国の官公庁も同様です。

金融系も同じような状況で、プライベートクラウドやオンプレミスに勘定系などの基幹系システムを載せ、情報系の一部システムからパブリッククラウドに移行しているというのが現状です。

法人系では、流通系やEC系はパブリッククラウドの活用に前向きで、自分たちではITインフラを保有しない方向です。

ただ、特に規模の大きい製造業では、ライバルとの差別化やトラフィックが膨大なシステム(コネクティッドカーなど)を稼働させるためにプライベートクラウドを持ちつつ、パブリッククラウドも並行活用しているケースもあります。

このように、複雑化するニーズに対応するためには、プライベートクラウド・パブリッククラウドのどちらか一方だけでは不十分です。そのため、ハイブリッドクラウドの活用が不可欠となってくるのです。

図2:システムの特性とそれに適するクラウド実装モデル

「Journey to the Digital Hybrid Cloud」
― NTTデータの取り組みとソリューション

NTTデータが取り組むDigital CAFISは、まさにオンプレミスからのクラウド化にあたり、ハイブリッドクラウドを適用した事例です。

CAFISはNTTデータが提供するキャッシュレス決済総合プラットフォームです。

元々はオンプレミスでITインフラを作っていたのですが、Digital CAFISにおいてはビジネスアジリティを獲得するためクラウドを積極的に活用しました。今ではAWSやGoogle Cloudなどのパブリッククラウドを活用し、新しいサービス開発を含め様々な開発をしています。

パブリッククラウドは非常に便利で優れており、この活用によりシステム環境のアジリティを高め、最先端技術を活用することが可能になるうえ、インフラ部分・運用をクラウドベンダーにアウトソースできます。

しかし、前述した責任共有モデルに基づき、クラウドサービスベンダーが定めたサービスレベル以上のことは要求できません。そのため、クラウド部分にトラブルが発生した場合は自分たちで復旧作業もできず、トラブル解消のめどが立たなくなるリスクがあります。

CAFISは決済情報を取り扱う関係上、トラブル発生時に金融庁への報告義務のあるシステムが多くあります。このため、一部のシステムにおいては一般のクラウドサービスのサービスレベルは許容できず、インフラ部分も自分たちでコントロールする必要がありました。

そこで活用したのが、NTTデータが提供するクラウド基盤OpenCanvas®(※1)です。 OpenCanvas®はパブリッククラウドでは対応できない高いサービスレベルや個別運用要件にも対応可能なクラウドサービスとして提供しています。

Digital CAFISでは、基本的にはパブリッククラウドのメリットを活用しつつ、高いセキュリティが求められるシステムはこのOpenCanvas®上に構築することで先ほどの課題を解決しており、まさにハイブリッドクラウドを実現した構成となっています。

NTTデータでは、自社でハイブリッドクラウドを活用するだけでなく、お客様がハイブリッドクラウドを活用できるようになるための支援、「Journey to the Digital Hybrid Cloud」を提供しています。

この支援では、クラウド化のコンサルティングやクラウド上のアプリケーション開発、ハイブリッドクラウドを実現するインフラストラクチャー、オンプレやクラウド環境を効率よく運用するマネージド・サービス、IT環境全体のセキュリティガバナンスなど様々なソリューションを用意しており、お客様のハイブリッドクラウド実現をサポートするケイパビリティを備えています。(図3)

図3:Digital CAFISの取り組み

「Journey to the Digital Hybrid Cloud 」でのNTTデータのポイントを3つご紹介します。

ポイント1つ目はANY CLOUDの中からハイブリッドでクラウドを活用できることです。NTTデータは、以前からマルチベンダを強みにしてきましたが、クラウドにおいても様々なクラウド(ANY CLOUD)から最適なクラウドを選定し、提供することを強みとしています。

主要なパブリッククラウドの活用はもちろんのこと、一般的なパブリッククラウドでは対応が難しい要件に対しては、NTTデータのクラウドサービスであるOpenCanvas®を提供しています。

こちらはもともと、ANSERと呼ばれる金融取引サービスをクラウド化するにあたりNTTデータが開発したものです。金融業界の厳しい要求に応える運用実績、さらにANSERをはじめとした共用利用サービスで培った技術と経験をもとに、高いセキュリティと個別要件対応を可能とするクラウド基盤です。

また、主要パブリッククラウドを利用する場合でも、セキュリティリスクに対応可能なA-gate®(※2)を活用することでパブリッククラウドにおける脅威をコントロールすることができます。

2つ目のポイントは人材です。FY2022に国内3千人、グローバル1万人というSI企業としてはトップクラスの規模でのクラウド人材確保を目標に、高度クラウド人材、マルチクラウド人材の育成を進めています。既にAWSのアンバサダーやトップエンジニアなど、グローバルでの第一人者も多く輩出・育成しています。(※3)

3つ目はノウハウです。NTTデータにレガシーなイメージをお持ちの方もいらっしゃるかもしれません。しかし、非常に多くのお客様のシステムを開発・運用してきたNTTデータだからこそ、現在稼働しているシステム(既存IT資産)からクラウド化・デジタル化が必要な部分を見極めることが可能です。

また、NTTデータはANSERをはじめとした共同利用型のシステムを昔から提供している中で蓄積した、インフラだけでなくアプリケーション運用まで含めたサービス提供のノウハウを、ハイブリッドクラウドを活用したシステム全体の最適化の検討に生かすことができます。

図4:「Journey to the Digital Hybrid Cloud」のポイント

こうしたNTTデータならではの強みをもって、お客様企業の「Journey to the Digital Hybrid Cloud」を着実にお手伝いしていきたいと考えています。

技術をベースに、会社、社会を変えていきたい

私とクラウドとのかかわりは、2009年にアメリカのNTT DATA AgileNet L.L.Cに出向したことが契機となります。

ちょうどAWSやGoogle App Engineなどが出てきた最初のタイミングで、そういったパブリッククラウドと日本ビジネスとのマッチングや日本展開に関する調整などのビジネス開発に従事してきました。同時に、OpenStackという2021年現在ではナンバーワンのOSSクラウド管理ソフトのファーストメンバーとして、日本でのユーザーグループの立ち上げなどにも携わりました。

帰国後は問題プロジェクト撲滅や、アプリケーションフレームワークを通じた社内外のアプリケーション開発の改革推進などを行った後、NTTデータ全社の開発環境をクラウド上に集約する「統合開発クラウド」の推進と、全社のクラウド戦略立案を担当しました。

現在はOpenCanvas®の普及展開のほか、AWS・Azure・Google Cloud・VMWare・OpenStackといった様々なクラウドの人材育成や研究開発を通じてクラウドのプロフェッショナルサービスを提供し、お客様の「Journey to the Digital Hybrid Cloud」を支援しています。

このように、私自身、クラウドという技術をキーワードとして業務に携わってきました。社内はもちろん、お客様やOSSコミュニティーなど社外と関わり、微力ながらその変革のお手伝いができたかと考えています。

クラウドは目的でなく手段であり、当たり前のように使えばよいものです。今後も、NTTデータを、クラウドを使ってどのように目的を達成するかということをしっかり考えられる会社にすることで、お客様も含めて業界の変革に寄与していきたいと思います。

(※1) OpenCanvas®:https://portal.opencanvas.ne.jp/cloud/

(※2) A-gate®:https://www.nttdata.com/jp/ja/lineup/a_gate/

(※3) クラウド人材1万人の育成に向けた取り組み:
https://www.nttdata.com/jp/ja/data-insight/2020/1029/