デジタル技術の進化によって、食とデジタル技術の融合、いわゆるフードテックが私たちの食生活やサプライチェーンのあり方を大きく変えていくと言われています。すでに個人に合わせた食を提供するサービスもでき始めており、フードテックは日本でも注目されるキーワードです。食品・飲料業界のお客様のDXに貢献してきた経験から、フードテックの可能性についてお伝えします。

食×テクノロジーに感じる可能性 

食とIT・デジタルは従来あまり関わりが深くなく、食品業界は他の産業と比較すると一番ITやデジタルに投資していない業界であるとさえいわれてきました。しかし、フィンテックやリテールテック、ヘルスケアテックなど食品業界を取り巻く環境のデジタル化が進む中で、Food×Technologyをあらわす「フードテック」という世界観が生まれたのです。

フードテックが盛り上がってきた背景には、グローバルレベルの社会課題が存在します。人口爆発による食料危機、環境問題、健康意識の高まりとともに、少子高齢化により社会保障制度システムが崩壊する危機感が持たれ始めています。特に生活習慣病では、「治療から予防へ」という考え方が強まり、特に食習慣の改善によって、病気や医療費の抑制を図る動きが進む中で、テクノロジーの働きに期待が寄せられています。

また、ナチュラル・オーガニックといったキーワードに敏感な若い世代が、アニマルウェルフェアや環境負荷の観点から、テクノロジーを用いた代替肉等のフードテック分野に注目しているのも、フードテックのもつ可能性の大きさの表れでしょう。

フードテックというキーワードは、2014-15年ごろから海外で盛り上がりを見せました。日本でも2019年には日経フードテック・カンファレンスが開催され、メディアを通して食品メーカーの経営者がフードテックというワードを使うようになってきています。

日本にはすでに食品業界のマーケットが確立されており、ほとんどの食品メーカーは国内ビジネスが中心で、フードテックの取り組みにおいては海外より出遅れている部分もあります。それでも最近は国内の食品メーカーでも少しずつフードテックへの関心が高まってきているのを感じています。

日本は文化的にも食へのこだわりが強く、その考え方はフードテックに活用できる部分も多くあります。たとえば、Personalized nutritionという個々の消費者に最適化された食事・栄養の提供を目指す分野です。

日本では昔から医食同源という考え方が浸透しています。古来個人の栄養バランスを整えるためのさまざまな健康食品が存在しているため、受け入れやすい土壌があります。グローバルの食の課題を解決するために必要な文化・技術のベースはすでに日本の食品メーカーも持ち合わせており、この文化的な強みを活用すれば、海外マーケットでのさらなる発展が見込めます。

私はもともと生活に非常に密接なテーマである「食」と「テクノロジー」との関係性に興味を持っていました。NTTデータでデジタルビジネスを強化していく中で、テクノロジーが食の発展に貢献できる可能性を感じ、テクノロジーで食品業界をはじめとするさまざまなお客さまのサポートをしていきたいと考えています。会社としても、「future food-tech』や「smart kitchen summit』などのフードテックに関連するイベントに協賛することで、より深いフードテックの理解を目指した取り組みを進めています。

NTTデータの捉える「Personalized nutrition」

NTTデータでは、「Food&wellness」という呼称の取り組みを行っています。食は単に栄養を取るだけでなく、食を通じてより心身ともに健康となることで、良い人生・生活を形作っていくことが大事だという考えを表したものです。

自分の食事データが集積され、仮想空間上で健康状態の変化や将来の自分の健康や外見の予測がリアルに可視化される「ヒューマンデジタルツイン」により、個人の日々の態度や行動を変容させる可能性があると思っています。

ではどのように個別化された食や栄養食を提案していくのか? IT企業であるNTTデータは、主にテクノロジーの側面からアプローチすることになります。パーソナライズに必要となるデータを収集し、分析し、私たちのお客様である食品・飲料業界の企業との協業により、新しい消費者体験を創出していきたいと考えています。

大切なのはデータ分析で消費者の傾向を掴むことだけではありません。消費者の健康課題をどのように解決していくか、が重要です。さまざまな業態のお客様との協業の中でデータ収集・活用のノウハウを備え、長期間のお付き合いによりお客様の業界文化への理解を深めてきた私たちNTTデータだからこそできることがあると思っています。

食に対して人間は、美味しいものを食べたいといった「欲」があります。一方で、健康でもありたいといった「欲」も持ち、いろいろなことを考えながら食べるものを選択しています。時間に余裕があって料理を楽しみたい日もあれば、忙しくて手軽に食事を済ませたい日もある。食の選択はその時々の状況に応じて変化しています。どんな要素が生活者の食の選択に影響するのかを、NTTデータでは4つのNで整理しています。

1. No-waste ―“ムダなく”
2. No worries ―“悩みなく”
3. Not hard ―“ムリなく”
4. Not bored ―“たのしく”
図1. 4つのN  

これら4つの「N」に応えるため、近年では、個人の嗜好、健康数値、食事履歴などのデータを取得し、個人の栄養状態に最適な食を提供するサービスや個人の好みの味を調合するサービスも生まれてきています。

例えば、Nestle社は近年、ジェネシスヘルスケア社が提供する遺伝子検査をサービスに取り入れる取り組みを行い、パーソナライズされたサプリメントを提供するPersona社を買収しました。また、遺伝子検査サービスを提供する23andMe社、マイクロバイオーム検査サービスを提供するViome社等を代表とするスタートアップ企業はさまざまな最新テクノロジーを駆使して、これまで取得できなかった消費者データを活用し、個人に合った食事の提案やサプリメントのサブスクリプション、家庭用サーバー等によるパーソナライゼーションサービスを展開しています。

食のパーソナライゼーションを実現するためには、消費者向けサービスの充実だけではなく、今よりもより小さくセグメント分けされた商品の製造、デリバリーを実現していくことが求められます。

消費者が食にかけられるコストを考慮すると、サプライチェーン全体の効率化・高度化も求められてくるでしょう。たとえば、NTTデータではすでにKIRIN様との工場業務のスマート化の取り組みや、三菱商事様が推進している食品流通DXの取り組みも支援しています。(※1)

パーソナライゼーションとは少し離れますが、食を創り出すという視点で、畜産分野では日本ハム様と一緒にAI・IoTを活用した養豚のスマート化への取り組みを始めています。(※2)

食のパーソナライゼーションはどの業界でも試行錯誤しながら取り組んでいる印象を受けています。関心は高いものの、すぐに画期的な成果が出るものではありません。2030年に向けて、時間をかけて行ったり来たりしながら食のパーソナライゼーションは進んでいくと思っています。
図2. 食のパーソナライゼーションの潮流

フードテックの未来

NTTデータは、2019年の日経のフードテック・カンファレンスの講演の中で、2030年の食産業についてデジタル・データ活用の観点で描いたビジョンを発表しました。2030年には自動運転はレベル5に達しており、ネットワークも6Gが普及していく世の中です。食品産業に直結するような代替肉やスマート家電等の技術だけでなく、現在よりも格段に技術インフラが高度化、普及している前提で食産業の未来も考えていかなければなりません。

今の技術ではコストを考慮しながら消費者の満足するサービスをつくり上げるのは難しいでしょう。しかし将来、各家庭に代替肉、食の3Dプリンターが普及すれば、個人ごとに必要とされる栄養や、味の好みに応じたハンバーグを当たり前に食べるような時代が来るかもしれません。

3Dプリンターで食事を作る話はまだピンとこないかもしれません。しかしここ数年での進化のスピードをご存じの方にとっては夢物語ではなく、近い将来に訪れる現実の話と捉えてビジネスに向き合っています。技術は加速度的に進歩していきます。この技術動向をしっかり捉えることが、今後ますます重要になります。

NTTデータでは、グローバルのネットワークと、これまでの培ってきた技術を見極める力を持って、これからも食品業界のみなさまのフードテックへの取り組みをサポートしていきたいと思っています。

(※1)https://www.nttdata.com/jp/ja/news/services_info/2020/013000/
   https://www.ntt.co.jp/news2019/1912/191220a.html
(※2)https://www.nttdata.com/jp/ja/news/release/2018/121900/