NTTデータ 製造ITイノベーション事業本部の三宅 恒司です。
デジタルマーケティング領域を中心とするシステム開発案件のプロジェクトマネージャー(以下、PM)として、日々お客様の事業成長とテクノロジーの進化に向けて取り組んでいます。
これまで3回に渡り、DX時代のプロジェクトマネージャー像についてお伝えしてきました。最終回となる今回は、Technologyをどのように取り込み、活かすかを述べたいと思います。
システム開発スキルは、今も昔も本質は同じ
システム開発は結局のところ、「要件定義」→「設計」→「コーディング」→「テスト」→「リリース」というプロセス以外は存在しないと考えます。これは、ウォータフォールだろうかアジャイルだろうが同じです。品質・コスト・納期というパラメータを、如何にコントロールしてシステムを作り上げるかだけです。
ただ、DXの領域においては難しい課題が1つあります。テクノロジーカオスマップが示す通り、利用するソリューションが毎回異なることです。そのため、チームとして得意なソリューションを活用する場面もあれば、経験が無いソリューションを活用する場面も度々出てくるのです。
そこで私は、どのプロジェクトでも、要件定義からリリースまでの期間を長くても半年、できれば3ヶ月以内を目安とする小規模開発(MVP : Minimum Viable Product)で推進すべきであり、このMVP開発を繰り返しカイゼンし続けることが重要であると考えています。DX領域において、ウォータフォールでの開発よりもアジャイルで開発を進めることが効率的というのはこのためです。
第一回でも書きましたが、アジャイル開発においてはMVPに適したチームをいかに早く立ち上げるかが肝になります。それを担うのが、チーム全体の開発スピードをあげるスクラムマスタです。
スクラムマスタの最後の仕事は、チームを去ることである!?
ここでは、我々のチームを育ててくれたスクラムマスタであるNTTデータ先端技術の高濱に、語ってもらいたいと思います。高濱のkey success factorsをご紹介したいと思います。
NTTデータ先端技術の高濱です。ここから、私が考える「最強のスクラムチーム」についてご紹介します。
-自己組織化チームは、作業を成し遂げるための最善の策を、チーム外からの指示ではなく、自分たちで選択する。
これは、「スクラムガイド」に記載されている内容です。
スクラム経験がないメンバがスクラムを実践する際に、大きく戸惑うポイントとの一つとして自己組織化があります。私がスクラムマスタとして最初に、また最も注力することはチームの自己組織化です。
自己組織化されたチームは、自律的なチームとも言い換えられます。自律とは、“自分の行為を主体的に規制すること。外部からの支配や制御から脱して、自身の立てた規範に従って行動すること。”であり、自立(=他の援助や支配を受けず、自分の力で判断したり身を立てたりすること)とは少し違いします。
スクラムマスタはチームが自律的に動けるよう支援します。
チームが成熟していくと、スクラムマスタの関与がなくとも、チームが自律的に開発作業を進めていきます。実際にはチームが成熟したからといってスクラムマスタの仕事がなくなることは少なく、チームを去ることもありませんが、スクラムマスタの直接的な力を借りなくともチームが自律的に動けることはスクラムが目指す理想的なチーム像の一つです。
スクラムマスタは縁の下の力持ちとして、チームを支援し、最強のスクラムチームを作り上げる責任を担っています。
では、最強のスクラムチーム作り上げる上でのポイントをご紹介したいと思います。
Key Success Factors1:小さな失敗がチームを強くする
スクラムではよくあることですが、最初は成果を出すことに苦労します。
あるチームの初期のスプリントでは遂に何も成果が出ずにスプリントレビューを迎えたこともあります。実は私はこのとき、ここからが本当のスクラムの始まりだと内心ほくそ笑んでいました。なぜなら失敗から学んで改善を繰り返していくことがチームの成長につながると考えるからです。
チームには大きな失敗は避けながら小さな失敗をさせるよう、私から見れば失敗が自明なことでも敢えて黙っていることさえあります。
事実、成果が出なかったスプリントでの振り返りでは、チームメンバは何故成果が出なかったのか、どうすれば同じ失敗を防ぐことができるのか、を真剣に議論していました。その後のスプリントでは徐々にベロシティ(チームがどれだけバックログを消化できるかの指標)が上昇していきました。
チームが成熟していくと、ベロシティを高い位置で安定させることができ、リリースへの予測可能性が上がり、プロダクトオーナーは今まで以上に真剣にバックログの優先順位を検討するようになります。透明性が高くなり、ステークホルダーからのチームへの信頼感は上がります。チームの議論が活発化し、プロダクトに対して様々な意見を出しながらプロダクトを良い方向に成長させ、更に信頼感が上がっていきます。
余談ですが、あるチームの成熟期には、プロダクトオーナーのバックログ作成が追い付かなくなり、ベロシティを下げてくれないか、と半ば冗談ですが懇願されたこともあります(笑)。
Key Success Factors2:スクラムマスタ自身も成長していく
スクラムマスタに必要なスキルは5つあると言われています。
Teaching、Facilitating、Mentoring、Coaching、Situationalingです。その中でもTeachingとCoachingのテクニックはチームを育てる上で頻繁に用いられます。
あるチームではプロダクトオーナーをお客様が務めていたのですが、最初の頃は開発チームに対しても信頼感が低く、セレモニーはピリピリとした雰囲気でした。これに対しては、グーグル社での例を引き合いに心理的安全性の重要さを理解してもらい、また、謙虚(Humility)、尊敬(Respect)、信頼(Trust)の大切さを説くHRTの原則を伝え、良い文化を醸成させていきました。チームの雰囲気は次第に改善されていきました。
あるステークホルダーはチームの雰囲気の良さに驚いていましたが、雰囲気の良さはチームの生産性の劇的な向上にも寄与していたと考えています。
スクラムは漸進的なプロセスです。プロダクトもチームも個人も少しずつ成長していきます。スクラムマスタも同様に最初から完璧ということは中々難しいですが、様々な経験を通して日々成長していくことが大切です。
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私のチームには、もう高濱はいません。しかし、自律的な最高のスクラムチームが複数存在します。高濱のスクラム魂を受け継いだメンバが分散し、別のスクラムチームを形成してくれています。自律的な最高のスクラムチームは、どんな新しいTechnologyを扱うことになっても、改善を積み重ね、きっと成果を出してくれると思います。こういったチームを作り守っていくことが、DX推進するプロジェクトマネージャーとしては、とても重要なことだと思います。
わたしの連載はこれで終わりです。
ありがとうございました。
Vol.1「Digital Transformationをプロジェクトマネジメントする」
Vol.2「Creative:Customerを理解し、お客様と一体化し、Quickに創造せよ」
Vol.3「Business:プロジェクトではなくビジネスをマネジメントせよ」