NTTデータ 製造ITイノベーション事業本部の三宅 恒司です。
デジタルマーケティング領域を中心とするシステム開発案件のプロジェクトマネージャー(以下、PM)として、日々お客様の事業成長とテクノロジーの進化に向けて取り組んでいます。
さて今回は、プロジェクトマネージャーがビジネスをマネジメントするとはどういうことかについて、お話ししたいと思います。
要件はヒアリングベースでなく提案ベースで進めよ
ここでは実際のプロジェクト事例をご紹介しながら、考えをお話ししていきます。
デジタルマーケティングの領域においては、要件定義によって仕様を確定することは不可能であると私は断言したい。なぜなら、やってみないとわからないことが多いためです。
組織の分断が起きているような場合は特に、ステークホルダーは複雑化し、その分意思決定にかかる時間も増えます。また、既存システムやデータ構成の理解についても、膨大な時間を費やす必要があるにもかかわらず、その精度は驚くほど低い。このような状態で従来型要件定義を実施しても、リスクが高くとても次の工程に進めません。
とはいえ、ある程度は要件定義を実施しないと予算見積もりができないことも事実です。そのため、やはり要件定義は必要になります。ただ、その進め方は従来のシステム開発とは発想を変える必要があります。要件はヒアリングするものでなく、提案ベースに進めるということです。
提案ベースの要件定義においても、既存システムやお客様の要件ヒアリングは行います。しかしそれもより重要なものは、顧客視点での体験価値の提案です。つまりお客様のビジネスそのものをどうデザインするかを提案することです。どう作るのかでなく、何を作るのか、なぜ作るのか、UXデザインを取り込んで検討する必要があります。業界のトレンドは何か?他社は何をしているか?顧客は何を望んでいるか?ブランドを具現化できているか?少し考え方を変えて、根拠をもって提案し続けることが成功のポイントだと考えています。
ここで重要なポイントは、最終形を描くことと、半年~3ヶ月の開発規模に分割することです。そして前に進み続けること。取り組みを停滞させず、走り続けることができるかが大切です。1年、2年経って振り返ってみたときに、必ず大きな成果になっているはずです。これは、私のチームでも体験してきたことですので、自信を持ってお勧めできる進め方です。
お客様の最前線に立ち、ビジネスを前に進めよ
では、どうすれば継続的に繰り返し開発を行うことができるのでしょうか。
1つの答えは、お客様を巻き込んだOne Teamの構築です。そこで、私のチームでお客様との関係構築に最前線で取り組んでいる冨安啓太のkey success factorsをご紹介したいと思います。
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<冨安啓太のケース>
こんにちは。冨安です。アジャイル開発でより加速して小規模開発を回すためには、じっくりと時間をかけてステークホルダーとの信頼関係を醸成していく時間はほとんどありません。開発のスピードを上げるのと同様、お客様の現場キーパーソンと素早く、広範囲に渡って関係性を築く必要があります。
そのためにはお客様とのPartnershipを営業に任せきりにするのではなく、開発チームであってもデジタルマーケティングの活動を行うTeamの一員が、お客様のすぐそば(できる限りお客様の拠点)で作業できる環境を生み出すことが効果的だと考えています。
昨今、SlackやTeamsといったビジネスコミュニケーションツールが普及していますが、キーパーソンになればなる程、なかなか返事がもらえなかったり捕まらなかったりするケースが多く見受けられます。また、デジタルマーケティングの活動を進めるために必要な情報やデータは、往々にして各組織に散乱されてしまっています。遠隔地にいると見えなくなりがちな状況においても、お客様の拠点で動き回ることができるメンバを配置することで、ステークホルダーマネジメントを円滑に行えるようになります。
まずは、お客様との関係を構築する上でTeamメンバの配置から検討してみることをお奨めします。お客様と膝を突き合わせて仕事を行う準備ができたら、次に重要なポイントが2つあります。
Key Success Factors1:「見て見ぬふり」はNG、当事者意識をもって動く
お客様からの信頼を早く勝ち取るためには、「つかみ」が肝心です。プロジェクトに参画してから最初の数週間、ともすれば数日の間でお客様は信用してよいかどうかを見極めようとします。プロジェクトの全容、システムの仕様、お客様側の専門用語など、何もかも理解していたならば言うことなしでしょうが、はじめから全てを把握できていないことはお客様も分かっています。大切なのは、当事者意識をもって動けるかということです。
デジタルマーケティングの取り組みはまだまだ発展途上で、自分たちの中での正解を持っていないお客様が多いと思います。そのため、新しいソリューションを耳にしたり、新規施策が企画されたりすると、関連する情報やベストプラティクスをなるべく早く必要とされます。そのため、すぐに調査に動き、情報をまとめる、などお客様の要求に迅速に応えていくのが信頼獲得の第一歩となります。
このとき、お客様と対峙するメンバはスペシャリストよりジェネラリスト気質の人材を配置する方がよいと考えています。なぜなら、お客様が求める情報は多岐に渡るからです。特にデジタルマーケティングとなると、ソリューションだけでなくUI/UXやインフラ(基盤)、データ分析など他分野に広がるため、自分が(まだ)知らないことも質問されることもあります。その時、できるだけ広い領域をカバーしている人の方が勘所は押さえられているため動き出しは早くなるからです。
トラブルが発生した時の動きも関係構築において重要です。問題が起こった箇所がたとえ直接担当しているシステムでなかったとしても、「隣のシステムだから」「仕様を知らないから」と線を引いて何もしないのではなく、自分のできる範囲でトラブル対応に従事することでお客様の中でプレゼンスを向上することができると思います。
特にアジャイルで小規模開発を繰り返し進めると、必然的にリリースの回数も速度も増すことになります。そのため、大小かかわらずリリース時の不具合、トラブルの発生頻度は高くなる可能性があります。何も起きないことが一番ですが、問題が発生した時に積極的に動いてくれる人にお客様も信頼を寄せるようになるのです。
Key Success Factors2:軽快なフットワークで部署を横断せよ
もう一つの大事なポイントは、お客様の各部署とコミュニケーションを取れるようにネットワークを構築することです。私はこれまでIT部門に所属することが多かったですが、業務部門(マーケティング部門、セールス部門)の重要な業務情報やデータが集約できていないことがほとんどです。
企業の規模が大きい場合、組織間の連携がスムーズにいかず、必要な情報がなかなか手に入らないことがあるかもしれません。そこで、所属部署のお客様を通しての会話だけでなく、他部署のメンバとも積極的にコミュニケーションを取れるようにすれば、必要な情報を素早く入手することができるのです。そのためには他部署との打ち合わせでファシリテーターとなったり発言を増やしたりすることで印象付けを行います。
他部署からの依頼にもできる限り真摯に対応して信用を積み重ねることで、後々良い関係が築けるきっかけとなるかもしれません。お客様先ではぜひ、積極的にコミュニケーションの範囲を広げてみてください。
もう一つ気を付けている点としては、相手に合わせた説明を心掛けることです。些細なことですが、「横文字言葉を多用しない」「難しい専門用語を避けてなるべくイメージを図示する」といったことも大事なスキルです。
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私のチームには、こういったお客様の最前線に立ち、現場で現実を見極めてくれる優秀なメンバ達がいます。一人ひとりがお客様のビジネスがどうあるべきか、どうすればうまく推進できるか考える。そして、お客様のビジネスをマネジメントできるチームを作り上げることが、DX推進するプロジェクトマネージャーとしては、とても重要なことだと思います。