泥臭く現場を走り回り、課題やニーズを拾って新規事業をつくる

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2021年1月にNTT西日本に入社した仲出。2023年2月現在はイノベーション戦略室で、経済分野の事業開発リーダーとしてクラウドロボティクス事業の立ち上げを担っています。

仲出 「イノベーション戦略室は、次世代の情報通信基盤であるIOWN(Innovative Optical and Wireless Network)のユースケース探索等を行っているIOWN推進室と協力して、NTTグループの技術を掛け合わせた事業開発などを行っている部署です。健康・生活・経済・環境という4つの柱を立てており、それぞれの領域のスペシャリティを持ったメンバーが、事業開発リーダーとしてプロジェクトを推進しています」

部署異動こそあったものの、NTT西日本に入社以来、ずっと新規事業開発に従事してきた仲出。入社から約半年間は、ビジネスデザイン部でスマートファクトリーの事業開発を担当していました。

仲出 「大阪市港区に“Garage Minato(ガレージミナト)”という新たなものづくりのエコシステムを構築しようとされているコミュニティーがあるのですが、その主幹企業の代表と出会ったことを機に、シェアードファクトリー構想の具体化に向けて取り組みがスタートしました。

シェアードファクトリーとは、町工場どうしでなんらかのリソースや資源をシェアしながら事業を良くしていくことをめざすもの。シェアする対象は、人材・IT基盤・調達・新規事業のアイデアなど多岐に渡りますが、まずは現場で何が求められているかを知らなければなりません。

仲出 「1カ月ほどかけて港区の町工場を中心に20社程度訪問し、各社の社長にヒアリングを重ねた結果、最も求められているものはIT基盤、特にAIを含む最新技術の導入による匠の技術の継承だとわかりました。また、課題をうかがう中で目を付けたのが切削工具です。町工場では消耗品である切削工具を使用しますが、経験の浅いメンバーは切削工具が欠けて製品を傷付けるのを恐れて、早めに捨ててしまうそうなんです」

そこで生まれたのが、刃物の摩耗の見極めに長けたベテラン職人の判断をAIに学習させ、その枠組みを港区の町工場でシェアリングする構想。AIスタートアップ企業とともに実証実験を進め、切削工具の摩耗度判定AIの開発に取り組みを進めています。 

仲出は2021年7月にイノベーション戦略室に異動。イノベーティブなインパクトを世の中に残す事業を創出すべく、ロボティクス分野の事業開発に注力してきました。2022年9月にはロボティクススタートアップ企業とともに、建設現場の労働力不足の解決をめざして、建設ロボットの遠隔操作化の実証実験をスタートさせています。

仲出 「建設現場では、コンクリートを流し込む前にその補強材となる鉄筋を格子状に配筋させ、職人さんがその鉄筋の交点をひとつずつ結束する作業があります。炎天下の中でも寒い日も、中腰で1日に数千か所ほど鉄筋結束しなければならない大変な作業です。「世界一ひとにやさしい現場を創る」をミッションに建設現場の生産性向上と作業者の負担軽減に取り組んでいる眞部社長の思いに共感して、一緒に“トモロボ”という鉄筋結束ロボの遠隔操作に関する実証実験を進めていくことになりました。」

NTT西日本の技術を活用して、遠隔の作業ひとつでロボットがレーンチェンジや方向切り替えに対応できるようになれば、現場の作業負担をさらに軽減すると同時に、建設業界に馴染みがない方でも現場の作業支援が行えるようになります。

仲出 「実証実験がうまくいけば、いずれは今まで建設現場で働くことができなかった身体的障害を持つ方や主婦の方でも、家にいながら建設現場の鉄筋結束作業を支援できるようになります。誰もが、どこからでも建設現場の作業ができる世界をめざしていきたいですね」

プロジェクトはいまも順調に進行中。今後、大手ゼネコンの現場で実証実験を開始する予定です。

通信・ソフトウェア分野を交えて事業をつくるために、NTT西日本へ転職

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▲切削工具の摩耗度判定システムの開発風景

現場のニーズを汲み取り、あるべき姿をめざして事業開発を行う仲出の仕事の姿勢は、前職時代に礎が築かれています。12年間在籍した大手電機メーカーでの後半6年間は、新規事業開発に従事していました。

仲出 「2014年に新規事業プロジェクトリーダーに就任したのですが、当時はリーダーといってもメンバーは自分ひとりからのスタート。お客さまのところへ足を運んでニーズを聞くところから、大学の先生と一緒に技術開発をするところまで、すべてひとりで行った経験がいまに活きています」

当時、仲出が新規事業として目を付けたのは、AGVやAMRと呼ばれる物流倉庫で働くようなロボット。この領域向けの新規デバイスを開発して、2製品の量産化に成功しています。いずれも人手不足の課題解消につながるもので、次世代ロボットを果敢に開発しているグローバル企業を開拓しながら事業開発や製品開発を行ってきました。

ひとりで始めたプロジェクトでしたが、最終的にはグローバルのチームを合わせて約20名のメンバーが集まるまでに事業が成長。一方で、仲出は少しもどかしさも感じていたといいます。

仲出 「私の部門はハードウェアに特化していたので、通信やソフトウェアの領域は決して得意ではありませんでした。ただ、世の中にインパクトのある新規事業を生み出すためには、ハードウェアだけでなく、通信を含むソフトウェアとの掛け合わせが必要だと思うようになったんです」

世の中にインパクトのある新規事業を生み出すことにこだわる仲出。その背景には、前職時代の2018年に受講した次世代リーダー研修の中で作成した“人生プラン”の影響があります。

仲出 「30代のころ、物流や農業や介護など、あらゆる業界における人手不足を解消するような基盤を構築して、10年後の日本の労働力を支えるための新たな手段を作りたいというビジョンを描いていました。35歳のときに明確な人生プランを立て、ハードウェア×ソフトウェア・通信の領域に強く、大企業との連携やスタートアップとの事業共創を通じて新規事業開発に力を入れているNTT西日本への転職を決めたんです」

指針となる人生プランに基づき、いま自分の身をどこに置くべきかを考えた上で新天地への挑戦を決めた仲出。前職時代の経験も大いに活かしながら、ダイナミックな事業開発に挑戦しています。

人を動かすのも、プロジェクトの推進にも“Will”が必要

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▲鉄筋結束ロボットの遠隔操作の実証実験

NTT西日本がパートナー企業と事業共創を行っていることは入社前から知っていたものの、そのスピード感は想像以上だったという仲出。

仲出 「NTT西日本は、オープンイノベーションをモットーに事業開発を行うスタイルを取っているのですが、切削工具の摩耗度判定AIを開発したときには、ホワイトボードに構想を書いた3週間後には装置ができ上がっていました。前職には自前主義なところがあって、社内の技術者が技術面をすべて担当するため、もう少し時間を要することが多かったんです。スピード感に驚きましたし、これは自分も振り落とされないようにしなくては、と喰らいついていきました」

また、NTT西日本では事業の立ち上げ方として、コンセプトの策定から始め、その構想に共感するパートナー企業を募るという手法を採用。こうした“Will”の合致を、仲出自身も大切にしているといいます。

仲出 「たとえば、鉄筋結束ロボットの実証実験を一緒に進めているロボティクススタートアップの代表は、もともと鉄筋工事会社の経営者でもあり現場作業にも従事をされていた方。現場で課題を身に沁みて感じられたからこそ、熱い想いを持ってロボット開発を始められました。パッションやWillが明確だから、優秀な技術者の方がおのずと集まってくるんです。

シェアードファクトリーを一緒に進めた企業の社長も、町工場の将来を危惧して町工場集団を立ち上げられ、日本人のものづくりを発信していきたいというWillを持っています。一体感を持って推進していくためにも、プロジェクトに関わるメンバーのWillを合致させることにとてもこだわっています」

海外で働きたいという想いから大手電機メーカーに入社し、海外拠点しかない事業部でグローバル調達を担当したほど、もともとグローバル思考の強かった仲出。現在携わっているプロジェクトは国内のものですが、グローバルな視座を持って取り組んでいます。

仲出 「建設ロボットを例に出すと、もし遠隔から操作ができるようになれば、時差のある海外からも現場の支援が行えるので、24時間現場を稼働させて効率良く作業を進められるようになります。こうした座組みをつくることができれば、海外で仕事を求めている方にも貢献することができますよね。来年度から新たに取り組むものづくり関連の新規事業は、競合が中国などのアジア全域になるので、常にグローバルな視座を持って日本発の事業をグローバルへと展開していきたいと思っています」

いまも指針は35歳のときに立てた人生プラン。さまざまな分野での社会貢献を

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新規事業開発という前例も答えもない仕事に対して常に真摯に向き合い、挑戦を重ねてきた仲出。そのモチベーションの源泉は、学生時代から彼の根底にある、“自分にしかできないことをやりたい”という想いでした。

仲出 「大学4年生のときに海外インターンとしてセルビアへ渡航。リサイクルの研究をしたのですが、周りに日本人がいない環境だったのでずいぶん鍛えられました。大学院2年生のときは修士のレポートを早く書き上げて、ロシアのウファという街で2カ月間滞在し、小中高を持つプライベートスクールで日本の文化や技術を伝える教員をしていました。そこでも、日本人は私だけ。前職時代に調達を担当していたときも新しい仕入先を開拓していて、誰もいない場所に飛び込んだり、置かれた場所でまだ誰もやっていない新しいことに取り組んだり。そういったことをずっと自然に続けてきたように思います」

“自分にしかできないこと”を常に求め、挑戦を続ける仲出にとって、現在の新規事業開発の仕事はまさに適職。各自の主体性を尊重して、自ら考え行動することをモットーとするイノベーション戦略室で、自らの構想を実現しながら成長を続けています。

今後のビジョンも明確だという仲出。来年度には、“マイファクトリー”プロジェクトに新たに取り組む予定です。

仲出 「地域経済を支えている製造業の変革をめざして、3Dプリンターを活用した新たなモノづくりに取り組みたいと考えています。3Dプリンタが工場に普及して、個人がデザインしたモノを簡単につくることができる流れが社会実装できれば、町工場ももっと活気づくはず。通信領域とも絡めつつ、新たなものづくりの枠組みをつくって、日本の屋台骨である製造業を盛り上げていきたいですね」

35歳のときに作成した人生プランに沿っていまも着実にキャリアを歩む仲出には、さらに大きな目標もあります。

 仲出 「40代では、日本の社会保障費の抑制に寄与するヘルスケア事業やサービス創出に携わりたいと思っています。私には子どもが3人いるのですが、彼らが大人になったときに強いられる負担を考えると、今の社会の状況のままバトンを渡すわけにはいかないなと。そして50代では、世界で活躍できる次世代を担う子どもたちの教育に携わるつもりです」

ヘルスケア事業や教育に携わる上で、環境や手段を決めるのは、これからです。

仲出 「NTT西日本という大企業の中でできることもありますし、社内で新たな会社を立ち上げるという手段もあるでしょう。あるいは、自分で会社を興して事業を行う道を選ぶかもしれません。自分自身の信念に従って、最も適切と思える環境や役割を選んでいきたいですね」

Willを明確に持ち、周りを巻き込みながら構想をかたちにしていく強力なビジネススキルを備える仲出。領域は違えど、同様にWillとパッションを持つイノベーション戦略室の仲間にも刺激を受けながら、これからも唯一無二の事業開発を通じて、社会に貢献していきます。