農業ICTのスペシャリストとして。複数の新規プロジェクトを進める日々
川井 「2023年4月現在、私はグループ会社を含めてNTTが手がけている食や農業といった領域の新規事業に携わっています。企画・開発からPoC(概念実証)を経たサービスを立ち上げ、最終的に販売するところまでの一連の工程を担っており、常に複数の案件が同時進行している形です」
まだアイデアレベルの案件も多々あり、日々忙しく駆け回っている川井。NTT西日本の中でも農業領域のスペシャリストとして活躍している川井は、ビジネスの最前線で新規事業を牽引しています。
川井 「現在、社内を横断する複数のプロジェクトに関わっており、さまざまな部署のメンバーとバーチャルチームを構成して、毎日の案件を動かしています。
各プロジェクトのビジョンや組織がめざす姿などは定期的にトップと意識合わせをしますが、合わせた方向性をもとにどのようにお客さまと調整していくか、メンバーとどう向き合うかはすべて任せてもらっています」
幾多のプロジェクトを同時進行している中で、とくに今求められているのは、地域産業や地域社会が抱える課題に向けた既存ビジネスの推進と新規ビジネスの立ち上げです。
川井 「NTT西日本はICTの会社ですので、情報の流れをつくることが事業のメインです。ICTを活用して、人と人、場所と場所をつなぐ。ひいては、生産者から食につながる農作物流通のあり方も、あるべき形につなぎ、変革していくことができます。
今は、生産者(農家)から消費者に近い小売りにいたるまで、それぞれのプレイヤーをまずはICTで支援する試みをしています。たとえば、農業を支援する新規プロジェクト。両者の架け橋となる市場を支援するプロジェクト。そして、小売りそのものを支援するプロジェクト。それら一つひとつをパーツとして組み立てながら、いずれすべてをつなぎ、農業生産者の支援・農産物流通DXを実現する。そして、よりサステナブルに農産物を消費する世界を築き上げていきたい。これが私の最大の役割であり、めざす姿です」
農業にもICTにも苦手意識のあった新卒時代から一転、今や天職に
川井が農業分野でのキャリアをスタートさせたのは社会人3年目のとき。新卒で印刷会社に入社後、はじめは包装事業部の営業を経験し、入社3年目の異動でIT事業部にて農業の新規ビジネスに携わることになりました。
川井 「これが、私と農業とのお付き合いの始まりです。それまでは、正直農業に関する知識はまったくありませんでした。もっと言うと、就職活動のときに毛嫌いしていたのはICT業界でした。新規ビジネスの経験も、ITや農業の知識も何もないところからこの新規ビジネスに携わったものですから、最初は苦労の連続でしたね。
もがきながらも同じチームのメンバー、お客さま、協力会社の方々に『ICTとは何か』を指導していただきながら取り組んでいたら、だんだんと楽しくなってきました。今では、ゼロベースから形のあるものを生み出していく楽しさや奥深さを日々感じています。自分が嫌いだと思い込んで避けていたことが、天職になる可能性があるのですね」
その後、IT企業を何社か経験し、農業クラウドのPoCや企画・開発、商品化・導入支援・拡販など幅広いプロセスを担当した川井。縁とは不思議なもので、新しいステージに進むと必ず過去にお付き合いがあった人に再会し、そのご縁が新たなビジネスを生み出す種となっています。こうして、川井は「ICTで農業界を変える」というミッションを自らの手で切り拓いていきます。
川井 「前職ではICT業界に身をおきつつ、農業を軸とした挑戦を続けさせてもらいました。自分でも意義のある取り組みだったと思いますし、結果も残せたと自負しています。ただ、一方で農業のICTという分野は、少し時期尚早だったようです。当時はまだマネタイズが非常に難しく、会社として『農業領域からの撤退』が決定。この時点で、すでに15年以上の年月を農業に注いでいました」
ここを区切りとして、会社に残って農業以外の分野に携わるか。それとも、農業へ携わることのできる別の環境へ一歩を踏み出すのか。とても悩んで、家族も交えた話し合いの結果「やっぱり農業に尽くそう」と決意したのです。農業生産者の方とどう過ごしていきたいか、どんな未来が素敵かといったことを常に胸に抱きながら転職活動を行い、出会ったのがNTT西日本でした。
川井 「正直、自分の次なるステージがNTT西日本だとは想像もしていませんでした。真面目で、すごく重厚な会社というイメージがあり、新規ビジネス、しかも農業というイメージはまったく持っていなかったので。
しかし、面接を受けてみて驚きました。まるでベンチャーのようなフットワークの軽さと熱意を感じたんです。新規事業を高い熱量で、スピード感をもって行うためには、ときには常識から外れることも必要です。このメンバーとであれば、おもしろいことができる!と強く感じて、入社を決めました。そのときの直感は間違っていませんでした」
これまでもこれからも、農業に携わり続けたい。あらためて胸に抱いた想い
なぜ、川井がここまで情熱を持って農業に関わっているか。その背景には、こんな体験がありました。
川井 「一番の原点となっているのは、最初に勤めていた印刷会社で初めて農業のプロジェクトに携わったときのエピソードでしょうか。初めて東北の生産者さんのもとに行き、トレーサビリティの仕組みを説明したのですが、正直高齢の方には難しいのではという先入観が私自身にあったんです 。
ところが、紹介するとすぐに『このシステム、すごいね!農薬をあと何回撒けばいいかわかるなんて!ありがとう!』と言ってもらえたのです。それまでは、営業チームでどちらかと言えば叱られてばかりだった私が、お客さまに感動を与えられた。そして、感謝の言葉までいただいた。喜びと同時に、このビジネスに携わる使命感を強く感じました」
もともと農業に関してはまったく無知だった川井でしたが、ここまで夢中になる片鱗は、昔からあったと語ります。
川井 「昔から食べることが好きでした。食べ物は農作物から生まれるわけですよね。けれど、生産者の高齢化はとどまることなく進み、輸入野菜が日本の市場にあふれている。自給率が低いこの国において『自分の子どもや孫の時代になったとき、国産の野菜は残っているのだろうか……』という疑問が湧いてきたのです。このとき抱いた疑問は、今の私の原動力であり、源泉であると思っています」
さらに、たくさんの人たちとの出会いもまた、川井を突き動かす原動力となっています。
川井 「これまで出会った生産者さん、農業法人さん、経営者の方……皆さん本当に真っすぐで、実直で、目の前のことに真摯に向き合っている方ばかりです。人間的にも、心からリスペクトしています。この人たちが生きている業界で自分も生きていきたい。そんな想いが、自分が農業に携わり続ける所以となっています」
めざすは、安心安全でおいしい日本の農作物が食べ続けられる未来
日々新たな挑戦を続ける川井。NTT西日本に入社して1年半ほどの間にも、すでに数々の成果を残しています。
川井 「おかげさまで、いくつかの新規事業PoCの推進や協業ビジネスモデルのPoB(Proof of Business)を打ち立てることができました。想像以上にマルチタスクで早期に新規事業を進めなくてはならず、大変なことが多かったのは事実です。けれど、短期間で事業検討し、事業計画策定のために経営者目線で仮説を立ててシミュレーションし、既存のビジネスモデルのポイントを学ぶ……じつに刺激的な毎日を味わえています」
川井は、今後の展望についてのビジョンを描き、その実現に向けて動いています。
川井 「ともに働くメンバーが楽しく充実した仕事ができる環境を作ること。そのために、メンバーの上に立つのではなく、すぐ隣にいる管理職というスタンスを意識しています。
新規事業に関しては、チーム内でのビジョン共有がとても重要です。極端な話、誰かがそこから外れてしまうとボトルネックになって崩壊しかねない。自分と同じ熱量を持てとは言いません。ただ、少しでも食や農業を好きになってほしい、興味を持って関わってほしい。そう願って、チャンスがあればチームメンバーを生産者さんたちの元や農産物が売られている店舗へと連れて行ったり、現場の空気感を味わってもらったりしています。
何度もご縁の話をしてしまいますが、やはり熱い想いを持っていると同じ志を持った仲間が集まってくるものなのですよね。ほかのチームから、農業系の仕事がやりたくて私のチームへと来てくれた人もいます。そんなご縁を広げ、つなげていきたいです」
そしてもうひとつ、農業界全体における大きな展望については、こう語ります。
川井 「私は生産者の方々のように器用ではないし、あのような仕事をできる体力にだって自信はありません。では、自分にできることはなんなのか。それは、生産者の皆様やそれを届けてくださるサプライチェーンに関わる皆様の役に立つことです。前職で痛感しましたが、この業界は何をするにも時間がかかります。そういう意味でも、会社としての体力があり、確固たる基盤を持つNTT西日本にできることは、まだまだたくさんあると確信しています」
「自分の子どもや孫の代まで、安心して日本のおいしい野菜や果物が食べられる未来に貢献し続けていきたい」そう語る川井の瞳は、食と農業の明るい未来をしっかりと見据えています。