第一次産業のメインバンクとして、課題に向き合う

農林中央金庫の大阪支店 業務第三部に所属する小林研太郎。2022年2月現在は、信漁連や漁協への融資や経営サポートなどを主に担当しています。

「まず一番の目標にしているのが、漁業者の所得向上です。農業や漁業などの第一次産業には、担い手が不足するなどの理由から、所得が伸び悩んでいる現状があります。第一次産業のメインバンクとして『何か力になれないか』という想いで日々携わっています」

たとえば、地域の漁業者と加工品会社とをつないで高付加価値化させるといった、6次産業化を支援する取り組みにも積極的です。

「一般にはあまり食べられない種類の魚や、獲れすぎてしまって価格が下がってしまった魚。これらを近畿エリアの水産加工会社さんにご紹介して食べやすく加工し商品化する試みを行ったところ、今までなかなか値がつかなかった魚が、元値の2~3倍の価格で売れるようになりました」

2020年以降に全国に広がった新型コロナウイルス。その影響で、漁業関係者は大きな打撃を受けました。

「コロナ禍で苦しむみなさんを元気づけようと、大阪支店が中心になり、農協や漁協、水産加工会社のみなさんにお集まりいただいて販促イベントを実施したんです。通行人の方に商品のPRをしたり、実際に商品を買ってもらったり……イベントを企画するだけでなく、魚を加工した商品の販売にも関わらせていただきました」

コロナ禍で苦しむ水産業のため、新たな販路を開拓

コロナ禍が長引く中、小林は実際に信漁連の担当者と共に、現場の漁業者や加工会社を何軒も回り、皆さんの声に耳を傾けたといいます。

「泥臭いと思われるかもしれませんが、現地にいって自分の足で回っていきました。港の周りに、その港で取れた魚を加工する会社が50社ほど集積している地域があるんです。コロナ禍で地元に来てくれる人が減り、加工したものをさばく販路がなくなってしまったという話をそこでお聞きしました」

販路拡大のお手伝いができないか──小林は、農林中央金庫のネットワークを活かし、東京に拠点を置くECサイトを運営する会社を紹介することを思いつきます。

「実際に15社ほどの水産加工会社にECサイトを登録してもらいました。サイト上で『地域活性化キャンペーン』を企画しPRにも力を入れたところ、1カ月で500~600万円ほどの売り上げを出すことができたんです。我々のような金融機関がうまく絡んで地域の活性化を盛り上げることができれば、相乗効果が期待できると感じましたね」

後に、この取り組みがビジネス表彰を受賞することに。地域に新たな商流を生み出せたことで、小林はあらためて「農林中央金庫の存在意義を感じた」と語ります。

「世界有数の機関投資家という側面のみならず、日本全国、津々浦々の漁協さんや農協さんのネットワークがあることも農林中央金庫の強み。大局的な視点を持ちながら、ローカルなところまで目を配ることができる。そうやって地元の農業者や漁業者の方を大切にしていくことが、農業、漁業を支える金融機関としての使命だと感じています」

ECサイトでの成功を機に、地域の人たちの反応が少しずつ変化したのを感じたという小林。「農林中央金庫って全国組織のイメージがあったけれど、地域まで深く入り込んでくれるんだ」──そんな声が聞こえてきたことを受け、さらに地域連携の試みを加速させます。

「『金庫さん、だったらこういうことはできないですか?』という声が、地域の方々からどんどん出てくるようになってきたんです。それなら、地域の皆さんとの結びつきをよりいっそう強め、その旗のもとに一致団結して、共に地域活性化に取り組みたい。そんな想いから地域連携協定を結ぶことになりました」

農林中央金庫の漁協系統ではじめて、販路拡大や地域ブランド向上を目指す地域包括連携協定の締結へと導いた小林。しかし、「協定を結ぶだけでは意味がない」と語気を強めます。

「実際のところ、全国各地には名ばかりになってしまっている地域連携協定も少なくありません。でも、我々の場合、最初から協定ありきではなく『コロナ禍で地域が抱える課題を解決しよう』と取り組んだ結果、皆さんが同じ方向についてきてくれた。協定を結んだからには、それに見合う働きをしなければと気を引き締めているところです」

その言葉通り、すでにさまざまな施策が動き出しているといいます。

「たとえば、漁協を農林中央金庫とつながりがある上場企業さんと引き合わせ、地域の水産物を大規模なレベルで販売してもらう取り組みに着手しています。また、輸出の関係でも、産業界のネットワークを活用した、物流の課題解決に向けた施策にも打ち込んでいます。ちょっと格好いい表現をするなら、“産業界と第一次産業界の架け橋”を目指している感じでしょうか」

一般に、金融機関というと“融資をして終わり”というイメージを持たれがちですが、小林は「中長期的に農林水産業者を支えていくという視点こそが重要」と強調します。

「農林水産業者の方が継続して事業を行えなければ、融資するような事象も出てきません。中長期的な目線で我々とお付き合いいただけるよう、いろいろな提案をしていくことが重要だと感じています」

泥臭い仕事にも地道に取り組む。そこに農林中央金庫たる理由がある

今でこそ、さまざまな提案を積極的に行う小林ですが、学生時代はどちらかというと、行動派というよりは理論派タイプだったといいます。

「入社後にロールモデルになる人に出会えたのが大きかったですね。上司にも恵まれましたし、先輩からも自分で仕事を作っていく姿勢を学びました。やりたいこと、いいたいことを自由に発信できる文化があるのも農林中央金庫の魅力ですね」

また、現場での農業者や漁業者の方々との付き合いが、自分を大きく成長させてくれたと振り返ります。

「農林中央金庫の中でも、農業者や漁業者の方々など現場に携われる人はとても限られているんです。だからこそ、現場に出るときは『農林水産業発展のために』という使命感を覚えます。実際、金庫のことを必要としていただいていることが肌で感じられ、それがやりがいにつながってもいますね」

信漁連で2年間、長期外勤という形で働いていたという小林。当時、なかなか信漁連で共に働く人たちからの信頼が得られず苦労した経験が、今に生きているといいます。

「なんらかの成果を出したいと考え、住宅ローンの契約を取ることを思いついて、住宅メーカーに対して営業をかけたんです。最初は全然取り合ってもらえなかったんですが、金融商品を見直したり、すばやい対応を心がけたりするうち、少しずつ住宅を購入する方に信漁連の住宅ローンを紹介してもらえるようになって。最終的に億単位の契約を取り付けたことで、徐々に信漁連の人から仲間だと認めてもらえるようになりました」

真摯に、愚直に──泥臭い仕事にもそうやって地道に取り組むことこそが、農林中央金庫たる理由だと小林はいいます。

「もともと私が入社した理由でもあるんですが、農林中央金庫には『農林水産業のために』という理念があるんです。金庫の中のどんな仕事も、最終的には第一次産業の発展のためにある。現場にいるとそれを強く感じるんですよ」

「農林中央金庫って、本当に農林水産業のためのメインバンクだよね」──現場の方から実際にそんな声をかけてもらえることもあるという小林。

「先ほどの地域連携協定の取り組みでも、地域の方々が『この地域を見つけてくれてありがとう』『全国組織のイメージだったが、地域にこんなにまで深く入ってくれると思わなかった』といってくださって。そんなときは素直にうれしいですし、それまでの苦しいことがすべて報われたと感じますね」

目指すのは“脱縦割り”──組織横断で連携してこそ、強くなれる

農林中央金庫で活躍している人物像について、小林は次のように語ります。

「農林中央金庫の仕事は多種多様です。部署が変わるだけで、全然違う仕事をすることになります。ただ、なんのために働いているのかという、基本的なところでは各職員が同じ目的を共有しています。第一次産業に対するパッションを持ち、どんな泥臭い業務も楽しめる方なら、きっと活躍できると思います」

また、専門性を磨きつつ、組織横断的に仕事をしていくことが大切だとも続けます。

「いずれは自分の軸を持つことが大事だとは思うのですが、農林水産業の現場に出た経験は、別の仕事でも必ず生きてきます。たとえば私の場合だと、食農分野で農業者の方へ提案していたお話が、後にリテール分野でも役立ったケースがありました。逆もまたしかりです。信漁連さんや信農連さんがやっている仕事を教えてもらったことが、JFマリンバンクという本店の職場で働いていたときに、全国の施策に役立てられた事例もありました」

同じことを、先ほどの地域連携協定のときにも感じたといいます。

「農林中央金庫のビジネスは、リテールビジネス、食農ビジネス、グローバル・インベストメンツの三本柱ですが、ひとつのビジネスだけで完結している状態はあまり好ましくないと思っているんです。リテールビジネスは、信漁連さんや農協さんの経営面をお手伝いするのが前提としてありますが、地域を盛り上げるアイデアを、食農ビジネスの担当者の方が持っていたりすることもあって。実際、地域連携協定の際は、組織横断的に本店や他支店の食農やリテール分野の人も巻き込みました。組織の枠を超え、連携できたことが良かったと思っています」

地域と密接に関わってきた小林が今後目指すのは、幅広い視点も兼ね備えた“グローカルな職員”だといいます。

「ひとつのエリアに足しげく通うことで獲得したミクロな視点も大事にしながら、全国規模の金融機関ならではの視点も学びたいと思っています。森も、一本一本の木も両方見られるような柔軟な視点を持てるように、最近は輸出の仕事など、できる範囲で少しずつ手を広げているところです」

農林水産業者の未来のために、新たなステージへと挑もうとする小林。その胸には、今も現場への揺るぎない想いがあります。