ビジネスフィールドの幅広さを体感。貸出、営業、組合を経て投資部門へ
リーマンショックという未曽有の金融危機の直後、農林中央金庫に新卒社員として入社した近藤。そこから現在まで、実にバラエティーに富んだキャリアを重ねてきました。
近藤 「初任配属は、農林水産環境事業部という部署でした。畜産酪農関係のお客様向けの貸出業務を担当していました。その後、社内トレーニー制度を活用して1年間ロンドン支店で勤務。日本に戻ってきてからは、営業部にて総合化学メーカーを担当しました」
2016年からの1年間は、従業員組合に出向。同僚たちが「現業を離れて組合の仕事に就くのはちょっと……」と躊躇するなか、近藤は「レアな経験ができる!」と自ら専従者を引き受けました。
そして2017年、彼女は大きなキャリアチェンジを決断します。
近藤 「入庫10年目という節目が視野に入ってきた時期で、自分のキャリアについてあらためて真剣に考えたタイミングでした。思い出したのは、農林中央金庫に入庫を決めたときのこと。数ある企業の中でも、農林中央金庫のビジネスフィールドの幅広さに魅力を感じた記憶が蘇りました。
第一次産業に軸足を置きながら、グローバルな視野も持っている。そんなユニークな農林中央金庫に魅力を感じました。飽きっぽいところのある自分も、ここなら長く腰を据えて働けそうだなと思ったんですよね」
幅広い業務に携わり、多角的な視点を持つことが自身のキャリアに活かせるのではないか。近藤はそう考えたといいます。
近藤 「これまで主に担当してきた貸出業務から、投資部門に異動する希望を出しました。せっかく農林中央金庫に入ったのなら、投資業務にも携わりたい。もちろん未経験ですので、自分自身にとってもチャレンジングな決断でしたが、結果としては、貸出業務を通じて培った企業分析の知見を活かすことができる、クレジット投資部に受け入れていただきました」
こうして近藤は、クレジット投資部に異動することになったのです。
近藤「異動後、主に担当したのは証券化商品です。当初は、相対的に複雑な商品性や、様々な専門用語、膨大な英文契約書などに圧倒される日々でした。ですが、私たちが扱っているのは組合員や地域の利用者の皆様からお預かりした大切なお金です。ですから、投資した資金を絶対に毀損させてはいけません。
そのために、粘り強い交渉や様々な検証が求められ、幾度となくその難しさに挫けそうにもなりましたが、同時に、農林中央金庫の運用ポートフォリオの主要資産の一つとして収益に貢献できることもあり、非常にやりがいを感じていました。
企業分析やマーケット分析だけでなく、交渉やプレゼンスキルなども、この期間に大きく伸ばせたように思っています」
あらためて感じた「教え合い、支え合う」文化の素晴らしさ
クレジット投資部で新しい業務に取り組む中で彼女は、農林中央金庫の企業文化の魅力を再発見することになりました。
近藤 「当社の『教え合い、支え合う』という文化の素晴らしさをあらためて感じました」
農林中央金庫はジョブローテーションを採用しているため、数年ごとに部内のメンバーが入れ替わります。新しいメンバーが異動してくると、年齢やポジションに関係なく、分からないことを教え合いながら、互いの知見を共有し、チームを作る――そんな文化が根付いているのです。
近藤 「もうひとつは、職員の『プロフェッショナル意識の高さ』でしょうか。
例えば、私が担当していた証券化商品は、個別性が強いという特徴があります。あらかじめ決まった条件のもとで投資を行うのではなく、私たちは、絶対に元本を毀損させてはならないという強い信念のもと、組成初期段階から条件交渉に取り組み、リスク対比リターンと投資タイミングを見極めねばなりません。
それは、この証券化商品を担当するメンバー全員、新入職員も異動してきたばかりの職員も含め、チームで協働し、同じ目標のもと全力で案件に取り組みます。徹底的な議論を行い、時にはぶつかりながらも、そうした職員一人ひとりの意識の高さとその実践が、投資ありきではなく、厳選した案件への投資につながり、優良なポートフォリオの構築を可能としていると考えています」
また、農林中央金庫がグローバルな証券化市場でプレゼンスを発揮できるのは、長年にわたってマーケットと対話し続けたからこそ、と言います。
近藤 「リーマンショック以前から20年超にわたるクレジット投資を通じて構築した、米欧マネージャー・証券会社との信頼関係、一貫した分析・リスク管理、そして国内外当局への誠実なアカウンタビリティを果たしてきたことが、現在の投資のあり方につながっていると実感します」
環境への配慮が前提の時代。持続可能な社会を実現するために金融ができることとは
こうして、投資部門でも順調にスキルを伸ばしてきた近藤。2021年からは、NZAMと呼ばれる農林中金全共連アセットマネジメントに出向しています。
近藤 「現在の業務の中心は、NZAMの『ESG投資』の方針や体制を構築すること。ESG投資というのは、環境や社会、企業統治に配慮している企業を重視し、投資することです。これまでの投資の世界では、金銭的リターンや株主利益を最優先するというのが基本的な価値観でした。
でも今は、SDGsが認知され、世界がまさに変わろうとしているタイミング。投資においても、金銭的なリターンだけではなく、環境や社会への配慮が前提となる時代なのです。だからこそ資産運用会社としてESG投資の方針をつくる現在の業務に、やりがいを感じています」
近藤が金融商品に対する価値観の変化を感じたのは、クレジット投資部時代に関わった、オーストラリアの環境配慮型住宅向けローンを証券化した案件でした。
近藤 「先輩や後輩とともに取り組んだ案件なのですが、ソーラーパネルや省エネシステムを採用した住宅を裏付資産とする証券化商品への投資です。サステナビリティ投資を志向する当社と、環境配慮型住宅向けローンビジネスを拡大したいという豪州ノンバンク、そして環境に優しい住宅の普及を通じて豪州の排出量削減を目指す政府系機関のニーズがマッチし、証券会社とも密に連携しながら、実現することができました。持続可能な環境社会の実現のために、金融ができることは何か、考えるきっかけになりました」
グローバルに見ても、年々人気が高まっているというサステナビリティ投資商品。しかし、急増する投資家需要とは裏腹に、サステナブル投資には業界標準的な定義がないといいます。
近藤 「投資にESGの視点を組み入れることは、比較的新しい手法と言えます。投資先のESGへの取組み状況を評価する基準は様々で、市場参加者が共有できる「世界共通の判断基準」が存在しないのが現状です。そのようななかで、資産運用会社として、お客様の利益への貢献を最優先に掲げながら、企業への投資を通じて持続可能な環境社会の発展にも寄与していくために、どのような取り組みをすべきか、社内外で議論を重ねています。
環境社会に配慮したサステナブル投資は、第一次産業に根ざしている私たちに非常に親和性がありますし、脱炭素に取り組む農林中央金庫の方針にも合致します。とても挑戦しがいのあるテーマだと捉えています」
第一次産業に寄り添い、農林中金グループならではの価値創造を目指して
ESG投資に対する議論は、昨今の新型コロナウイルスの影響もあり、爆速的に進んでいます。
時代の潮流を踏まえ、NZAMがESG投資で農林中金グループらしい価値を提供していけるようになれば、と近藤は考えています。
近藤 「私たちは、第一次産業をバックグラウンドを持ちながら、グローバルに運用を行っています。金融機関やアセットマネジメント会社でありながら、第一次産業に根ざしている企業というのは、非常にユニークで珍しい存在。そうした独自性を発揮できるESG投資のあり方を、みんなで考えていきたいですね」
NZAMには、全社員が参加するワーキンググループがあり、そのなかでもさまざまなアイデアが生まれているといいます。
近藤 「ワーキンググループでは、運用部門に限らず様々な属性のメンバーが集まり、多くの意見やアイデアが生まれています。まさに多様性の力が発揮され、社員一人ひとりがNZAMにとってのサステナビリティやESG投資のあり方を、前向きに議論する場となっています。私たちのお客様は、信連(信用農業協同組合連合会)さんや地方銀行さん、第一次産業に近い方なので、そういう方たちにもっと寄り添った価値提供ができないか、という意見もありました。
また、自然資本や第一次産業、地方活性化に着目したファンドを組成し、私たちらしい独自性を発揮できないかというアイデアもあり、どれも大事に育ててきたいと思っています。
ありふれたものではなく、『おもしろいな』『JAグループらしいね』と思ってもらえるようなサービスを提供するのが、我々の目指すべき道だと思います」
唯一無二の金融機関・農林中金グループで、時代の変化をひしひしと感じながら投資という業務に取り組む近藤。グローバルな視点と、第一次産業に寄り添う気持ちを忘れず、自分たちならではのサービスを模索していきます。