華やかに思えたトレーダーの仕事。しかし、6年目で変化が訪れた

大学時代は金融工学を学びながら会社の立ち上げも経験し、2007年に新卒で大手銀行に入行した勝原。当時はCDS(クレジット・デフォルト・スワップ)のトレーダーという仕事に惹かれていました。

勝原 「新興系の企業も多く誕生していた時代で、私自身も会社を経営してみたいと思い、大学の友人と一緒に会社を立ち上げました。その後、大手銀行の部長と知り合い、当時華やかな職種であったCDSトレーダーの魅力を聞いたのです。金融機関であれば、自分の好きな金融工学や数学を活かせると感じ、入行することを決めました」

大手銀行では約6年間、クレジットデリバティブのトレーディングに従事。トレーダーとして力をつけていく中で、モチベーションに変化が訪れました。

勝原 「CDSのトレーディングは個別の企業に対して実力・業績を分析し、その会社の信用力を評価して値付けを行います。そしてその値が低いときに購入・高い時に売却。この流れを短期間で繰り返すのですが、仕事をするうちに『虚しさ』のようなものを感じるようになったのです。

1~2ヵ月で売買を繰り返すのではなく、もっと中長期的に実力を評価できないか、培ってきたスキルを何かに活かせないか、と考えたのが転職のきっかけです」

そして2013年に農林中央金庫に入庫。トレーダーとして短期で投資するのではなく、中長期で投資ができるチームに所属することになりました。

勝原 「最初の3年間は海外社債投資の部署で、ハイイールド社債という信用力が低い会社に投資するチームに所属しました。そして2016年に、未上場株への投資をするオルタナティブ投資部へと希望を出し、異動しました」

オルタナティブ投資部を希望した理由は、今までさまざまな投資をしてきたなかで、未上場株への投資は未経験だったことと、勝原の学生時代が関係していました。

勝原 「私自身が大学時代にスタートアップにチャレンジした経験があったので、新しい産業を分析して投資することに魅力を感じました。とくにアメリカのテクノロジー系のファンドへの投資を担当したことは、とても良い経験でしたね。

その後、2019年にJAグループとスタートアップが集まる場であるAgVenture Labが開設され、スタートアップを事業面で支援するアクセラレータープログラムが整備されましたが、資金面からも支援する枠組みを作ろうということで、CVCチームが発足されるとともに私もそこへ異動。私と後輩の2名が中心となって、ゼロからプログラムを作りました」

ミッションは「顧客のために、社会課題を解決すること」

CVCチームの立ち上げから携わり、試行錯誤しながらチームを牽引している勝原。食と農を中心とする地域の課題解決をミッションに、日々業務に邁進しています。

勝原 「私たちJAグループの顧客は地方在住者が多く、少子高齢化や人口減少といった我が国が抱える課題の影響を一番に受けています。そういった社会課題の影響を最も身近に感じられることは、他の事業者との大きな違いです。それを解決できるようなスタートアップ企業を発掘し、彼らを資金面で支援するのが私たちの仕事。場合によっては、一緒に事業を作ることもあります」

CVCの活動を行う上でAgVenture Labはどのような機能を果たしているのでしょう。

勝原 「JAグループは外から見ると食や農のイメージが強いですが、金融、共済、医療・福祉など、地域社会に根差した事業を幅広く行っています。そんなJAグループがオープンイノベーションを実現する拠点として設立したのがこのAgVenture Labです。このAgVenture Labを活用して、地方の抱える課題、JAグループの抱える課題を集めてきて、その課題解決につながるようなスタートアップを発掘していくことが、我々CVCチームの中核的な業務です。足元では、CVCチーム全体で年間1,000件以上の国内外スタートアップ企業をスクリーニングし、出資の検討をしています。

さらに、出資したスタートアップ企業に対しては、私たちJAグループのアセットやネットワークを活用して支援を行います。特に、地方であればあるほどテクノロジーやイノベーションに縁遠いことが多いため、私たちがしっかりと橋渡しをしていくことが重要です。」

深刻化する農業の現実。イノベーションをもたらす企業とともに挑む

社会課題の解決につながるスタートアップ企業を発掘し、支援しているCVCチーム。これまで農業や食の分野を中心に、さまざまな企業へ出資してきました。

勝原 「たとえば、自動操舵トラクターのナビゲーションシステムを扱う企業。スマート農業と呼ばれる分野で、一般的な自動車にカーナビがあるのと同じように、トラクターにもナビゲーションシステムがあります。人の目と同じように、数cm単位で正確に作業ができるナビゲーションシステムを安く普及できれば、人手不足の農家さんに喜んでもらえるはずです」

多くのスタートアップ企業を目にしてきたなかで、勝原が今注目しているのは、農業流通業界のDX化です。

勝原 「農家から農協への出荷量の連絡や、農協から農家への価格の連絡をデジタル化することができれば、これまでFAXなどでやり取りしていた出荷量や価格がデータ化され、DXを進めていくことができます。

こうした仕組みが浸透すれば、農家の方々は価格などを迅速かつ正確に把握することができますし、データ入力が浸透すれば、農協による荷受・入力の工数が削減されます。データをそのまま卸市場にも届けることができるため、3者すべてにメリットがあるのです。

農家から農協、卸業者、そして小売りまでDXが完成し、データが統合されたときに、新ビジネスが生まれる可能性も高い。その点にも可能性を感じています」

CVCチームで業務を遂行するうちに、勝原は新たなやりがいを感じ始めました。

勝原 「農林水産業の現実を目の当たりにし、想像以上に課題を感じました。この分野において農林中央金庫の立ち位置はとても重要ですし、多くの課題を自分ごととして捉えるようになりました。

私はこれまで、海外でも国内でもイノベーティブな企業を発掘し、投資を行なってきました。JAグループの顧客である農林水産業や地方の人々の課題を解決するために、イノベーティブな企業を発掘するというノウハウは、他の会社よりも持っています。庫内でもオンリーワンに近い業務を行なっていることに、やりがいを感じています」

一緒に働きたいのは、同じ「想い」に共感してくれる人

事業拡大に伴い、CVCチームでは新たなメンバーを募集しています。勝原は、「社会課題を解決したい」という想いを持つ人と共に働きたい、と語ります。

勝原 「単に投資をしたい、という人は、私たちと相性が良くないかもしれません。私たちのグループの顧客は大きな課題を抱えていて、社会課題を解決することが最終的なゴールです。

ただし、これはとても困難な道のりです。農業の領域では、過度に補助金に依存したり、収益化自体を諦めている人もいます。しかし、補助金だけで解決するのではなく、事業としてサステナブルに成り立たせることが必要です。そのため、課題に対するソリューションを提供しているスタートアップ企業を収益化させることが、私は大事だと考えています」

さらに勝原は、CVCの仕事をするうえでは、「一緒に考える力」「聞く力」を持つことが大切だと語ります。

勝原 「スタートアップ企業に寄り添って、どうすればサステナブルに会社を経営できるのかというビジネス段階から、一緒に考えていく力が重要です。

また、私たちの顧客関係者の課題をしっかりとヒアリングできる、聞く力もこの仕事には大切。JAグループ、農林中央金庫が存在している意味に共感できる人や、単に投資だけではなくて私たちが組織としてやらなければいけない社会課題に共感できる人。そんな人と一緒に働けたら、とても嬉しいです」

10年、20年、30年と長い年月で、チームを大きくしていくことを目指している勝原。チームメンバーは、投資経験よりもモチベーションや想いへの共感を重視しています。

勝原 「投資経験の有無よりも、『社会課題の解決』という目標に共感してくれる人が必要です。その意欲があれば、投資スキルは私たちからシェアできますから」

顧客のために社会課題の解決を目指し、スタートアップ企業を発掘する。強い想いを持った勝原たちCVCチームの取り組みは、農業や食に関わる人たちの未来を明るく変えていくはずです。