空力性能向上のための新技術開発をめざして。他部署との連携は、人を巻き込む力が鍵

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▲ミーティングでの様子

大貫が所属する部署のミッションは空力性能向上に向け、新技術を検討すること。製品開発では次期型車両の開発に取り組みますが、先行車両開発部では次期型のさらにその次の車両を見据えて技術開発に挑みます。

シミュレーションや、これまでに蓄積された空気流や空力に関連する実験データをもとに仮説を立てながら、燃費を良くしたり風切り音をなくしたりする上で、どの車にも汎用的に適用できるような技術について検討。また車両の初期のデザイン案に対して、空力性能の観点からのフィードバックも行っています。

「どんなデザインにすれば空力性能が高まり燃費が良くなるかは理論上わかっているのですが、すべての車両にそれが適用できるわけではありません。さまざまな部署の意向に折り合いをつけながら最終的な案にまとめ上げていく役割も果たしています」

また、先行車両の開発に携わる以上、トレンドを先読みすることが欠かせません。7~8年後の未来を見据えながら、どんな形状や技術をどう取り入れていくべきかを日々考えています。

「よく言われているのが、燃費や空力性能を優先してどの車もだんだん似てきてしまっていると。そこで、個性をうち出していくために、個性の光る他社車と異なる形状を追求すると、空力性能や燃費は落ちてしまうこともある。しかし、新しい技術を搭載できれば燃費は確保して、個性的な形状を追求していけるのではないかと、模索しています。

所属するグループは年齢や年次に関係なくフラットにディスカッションできる雰囲気があって。私は若手の立場を利用して、これまでの固定観念に対して、新しい意見や視点を積極的に発信するようにしています」

自動車はさまざまな分野の英知の結晶です。他部署と協力しながら仕事を進める上で、大貫には大切にしていることがあります。

「計画ができたとしても、それをシミュレーションするための必要なモデルを作ってくれるのは別のチームの方です。風洞実験では実際に手を動かして実験してくれる方が欠かせませんし、私たちだけの力だけではできません。本当に一人では何もできないのです。

だから『協力したい』と主体的に思ってもらえるように周囲の方を巻き込んでいく必要があって。『それって本当にモノになるの?』『費用対効果は大丈夫?』といった疑念や不安が解消できるよう、シミュレーションや実験を行う目的や必要性など、こちらの意図を正しく、わかりやすく伝えることがとても大切だと思っています」

研究の成果を活かせる環境を求め、“技術のるつぼ”である日産自動車へ

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小さいころ、祖父や父が好きだった日曜大工や車の部品交換をかたわらでずっと見ていたという大貫。いつしか自分が作ったものが形になっていってほしいと願うように。

そして、大学の学部では部品・機械を扱う機械システム工学を専攻します。ゼミを受けていたことから、修士、博士課程では物理現象を扱うプラズマ流体工学や流体工学などを専攻。実現象をあつかう分野と、見ることも触ることもできない分野、異なる2分野を大貫は学びます。

在学中は、日本学術振興会の特別研究員として科学研究費の助成を受けながら研究に打ち込みました。国内の博士の中で科学研究費の助成を受けられるのは数割程度。一度では申請が通過せず、それでも複数回申請を試みて何とか獲得するに至った経験は、いまに活かせていると言います。

「特別研究員に申請するにあたって、研究内容やその有用性を記載する必要がありますが、誰が読んでも技術の魅力が伝わるような説得力のある内容にしなければなりません。受け手の気持ちを考えながら言葉を選び、訴求ポイントを捉えて伝えることの大切さを学びました。これはいま、他部署の方を説得したりするのに非常に役に立っていますね。

また、研究する中で身につけたのが、コストマネジメント。どの作業にどのくらいお金がかかるか。助成していただいた研究費を配分するため、シミュレーションに必要な設備や実験機器を用意するためのコスト管理を行う必要がありましたが、これも開発を進める上で、役に立っています」

大学院卒業後、大貫が大学や研究機関ではなく企業への就職を選んだのは、技術をすばやく製品やサービス化につなげ、社会に貢献したいと考えたから。なかでも自動車メーカーを志望したのは、“技術のるつぼ”に惹かれてのことでした。

「自動車にはさまざまなセンサーやデバイスが搭載されています。多種多様な技術を活用できる可能性のある自動車業界なら、私が専門領域としていたプラズマ流体工学にも興味を持ってもらえるのでは。そう思って志望しました」

数ある自動車メーカーの中から大貫が選んだのは、日産自動車。大学院時代に共同研究を行う機会があり、当時から好感を持っていました。

「日産自動車は技術や理論を追求することを優先する雰囲気があって、そこに魅力を感じました」

入社の決め手になったのは、選考の過程で日産自動車のリクルーターを経由し、流体力学に関連する業務に携わる社員と面談する機会を得たことでした。

「まさに今のチームに在籍する方に会うことができたのですが、自分が働きたいと思っていた部署の方と入社前に会うことができ感激しました。エントリーシートも見てくれて、真摯に対応してくれたことがとても印象に残っています。現象が起きたときの評価の仕方や予算を遣って実験設備を組んだときの苦労などに共感してもらえて。またフラットに発言できる環境があるとわかったことも安心材料になりました」

入社後、大貫は燃費・電費性能向上に向け、車両まわりの流れを制御する技術開発に従事します。2023年3月には、10年後を見据えた新規EV車両開発案を考えるプロジェクトの中で、空力性能向上のために検討すべき事項を提案。プロジェクトは同年のR&D役員賞を受賞しています。

想像以上に高い実用化のハードル。クルマづくりの過程を楽しみながら、模索していく

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2023年で入社4年目になる大貫。さまざまな仕事を経験する中でとくに印象に残っていることがあります。

「初めて仮説を検証するための実験を行ったときのことです。先輩から事前に、『うまくいかなかったときに現場ですぐに切り替えて別案を試せるよう、複数の案を用意しておいたほうがいい』と言われていました。案の定、先輩が言ったとおりの結果に。準備しておいた代案が役に立ちました。それ以来、いまも常に3~4案を用意して臨むようにしています」

自動車の機構や部品の構造への理解が及ばず、実験時に苦労したことも。

「風洞試験設備に入れる際に外すべき部品や、一度取り外すとふたたび取り付けができないため新しいものを手配すべき部品があるのですが、初めのころは全然わからなくて。 トランスミッションなどは資格保持者しか外せないと知って、急いで対応できる方を探していただいたこともありました。多くの方の協力を得てなんとか乗り越えましたが、事前準備の重要性を痛感しましたね」

入社後、大貫が強く感じるようになったというのが、技術をかたちにすることの難しさ。次のように続けます。

「たとえ私たちにとって狙い通りの性能だとしても、自動車に搭載したときに魅力的で、お客さまに必要とされるものでなければ意味がありません。新しい技術として周囲に認めてもらうことの難しさを感じています」

研究者として探求する時間だけでなく、そうやって周囲と折衝する時間さえも楽しみながら、大貫はこれまで仕事に打ち込んできました。

「デザイナーと空力は追求する方向性が違うので、意見の食い違いは避けられません(笑)それだけお互いが自分たちの仕事にプライドを持って取り組んでいる表れだと思います。考えに考え抜いてでき上がったデザインであることは承知していますし、デザイナーが考えてくれたものをなるべく優先したいというのが私の考え。説明の仕方や言葉選びを工夫しながら、相手に不快感を与えず建設的な議論ができるよう心がけています」

また、異なる分野の専門知識を持つからこそ、多角的な視点がいまの仕事に活かされていると言います。

「『空力性能を考えると車両をこのかたちにしたいけれど、材料の観点では難しい』『この部分があることで空力的には流れが阻害されるけれど、車両を動かすためには必要だ』とわかるのは、機械工学を専攻していたからこそ。他部署の方の意図を理解したり、連携して仕事を進めたりしていく上で役立っていると思います」

固定観念からは、紋切り型のものしか生まれない。必要なのは、多様な意見

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今後も、空力性能の向上にいかに貢献できるかが大貫のテーマです。

「そもそも空力は、自動車にとって最も重要といえるような性能ではありません。風を切る音が気になっても燃費が悪くても、自動車は走れるからです。

ところが、燃費に比べて電費の改善は難しいため、これからEVが主流になることを考えると、これまで以上に空力性能向上の重要性を伝えていかなくてはなりません。私が検討した技術が、課題解決の糸口となるよう、ますます開発に注力してきたいです」

そう話す大貫のいまの目標は、オプションとして付けられる空力パーツの種類を増やすこと。

「たとえばデザイン性も兼ね備えた空力パーツを新たに開発して空力性能を上げるなど、選択肢を増やし、自由度を高めていきたいですね。空力パーツを量産するためにも、さまざまな車両に適用できるような技術に焦点を当てて開発していきたいです」

大貫のチームがめざすのは、既にあるものを引き継いでいくことではなく、未来志向で新しい技術開拓や開発に果敢に挑むこと。一緒に働く仲間に求めるのは、ほかの誰とも違うユニークな視点です。

「凝り固まってしまった考えからは、紋切り型のものしか生まれません。常識を疑い、『それはおかしい』『こうすればもっと良くなる』という明確な意見を持ち、素直に伝えてくれる方をチームでは歓迎します。『私はこう思う』という意見が多く飛び交い、多角的な視点から議論を交わせるほど、良いものができると信じているから」

多様な人材を活用し、さまざまな意見を認めることは、これからの企業の成長に欠かせません。日産自動車にはまさにそんなダイバーシティを体現するような風土があると大貫は言います。

「はやくから社内でLGBTQセミナーが開かれるなど、多様性への知識を深められる機会が多く用意されていて、一人ひとりの個性を認めながらありのまま働けるのが日産自動車の良いところです。一方、体格差などどうしようもない部分については、たとえば実験に用いる重い機器を男性社員が自然と運んでくれるなど、各自がホスピタリティを持って自分の得意なことでカバーし合うところにも魅力を感じています」

多様性への理解ある環境で、異なる意見を尊重しながら、調整し、まとめ上げていく。クルマづくりの過程を楽しむ大貫は、ニコニコと「デザイナーさんや他性能のエンジニアさんとは対立することもあるんですよ」と笑います。活発な議論を好み、新たな考え方を吸収しながら、1歩先を見据えて。まだ誰も見たことがない自動車づくりに挑みます。

※ 記載内容は2023年6月時点のものです