新技術・知識の吸収が欠かせない。電子・電装部品を評価するテストベンチの開発
車の高機能化・多機能化が進展するに伴って、電子・電装部品の回路はますます複雑になっています。そこで重要となるのが、電子・電装部品の品質の課題を、いかに開発プロセスの早期段階で見つけて未然に防止するか。日産自動車株式会社(以後、日産自動車)では、車両1台分の電子部品を評価するためのテストベンチ(評価環境)を構築し、不具合を見落とさないための実験基盤をつくっています。
倉本 「電子技術、システム技術の開発において、電子アーキテクチャの開発を担う本部署は、電子部品を設計する部門、電子部品の実験を行う部門、電子プロジェクトの品質をマネジメントする部門から構成されており、私はそのうち電子部品の実験を行う電子信頼性の評価グループに所属しています。
このグループでは、さらに3つほどの領域ごとにチーム単位で業務に当たっています。一つめが、実際に実験を行うチーム。自動車に搭載されるECUという電子制御ユニットやお客さまが操作するスイッチ、その他個別の部品の実験を行っています。
二つめが、横断的な実験を行うチーム。電波障害試験など、自動車全体を横断的に見ながら進めるべき試験を担当しています。
そして三つめ、電子部品を評価するためのテストベンチを開発しているチーム。私が所属しているのはこのチームで、自動車の品質を保証できるだけの実験環境を構築し、実験担当のチームに提供しています。チームメンバーは6名。チームリーダーとしてメンバーをマネジメントしつつ、業務全体を安全に遂行することも任務の一つとなっています」
倉本が主に担当しているのは、実車での試験を行う前に実施される、さまざまなITS(Intelligent Transport Systems, 高度道路交通システム)機能の確認を行うためのテストベンチの開発です。
ITSは人と道路と自動車のあいだで通信を行い、道路交通が抱える事故や渋滞、環境対策など、さまざまな課題を解決するシステム。次世代自動車の実現に欠かせない技術です。この新しい技術に関わる倉本が、仕事と向き合う上で大切にしていることがあります。
倉本 「新しい技術をキャッチアップできるよう、絶えず勉強を欠かさないようにしています。私たちが構築しているテストベンチは、少し前は電気自動車、現在は自動運転技術という具合に、最新技術と切り離すことができません。新しい知識の吸収が欠かせないため、積極的なインプットを心がけてきました。
新技術をプロジェクトに取り入れ、有効活用することも大切にしてきたことの一つ。最先端のものから普遍的なものまで、世の中にはさまざまな技術が溢れています。最先端技術を使えば必ずうまくいくわけではないですし、コストなどの問題もあるため、『このプロジェクトでは、どの技術を適用するのがベストか』を、常に意識するようにしています」
「注目されていない領域に挑戦せよ」教授の教えを胸に。量産EVのパイオニア、日産へ
大学院時代に倉本が専攻していたのは電子工学。研究室のメンバーの多くがダイオードや半導体研究に携わる中、電子デバイスの研究に没頭していました。
倉本 「高速かつ大容量の通信を実現する電子デバイスの研究をしていました。パソコンやスマートフォンを高機能化するためには、基板の中により多くの電子部品を搭載する必要があります。そのために必要な電子部品の小型化や、電子部品間の通信を効率化する課題に取り組んでいました」
電子デバイスの研究に没頭する中で、当時、在籍していた研究室の教授から、大きな影響を受けたと倉本は言います。
倉本 「教授は『まだ世間が注目していない領域に挑戦することが大事だ』とたびたび力説していました。その教授には、大手IT企業で20~30年ほどエンジニアとして働いていたバックグラウンドがあり、自分が開発した製品が10~15年も経つと、廃れていく様子を何度も目にしてきたそうなんです。
だから『未開発の領域であったり、出始めたばかりの技術が20~30年後に大きな市場を形成したり、新しい影響力を持ったりすることがある』と。その影響を受けて、私も新しい領域にチャレンジしたいと思うようになっていました」
そんな倉本が出会ったのが、日産自動車。入社の決め手となったのは、電気自動車(EV)への先進的な取り組みでした。
倉本 「まず車が好きという気持ちがあって。車中で快適な時間を過ごすことができたり、エンタメと移動手段の融合が図れたり。それらは今まさにクルマが追求していることですが、そういったところが昔からおもしろいと感じていました。
また当時、自動車業界ではハイブリッド車が流行していて、EVに取り組んでいる企業はほとんどありませんでした。そんな中、日産自動車だけがEV「リーフ」の一般販売を開始。まだ他社が本格的な開発に乗り出す前に、チャレンジしている姿勢に大いに惹かれました」
新しい領域に挑戦したいと入社した倉本は、入社後に日産自動車の技術を結集した最新自動車のテストベンチ構築に携わります。そして携わる領域を少しずつ広げながら、キャリアを積み重ねてきました。
倉本 「EVのプロジェクトでは、普通充電ができるか、急速充電ができるか、エアコン周りの機能はどうかといった評価業務が必要です。EVに必要な電子部品を全部集め、1台の車のようなかたちに仕立て上げて評価環境を構築しました。
直近3年ほど関わっているのは、自動運転技術の研究開発です。たとえば、どのような環境を構築すれば、自動運転における緊急ブレーキを適切に評価できるかを考え、開発するような業務が主軸となっています」
ITS専用のテストベンチを構築。自ら発案してゼロからつくり上げていくおもしろさ
与えられた役割や業務を全うするだけでなく、新しい領域に果敢に挑戦してきた倉本。現在携わっているITS専用のテストベンチ構築も、倉本が自ら手を挙げて実現したものです。
倉本 「以前から、ITSのためのテストベンチに課題を感じていました。それまでは自動車内の動きだけを見ていればよかったのですが、外の環境にまで目を配る必要性が出てきたのです。たとえば、ITSにおいて緊急ブレーキ性能を評価する場合、自動車が時速何キロで走行していて、何メートル先にどんな自動車がいるか、といった外部環境を含むシミュレーションが欠かせません。
車外環境をシミュレーションする方法を考えた上で、専用のテストベンチの提案から予算取りまで自分で行ったのですが、ゼロからつくり上げていくプロセスはとてもチャレンジングな経験でした」
車外環境を含めたシミュレーションを行うためには、前を走行する車を検知するレーダーやカメラとブレーキシステムを連動させるなど、複雑な電子制御が求められます。倉本にとって未知の技術領域でしたが、持ち前のチャレンジ精神でテストベンチ構築のための予算を獲得。現在は構想したテストベンチの開発にチームリーダーとして携わっています。
倉本 「以前は目の前の業務や技術を突き詰めることだけで精一杯でしたが、チームリーダーになってからは、最終的なゴールを見据えながら、そこに到達するためにどんな手段やプロセスが必要かを俯瞰して考えられるようになりました。
メンバーがわからないことに直面したとき、解決へと向かうための道筋を示してあげるためには、自分の中に何らかの正解を持っておかなければいけません。また、チームが団結して同じ方向に向かう上で欠かせないのが、明確な方針。これまでのトラブルや不具合対応などで培ってきた経験と、最新技術や業界動向を考えあわせながら、メンバーにわかりやすく提示していく必要があると思っています」
挑戦意欲を後押しする環境で、テストベンチ開発の新たなフェーズへ
電子部品を評価するテストベンチ構築のスペシャリストとして、開発を迅速化・効率化していくことが今の目標です。
倉本 「何キロで走っているのか、カーブは何度か、雨はどれくらい降っているのか、逆光があるのかどうかなど、自動運転やITSを評価する際は、シーンをつくり込めばつくり込むほどシミュレーションのパターンが生まれます。
それらをすべて実車で評価するのは不可能なので、テストベンチで状況を再現し適切に評価するプロセスは、安全な自動車をつくる上でますます重要に。評価のスピードを上げられるような環境や体制づくりに取り組んでいきたいですね」
その先に見据えるのは、新たなことに挑戦し続けるキャリア。倉本は次のように続けます。
倉本 「未来を予測したり、起こりうる課題を考えたりした上で、『これが必要だ』と提案し、プロジェクトを立ち上げるプロセスに大きな手ごたえを感じたので、今後も積極的に挑戦していくつもりです。日産自動車として力を入れている、自動運転やAIなどの領域に照準を合わせながら、新しいことに取り組んでいければと思っています」
好奇心やチャレンジ精神を存分に活かせる環境の中で力を発揮してきた倉本。未来の仲間にも、同じ意欲を持っていてほしいと言います。
倉本 「学びへの欲求や新しいことへの挑戦意欲に溢れた方、特定の分野において豊富な知識や経験を持つプロフェッショナルの方と一緒に働けたらうれしいですね。現在、テストベンチ開発には、より細かい評価をするための環境の構築や自動化といった課題があります。それらを解決するために、AIや機械学習なども取り入れながら、ブレイクスルーを起こしていける仲間と出会えることを楽しみにしています」
入社後、テストベンチ構築に携わってきた倉本にとって、エンジニアとしての精神的支柱となったのは、“他のやらぬことを、やる”という日産自動車の精神。この精神があるからこそ実現できていることがあると話します。
倉本 「新しい提案をして、工数がかかることを理由に却下されたことはこれまで一度もありません。社員に裁量権を与えて挑戦させてくれる環境があると感じています。しかも年齢、職位を問わず、誰にでもチャンスが与えられるのが日産自動車の特長です」
もし他のメンバーが新しいことに挑戦したいと言ったら、チームリーダーとして後押しすると語る倉本。テストベンチ開発の新たなフェーズへ向けて──“日産DNA”と共鳴しながら、さらなる挑戦を続けます。