EVに搭載する全固体電池を解析──まだ世界のどこにもない先進技術の実現をめざして
全固体電池の解析業務に従事する総合研究所 先端材料・プロセス研究所(以下、材料研究所)の片瀬と大谷、そして総合研究所 実験試作部(以下、実験試作部)の安藤。日産自動車では、EV普及促進のゲームチェンジャーとなるべく、2028年度までに自社開発の全固体電池を搭載したEVの市場投入をめざし、研究に取り組んでいます。
片瀬 「全固体電池はすべて固体で構成されており、液漏れや引火のリスクが低い上に、高いエネルギー密度などのメリットがあります。ただ、新しい電池のため、世界的に見ても実用化に向けて研究が始まったばかりです。私の所属する総合研究所では、材料研究所が仮説を立て、実験試作部が実験を行い、その結果を見て解析するという工程を繰り返しながらチームとして開発を進めています」
その実験を担当するのが、安藤が所属する実験試作部です。
安藤 「材料研究所が立てた仮説を実験で検証するのが、私たち実験試作部のミッションです。実験で仮説と異なる結果が出たときは、なぜそうなるのかを実験試作部で考えてやり直したり、材料研究所にフィードバックし協力したりしながら解析作業をしています。実験試作部は、先進分野の実験結果を世界で一番最初に知ることができる、他にない魅力がある部署だと思っています」
全固体電池は、世界に先駆けた先進分野。その解析手法ですら手探り中の現在です。
大谷 「全固体電池は論文や研究データが少なく、そもそもの解析手法や評価手法が確立されていません。解析するノウハウを私たちがゼロからつくり上げているところです」
チームを統括する片瀬には、未知の研究に取り組む上で大切にしていることがあります。
片瀬 「何より大切なのは自分が楽しむこと。前向きな気持ちで仕事をしているとおのずとアイデアがわいてくると考えています。直面する課題の難易度が高ければ高いほど、パズルやクイズを解くような感覚で挑むよう心がけ、新しい価値の創出につなげられればと思っています」
日産でEVを開発したい──入社の決め手となったそれぞれの強い想い
以前からそれぞれEVに対する強い想いを持っていた3人。日産自動車への入社理由も三者三様でした。
片瀬 「EV開発に携わりたいと思ったきっかけは、東日本大震災でした。計画停電など世の中がエネルギー不足で混乱する中で、『EVがもっと発達していたら、電線がなくてもエネルギーを運べるのに』と、当時強く思いました。
大学院修了後、バッテリーの研究開発に14年携わってきました。この知識を活かしてEVがありふれた世の中を実現したいと思い、2022年に日産自動車に転職。入社の決め手は、日産がEVのリーディングカンパニーであることでした。また、女性管理職比率が高く 、子育てサポート企業として厚生労働大臣の認定を受けていたり、LGBTQに対する企業の取り組みへの最高ランクの評価指標を受賞していたりと、ダイバーシティに積極的に取り組む企業だと感じたことも大きな理由です」
大谷は学生時代に同社のインターンシップに参加。そこで開発チームの熱意に強く感銘を受けたと言います。
大谷 「私には『エネルギーをつくり出せたら素敵だな』との想いがずっとあり、高専時代から太陽電池などのエネルギーデバイスの研究をしていました。大学院のとき、日産のEV開発のインターンシップに参加したのですが、エネルギーデバイスがEVという商品に結びついて世に出る姿を見て、『すごい!』と感動したんです。
とくに、『お客さまが安全に使えるように』という誠実な気持ちで開発と向き合うチームの姿勢と熱意に心を動かされ、この開発チームに入りたいと思いました。入社したいま、その『お客さまのために』という意識が、DNAのように社内で脈々と受け継がれていることを肌で感じています」
子どものころから車が好きで、自動車メーカーで働きたいとずっと思っていたと言う安藤が日産自動車にエントリーしたのは、LEAFの加速力に圧倒されたからでした。
安藤 「転職を考えていたとき、『CMで謳っている加速力は、実際どれほどのものなんだろう?』と半信半疑でLEAFに試乗したんです。高速道路でアクセルを思い切り踏みこんだ瞬間、想像をはるかに超えて加速が良いことに驚きました。『日産すごい!』と純粋に感動していたところ、折よくEV開発の求人を見つけ、子どものころからの夢を実現することができました」
チャレンジングな先進技術研究で、より良い未来も自己成長も実現できる
入社後、EVの開発に打ち込んできた3人。日産自動車には、開発者にとって魅力的な環境があると言います。
片瀬 「全固体電池の開発は、研究そのものがチャレンジングです。全固体電池の研究はまだ発展途上なので『これを知りたい』と思ったら、そのデータを測定する測定器をつくることもあります。
実験試作部とともに試行錯誤する日々ですが、出てきた結果すべてが、まだどこにもない最先端のデータ。ワクワクしながら取り組んでいます。楽しみながら研究と向き合えているのは、EV市場をけん引する日産自動車なら、全固体電池を搭載した新しいEVを世に出し、より良い未来を実現できると思っているからです。いずれEVが当たり前の社会が到来し、EVが新しいサービスのプラットフォームとなり、車内でいろいろなことが楽しめるようになればと期待しています」
また、同社にはやりたいことにチャレンジして成長できるチャンスがあると言う安藤。次のように続けます。
安藤「材料研究所の仕事を経験してみたいと以前から上司に相談していたところ、2022年にチャンスをもらい、大谷さんと一緒に仕事する機会に恵まれました。材料研究所のメンバーが真剣に仮説を検討した上で、実験試作部に実験を依頼していることが理解できたことは大きな収穫だったと思っています。
また同時期に、海外の部署と仕事をしたいという希望も叶って、ルノー側と英語でコミュニケーションをとりながら実験を進める案件も担当するなど、実りの多い経験ができました」
安藤に同意する大谷。同社には学びたい人に積極的に投資する風土があると語ります。
大谷 「入社3年目に、経済産業省所管の国立研究開発法人NEDOのプロジェクトに立候補し、2年間、京都大学に出向しました。これは、自動車メーカーだけでなく、電池メーカーなど数社が集まって、産学連携でバッテリーの基盤技術を共同研究しようというもの。
技術も意識も高いベテランが揃い、私ひとりが若手という状況の中、社会人になってから一番勉強した2年間でした。研究成果を出そうと必死に取り組んだ結果、メンバーとどのように議論して提案すればいいかを考える経験もでき、大きく成長できたと思います。
当社は、社会人ドクターを取得したい、海外の学会に参加したい、大学の教授の意見を聞きたいなど、自分のなりたい姿に向かって、学び、自己実現するチャンスをくれる企業。資金や時間を惜しまず提供してくれるところも、日産自動車で働く魅力のひとつだと思います」
日産自動車に転職する前に2社を経験している安藤は、もうひとつ、当社の魅力を挙げています。
安藤 「結果を出すための検討時間をしっかりくれるのも、日産自動車ならでは。良いものをつくりたいという意識がチームで共有されているからだと思いますし、そのチームを構成する“人”も良いのが特徴です。『いま、こういうことで困っているんです』と話すと、手を差し伸べてくれる存在がたくさんいて、とても仕事がしやすいですね」
チームで達成感を共有した先に広がる、EVが当たり前の社会
3人は、今後も「EV開発に携わり続けたい」と口を揃えます。
安藤 「自分が初めてEVに乗ったとき『この車すごい!』と感じたように、乗った人に感動してもらえるようなEVを開発し続けていくつもりです。そして、日産自動車のファンを増やしていけたらと思っています。そのために、材料研究所の人が行き詰ったときに『安藤さんに相談しよう』と思ってもらえるような存在になっていきたいですね」
片瀬 「開発者としてEVを次々と世に送り出して、EVが当たり前の社会にしたいと思っています。これからも、日産自動車は先進技術を搭載したEVを出し続けることになると思いますが、EVを通して新たな価値を世に届けたいです。そして、世界をより良くするために、最先端の研究に携わり続けたいと願っています」
これからも学び、スキルを磨き続けることが目標だと言う大谷にはいつか成し遂げたいと考えている夢があります。
大谷 「私がめざすのは、日産自動車の社内だけでなく、業界全体で存在感のある技術者になることです。そのために、論文を読んだり、学会に出て先生方とディスカッションしたりして、業界の動きをキャッチする努力は人一倍やっているつもりですし、これからも続けていきたいです。
当社には、電池業界でも有名な先輩がたくさんいらっしゃいます。先輩方の背中を見ながら、柔軟に新しい知識を取り入れ、かつ自分自身も手を動かし続ける技術者でありたいと思っています」
また、同社にはチームワークを重視する風土があると話す片瀬と大谷。これから入るメンバーに伝えたいことがあると言います。
片瀬 「実験試作部と材料研究所が連携するなど、いろいろな部署と関わって開発していく現場なので、チームワークが重視される文化があると感じます。私が1年前に入社したときも、すんなりと開発に没頭することができたのは、チームが私を温かく迎え入れてくれたおかげです。これから入るメンバーにも、楽しく仕事ができるような環境づくりをしていきたいです」
大谷 「研究者として、仮説を立てて実験して証明できたときの達成感は、何ものにも代えがたい喜びです。だから研究は楽しいし、やめられない。この達成感を、新しいメンバーにもぜひ味わってほしいなと思います。成功体験を積み重ねて、研究を楽しく感じるチームをつくっていきたいです」
めざすのは、2028年度の全固体電池の実用化。EVがエンジンなみのコストで走る社会は、もう目の前まできています。
※ 記載内容は2023年6月時点のものです