お客さま視点で車両品質を測るために。AVES評価基準の策定を担う
2018年に日産自動車に入社した桑原は、現在、トータルカスタマーサティスファクション本部(以下、TCSX)の品質監査室に所属。ここでは自動車の品質保証に関するグローバルな基準を策定する仕事をしています。
桑原 「私が所属するTCSXの品質監査室には計96名、20代から60代まで多様なメンバーがいます。ここでは品質におけるコンプライアンス遵守ができているかをチェックしています。
品質監査室の中で私は車両品質評価チームに所属しております。車両品質評価チームのミッションをひと言でいうと『お客さま視点での品質チェック』を行うことに尽きます。なかでも私は、お客さま視点で生産車両の品質レベルを測るために開発されたグローバル共通の車両品質評価基準であるAVES(Alliance Vehicle Evaluation Standard)の改訂業務全般を担当しています」
車両評価の国際基準をつくる責任重大なミッションを背負う桑原。毎年、さまざまな新車が発売され、市場のニーズも変わるなか、常に基準のアップデートが求められます。桑原は自分の役割をどのように捉えているのでしょうか。
桑原 「常にユーザーに寄り添った評価基準にするために、お客さまの不満や要望を吸い上げながら基準を適正化。3社連合が共通で使用する国際基準なので、世界市場のさまざまな自動車を調べながら、今のお客さまの期待値を多角的に見て評価基準に落とし込んでいます。
品質監査室のメンバーにはAVESの評価員がいて、毎年世界中の評価員に各言語で教育をする必要があります。基準は年度ごとに改訂しており、毎年1月に内容を確定させ2〜3月で教育、4月1日から新基準をスタートするというサイクル。最終的に、462ページにおよぶマニュアル冊子に。現在はその製本作業の真最中です。
評価基準を使用して車両評価することは厳しい試験に合格した評価員のみ実施できます。日産自動車だけでも世界中に263名の評価員がいるので、彼ら、彼女らに確実に内容を伝える必要があります。この認定試験やトレーニングプログラムの企画運営も行っていて、かなり責任のある仕事です」
評価員は、アジア、北米、ヨーロッパ、中東など、まさに世界中にいます。263名の評価員に均一に評価基準を伝えるために、「エキスパート」と呼ばれる車両評価のマスターとともに各国のトレーナーと直接会って指導をするのが桑原の役割。そのため、通常は年に4回程度、海外出張があると言います。もともと英語が堪能だというものの苦労は絶えません。
桑原 「言葉は難しいですね。翻訳を少し間違うだけで、内容が大きく変わってしまいます。また地域によって、言葉の言い回しや解釈の違いも。現場では、一字一句気をつけながら、指導を行っています。難しい仕事ですが、グローバル企業のおもしろさでもありますね」
イギリス駐在時代。技術力や知識の高さ、ダイバーシティな働き方を知り日産のファンに
大学で機械工学を学んでいた桑原は、2004年に卒業し、主に自動車照明器を手がける部品メーカーに就職します。子どものころから自動車が好きだったという桑原は、どのような学生時代を送っていたのでしょうか。
桑原 「じつは、11歳から18歳までアメリカに住んでいたんです。中学・高校時代と、バンド活動に打ち込んだのもそのころですね。パンクロックやスカバンドに夢中に。その後、帰国して日本の大学に進学。機械工学を学びました。もともと自動車は好きだったので、今は自動車そのものに関わって仕事ができることが楽しいですね。
新卒で、自動車照明器メーカーを選んだのは、若くして海外勤務ができそうだったからです。入社後は品質保証の部署に配属になりました。業務としては、開発・量産部門の品質保証に加えて、海外関係会社のサポートなども行っていました。海外生活が長かったこともあり、多少英語ができたので、その後はイギリスにある子会社に3年ほど出向。ここで日産自動車とよく仕事をしていました」
イギリスでは、日本車の中でも日産自動車のシェアが高く、特に『キャシュカイ』と呼ばれるSUVが人気です。この車種に使用するヘッドランプの立ち上げ、納入を担当。当時の役職名は、シニアコーディネーター。品質保証全般の担当者として、日本と現地の架け橋になるような仕事をしていたと言います。
桑原 「品質保証の仕事をしながら、新たなランプの立ち上げに関して、現地のメーカー担当者と打ち合わせをしたり、品質目標レベルを決めたり……ということをしていました。クライアントは日産自動車だけでなく、さまざまな自動車メーカーとやりとりしました。その上で駐在員として、日本の親会社との調整業務なども担当し、かなり幅広い仕事を経験しましたね」
桑原は14年間のキャリアを積んだ後、2018年に日産自動車に転職をします。どのようなきっかけだったのでしょうか。
桑原 「イギリスで日産自動車と仕事をするなかで、ファンになったところが大きいですね。現地にいる日産のエンジニアと話をしていて感じたのは技術力や知識のレベルの高さ。日産なら、さらに自分が成長できるのではないかと思えました。
また、前職では日系のさまざまな自動車メーカーとお付き合いがあったのですが、海外メーカーも含むアライアンスを組んでいるところは日産自動車だけでした。その多様性、ダイバーシティに魅力を感じたことが、決め手に。面接でもアライアンスに関わる仕事をしたいと伝え、その希望がかなって現在、AVESの担当をしています」
世界中のお客さまからの声を受け取れるのは完成車メーカーならでは
品質評価基準を海外の現場に浸透させるため、各エリアの担当者とやりとりをすることも多い桑原にとって、自ら現地へ足を運び直接打ち合わせできることはさまざまなことが確認できて、得られるものが大きいと言います。
桑原 「2020年春からコロナ禍が始まって海外出張ができなくなったのは、大変でしたね。リモート会議のシステムが普及して、品質評価基準を使った評価トレーニングもリモート化。その影響から、品質評価基準の仕事をしていながらも、日産自動車の現地生産拠点を実際に自分では見たことがなかったんです。
それがずっと気がかりだったのですが、2022年に入って、やっと海外出張もできるようになってきて、AVES評価のエキスパートと一緒にグローバル拠点でトレーニングをしたのは、最近の印象深い出来事でしたね。現場の理解度を確認できましたし、なにより品質評価基準が理解しやすいと言ってもらえたことは、とても嬉しくて私自身のモチベーションが上がりました。
さらに、グローバル評価スキルの均一化のために、フランスのルノーの技術センターおよび生産拠点で現場担当者とフェイス・トゥ・フェイスで打ち合わせができたのも良かったですね。ここ数年で良いチームビルドができているのを確認できました」
国際基準をつくるリーダーとして活躍する桑原に、現在の仕事の魅力ややりがいについて聞くと、「何よりお客さまからの声を聞くことができること」と躊躇なく応えます。
桑原 「日産自動車には『エンジェルボイス』という、お客さまからのお言葉を見られるシステムがあるのですが、そこで『最高に良いね』といった声があるとモチベーションが上がります。これは前職の部品メーカーではなかなか体験できない、完成車メーカーならではの利点。TCSXには世界中のユーザーからの声が届きます。そして、その内容を反映したアウトプットである製品を目の前で見ることができる。これはうれしいことですね」
人財育成は重要な課題。次世代のスペシャリストを育てていきたい
一方で、いま現場で感じている課題として、桑原は人財育成を挙げます。
桑原 「人財育成は極めて重要だと思っています。中でもAVESの評価員という次世代のスペシャリストを育てることは私および部のミッションとなっています。
また、社内で『寺子屋』という勉強会を開いて、スペシャリストの知見を現場に広める活動もしています。目的は自社の商品をもっと知って、好きになってもらうこと。さらに、他部署との連携などについて話をすることもあります。ときには、うちの部長はこういう経歴で、こんなふうにキャリア形成をしてきた……といった先輩のキャリアプランについて話をすることもあるんですよ」
人財育成に力を注ぐ桑原が考える、グローバル企業・日産自動車の品質管理部門が求める人財像とは。
桑原 「やはり車が好きで、自社の商品やブランドにプライドを持てる人と一緒に働きたいです。車には走るとかオーディオを聴くとか、人それぞれでいろいろな楽しみ方がありますよね。そこから自社の車を好きになって、細かい部分にも興味を持てる人が、この仕事を楽しめると思います。興味がないと成長できませんからね。
さらには、EVの登場でいま自動車業界は大きな変革期を迎えています。そんなときだからこそ、既存の価値観に捉われず、もっとフレッシュな見方で、ユーザーが求める車について発想できる人が必要になっていると思います」
桑原に次の目標について聞くと、「社内のインフルエンサーになりたい」と応えます。
桑原 「グローバルな社風の中で、多様な人々と積極的にコミュニケーションをとり、たとえば通訳に頼らないで海外の人にいきなりチャットで話す。そういった垣根のないやりとりの仕方を後輩たちに見せて、それが全体に良い影響を与えていくような存在になっていきたいですね」
グローバルな環境で切磋琢磨してきた桑原。さまざまな国の方々と積極的にコミュニケーションをとりながら、世界の舞台で活躍する車の品質を、これからもお客さま視点でしっかりと守っていきます。