開発段階で発生する不具合。その原因を徹底的に調べることこそ、大切にしている価値観

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2021年に日産自動車に新卒入社した伊東は、2023年3月時点、トータルカスタマーサティスファクション本部(以下、TCSX)のプロダクト・クオリティ・マネージメントオフィスに在籍しています。

伊東 「TCSXとは、一言で言えば、商品である自動車の品質保証を担当する部署のこと。現在、4名のチームで新型セレナなど複数の新車プロジェクトに携わっています。

具体的には、新車の開発段階から、品質基準を満たしているかをチェックするのが主な仕事。設計段階から量産して問題ないか入念に確認を行うほか、出荷後の初期の不具合にも先導役となって迅速に対応します。

また、現行車に対して寄せられたお客さまや市場の声を、開発や生産部門に届けて、次期型開発の初期の段階でそれを反映させて、再発防止に務めるのも私たちの仕事のひとつです」

新車プロジェクトは、開発の初期段階からリリースまで数年かかるのが一般的。その長い工程において、TCSXでは、関連部門と連携しながら業務を進めていきます。

伊東 「ものづくりを担う開発部門や工場の生産部門、市場における品質保証部門など、社内の関連部門のスタッフと協力しながら業務を行います。監査をするという立場上、ものづくりに関する幅広い知識が必要です。

そのため、現在のチームは開発や生産の現場などさまざまな部門で経験を積んできたスタッフが集まっています。そんな環境下ですから、入社2年目の私は最年少。今は、先輩社員の仕事を見て、多くのことを学ぶ日々です」

このTCSXにおいて伊東が任されているのは、開発段階の各種評価データや、量産や出荷をするための判断材料を各部署から集めること。細かい不具合の現象を各部門からヒアリングし、チームの上長が品質評価の判断をするための報告書を作成しています。 

伊東 「新車の開発段階では、多くの不具合が出ます。それらの発生原因を理解できるまで調べることを大切にして仕事をしています。とはいえ、車は何万点もの構成部品から成る製品ですから、まだまだキャリアが浅い私には、わからないことだらけ。

そこで設計図やシステムの仕様書を見て、不具合の場所がどのような部品とつながっているのかを自分から調べたり、ときには不具合の原因を設計者に直接聞きに行ったりしています。これを繰り返すことで、自動車の知識をどんどん蓄積できますし、お客さまの期待に添える車づくりにつながっていくと信じています

お客さま視点でものづくりに携わりたい。現場で話を聞き、信頼と学びを得る日々

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▲新型セレナ(ギャラリー展示中2023/5/11時点)

大学時代は、工学部の機械工学科で、熱工学に関する研究に取り組んでいた伊東。就職活動では、自動車業界の中でも完成車メーカーに絞ってエントリーをしていました。

伊東 「完成車メーカーを志望していたのは、子どものころから車が身近な存在で、家族とのドライブが大好きだったこと、また自分が携わった製品を世の中の多くの人が使う姿を見たいとの想いからです。

そして、日産自動車を志望したのは、グローバルな社風があったから。海外の人々と身近に接する環境で、自分自身も成長したいという想いはありました。また、次世代を見据えてEV(電気自動車)の開発に力を入れるなど、時代をリードする技術力を持っている点にも日産自動車の可能性を感じていました

日産自動車の中でも品質保証部を選んだのは、どんな理由だったのでしょうか。

伊東 「お客さま視点でものづくりに携われることに魅力を感じたことが決め手です。学生時代に、品質保証の部門で2週間のインターンに参加して、実際にお客さまの生の声を聞けたことがその魅力を感じたきっかけでした。

不具合や不安に耳を傾けて、少しずつマイナスをプラスにしていけば、よりお客さまが求める製品を作っていくことができるのではないかと感じて、お客さまに一番近い品質保証の分野で仕事がしたいなと思い、入社を決めました」

2021年に入社してから、今の仕事に携わるようになった伊東。最初は、新人という立場を逆手にとって、わからないことがあれば、現場に赴いて担当者に何でも素直に聞くことを意識していたと言います。

伊東 「相手は百戦錬磨の現場の職人社員でありながら、優しく接してくれる方々。直接話をすることで、信頼関係が生まれ、別の不具合が出たときも気軽に相談ができるようになりましたし、やがては、開発や生産の流れに詳しくなることで、現場の話もどんどんスムーズに進むようになりました。

現場でものを見て、構造を理解して、設計しているプロの方から直接聞くことの大切さは、上司からも説かれていた部分。やはり書面上で不具合の報告書を見ていても原因や対策内容を完全には理解できません。今も現場に行くことの大切さを実感しています」

お客さまの感覚的な要望を言語化して、ものづくり側に伝えるのがTCSXの仕事

経験を活かし、学びながら成長をしている伊東。一方で、入社後には苦労する場面もあったと振り返ります。

伊東 「TCSXには、開発段階の車両評価で検出した不具合をものづくりの現場にフィードバックする仕事があります。そこで、関係する開発や生産部門の社員に対策のアクションをしてもらうことが、難しさを感じたポイントでした。

不具合箇所や原因が明確でない状態では、忙しい現場の社員は対策をしてくれません。まず不具合の該当部品は何なのかを特定しなければならないのです。

そこで、関係しそうな部署の責任者すべての方にアポを取って、目の前で部品を分解して、一緒に解析し不具合箇所を特定していきます。その後、部品がどのように入ってきて、どのような流れで組み立てられるのか……こうした細かいヒアリングから原因が特定でき、対策までつなげることができました」

実は、この仕事は伊東の上司がずっとやってきた仕事。このときは「やってみる?」と言われて、初めて伊東は自分ひとりで担当することに。だからこそ、やり遂げられたときは大きなやりがいを感じたと言います。今では、伊東の担当する重要な仕事のひとつとなりました。

伊東 「これまでで一番やりがいを感じたのは、品質保証を担当していた新車が発表されたとき。一瞬で社外からも注目が集まって、自動車という製品が世の中に与える影響の大きさを実感しました。同時に本当にお客さまに受け入れていただけるのか、期待通りの品質なのか……と身の引き締まる思いでしたね」

通常、新型車が発表される際は、前の型からのモデルチェンジとして、何が進化したのかが問われます。つまり、現行車の不満や不具合を解消し、ユーザーの期待に添える車になっているかを常に意識するのが品質保証の仕事なのです。 

伊東 「日産自動車には、世界中にお客さまがいます。そんなお客さまの声を一番間近に聞けるのが、TCSXという部門だと思っています。

実際、私たちのもとには、多くの声が届きます。お客さまからの期待値の高さを感じずにはいられない環境です。だからこそ、私たちが基準とするのは、やはりお客さま。何か判断に迷ったときは、「この対策でお客さまに納得してもらえるのか?」と、立ち返ります。

常にお客さまに寄り添って、それをものづくり側がわかるように届ける、それがTCSXの存在意義だと思います。ただし、お客さまから届くのは、『シートがブルブルする』といった感覚的な意見がほとんど。それを言語化し、開発者に伝えるのが私たちTCSXの仕事です。つまり、品質保証とは『伝える仕事』でもあるのです

常にお客さまの声に寄り添う姿勢を大切にしたい。めざすは、プロジェクトの責任者

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TCSXの仕事に就いて約2年が経った伊東。就職する前と後では、品質保証の仕事への考え方が変わったと言います。

伊東 「以前は、不具合をなくす仕事、つまりマイナスをゼロにする仕事だと思っていました。しかし、実際は部門の垣根を越えて、開発・生産、営業など、幅広い部署を巻き込んで仕事をすることで、マイナスをプラスにできる──お客さまに新たな価値を提供できる役割を持つ仕事なのだと認識が変わりました。

たとえば、お客さまが振動を気にならない状態にしたときがマイナスをゼロにした状態。そこからさらに、「すごく静かになった」という体験価値を生み出せたときがプラスの状態です。

決して簡単なことではありませんが、品質保証は、ひとつのお客さまの声をもとに、より良くする改善の余地を見つけ、お客さまの期待以上の車を作っていける可能性を秘めた仕事なのです

また、社内でも珍しいほどに幅広い知識と人脈を得られる点も、伊東が入社後に品質保証ならではと感じたポイントのひとつです。

伊東 「TCSXの中でも自部署は車両軸で品質保証を担当するので、ひとつの車両に関して、エンジンから小さな電装部品に至るまで、あらゆる不具合を見ることになります。要は車両全体を見ることのできるポジションなのです。ひとつの車両を通じて各機能のプロの方から専門的な知識を得られるので、かなり貴重な経験ができていると思っています」

今後伊東がTCSXの部署でめざすのは、常にお客さまの声に寄り添う姿勢を大切すること。その先では、ひとつのプロジェクトの責任者になるビジョンも見据えています。

伊東 「不具合内容や対策の必要性を開発サイドに伝えきれていないと思う場面があります。さらに車両の知識を深め、経験値を上げていくことで、もっとお客さまの想いをものづくり側に伝えていける存在になりたいですね。

そして、会社全体としてお客さまファーストという想いを共有できるようにしたいと思っています」

入社2年目ながら、お客さまの声を指針に品質保証の仕事に向き合う伊東。これからも、品質保証ならではのやりがいを感じながら、成長を続けていきます。